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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『神のご友人』





 カトリーヌは怖かったけど、虹色石は欲しかったから、入り口から声をかける。

「虹色石を渡してほしいの」

 カトリーヌは特に気にした風もなく答える。

「あら、まだイオさんは劇に馴染んでませんよ?」


まだ?

「私ね、セリフも覚えてね、劇もずっと出てるよ?なのにまだ馴染んでないの?」


「はい。まだでございます。わたくしもちゃんと禁忌は守りますから、ご安心を」

「えっとね、あの」

「馴染むために、セリフの練習します?」

「……ううん、待つね」

 はぁ~やっぱりダメ、諦めて出て行こうとして、カトリーヌに呼び止められる。

「あ、イオさん」

「なに?やっぱりセリフの練習?」

「いえ」

 カトリーヌはちらっと私を見る。

「わたくし、もうじき、あなたの付き人を辞めることになりそうです」

「付き人を?」

「ええ、レリーに伝えてください。

これからはわたくしに代わって務めを果たすよう、神のご友人の近くには、最低一人は付き人が要りますから」

「あ、でもレリーも責任とってね、トーリス出て行くって言ってたよ」

「そうでございますか、それならば、わたくしが辞めた後、ロービエンに付き人を決める方法をお尋ねください」

 カトリーヌが付き人を辞める?

それはカトリーヌには悪いけれど、すごく嬉しかった。

 だからつい口が滑る。

「じゃあ、これからは、カトリーヌの顔見ないですむの?」

「そうなりますね。イオさんと離れるのは名残惜しいです」

「今すぐ?」

「もう少し先でございます」

「そっかぁ、残念」

「残念?流石に失礼すぎませんか?」

 カトリーヌはあんまり気にはしてないようで、投げやりな声を出す。

 だから私も言ってみる。

「ワザとね、言ったの。私ね、カトリーヌにもっと酷いことされたもん」

「なにかしまして?」

「劇」

「劇がなにか?」

「私ね、やだもん、こんな劇」

「劇は劇です。わたくしが作った劇ではありませんよ」

「……台詞カトリーヌが作ってたよ」

「わたくしは詩人の方に相談をしただけでございます。

もうその詩人の方たちもいなくなりました。

だからわたくしは劇を弄れません」

「そうなんだ」

「イオさん、トーリスの人間は、本音を口にださない方がよろしいと思います。

迂闊な言葉は容易に敵を作ります、スミさんのように、賢く反撃なさってください」

「スミってすごいの?」

「ええ、スミさんに一目くらいはお会いしたいものです。

劇とは違って、聡明な方なんでしょうね」

 カトリーヌは特に私を見ずにボヤく、よく考えたらスミのこと持ち出したのはダメだったかも、怒らせたくないからすぐに謝る。

「わ、ごめんなさい、じゃあ行くね。始まったら呼びに来て」

 そのままカトリーヌに呼び止められないように、急いで私は部屋を出る。

はぁ~緊張した。

でも、カトリーヌ、もうすぐ辞めるんだ。

 詩人もいなくなったなら、レリーの言ってたみたいに、劇が終わるのも近いのかも?

そう思ったら嬉しくて、気分がすごく軽やかになる。



 それから部屋で緊張しながら待っていて、ちょっとして劇が始まる。

観客席は全部埋まりきってなくて、疎らな状態。

カトリーヌが舞台袖に出てきて、訥々と私の醜い生い立ちの説明を始めて、観客席を見渡しながら、私は自分に言い聞かせる。

もう少し、もう少し、もう少し。

 もう少しで私はここから解放される。そうしたらトキと過ごせる?

私の人生がまた華やぐ?

舞台袖のカトリーヌの言葉が終わって、劇は始まる。

 醜いローブ、醜い靴、焦げ茶色の髪に、焦げ茶色の目。

観客席からは醜い者めの大合唱!

私の口からは何が漏れる?

自分を醜く貶す言葉に、嘲る言葉、観客席のみなさんに、卑下する自分を披露する、だってそういう台詞だから!

