一章 第三話 俺が高校教師になって生徒たちに教えを説くまで
第三話です。感想お待ちしています。
俺は黒板に字を書き始めた後、こちらから生徒に話しかける(コミュ症にはあんがいレベル高い)。
「とりあえず自己紹介をさせてもらう。俺の名前は天賀谷真魔だ。これからの3年間よろしくな。んで俺からお前らに聞きたいことがあるんだけどいいか。お前らはいつまで意味も無く逃げてくつもりだ?」
教室の雰囲気が、がらりと変わった。教室の端から女子生徒のか細い声が聞こえてくる。表情が強張って いる。
「先生何の話ですか?」
「何、簡単な話だ。お前らは優秀だと聞くから自覚しているものもいるとは思うが、というか全員気づいているかな。難しく考えなくていい。俺が聞きたいことは何故逃げ続けているか、それだけだ。」
「はぁ、何の事言ってんだよ?」
教室の隅にいる髪が赤く坊主の不良風の男子生徒が声を荒げている。うわ、クラスに絶対一人はいるタイプのやつだ。
「お前、名前は?」
「赤崎健輔」
「ふむ。では赤崎、 君は何のためにこの学校に来た?」
「何の為って 、……そら野球のスポーツ推薦もらったからにきまってんだろ」
「でも君は貰った資料からみると、うちみたいなあんま強くないとこより、野球の成績だけならもっと上の高校にいけたんじゃないのか?上の奴等との戦いが怖かったか?」
赤崎は教卓から顔を背けた。
「赤崎に限らず、お前らは逃げてきたんじゃないのか?」
教室に沈黙が走る。
「まぁ、逃げることが悪いとは思わないがな俺は。俺なんて逃げてばっかだし。今日まで無職だったし。ただ、ひとつ言えることがある。俺は、生きないために逃げたことはない。お前らとは違う。」
教室が凍りつく。
「お前らなしょっぱから俺を無視してんじゃねーよ。先生泣いちゃうよ?」
……また重い沈黙が流れる。
「あー面倒くせーけど、俺はお前らの答えが聞きたい。俺がお前らにも分かるくらいやーさしく説明してやるから黙って聞いてろよ。俺とお前らの初授業だ」
そして俺、天賀谷真魔の新たな日々が始まる。
私の兄にして新たな教師の言葉は私の胸に突き刺さる。
『お前らは何故逃げ続けているんだ?』
それは私のなかにずっとある、モヤモヤしたとっかかりの全てだった。
彼と私たちの初授業が静まりかえった教室に響く。
「二回目になるが、俺は逃げることが悪いとは思わない。多分逃げたことがないやつなんて人間、そうそういないからな。」
教室の空気ががらりと変わった。さっきまでのみんなの落ちこぼれてしまっていた表情が変わり、神妙な顔つきになる。教卓の後ろで兄がまた口を開き始める。
「人は常に後悔し続ける生き物なんだ。どんな風に前に進もうと、後ろに戻ろうとしても、逃げても逃げても後悔は消えはしない。」
そして一呼吸おきなら、こう続けた。
「なら、向き合え己の過去と後悔に。どんなに醜くてもいい。そして受け入れろ。悩み、うろたえ、追い求めろ、自分の答えを。今までの過去と後悔を糧に抗い、成長しろ。その果てにあるのがお前らの答えだよ。だからこそ俺は、お前らの答えが見たくなった。その答えとお前らの可能性をな。見せてくれよ、それでお前らの可能性で上にいる奴らなんか超えて行けよ。どうだ、最高におもしれーだろ」
私の兄は、私達の先生は純粋で嘘のない笑顔で言った。まるでいつかの少年のように。
そして、チャイムがなり、教師 天賀谷真魔の初授業は終わりを迎えた。それと同時に、私達の1年F組が始まった。
「今日の授業はこれまで。各自解散しろ。あと明日自己紹介してもらうから考えといてくれ。きーつけて帰れよ」
そんなことを言い決め顔をつくっていた男はドアの前で盛大に転びながら教室を出っていった。そういった姿をみながら彼女は思う。いいところも悪いところも昔のまま変わらない、と。
そして少女は頬を赤らめながら新しい私達の先生が出っていったあとを追いかけるのだった。
「あー初日から疲れるわ。俺にはやっぱニートが性に合ってるな。でももう金ないしなぁ……。はぁー、働くしかねーか」
そんなこんなで、俺が廊下を歩きながら深い溜め息をついていると、
「お兄ちゃ…、せ、先生待って…下さい」
後ろから生徒の声がする。振り返ると、走ってくるのは俺の妹のようだ。
