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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第一章:安穏としていては……
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『石の雨』




「ね、ミレ、どうやって私の人生変えるの?あとどうして私の人生を変えてくれるの?」

歩き出してすぐ、そう何回か聞いたら、ミレはちょっと困ったみたいで。


「人生を変えるにはキッカケが一つあればよくて。

あなたを選んだのは、悪いことの中に、小さな良いことを見つけたいから、本音を言えば、イオじゃなくてもよかった。

あなたは有名だから、選ぶとき私がすぐに思いついた。その答えでいい?」って聞かれたから、「うん」って答えて、ミレを追って湖の周回を歩く。

 湖の透き通った水に空の赤紫がキラキラと反射して、煌びやかな光が瞬く。

 ここは光の流れが速いから、その湖面のキラキラに光のポワポワがザーッと集まってきて、紫赤の湖面に触れては離れていき、見ているだけで綺麗で、賑やかな場所。

私たちはそこをしずしずと歩く。

 ミレとは会ったばかりだから、色々聞きたいこともあるけど、なんとなく淡々と喋るし、気後れしてしまって、静かにしておく。


 湖が目的地なのかと思ったけれど、結局湖は抜けて、草原を通り、街に入り、ミレの塔にまでやって来た。

 塔の前は今は催し物がないみたいで、大時計を見にきた人がそこそこにいる程度。

ゆっくり歩いたせいか、空が赤橙の次の橙黄になったから、建物に入ってた光のポワポワが路上にたくさん舞い戻っていた。

「ミレ、ここに何かあるの?」

「私には微かな恐怖、あなたには幸福の予兆」

 恐怖?

「ミレは何かが怖いの?」

 聞きつつミレの塔の外壁に腰を下ろし、花畑にある大時計を見つめてると、ミレは立ったまま、ちゃんと返事をしてくれる。

「イオにはどう見える?」

「私には……」

 ミレの顔を見ようとほんのちょっと視線を上げた時、空が急に暗くなる。

暗く?

 黒の時間かなって言うような暗さになって、でも橙黄の時間なはずだし、少し明るかったから、違うって納得する。「黒の時間じゃないね?」

黒の時間よりちょっと明るい世界、空を見ていると暗い空に多くの点が現れる。

 それはゴツゴツとした岩の塊。

建物より大きなそれが勢い良く、空から地面に向かって落ちてくる。

「石の雨?」

 それにはミレは答えなかったけど、大きな石や岩の群れがぐんぐん、ぐんぐん近づいて大きく見えて来たから、石の雨!って心が跳ねる。

「石の雨!!見て、ミレ!石の雨!すごい、本当に起きた!起きた」

 降り注ぐ岩、岩、それは地表にまで落ちてきて、次の瞬間人々の大歓声が聞こえる。

「石だー!おおおぉ!」「ヒューっ、幸運だな我々は」

 私も岩の一つが身体をすり抜けて行って歓声をあげる。

「ね!ね!ミレ!石通ってった!!身体の中!」

 巨大な岩石が落ちてくると、みんな触りたがって、身体をすり抜ける岩石の軌道にあわせて、歓声を響かせてる。

 私も触りたくて、うずうずとしていたけど、ミレが動かないから動くことを諦めて、降り注ぐ巨岩の群れに心を踊らせる。

 建物より大きな岩塊は、歓声を上げる人々や私の身体をすり抜け、黒くなった地面をすり抜け、瞬く間に消えていく。

 空から落ちてくる岩たちはあんまりにも多くて、他の石とは違う長くて透明な巨石が凄い勢いで目の前を通り抜けて、わーっ!わーっ!すごいー!って自分が叫んでるのがわかる。

 それは他の人たちも同じで、至る所から狂喜!歓喜!そして驚喜の声が響いていた。

私もみんながもっと盛り上がるように、きゃーきゃーきゃーきゃーはしゃぎ続ける。

 石の雨は伝承によると、落ちて来てる間は建物も消えてしまうらしい。

そう思って、街の建物を見てみたら、確かに消えていて、でも大時計と私の背中の塔は残っていた。

 神さまの塔だからかな?一瞬だけそう考えて、あとはただ目の前を過ぎ去る巨石の群れに心を奪われる。

 石の雨は一生に一度さえ見れないと言われてる珍しいもの、ミレの言った幸福ってこれなのかもしれない。

そう思っていたら、最後の巨石が通り過ぎて、あっという間に世界に光が戻って来た。


 空は透き通ったオレンジと黄色にまた戻り、人々は口々に今の体験を話し合いながら、いつもの街並みにもどっていく。

 束の間の楽しい時間が終わって、私はミレにお礼を言う。

「ありがとうミレ、すごい楽しかった」

「そう?」

「それにね、こういう楽しいことのあとに、楽しかったねって言えるのがすごい嬉しいの、スミと別れてからはなかったから」

 それにはミレは返事をせず、すっと大時計に指を差す。

 大時計?何かあるのかな、不思議に思って、じっと見てみると、大時計の縁が小さく欠けていてぽっかりと黒い穴が空いていた。

そこから黒い線が、地面や建物空中の一部まで伸びて黒く染めている。

「わ、あそこだけ黒の時間?」

 ミレが一瞬困ったように、口を開きかけて、指先をもう少し下にずらす、他の何かに気づいてほしい?

