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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第一章:安穏としていては……
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『トーリス通り』




 それから7日間してまたトキは来てくれたんだけど。


「えっと、トキはしないの?神マネ講座」

 トキはリベーのテーブルに座ってドレッドヘアを弄りながら、適当に手を振る。

「おー友達だからな、面倒なのはやらねえよ」

「友達ってそうだったっけ?」

「そうだぜ。お・と・も・だ・ちは自由なもんだ」

 あんまり友達いた経験ないからなんとも言えないけど、何か違う気がする。

それとも合ってるのかな?

スミも神マネ講座には付いてこなかったし。

「でもトキって協力してくれるって言ってなかったっけ」

「言った。やった。俺にゃ向いてなかった。だからやんね」


やらないの?本当に?

「神マネ講座始めますよ~?」

「おー、俺は横になって見てるぞ」

「楽しい楽しい神マネ講座ですよ~?」

「わははは。うわははは」

「はぁー」


じゃあなんでいるの?トキはなんでここに来たの?

神マネ講座しか私やらないのに……。

神マネ講座がヤなら来る意味ないよね?

ちょっと拗ねたから敬語に変える。

「トキさんはなんなんでしょう?神マネ講座も手伝わないのに、ここに来て、ちょっと怒ってます」

「応援だけしてんだよ、自由にやろうぜ」

 なんとなく不満で、トキから視線を外して周囲を見回す。

ゴツゴツとした石壁に、幾つかの渦巻きの紋様のついた石天井、ここは石造りのリベーの中だから、いるのは私とトキの二人だけ。

 テーブルとか花瓶の花とかがあるから色々できるんだけど、トキがだらんとしてると気になってしょうがない。

 あんまりにも気になるから、トキの思惑を色々と考えてみる。

トキは神マネ講座はしたくない。

でも私は神マネ講座しかしない。

 トキは退屈するし、私の気が散って手伝いにもならない。

それならあんまり一緒にいる意味ないよね?

ならなんでトキは来たの?

退屈するため?

 あれかな?まさかとは思うけど。

「私、恋愛しないよ?」

「お?」

「私、恋愛しないもん」

「なんだあ、急に」

「トキ恋愛しに来たんじゃないの?その~私がね?祝福の日迎えたから、好きになって……とか」

「おいおい」

 トキは横たわったまま肩をすくめて、私のローブをちょいちょい指差す。

 そんな地味な服と痩せた肉付きじゃ恋愛対象になりませんよ~?と言う風に。

 異性を見るときの優先順位は、最優先が衣装、次に肉付き、その次が髪、顔だから、言っている意味はわかるけど。

「服は地味だけど……、地味なんだけどね?顔はすごーく可愛いから、恋愛くらいは満たしてると思うの」

「ぶほっ」

「ぶほっ?」

「なんだあそりゃ?冷静になれ。いや、わかるぜ。

俺地味なの好きだしな。イオは顔だけは可愛い!とんでもなくな、ぶははは、でもなあ、世間では衣装がそこまで地味だと、恋愛対象にならないんだ。不思議だろ?ひーっひ」

 なにそれ!

「はぁー、それならトキさんは!なんで来たんでしょうか、まったくわかりません。私は!神マネ講座しかしないもん!」

「応援するっつってんだろ」

「そーですかそーですか、どーでもいいので、神マネ講座始めまーす」


 それから私ひとりで花瓶を何度も何度も動かして、二時間くらいしたら、トキは飽きたのか帰ってしまった。

 友達ってこんな感じなの?

なんだかよくわからない。




 それから何日間かトキは来たけど、そのあとはしばらく来なくなって、私は14日くらい、一人で神マネ講座をしていた。

 石を投げる距離を変えてみたり、屋上からレンガと一緒に飛び降りてみたり、物を作れる手応えは何もなくて、なんだか寂しくなって、たまにはトキが来ないかなーなんて思ったりもした。

 神マネ講座の助けにはならないのに、なんでトキのことを考えてしまったのかは不思議だったけれど、多分、あんまりにも進展がないから、息抜きとかそういうのがしたくて、それで友達に会いたいのかもしれない。

 スミを除くとトキは初めての友達だし、会いたくなってもしょうがない?口は悪いけど。

なら、今日はお休みにして、トキに会いに行ってみよう。





 駆けると地面をすり抜けるから、ちょっと早足でトーリス通りに向かう。

 トーリス通りは、カラリス通りの反対側にあって、主にダンスとか歌とか、『一分間の芸術家』とかが、芸を行っている場所。

 話芸や寸劇が多いランピスの大通りとは違って、トーリス通りは視覚に訴える催し物が多い。

その中でも主体になるのが、『aon mionaid(一分間)の芸術家』で、物が一分で戻る特性を使って芸をする人たち。

 ポイポイ物を上に投げたり、順序よく物を出したりもするけど、物は一分しか動かせないから、主となるのはそこら中にうかんでる光のポワポワを使った光り絵だ。

 光のポワポワはブレンダンのどこでも浮かんでいて、動かすと宙に綺麗な光の線を残す。

 その光の線は一分間経った順、つまり最初描いた線から順に消えてしまうけど、消える端から綺麗な光絵を描いていくから、古い絵はどんどん新しい光絵に描き変わって、その人の表現したい信仰とか物語とかのテーマを描き、数分から数十分の時間をかけて演目は終わる。