「ん、櫻か。どうした、なんかようか?そ、それともまさか俺のことで苛められたの?」
俺がビビりながら聞くと、
「そんなことないけど。お兄ちゃ……先生なんか汗すごいけど大丈夫?」
「あ、あぁ、何でもない。それより面倒くさいからお兄ちゃんでいいぞ」
「でも、いいのかな?」
櫻が少し戸惑いがちに聞いてくる。それも上目遣いでだ。ヤバイめっちゃくちゃ可愛い。そして愛おしい。
「いいよ。ただし、二人の時だけにしろよな」
「う、うん。ありがと。」
櫻がほんのり顔を赤くして言ってくる。ヤバイめっちゃくちゃ可愛い。そう思っていたらつい、口からでてしまった。
「……お前、あいかわらず可愛いよな。」
櫻の顔がボッと赤くなる。あー可愛いなぁ。なんかこういうのって結構楽しい、俺エスなのかもしれない。
「い、いきなりなんなのお兄ちゃん」
事実、櫻の行動が可愛いのはもちろん、容姿もかなりの美少女といえるだろう。
ほんのりとした桃色のかかった銀髪、高校生にしては幼さが残る童顔で整った顔立ちをしている。まさに、『可憐』という言葉が的を抜いているだろう。それは容姿に限らず、少し低めの身長ですんなりとした体のラインをもっている。大事な場所も育ちは悪くなく、控えめといった所だろう。おまけにコミュ力も豊富というわけだ。特別鈍感というわけじゃないこともあり、男子をいちころにする破壊力がある。無論、誰かに渡す気は微塵もない。とくにイケメンは話にすらならない。爆発すればいいのに……。まぁとにかく俺が世間様いう『シスコン』であることに間違いはないであろう。
「ねぇ、お兄ちゃん。私いままでとちょっと変えたんだけど、どうかな?」
櫻がこちらを上目遣いでみてくる。ドキッとしてしまいそうだが、グレートブラザーな俺には問題ない。どうやら変わったところを言って貰いたいらしい。まぁ、久しぶりの再開だから無理もないだろう。俺と櫻は実に二年ぶりの再会なのである。諸事情等あるが今は櫻のことが優先だ。
少し探せば無限といえそうだが、ここはいくつかにしておこう。
「う~ん、前髪を三センチメートルほど切り、いままでより後ろの髪を伸ばして、髪をおろしたってところか?」
確か前までの櫻はちょっと前髪で目が隠れてるくらいの髪の長さのショートポーニーだったはずだ。それはそれで可愛かったんだけどね!
櫻が驚きと軽蔑の混じったような顔をしてから、
「お兄ちゃんそこまでみてるとキモいよ……」
「グ八ッ!」
俺は廊下に膝を落とした。だってマジ声なんですもん。
「でも、気づいてくれてありがとう。」
「お、おう」
あぁ、眩しすぎる。俺はこいつを笑顔にするために生まれてきたのかもしれない。そう思わせてくれるほどの笑顔だった。俺って相変わらずチョロいと思う。今の笑顔を超ハイスピードで脳内にやきつけていると、櫻が思い出したようにこちらを振り返っていう。
「お兄ちゃんお腹すいたな。だから、いっしょに食べに行こうよ」
「いや、お前友達?とかといかなくていいの?」
「いや入学式からなんて前からの友達くらいでしょ」
「え、そ、そうなんだ……」
「ま、お兄ちゃん友達いないだろうしね」
「放っとけ」
「ははは、でお兄ちゃんどこで食べる?」
楽しそうに笑ってから、本題を切り出してきた。だが櫻には悪いが少し待ってもらわないといけない。
「それなんだが、もうちょっと待ってもらっていいか?少し用事があってな」
「私ねーなにがいいかなー……えぇ、あのぼっちのお兄ちゃんが用事でもあるの?」
「は、俺にだってそのくらい…ある…し・・・」
「はいはい、それより用事ってなに?」
「理事長室と名誉教授室だ」
この学園は高校にして名誉教授がいる。お互いに全く別の仕事なのでいてもおかしくはない。
櫻は少し悩んだような仕草をしてから質問してくる。
「…なんで?」
「まぁ、一つはクラスの報告だな。あと、お前、うちの学園の名誉教授の名前は?」
「えーと、春野河智慧教授、だったけ?」
「そうだ。その女といえば?」
櫻ははっとした表情になり、小さな声でいった。
「お兄ちゃんの、育ての親、だった人?」
「正解だ。だから何か現状報告?みたいのしないとだから先行って店でも探しててくれ」
「了解。早めに終わらせてね」
「おう」
