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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第一章:安穏としていては……
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『虹色石』



 どこに行くって言われても、この花畑が目的地だったんだけど。

別の場所がいいのかな?

 でも初めて協力してくれる人ができたんだから、がっかりさせないように派手なのをしなきゃ。

 トキの荒っぽい手のひらを放して、しゃがみ、ほんの足首くらいの高さに咲いている紫の花に触れる。

「えっとそのー、じゃあね?今日の神マネ講座は!光のポワポワを集めて、この花に付けてから摘みます。そして一分戻らなかったら成功です」

 そうトキに教えながら、空中をときどき浮かんでる光のポワポワをとって、紫の花弁にくっつけて、プチって摘む。

あとは花を掴んだまま、ジッとして

「一分待つのか?地味だなあ」

「地味?」

「そりゃな、そーだろ!つまんねー」

 地味かー、光のポワポワをつける分いつもより派手なんだけど……。

 初めて協力してくれるって言ってくれてちょっと嬉しかったけど、この反応じゃすぐ離れていきそう?

「これであとね、40秒くらい待って、動かなければ成功です」


「40もか?」

「そー」

「40なげえな、よーし待った。おし、もういいな。もういいな?」

 待つ気ないよね?トキは我慢強くない?

「まだ経ってないよ?」

「もう経っただろ、俺の全てが0になったぜ、あ~まだか?まだか?」

「あと9、7、くらい?……あっ」

「お、戻ったな」

 合わせて一分経ったから、私の摘んだ花はそそくさと動き出して、私の指をすり抜け生えていた土の上にまた戻る。

落ちた土も全部綺麗に元通り。

「はぁーまただめ~」

「なあ、面白いかこれ?」

「面白くはないよ?」

「しかも成果ありそうもねえし、こんなことずっと続けてんのか?」

「うん十年くらい?二つねやり方があるの、まだ成功したことはないけど」

「どんなだよ?」

「一つはね、今みたいに一分待つやり方、物が一分経っても戻らなかったら、物を動かしたりできるでしょ?

この花をあの街路樹の下に置いてみたり、宝石箱の指輪を指にはめてみたり!そうしたらね、もっと綺麗にできるの、ローブもね!着替えられるし」

 トキは適当に頷く。

「おうおう」

「もう一つはね、頑張って念じて、物を生み出す練習!頭の中では想像できるんだから、もしかしたら物が出てくるかもしれないでしょ?出てきたことはないけど!」

「そんで十年か」

「うん十年」

「地味だなあ、なんて地味なやつだ」

やっぱり地味?飽きちゃった?と心配したけど、トキは笑って、私の髪をぐしゃぐしゃに撫でる。

 髪は草ひもほどかなきゃ一分で戻らないから、乱されると大変で、やんわりとトキの腕を外す。

「じゃあトキもやって見て、花はここにあるから、次はね、色を変えてやってくの、持ち方とか願い掛け方も変えてみて」

「よっしゃ」

 一回しかやってないけど、トキは早々に飽きていたのかもしれない。

私の言ったことは無視して、立ち上がり、花畑の入り口のアーチまで歩いて行って、白い鉄の骨組みを両手で掴んで、むんずっと引き抜く。

「ううしゃああ!」

「トキ、それ花じゃない!」

「一分動かなけりゃいいんだろ?おーし」

 持ち上げた白いアーチはトキの背丈よりはるかに大きいから、トキはふらふらとして、私の方にヨタヨタと歩いてくる。

すごい力。なにするの?

