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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
終章:チカクトトオクト
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『道の彼方に着いて』




 幕が一瞬にして開いて、カトリーヌが舞台上で挨拶をする。

『ようこそ、イオ生誕の物語に、皆さんもご存知の通り、本日の劇は、ミレに見せるためのものではございません。

わたくしカトリーヌが代役のため、当劇の見せ場たるカラリスの街の場面のみを行いたいと思います。

また……イオさんの服装の悪口では主演の気持ちが入らないため、僭越ながらわたくしカトリーヌの服装を存分に罵り、お辱めください!』

 カトリーヌはいつもの態度を守ろうとしていたけど、最後の方でそれが微かに崩れ、声が高く震える。

 それから、観客席が一瞬静まりかえって、また見慣れたあの光景が再現される。

ただカトリーヌが相手だったから、私の時みたいに醜いって連呼するものじゃなくて、どちらかと言えばカトリーヌとの今までの関係をあげつらう、そんなものに変わっていた。

「なんだその背中の羽は!派手すぎて見るに耐えない。夜会の際の景観を考えたまえ!」

「カトリーヌ前々から言おうとしていましたがあなたの態度は不遜です!喋ってるのを見るだけで、不快になります」「何を顔を伏せているんだ聞いているのかカトリーヌ!あなたは言ったよなあ」

…そんな数千人の罵声が舞台上に次々に落ちていって、私のすぐ近くに立っていた人たちも、カトリーヌの悪口を叫び始める。

カトリーヌが怯えたように、観客席を眺め回す。

 舞台を覆い尽くす黒い言葉に、黒い感情。

……昨日までそれを受けてたのは私だから、自分に向けられたものじゃないのに萎縮して、怖くなって、その場にしゃがんでしまう。

私は醜くないもん。

ぽそっとしたレリーの声。


「何泣いてるのよあの子」


 え?泣いてる?うるさいくらいの罵声の中、慌てて、立ち上がると、舞台上でカトリーヌは膝を落とし、骨格の布、羽というらしい、に身を隠して泣いていた。

 今まで親しくしてきた人たちから、悪口を言われ続けたら、誰だって悲しくなる。

 その哀れな様子に、レリーはちょっと怒ったみたいだった。

プッチアのお城を勢いよく両手で掴んで微かに口をつけ、外壁を上に上に撫でていく。

そしてそれを一回離すと、点滅をし始めたのを一回止めて、怒ったように、外に出て行く。

その前にチラッと私を見る。

「今までごめんなさい、イオ」

「え?……うん」

なんで謝ったんだろう。

あれって声届けるものだよね。

レリー、カトリーヌに何か言うのかな?

そう思ってちょっとしたら、レリーの声が聞こえてくる。

それはきっと、トーリス中に届くあのお城の声。

『さっさと立ちなさいカトリーヌ。

そんなくだらない姿を晒して、まだわからないの!

あなたはこんな酷い劇にイオを入れたの!イオはこの劇を数ヶ月耐えた、それをたった1日くらいで泣いてんじゃないわよ。

いい?聞きなさい!あなたは、カトリーヌは、ワタシの凛とした友達は!一週間立派に劇をこなして、堂々とトーリスを追放されるの!

それができなきゃ、もうあなたなんか友達でもなんでもないわ!ただの下劣な人間よ、……今日の一言はこれで終わり!

…………それからトーリスの皆さん、レリーです。

あなたたちの醜悪な品性と悪口は、芸術として大変下劣で、ワタシは見下げ果てています。

ミレもお嘆きでしょうね、あなたがたは一度変わるべきだと思いますが、トーリスに居たくないので、ワタシはこれ限りで去らせてもらいます。では楽しい時間を』

 ……すごい宣言、レリーは劇場を出ていたから、どんな表情をしていたかはわからないけど、もうトーリスに戻ってくることはないんだろうなって、私にもわかった。

 観客席から悪口を言っていた人たちはそのレリーの痛罵を受けて、また一瞬静まり返って、アイツも追放だって、レリーの悪口も含めて騒ぎ始める。

 それを止めたのはカトリーヌだった。

『皆さん劇はまだ続いています。悪口はイオに扮するわたくしだけにお願いします。劇が台無しにならぬように』

 もうカトリーヌは泣いてなくて、ううん目に涙は滲んでたけれど、零してはなくて、綺麗な姿勢で堂々と客席を見つめていた。

背中から伸びる3対の羽はちょっと鋭利ながら美しい曲線を描き、ティアラと少しラフなアップに纏めた髪は品を、そしてその凛とした大きな瞳は彼女に綺麗さと可愛らしさを同時に与えていた。

 衆人環視の中、カトリーヌはたくさんの人の罵声を浴びながら、演技を始める。

『ああ、醜い醜い、なんて醜い服装でしょう。誰にも好かれず、見られただけで人を不快にし、こんなわたくしがリベーから出ればそれは当然、このような罵声を浴びるでしょう。』

 私と同じ醜いセリフを言わされてるのに、カトリーヌは声を高らかに張り上げ、仕草や音声にできる限り情感を交えようと気を遣い、……なんというか、劇らしくって美しかった。

観客の人は罵り続けていたけど、それも劇の一部のように、カトリーヌは演じ、時に大仰な涙を流し、意識して顔を伏せて、でも美しく綺麗だった。

 それを見て、ちょっと複雑な気持ちになったけど、それよりも私はすごいなって思ってしまう。

……私と同じ劇なのに、こんなに美しくしようとできるんだ。

 ……私はこの劇に負けて、醜いって自分を卑下したけど、カトリーヌは最後まで、自分の綺麗さを守ろうとする。

……トキに恋してもらうには、私ももっとそういう気持ちを持たなきゃダメ。

私の全部をどこまでも綺麗に、どこまでも美しくしていくの。

……でも、私の美しいってなんだろう?