そう、この学園の名誉教授は俺の育ての親にして師匠だ。俺達の親はいろいろとあって今はいない。だが、まさかあいつとこんなところで出会うとは思わなっかった。二年ぶりというこよで、会いに来いというこらしい。先に理事長室で用を済ませてから少し歩くとその部屋についた。俺は一度深呼吸をしてからドアを開けた。真正面にて俺を待ち構えていたのは、しなやかな光を微妙に反射する金髪、整った大人らしい美形。青い宝石のようでそれそことなく落ち着いた目、そして長身にみあう豊かなバストをもつ絶世の美女だった。その口元には優しい微笑がたたえられている。春野河智慧はその笑みを深くし、こちらへ向かってくる。
「久しぶりだな真魔」
「ああ、久しぶり智慧」
「ハハハ、二人の時は別にこの名前じゃなくてもいいぞ?」
「そうだな。確かに面倒だし。改めて久しぶりだな、サリア・ヘルフォード」
彼女は日本人ではない。つまるとこ、さっきの名前は偽名ということになる。だが、うちの理事長さんのコネで名前を変えているらしい。いわいる偽名だ。
「どうだ。うちの学園は?」
「・・・あぁ、なんというか面白くなりそうだな」
俺がこの学園の教師になっているのは、こいつのコネらしい。さっきの質問はそういうことなのだろう。
「そうか。ならよっかた。」
「俺はもうそろそろ行くからな。」
櫻との約束は守っておきたい。ただでさえ腐っている兄の威厳を得るためにも。
「あぁ、ちょっと待ってくれ。くれぐれもすぐは辞めるなよ?」
「どうせ辞められねーだろ。でも、ありがとよ」
俺はそれだけ言うと部屋を出た。なぜかスッキリしたような感覚がある。そんなことを思っていると、ドア越しからサリアの声が聞こえてくる。
「ハハハ、ツンデレめ。そこは昔から変わらないな」
そんな声を聞きながら俺はその場を跡にする。相変わらずのツンデレ呼ばわりも今は悪くない。
「あ、お兄ちゃん。こっちこっち」
「おう」
櫻が取った席はファミレスの奥のほうの席だ。もしガラスの近くの席だったら死んでしまうニートの俺のためのいいチョイスだ。まんざらこいつに深い意味などないだろうが。
「なあファミレスでよっかったのか?」
俺が席についてから聞いてみると、
「うん。というかお兄ちゃんお金ないでしょニートだったんだし」
「グハっ・・・・・お、俺にだってお金くらいあるし~」
「ほほう、いくら?」
「千円札一枚だが?」
そういって俺は金持ちのようにお札をドヤ顔でひらひらさせる。
「・・・・・あの・・・なんかごめんね」
妹の哀れな人を見る目をそよ風のごとく受け流し、俺はメニューを見て注文を済ませる。ボタンを押すだけで来てくれる店員さんはとてもいい人たちなのであろう。少なくともコミュ症の俺には。そして妹も注文を終え(もちろん妹に自分の分も頼んでもらう)、しばらくすると料理が運ばれてくる。俺はミラノ風ドリアをチョイスしたが、妹はかなり大盛りのスパゲッティだ。それもたくさん。なのに俺の妹は太る様子が微塵もない。俺も食べられるほうだが、ここまでの大物には勝てない。あの時の店員さんの顔は俺が初めて妹の食事を見たときと同じような顔をしていた。
「なぁお前すげー量食うよな」
「…(もぐもぐ)うん。だっておいしいんだもん・・・…(もぐもぐ)」
「そうか。ならいいんだ」
俺はこいつに一度、食いすぎると太ると言った事があり、こいつも一度食制限をしたが、三時間でアウト。俺の手が食われる寸前だった。あれからおれは妹の食事には何も言わない。だってあの時の血走った目、真面目に怖かったもん……。
俺達は食事を終え、ファミレスを出て帰途を歩いていた。そのうち櫻の家に着いた。
「じゃ、また明日な」
「うん。お兄ちゃんも今日みたいに遅刻しないでね」
「いや、あれは間に合っていたはずだぞ。なぜなら」
「はいはい、じゃーね。明日遅刻しないでよね。お休み」
「ああ。お休み」
櫻が家に入り、灯りがついたのを確認すると俺は歩き始めた。櫻は空き家だったちょっと古い家に住んで学校に通うようだ。俺のアパートとわりと近くに住んでいる。たまに着てやろうなどと考えながら俺は帰途を歩き始める。俺の仕事への怠惰と期待を夜空の月と雲が表しているようだった。
次の投稿もよろしくお願いします。