 ねえトキ、トキも一度はこの劇見たんだよね、たくさんの人に醜いって言われる私を見たんだよね?

トキは私の何が好きなの?

私はいっつも人に罵られてたよ?

醜い醜い醜いって、何も言い返せないから、それ以外の何かが欲しくて、一つのことに打ち込んでたの。

 ねえトキ、トキはなんで私を選んでくれたの?

私なんてね醜い、醜い、醜いよ!

観客の人もね、詩人の人もね、私自身でさえ、そう言ってる。

なのに、なんでトキは私を好きなの?

愛してくれるの?

そんなのっておかしい!だって私には何も良いところがないんだから!

「みなさんの言っているように!醜い私は何も良いところがありません。所作も醜く、トーリスに来るまで、口さえ満足に開けませんでした」


あ、でも、ここは違う。

スミは言ったもん、衣装が悪くても、私は上品な仕草ができるし、歩き方だって綺麗、口の開き方もちゃんとしてるって。

だからね、私にも綺麗なとこもあるの。

「そんな私がどうして男の人に好かれるでしょう?

私に集まってきたのは、私の身体を求める男だけ、いえそんな方にでさえ、私は自分から泣いてお願いせねばならなかったのです。

私の周りは欲望にまみれた下卑た男性の溜まり場でした」

 私はそうでもね、トキはね、違うよ。

トキはカッコいいから、ダメだった私の良いとこを見つけて、告白してくれたの。

私を馬鹿にしないで向き合ってくれたの。

恋をして、やっとね、わかった。

トキは私の何かが好きなのに、私がそれをね、醜いなんて言ったらいけないんだ。

イトランゼがトキはカッコ悪いって言っても、私にはカッコいいトキが映ってる。

トキのカッコいいとこは幾つだって言えるよ?

トキも私にはそうなのかも?

だからこれからはトキにはこう言うね、自信はないけどこう言うね。

私は醜くなんてない!


私はトキに恋させたいの!

もっといい自分になりたいもん!

トキをね、夢中にさせたい、トキをがっかりさせたくない、恋人だって自慢させてあげたい。

私はねトキが好き、トキにね、ずっと助けてもらって、今日初めて私は恋したの!

恋ができて、私はすごく嬉しいよ?

トキはね、私の最高の人なの!

でもね、自信ないもん私、トキが好きって言ってくれても、自分の何がいいかわからない。

それどころかね、トキに申し訳ないことして、恋人としてねダメなことばかり。

だからね、がんばるの。

見た目が変わんなくても、ずっとねがんばって、私はね、あなたを恋させる。

どんなこと、なんだってして、トキに釣り合うような人になるの!

その瞬間、ふと観客席に目がいく、いつもは見てなかった観客席に目がいく。

 トーリスの美麗な衣装の狭間に、意外な女の子が座っていた。

白い布を纏った金髪の少女、少女の髪の左後ろには、黒い動物のお面がついていて、ミレ?って私は気づく。

 光り物のないミレの衣装は、トーリスの豪華絢爛な服装に埋没していて、他のトーリスの人は気づいてない。


ミレにはすぐにでも会いに行きたかったけど、劇の間は何もできないから、ミレをじっと見つめたまま、観客の嘲弄を聞き、舞台が終わるのを待つ。




 舞台が終わって、誰もいなくなった観客席を見に行くと、ミレが椅子の下に隠れていた。

 黒い動物のお面をかぶって、四つん這いになり、しなやかな動作で、椅子に潜り込んでる。

何をしてるんだろう?

「ミレ?」

「にゃあ」

「にゃあ?」

 ミレはするっと椅子から滑り出て、お面を取る。

「この動物の鳴き声」

「動物って喋れないの?」

 ミレは機嫌良さそうに、お面を後ろ髪に付け直す。

「喋れないわ。にゃあにゃあ言うだけ」

「ミレはそれ見て楽しい?」

「ええ、楽しいわ。もう私が見ることもないだろうけど」

 ミレは人間は作ったのに、動物は作れないのかな。

私が疑問に思っていると、ミレはまた私の手を引く。

「行きましょうイオ、今日は私からのお願いがあるの」




「どこに行くの?」

「ミレの塔、その前に湖ね」

「湖?」

「湖にね、塔の入り口があるの、塔に着いたらあなたにお願いをするわ」

 ミレの塔には湖から行くの?