「そんでもってっと」

 トキは気合いを入れ直して、アーチを横にもちかえ、大時計の円盤、針に向けて投げ飛ばす。

「ううっりゃああ!」

 トキの手を離れた金属製のアーチが勢い良く花畑の真ん中にある大時計に飛んでいって、時計盤の大きな秒針に思いっきりぶつかる。

こんな勢いで大きな物をぶつけたことはなかったから期待したけど、特に変わったことは起きず、秒針はアーチの鉄骨をすり抜けて動き続けてる。

それがトキには信じられなかったみたいだった。

「針とまんねーなあ、すり抜けんのかよ」

ってぶつくさと言う。

 この様子だと、トキは大きい物をぶつければ時計の針が止まると思ってたみたい。

 針はアーチの鉄骨をすり抜けたけど、でも、よく見るとトキの考えも成功しているんだ。

「気づいてないの?トキ」

「ん?」

 まだ気づいてない?私はなんとなく嬉しくなって、ちょっと声を弾ませる。

「トキ、ほらっ!ほらよく見て、針動いてるけど、止まってるの!針の虹色石はね、特別だから増えるの!」

「お?なんだよ?わかんね、おー!こうなんのか!すげえー!」

 時計の虹色の秒針はアーチをすり抜けたけど、それだけじゃなく、二つに分裂して、すり抜けた針の他に、鉄骨に止められた針も出現していた。

 普通は物が増えることはないから、トキは気づかなかったみたいだけど、実は虹色石は何か強い力がかかると一分だけ、二つに分かれる性質がある。

例えば虹色石を石で叩くと、本体は傷つかないんだけど、一回なら一個、三回なら三個ニセモノが出てくる。

でも本体ではないニセモノは、一分で消えていくから、どうしても限界があって、私が最高出せたニセモノは48個だった。

「虹色石は分裂すんだな」

「うん!ニセモノと本物に!その二つはね、動きが変わるか変わらないかで見分けるの!

本物は絶対動きが変わらないから!アーチをすり抜けていったのが本物!アーチに当たって止まってるのが動きを変えたニセモノ!」

「ふーん」

「見てて!ニセモノが消えるから!」

私の言った通り、一分経った瞬間止まっていたニセモノは消えて本体に戻り、金属アーチも花畑の入り口に戻っていく。

「ねっ!ニセモノが本体に戻ったでしょ?本体はね、止まらないの!」

「二つに分かれんだなー、針」

「ね!すごいでしょ!虹色石はね、何かに止められると、増えるの!!一分経つまではいっぱい増やせるから!これはね、虹色石だけそうなるんだよ!」

「ほー、他にも何かあんのか」

他に?えっと。

「虹色石はね、それだけだけど!みずうみ!

湖はね、飛び込んですぐ戻らないと色んな方向に飛ばされて、1ヶ月とか戻れなくなるの!私、入ったら、1ヶ月水の中で戻れなかったから!」

「まだ俺はやったことねえなあ。今度俺も飛び込むか」


「うん!それでね、光の噴水は3つの渦巻きから出てて」

 私は自分でも何でこんなに喋るんだろう?って不思議なくらい喋って、話が止まらなくなってしまう。

 トキがどういう人かはよくわからないけど、私の周りには今までスミくらいしか話す相手がいなくて、そのスミともこんな話をしたことはなかったから、私のしてることに興味を持ってくれた人に、たくさん喋りたくなってしまったのかも。

 それからずっと言葉が止まらなくて、二時間くらいお話を続けてると、ついに私の調べてきたことがなくなってしまう。

「それから……あの、えっとね、あとは、その、ないかな」

 話し過ぎてしまったから、こうやって話が途切れると、ちょっと相手の反応が気になってしまう。

 トキは一応私の話に相槌をうってくれていたけど、どんな風に思ってるかはよくわからない。

 途中から別の方たまに見てた気もするし……。

「ちょっと話すぎた?」

「んなことねえーよ、っと悪い、用事があっから。一回離れる」


用事?

「え……、あ、うん」


「じゃあな」

「うんじゃあね」

 やっぱりダメだったかな、こういうのはよくある言い分で、だいたいは相手と離れたい時に使う。


仲が悪いだとはっきり理由を告げて、二度と会わない。

今の言い方だと、曖昧に濁してるから、ちょっと仲がいい、くらいで済んだかな?

それとももう会わない?

 そんなことを考えてる間に、トキはどんどん花畑から離れて行って、トーリス通りの方に行ってしまう。

 街は五つに分かれてて、ミレの塔と大時計の中央部、そこから時計順に、ランピスの大通り、トーリス通り、そして十字の石の森、カラリス通り。

 トキが本当にトーリス通りに用事があったのかはわからないけど、追いかけたらダメだから、神マネ講座を続けつつ、何がダメだったかを反省する。

 ……やっぱり話すぎたのがダメだった?

次あったらもうちょっと大人しくしてようかな。



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