トキが私を好きなところはなんだろう?

それはきっと、私が目標のために、ずっと頑張って、なりふり構ないところ。

昔は神マネ講座に、今はトキに好かれることに、私は全力をかける。

ちょっとズルいけど、こげ茶色ローブがダメなら。

……虹色石にそっと触る。

やるべきことはもう決まっていた。




 それをするために洞窟の中に入ると、ミレが案内してくれる。

「驚いた、イオが洞窟にまた来るなんて」

 ミレの金の髪に映える碧の瞳が悪戯っぽく私をとらえる。

「劇はもういいの?」

「スミがね、付き人になってくれて、劇の内容も良くしてくれて、公演も1ヶ月に一回にしてくれたから、大丈夫!」

「そう、いい友人、というよりいい母を持ったわね。子供を愛するなんて、ブレンダンでは珍しい価値観よ」

「ね!スミ、すごいよね。ねえ、ミレ、虹色石って虹色石で壊すことできる?」

「できるけど、それ加工しに来たの?」

「かこう?」

「形を変えること」

「……うんそう、虹色石の山に行けばね、虹色石同士をぶつけられるからもしかしたらって、大時計でぶつけると目立つから」

「加工はできる。虹色石でも特別に硬いのがあるの。私が大時計を直す時に使ってる道具」

「それ使っていい?」

「いいわ。その道具は好きに使って、それと残念ながら虹色石はそれ以上あげられないの、だからそれで我慢して」

「うんいいよ。これで綺麗になるから」

 私は手のひらに握った虹色石を見せる。

虹色石が小さかったからだろう、ミレはちょっと申しわけなさそうに言う。

「その量じゃ、髪飾りとブローチと指輪が限界そうね、でもカラリスの人並みにはなれそうだけど」

「ううん、もっとね私は綺麗になるの」

「その量で?」

「そう」

「応援はしてるわ、さあ着いたわ、……運命の石の部屋にようこそ。イオ、ここで最後の神マネ講座をするんでしょう?」

「うん、ミレみたいに、物を造るの、トキと私のために」

 洞窟の奥にたくさんの虹色石が置かれた部屋があって、岩肌の上に乱雑に積まれた虹色がキラキラと光を放ち、私は感嘆をもらす。

「わ、綺麗っ!これね、色んな形がある」

「ここにあるのはもうカットされている虹色石、84種の山と、短針、長針、秒針、数字の形のものがあるわ。大時計や四隅の石が壊れたら邪魔な部分をカットしてから、これをはめ込むの。

私は虹色石の修復と目的地の変更のためにいるから、極稀に使ってる。それから、これが道具」

そう言ってミレが見せたのは、十種類の虹色石の道具だった。

 先がざらついてるのが2つ、尖ってるのや、平らな刃物みたいなのとか、金鎚とか、色んなのがあった。

私はその虹色石の道具を地面に並べて、真ん中にミレから貰った虹色石を置く。

そして、十年間やっていたのと同じ仕草で両手を上げる。

「最後の神マネ講座を始めます。

この10種類の道具と虹色石を使って、私が綺麗になるためのアクセサリーを作ります。時間はたくさんあるので!

岩で練習してできるようになってから始めます」

そこまで言ってから私はミレに振り返る。

「ね、ミレ」

「なあに、神のご友人?」

「私ならできるよね?」


「ええ、もちろん」

「神さまもそう言ってくれたので、きっとできるはずです。さあ、楽しかった神マネこーざもこれで最後です。ちゃんとやって、トキに恋を教えてあげましょう!」


 さあ自分の綺麗を作ろう。

 私を輝かせるためのものは、歩いて来た道の中に必ずあって、彼方の先に着いたときに、キラキラと輝いて、それを私に教えてくれる。


無意味に思える努力も、馬鹿にされたり、不幸に思える毎日も、使い道のない情報だって、何かしら意味があって、……それが未来の自分を助けてくれる。

「イオ、さっきから渦巻き模様を描いてるけど、そういうアクセサリーにするの?」

「うん、3つのね渦巻きを繋げた模様はね、光の噴水に使われてるの、光の流れがあるところには必ずこの紋様があるから、ちゃんと作れば光の流れを纏えるかも」

「光のドレス?いい発想ね!肉体のある人たちが言っていたんだけど、ケルトの紋様には、精神世界を変える力があるんだって。

一回で上手くできる?」

「うん。ちゃんとね岩で練習するから」

「そうじゃなくて光の流れのこと、3つの渦巻きで、光の噴水がどうでるかわかるの?」

「あ、わかんない」

「やっぱり!では!神のご友人?」

「なに?」

「練習用に虹色石を一つ渡してあげる。

ここの虹色石、ほんとうは千年後に滅ぼすから余ってるの、念のため取って置きたいんだけど、この前、私を後押ししてくれたお礼に一つだけあなたにあげるわ。がんばってイオ」

「わ!ありがと!ねえ、ミレ、あとね、もう一つ聞きたいんだけど」

「ええ」

「大時計ってどうして動いてるの?

大時計にはミレのペンダントと同じ形のマークあるけど、その印つけて大時計つくれば動くの?」

「それも必要。大時計の作り方は知ってるから教えてあげる。どんな時計にするの?」

「トゥリー・イヘアド(60)を数える指輪にするの。オシャレになるといいけど」

 そんな風にミレとおしゃべりしながら、私は長い時間を費やした。

それは1日、2日じゃなくて、でも一年よりは短い時間。

1ヶ月に一度の劇以外は、ずっと洞窟に入って、作業を続け。やがてそれは完成した。





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