それを理解して私はミレと街を歩み出す。

 ミレと一緒なら街を歩いても何も言われないかなっと期待したけど、トーリスの人たちからは、散々に悪口を浴びせかけられてしまう。

私どころか、隣を歩くミレの悪口も一緒に。

「悪口も聞き飽きたわ。お面が見えなきゃトーリスの見た目してないのね、私」

 ミレはほんのちょっと拗ねてるみたいだった。

「私と歩くと大変?」

 ミレは悪口を言ってくる人たちを一瞥して、肩をすくめる。

「バラ庭園に近寄らせないためのものよ。

神様なんてこんなもの、せっかく歩いても姿を知らないからって、悪口言われ放題なんだから」

「みんなミレは大好きだよ?」

「でも本当の私は今ここで、悪口言われてるじゃない?

絶対に名乗ってなんかあげない。オーミカの言葉に従えば、神と知られる前の悪口が君の正しい評価だよ、ってところね」

「オーミカ?なんでオーミカ?」

「あ、興味持った?」

「うん」

「私、気になった人は眺めてるの。

オーミカって変な人ね。

他人に想いが、言葉でしか伝わらないなんて、間違ってるって思ってるんだから」

「どういうこと?」

「言葉って好きな風に話せるの。

例えば私があそこを通ってる男の人に、好きですって言ったら、男の人は喜んで、私に好かれてると思ったとするわ」

「うん」

「でも、同じ人に、カッコ悪いですねって言って出会ったら、私が彼を嫌いだって思うでしょう?」

「うーん、そうかも?」

 私、トキに最初悪口言われてたから、なんとも言えない。

「でも、私はあの人のこと好きでも嫌いでもないの。

なのになんでそれが言葉で変わっちゃうの?

なんで私がミレって名乗らなきゃわからないの?」

「そんなに変?」


「オーミカ曰わく、変ね。

だって本人は目の前にいるんだもの。

あの人は馬鹿らしくなって、山の人間になったわ。

目の前にいるのに言葉に惑わされるなんて馬鹿みたいだって、無口になって、スミがその考えは解きほぐしたんだけどね」

「スミはなんていったの?」

「何ヶ月も無言に付き合ってから、『黙ってて私のことがわかりましたか?話せばもう少し、考える糸口が増えますよ?』って。

オーミカは納得して、スミと会話を始めたわ。

それはそうよね、話すと誤解もするけど、話さないより話した方が相手を知るには早いのよ」

「へ~、私は、ミレ好きだよ?名前聞く前から!」

「ありがとう!嬉しいけど、イオは、私より、私のお面に懐いたんじゃない?名前より先にお面を触りに来たわ」

 ミレは楽しそうに、動物のお面を指差す。

「そーかも!そのお面好き!触っていい?」

「どーぞ、神のご友人?お好きなだけ、おさわりなさい」


 今日のミレはすごくよく喋って、私はわーわー話しながら歩いて、黒の時間が来て、足を止める。

「あ、私、劇あるから戻らないと」

「あー禁忌ね、それは知っているけど、……まさかミレのお誘いを断るんですか?神のご友人?」

「わ、どうしよう、ミレは禁忌破るの嫌?」

「嫌って言ったら?」

「戻らなきゃ!」

「へえー、禁忌に負けるのね、神のお誘いは。ですがミレはあなたと楽しい時間をご所望ですよ?」

「でも戻るね、黒の時間に永遠にいるのは怖いもん。友達と過ごすのは楽しいけど、黒の時間は永遠だから!」

「友達?あー、もしかして親愛なるってそういう。

私は神様だけど、ただの友達なの?」

「うん、友達!」

「そういう感じなのね。理解したわ。

禁忌は許すから来て、私はあなたにお願いがあるんだから、帰られては困りますよ、神のご友人?」





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