それがあまりにも綺麗だから、昔から大人気でトーリス通りの主流になっていた。



「トおぉきー!」

 そんな賑やかなトーリス通りで、トキを捜していると、色々な人とすれ違う。

 シンプルな金色のドレスにアクセサリーをたくさん付けた人や、背中から生え伸びる3対の骨格に煌びやかな布を張り四色宝石を散りばめた、ヴィトンドレス。

 脚の部分がもこもこに膨れて光りを発する名前も知らないタキシード。

 美麗な催し物が主体のこの通りでは、観客の服も派手なのが多くて、地味な服の人にはかなり入りづらい。

 スミのセンスの良い服装でも文句を言われるくらいで、私の地味なローブだと絶望的にバカにされるから、2回だけ来て、来るのをやめた場所。



 行き交う人の嫌味や罵声、蔑視に耐えながら、3時間くらいトキを探していると、通り沿いにあるリベーからトキの声が聞こえて、適当に左右をうろちょろして、上の方かなって目星をつけて、視線を上げる。

 見上げたのは二階建ての白レンガ造りのリベー、空は鮮やかな黄と緑に分かれ、二階から張り出したテラスから、路上にまでトキの声が降ってきていた。

「わはは、そー思うだろ?」

 トキは誰かとお話し中?


 声は物に遮られたりはしないから場所は特定できないけど、トキの声を頼りに、リベーの入り口を探して内部に入る。

 人がいるなら迷惑かな?とも思ったけど、常識として、会いたい時にはいつでも会っていいから、平気なはず。

そんなことを考えながら、勇気を出して階段を登り二階に向かう。

そこで別の人の声が聞こえる。

「もっと本気出しなさい、またカラリスに戻るつもり?」

 女の人?扉の向こうからは女の人の声が聞こえて、足をちょっと止めてしまう。

トキと女の人?

「わーったわーった。でもよ、あんま口出しすんなよ、俺、拗ねちゃうぜ?」

「どうでもいいけどさ、こだわりはほどほどにしてよ」

「ああ」

 それで会話が少し切れたから、勇気を出して扉を開ける。


 開いた扉の隙間から見えたのは、テカテカ光る木のテーブルに横になるトキと、体のラインの良く出るドレスを着た女のひとがいた。

 女のひとの髪は長くて、赤橙のドレスと赤い花飾りが茶色の髪に彩りを与え、深い紺青のペンダントがドレスの赤を引き立てている。

上品で綺麗なんだけど、なんとなく気の強そうな人。

扉を開けた私に気づき、女の人が声を掛けてくる。

「何?」

「あの私、トキに用があって来ました」

「あっそ、用だってトキ」

「あー?」

 トキはイライラしていたのか、私を見て、面倒くさそうな顔をする。

「んだよイオか、帰れ帰れ、トーリス通りには来んなって、」

「なんで?」

「俺が嫌なんだよ」

「じゃなくて、理由」

 と、私が聞き返すとトキは信じられないことを言う。

「キミなあ、服地味だろ。行動変だろ、こっち来られると、迷惑なんだよ。連れてっと俺も笑われっから、だから帰れや。イカレたイオ」

 え?

「え、あのトキ?でも、トキから友達になろうって」

 言ったんじゃなかったっけ? そう言おうとして、でも急にだったから混乱してしまって、ちょっと口ごもる。

「時と場合があんだって、トーリス通りじゃ会いたくねえ、帰れ帰れ」

「え、と」

私が困惑していると、女の人がちょっと驚いた顔でトキに食ってかかる。

「ちょっとトキ!イオと友達なの?とんっでもなく地味で、何考えてるかわからない狂人と!友達?」

「いいだろーが、別に」

 目の前に私いるんだけど……、グサッと傷ついたけど、慣れてるし、黙っていたら負けた気になるから、二人に言い返す。

「えっと、トキもあなたも!地味とか狂人とか、そういうの私キライ!わたしね、ローブは地味だけどそんなんじゃないから!」

「しっ黙って!」

 赤いドレスの女の人は怒鳴ると、まなじりを吊り上げ、ギラリと唇の端を上げ、トキから私に標的を変える。

「言わせてもらうけど、あんた地味すぎよ?アクセサリーもなくて、こげ茶色のローブ一枚にこげ茶色の靴と髪?

スタイルもあれ?体細くて、胸もそんなにないの?神マネ講座ってなに?狂ってんじゃない?みんなが馬鹿にしてる。リベーに引きこもって一生終えればいいのにって」

「だからなんですか?わたしは!一人でもやることがあるの!恋愛もしないし、芸術家にもならないの!だからね、他の人にね、馬鹿にされても関係ないの!一人でできるもん」

「関係ないって……、あんたって、こういう嫌味あんまり効かない?私トーリス来てから、けっこー練習したんだけど」

 それには私が答えるより先にトキがテーブルの上で投げやりに手を振る。

「イオにゃあ無駄だぜ、イカレちまってる」

「そ?ならやり方変える」

 女の人はそこで嫌味な口調を止めて、キツい目、キツい口調で私を睨みつける。

 なに?

「なんですか?」

「シッ!!」

え?

「消えろ地味!!!」

 とんでもない言葉が聞こえた気がして、思わず聞き返す。

「なに?」

「消えろ、地味!顔も見たくないわ」

「えっと」

「あー、そこまでだイトランゼ。まあ今日は帰れやイオ、トーリス通りにも来るなよ、俺が嫌だからな」

「う、うん」




「はぁー、なんなの?友達ってこういう感じなの?」

 スミに相談しようと思ったけど、湖にスミはいなくて、ぷらぷらと湖を一周する。



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