『ティール・ナ・ノーグ』
「中心?答えは、いいえ、ブレンダンを作ったのは私じゃない」
「でも、ミレはその人と一緒にブレンダンを作って、今も毎日ね、私たちのこと見てるんだよね、退屈しないように」
「……そうね、毎日楽しんでる、それで?」
よかった、やっぱりブレンダンはミレを楽しませるためにあるんだ。
だから伝承と同じだよね?
めつぼうもできるみたいだし。
「ならね?いいよ、私たちはミレを楽しませるためにいるの、恋愛できるのも、日々楽しいのも、ミレが私たちを見てくれてるからだから、めつぼうさせるのも、見つづけるのもミレが好きにしていいよ」
ミレがキョトンとする。
「滅亡させてもいいの?」
「いいよ、私ね、この世界大好きだから」
「大好きなのに、滅ぼしていいの?」
「うん」
って私が言うとミレは考えこんでしまう。
意味がわからないって顔をしていたから、私も不思議な気分になる。
「だってね、ミレの世界を賑やかにするのが、私たちの役目なの、黒の時間に落ちないなら、ミレが見続けてくれるなら、めつぼうさせてもほろぼすのもいいよ」
ミレはちょっと考えてから、ぷっと失笑し、あははって笑い出す。
「なにがおかしいの?」
「イオ……、実はぜんぜん、私の話、理解してないでしょう?」
「理解してるもん、うちゅうせんが水の中を歩いてるって、目的の場所についたら動物に入るんでしょ」
「『死も生も超越し、永遠に廻り続ける世界』それを苦痛と捉えたあの人に聞かせてあげたい言葉だわ。
そうなると死や滅亡すらも、理解できないのね。
イオ、あなたにとって死、黒の時間はなに?」
「永遠のね、退屈」
「あなたにとって生きるって何?」
「退屈したくないから、楽しくすること?私もみんなも、二百年経ったらね、どうせ記憶消えちゃうし、生きてる間は楽しい方がいいもん」
「いい答え!あの人になんて言おうかしら、あなたの作った世界は苦痛に喘ぐだけの世界じゃない。
だって本来生きることは楽しいことなんだから、私とあなたの世界は絶望に満ちてなんかいない。
……ねえ、イオ、私、ほろぼすわ、物を作りたいなんて生産的なあなたでさえ、この考えなら、きっと引き伸ばしたって同じこと、千年の先、私はブレンダンを滅ぼす、そう決めた」
ミレは楽しそうにそう言って、私はうんって頷く。
「いいよ!」
「だから楽しく生きてイオ、私はこの世界が好き、あなたたちが賑やかにしてくれる世界が大好き、……ずっと見続けて、あと千年の先、あの人の努力と、あなたたちの生に、意味を持たせてあげる。
恵みの国に行きましょう、イオ、そこでは食べることも作ることも何だってできるの、衣装だって替えられて、絵だって一分で消えないわ」
「衣装も着替えられるの?」
「ええ、替えられる!楽しみにしていて、イオ、そこに行くとね、物に意味が生まれるの。
無意味だけど幸福なティール・ナ・ノーグ(常若の国)はあと千年でおしまい、私たちは生まれた意味を果たすのよ」
ミレは決めたら早い人みたいで、すぐに部屋の階段を上がって、変えるために行ってしまった。
私もまだ居ようかなって思ったけど、劇を休んじゃっているし、なんとなく心配になって、トーリスに戻ることにした。
一人きりで、トーリスへの道を戻りながら考える。
恵みの国に行けば物に意味が生まれるなら、ブレンダンの物には何にも意味がないってこと。
神マネこーざには、もう意味がないのかな。
一分で戻らないのは虹色石だけで、他のはぜんぶ一分で戻る。
ミレはそう言っていたけど、でも、まだ続けられる気がするのはなんでだろう?