そう思ってよく見ると、大時計の近くの地面に虹色石が落ちていた。

 多分、大時計の縁が欠けたんだろうけど、一分経つまでは戻らなくても変じゃないし……。

と、そこまで考えて、その異常な事態に気づく。

大時計に使われてる虹色石は何かに触れると分裂して、本体とニセモノの二つに分かれる性質を持つ。

 本体にぶつかった物がどんなものであれ、虹色石は分裂して、本体は場所を変えることはない。

でも、あの虹色石は分裂せずに地面に転がってる。

それなら分裂してない?

なのに欠けてる?

 それがすごい不思議になって、私は欠けた虹色石を見るため、大時計にまで早足でむかう。

近道して花畑の中をつっきって、大時計の台座にたどり着き、すり抜けないよう慎重に、台座の下に転がってる虹色石を掴む。

それは粗く削れていたけど、確かに虹色の輝きを発していて、分裂もしていなかった。

 分裂してないなら、これは本体?私はいま虹色石の本体を握ってる?

虹色石の本体?ちょっとドキドキしながら、いつもよりも小さく呟く。

「それでは、神マネこーざを……はじめます、今日は虹色石を掴んで、一分戻らなかったら成功です。

台座から外れたみたいだから、初めての虹色石の本体ですが、どうなるでしょう?」

 どうなるのかな。成功はしないよね、しない、だって十年失敗し続けたんだから。

するわけないけど

今日くらいは戻りませんように、今日くらいは戻りませんように。

「さあ神さまに二回お願いも言ったので、きっと聞いてくれるはず、あと十秒です。ナオイ(9)、シェアハド(7)、シア、コーイグ、ケイイル、トゥリー、ダー、アオン(1)、アオン……」

 アオン(1)を過ぎても、虹色石は手のひらの中にあって、戻らなくて、私は呆然としたまま、虹色石の感触を何回も何回も確かめる。

「あります?なんででしょう、戻りません、虹色石が戻りません」

 戻らない?って何回も呟く内に、自分がいまなにやってるか、ちょっとわからなくなって、「なんで、なんで、一分経ったのに」って、何度も呟いてしまう。

 どうしよう?虹色石が戻らない、どうしよう、虹色石が戻らない、どうしよう。

どうしようどうしようどうしよう!

 混乱しかけて泣きそうになったとき、後ろからミレの柔らかな声が聞こえる。

「神マネこーざ、成功した?」

……振り返ったら、ミレが立っていて。

私は混乱したまま

「ミレ!虹色石、あ、あのね、成功してるの、したの、神マネこーざがね!」って、何回も言い続けるうちに、なんかだんだん実感が湧いてきて、喉に熱いものがこみ上げて、喋りづらくなる。

「した……の、成功っ、だから、ね、えっと」

 喋りづらさはだんだんとえずくようになって、なんだか涙にかわって、柔い光がぽたぽたと落ちる。

「うえぇえうあぁん」




 それからもずっと泣き続けてしまって、ミレは泣き続けるわたしを興味深そうに見ていた。

涙が収まるにつれて、恥ずかしい気持ちが湧いてきて、ミレに言い訳する。

「ひっう、あ、あのね、ミレっ、私ね、考えてなかったの」

「え?」

「神マネこーざが、成功するなんて」

「十年諦めなかったのに、そういうもの?」

「そー、っ、失敗し続けてたから、無理なのかなー、って、だからねよくわかんなくて」

 そう言ったらミレはすごく楽しそうに笑って、私にかがみ込む。

「……無駄な努力も、長くひたむきに続けていれば、それがどんなにバカバカしいものであれ、何かをあなたに与えてくれる。

一つのキッカケであなたは人生を輝かせられるし。

その虹色石はこの無価値な世界から、あなたのひたむきさに与えられる唯一の物だから、大切にして」

 唯一の?その意味はわからなかったけど、虹色石はミレがくれたものなんだ、って思うと余計に嬉しくなる。

「うん!ありがとミレ!」

 ミレは本当に塔に住む神さまなのかもしれない。

そう思ったら、すごく嬉しくなって、私はミレにしつこいくらいお礼を言った。

そうしたらミレはお面で自分の顔を隠して、お礼は終わった?ってなんとなく恥ずかしそうにそう言った。




「さあ虹色石が来ました!虹色石、どう使おう?わかりません」

 ミレはあのあとすぐにいなくなってしまったけど、去り際に時計の黒い光はちゃんと消えるって言ってたから、それは忘れて、私はリベーのベッドに転がって、虹色石を眺める。






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