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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『初めての恋』




「トキ、お疲れさまっ!助言ね!助言があるの」

「どうしたんだよ」

 言いながらトキは私を抱き締めてくれる。

私はわっ!て嬉しくなってから、トキに助言をする。

「チャートとね、トキのダンスをね比べてたんだけどね!」

「チャートと比べたのか?」

「うん、トキがね、もっと上手くなってほしいから」

「おう、なんだよ、可愛いなあ」

トキは言いながら私の背中をポンポン叩いて、「あの」ポンポンポンポン「ん」

ポンポンされながらトキの肩に顔を埋められてしまって私はその間はなんとなく何も言えなくなる。

「で、どうしたんだ?」

背中のポンポンが終わって、私はパッと顔を上げて、また口を開く。

「あのね、トキはね、もっと姿勢をよくした方がいいと思うの、チャートは、」

「チャートはなんだよ」

ポンポンがまた始まって、「……?」なんとなく喋れなくなって、何?何?って困惑する。

ポンポン。

ポンポンポンポン……。

「……」

「君の背中は叩きやすいなあ」

……???

背中を軽く叩かれ続けて、トキの肩に顔を埋めて、私は戸惑ってしまう。

しばらく叩かれるに任せていたけど、それが終わったから顔を上げてトキの目を見て口を開く。

「そのね、チャートはね、姿勢がよくて」ポンポン。

ってされてまた喋れない気分になる。

……???

「ひっひっひ、キミこれで口封じられるのな。オーミカに教わった通りだ」

背中をポンポンされてたから、なんとなく喋りづらい気分だったけど、仕方なく口を開かずに声を出す。

「ポンポンはね、やめて、ちょっと大変」

「んで、何を言いたいんだよ?」

 トキは笑顔だったけど、なんとなく機嫌はよくないみたいだった。

「あのね、私ね、トキのダンスを良くしたいの。

トキ、トーリスで人気出したいって聞いたから、私も考えて来たの!」

「おい、イオ、そりゃ嬉しいが、それでなんでチャートと比べんだ?俺よかアイツの方がダンス上手いと思ってんのか?」

 違うって嘘つこうかな、とも思ったけど、トキのダンスが良くなって欲しいから、本当のことを言う。

「……うん、チャートの方がね、上手」

 トキは怒るかなって思ったけど、私の目を見ながら静かな口調で言う。

「そりゃ許せねえな、君は俺よかチャートのが格好いいと思ってんのか?」

「ううん、格好いいのはねトキ、でもね、ダンスはチャートの方が上手だから」

「なあ、イオ」

「なあに?」

「君は俺を見てるか?」

「見てるよ?」

「いや見てねえだろ、客少ねえから、嫌でも目に入っちまうんだが、君はチャートの方ばっか見てたろ」

「トキもね、同じくらい見てたよ?」

「どうだかな、そりゃチャートは、俺よか上手いぜえ。

でもさあ、キミ気づいてたか?」

「何を?」

「俺もさ、俺なりに一回一回上手くなってたんだぜ?

今日俺が変えたとこどこか言えるか?」

「え、あの、ごめんね、わからない」

「25個目のステップで足をいつもよか大きく開けてみたんだよ、まあ上手く行かなかったけどな、君はチャートを見ていて気づかなかったろ?」

「そうかも」

「な?君は俺を見てねえんだ。いいか、よく聞けよイオ」

「う、うん」

「チャートは俺じゃねえ!俺は俺だ。

君が言うようにチャートはすげえよ。

あいつはカッけえし上手い、チャートのダンスはさ、俺もよくみて、学んでんだ。

いやチャートだけじゃねえ、色んな奴のいいとこ歯ぎしりしながら足ふんで、俺は俺の格好いいと思うダンスに近づけて行ってんだよ!

でもなあ、俺の目指してんのはチャートのダンスじゃねえ、ソイツらのダンスじゃねえ!チャートのダンスと比べてんじゃねえぞ」

「トキ、ちょっと怒鳴られると怖い」

「悪い悪い、ゆっくり言うぜ。俺も機嫌よくねえから、優しくは言えねえぞ」

「う、うん」

 トキがしゃがんで、真剣な眼差しが近づく。

「君は俺の恋人だろ?俺を格好いいと思ってくれてんだろ?」

「うん」

「ならまず俺を見ろ、チャートじゃねえぞ、俺の目指すダンスを見てくれよ、俺は日々進歩してんだぜ?君は俺をよぉく観察してよ、俺って男を見つけてくれよ」

「トキを見つける?」

「ああ」

よくわからなくてちょっとだけ不思議な気持ちになる。

「トキを見つけるの?私がトキを?恋人なのに、見つける?」

 トキは私の両肩を掴んで、力強く私を見つめる。

「そうだ、見つけろ。俺を見つけてくれよ。イオ。

 俺は君にダンスの話はしないぜ?

どんなに愛しても、君にぜってえ俺のことは話さねえ。

俺がなにに拘ってんのかも、何を目指してんのかも言いたくねえから、ぜってえ言わねえ!