トキはなんて言うかな、神マネこーざをする私が好きなら、やめたら嫌いになっちゃう?
いつもみたいに両手をあげてみる。
「神マネこーざをはじめます。動かすものはありません。
はぁー、トキにね、会いたいな、トーリスに行こ」
ランピスに入ってちょっと歩いたら、トキの大声が聞こえてくる。
「イオーっ、おおい、出て来いよ、出てきてくれよ!」
トキ?泣いてるの?なんでだろう。
トキの声は大きかったけど、泣いてるみたいで、私は街角をキョロキョロと探す。
声は遮られることはないし、範囲内に聞こえるから、まず聞こえなくなる位置を探した方が見つけやすい。
三歩後ろに下がるとトキの声が聞こえなくなって、それから右と左に一歩ずつ動いてみる。
右だと聞こえたから、トキは右の方、あとは右側をうろちょろとしていると、路地で声を張り上げてるトキがいた。
黒い服に鎖のジャラジャラをつけた。トキ!
「トキ!」
トキは私に気づいて、おほっと喜色を覗かせ、小走りに近寄ってくる。
「なんだよ、おー!捜したぜええ!おい、キミなあ禁忌破っただろ!黒の時間はどうしたんだよ」
「あのね!ミレとね、会ってたの!会ってる時はね、禁忌は破ってもいいよって言われたから、劇休んだの!」
「そーか!すっげえなイオ、ミレと会えんのかよ!」
「うんっ、会えた!楽しかった!でね!私ね、トキに話があるの」
「話?……ってつか、んだよイオ、お気楽に喋りやがって、俺まだ謝られてねーぞ」
トキは喜びながらも、ちょっとふてくされた顔をする。
「え?なにトキ、怒ってる?」
「あたりまえだろが!俺さあ、今日は予定ないんだわ!ヨードロゼ休んで、1日中、キミを捜す予定だったからなあ!!」
「わ、ごめん。」って言う間もなくトキは抱きしめてくれて、「あ~くそっ、いなくなんなよ、俺好きなんだからさあ」トキの悪態に私はフワッてして、すごく暖かくなる。
う~トキ、すごい。
私を抱きしめるトキの背中に手を回してキュッと抱きしめる。
「ごめんねトキ」「んだよ、黙ってろ」
トキは私の耳元に顔を埋めて、嗚咽を洩らし、そうされるとどきどきして、ちょっとどんな風にしてればいいか迷ってしまう。
どうゆう感じでいたらいいのかな、なんか緊張する。
なにか言うべき?言わなくていいの?
でもトキはしばらくしたら満足したみたいで、「おっし」私を抱きしめるのをやめて、私を抱え上げる。
「わ!なにトキ」
「リベーで話そーぜ、俺に話があんだろ?」
ランピスのリベーの大半はミレの部屋によく似た造りで、赤いレンガで出来ていて、本棚や、絵画が飾ってあった。
私とトキはソファに座って話を始める。
「トキ、私ね、ミレと会って、色んな話をしたの」
「ミレってどんなやつなんだよ」
「綺麗な女の子!金髪で白くて薄い布をね、何枚も重ねて纏ってて!動物のね、お面があるの」
「ほ~、まあまあ綺麗だな、ミレは俺のダンスなんか言ってたか?」
「ううん、言ってない。聞いてないから」
「おい聞けよ」
「でね、ミレが言うにはね、ブレンダンはね、水の中をずっと歩いてるんだって、でね、いつかどこかに着いたら、私たちを動物にいれるんだって、ミレね、そう言ってた」
「水の中歩いてんのか、ブレンダン」
「うん」
「どんな風にだ?」
「ちょこちょこと」
トキはぶほっと吹き出す。
「イオ、キミぜってえ何も話聞いてなかっただろ!
ミレが、あのミレが、んなわけわかんねえ話するかよ。ブレンダンが水の中あ?イオちゃんの耳は、どこにあんですか~」
「ここにあります。ミレそう言ってたもん、ぜんぶそうじゃないけど、トキだって理解できない話だから」
私がむくれるとトキは笑いながら答える。
「悪いな、理解できるぜ俺」
「え、なんで?」
「いいかイオ、俺、すっげえ伝承苦手なんだよ」
伝承苦手?
「それならね!伝承より難しい話だったもん、私ね伝承は知ってるけど、理解できなかったから」
「そこだよそこ」
「何が?」
「キミは伝承をわかる、俺はわかんねえ。いいか、つまり俺とイオとは考え方の作りが違うんだよ」
「うーん、そうかも?」
トキと違うのもちょっと嫌だけど、一応頷いておく。
「でさ、俺とキミ、その違いが大事なんだよ。俺は伝承わかんねえけど、ミレの話は理解できる、ミレの話はきっと伝承わからねえ奴なら理解できる話だぜ」
「そーなの?」
「おう」
「伝承より難しい話なのに?」
「おう、そーだ」
「トキ、ミレの話知らないよね?」
「おう、そーだな、不思議だな」
「うーん……もしかしてトキ」
「おう?」
「からかってる?」
「ひーっひ!おせーよ!キミは馬鹿だなあ!おら、こうしてやる!」
「わ!」
トキは私をくすぐってきて、私はそれにきゃーきゃー言いながら、抵抗して、二人でふざけあいながらソファに倒れ込む。
精悍なトキの顔が目の前にあって、わあっと緊張してくる。
トキは武骨な手で、横たわる私の前髪をちょこちょこといじって、私は身体をちょっと堅くして、それに身を委ねながら、話を続ける。
「あとね、ミレにこう言われたの」
「なんだ?」
「神マネこーざはもう意味ないって、動くのは虹色石だけだから」
「お?んじゃ、キミ神マネこーざやめんのか?ミレが言ったんならもうやる意味ねーしな」
トキはちょっと心配そうに言って、私はううんって否定して、トキのほっぺたをむにゅっと掴んで伸ばす。
「何すんだよ」
……トキはお返しとばかりにまた私をくすぐって、私は、あははって笑いながらも、どきどきしてくる。
「ミレはダメって言ったけど、まだね、神マネこーざできる気もしてるの」
「そんならやりゃあいいじゃねえか、単純なことだろ」
「でもねトキ」
「あん?」
「神マネこーざ、私がもしもできなくなったらね、トキは私のこと嫌いになる?」
「おい、イオ、弱気になんなよ。出来なくなったら、また何か始めりゃいいじゃねえか」
「出来るかな?」
「出来る出来る。そうじゃなきゃ俺が君を好きになるわけねえだろ」
「……それって、私が何もしてなきゃ嫌いってこと?」
「さーな」
……うーん、ヤな答え。
トキは私にイジワルしたいみたいで、ニヤニヤしてる。
「ねえ、トキ」
「なんだよ?」
「トキは私のことね、どうして好きになったの?服ねこんなだし、……トキと話したこともあんまりないし」
「前言っただろーが、それでいーだろ」
「もう一回ね、聞きたいの」
「なんだよ、キミ、まだ俺の気持ちを疑ってんのか?」
私がしつこかったからだろう。トキが本当に不機嫌な声を出して、私は慌てて、お願いする。
「疑ってないけど、でもね、もう一回、聞きたいの」
「んだよ、しつけーなミレになんか言われたのかよ?」
「言われた。トキは神マネこーざをする私が好きって」
「ったく、キミは自分に自信がないのが欠点だな」
トキの言葉はキツかったけど、眼差しはちょっと和らいでいたから、私はほっと安心する。
トキは私の上から身を起こし、ソファに私を起きあがらせてから、私を見る。
「いいか、大事に聞けよ、君との出会いを言うのはこれで最後だからな?」
「うん」
私が頷くと、トキは穏やかに口を開く。