でもさあ、言わなくても、君が俺を好きなら、見ててくれんなら、君はいつか俺を見つけてくれんだろ、俺がどんなに遠くにいてもよ」

「トキは遠くにいるの?」

「ああ、遠くだ。近くにゃいねえぞ。なあ、いつか教えてくれよイオ、俺のダンスはどこが一番格好いい?俺はどういう男で、ダンスの何が好きでやってんだ?俺が俺の一生を賭けて目指してる先はなんだ?

君はそれを見つけろ、一生かけて俺を見ろよ。

俺はすげえから、他の男なんかと比べてる内は見つかんねえぞ」

 触れ合うくらい近い、トキの眼差しは真剣で、強くて真っ直ぐで、それを見てると、心の奥がどんどん熱くなってきて、胸から頬まで熱さが広がって、こみあがって涙さえ浮かんでくる。

「わ」

「おい返事」

「わ、うん、ね。すごいね、トキ、見つけるね、私トキ見つけるね、わ、すごい……トキすごい」

 ……なんだろう、胸の熱さが止まらない、トキがすごく、男らしくみえて、私は鼓動が跳ね続けて、言葉が上手く喋れない。

「どうしたんだよ、イオ、変だぞ」

「う、うん、ね?変だね、私」

 ……なんだろう、熱いなこの気持ち、喋りづらくて、見つめ合うのも緊張して、逸らしたくなる。

 今までずっとトキを好きだって思ってたけど、違ったみたい。

トキの格好よさは私の考えてたのよりすごくて、ドキドキして、トキの顔も見れなくて、私は緊張しすぎて、つい口走ってしまう。

「あ、あのね、戻るね私、劇があるから」

「おう、悪いな、でもよ、俺本気だぜ。いつか見つけてくれよ。次チャートと比べやがったら今度こそ、怒鳴るからな。遠慮しねえぞ」

「うん!ね!じゃあトキ、楽しい時間を」

「おう、またな、劇頑張れよ」



 部屋に戻ってからも、トキの顔がまぶたから離れなくて、ベッドの上で身体を丸くする。

トキすごい、トキすごい、カッコいい。

……どうしようどうしよう、トキ、カッコいい。

 わ、どうしようどうしよう。


 トキをずっと好きだと思っていたけど、違ったんだ。

今までは本当の恋じゃなかったんだ。

 トキってこんなにカッコいいの、トキってこんなにドキドキするの?

なんで私、離れちゃったんだろう。

 まだ一緒にいたら、いまもトキと話せてたのに、はぁ~、でも嬉しい。

もっとトキを見よ、トキだけを見よう。


 幸せな気持ちに胸が潰されそうになって、浸っているのもちょっとだけ苦しくなって、ワザとトキのことを考えないようにする。

トキ何してるのかな、公演ないけど行ってもいいかな、でも私、劇あるから、今は……。

「劇!」

空はもう青藍の二色に染まっていて、私は慌てて劇場に向かう。



薔薇の館にほど近い劇場は、もうお客さんで埋まっていて、人数は少しだけ減ってはいたけど、それを見るだけで、震えてきて俯いたまま、客席を通る。

「いつ見ても醜いローブだ」

「泥と同じ色、触ったら、私たちの衣装まで醜くなりそうです」

「あの子、館に男をたくさん連れ込んで、」

 ……早く、舞台裏の部屋につかないかな。

そしたら一時間半がんばったら、また明日になって、明日が終わったら、トキに会える。

「主演も醜ければ内容も醜い、こんな醜い催しを見に来るとは我々も物好きですな」

……醜い、か、やだな。トキには聞かせたくない。

私ってトキに聞かせたくないことばっかり、そう思ったらちょっと考えてしまう。

トキはあんなにカッコいいとこ見せてくれたけど、私はトキを同じように恋させることができる?

恋させてあげたい、一緒に歩けないような恋人じゃなくて、トキが喜んで周りにひろめたくなる、人になりたい。

「あの醜さで恋人ができたそうですよ。それも芸術家の」

「美意識を疑いますな、誰ですか」

……あ、私は慌てて歩くのを止めて、その人たちに振り返る。「私が告白したの!嫌がって断られたけど、泣いて縋ったら、恋人にしてくれたの」

「泣いて縋った?股を開いたの間違いでは?」

「え」

私が顔を赤くすると、その男の人の隣にいた女性がたしなめる。

「あら、はしたない、いいから行ってください、イオさん、話したくないわ」

「はい」

「それよりイオのもう一つの劇はご存じ?」

「いや、あれは美辞麗句が多すぎていかん、脚色だよ。この劇の方が実際に則している」

 スミの劇のことかな。

……はぁー、って思ったけど、ふと想い出す。

私がトキをもっと好きにならせる方法に、……虹色石があったっけ。

虹色石はまだカトリーヌから渡して貰ってない。

あれを持てば私も少しは綺麗になるから。



「カトリーヌ!」

 そう叫んで、カトリーヌがいつも会議してる部屋の扉を開く。

カトリーヌが会議してる部屋は最初に数回行っただけで、あとはほとんど行ったことない。

その時は何人もいたんだけど……。

今は誰もいない。

本棚とテーブルと椅子しかないガランとした空間に、カトリーヌがテーブルに座っているだけ。

カトリーヌの四色宝石の粉を散りばめた背中から広がる布が、ひらひらと遊んでる。

カトリーヌは私にそっと振り向く。

「どうしました?時間まではまだありますよ」





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