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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『トキのちょっと良いところ』




 スミの劇の内容?

「スミの劇の内容をなんで私に聞くの?カトリーヌ友達いっぱいいるのに」

 私がそう言うと、カトリーヌは淡い白磁のように整った顔立ちに微笑を浮かべる。

「教えてはくださらない?」

 カトリーヌは怖いけど、スミの劇は、もしかしたら私を救ってくれるものかもしれないから、少しでもカトリーヌに話したくない。

「あ、あのね、私も近くまで行ったんだけど、悪口言われて怖かったから、見ないで帰って来たの、だからね知らないの、ごめんなさい」

「そう、ですか」

 カトリーヌは、長い睫毛を伏せてから、また微笑を浮かべ私の髪を撫でる。

「そう、それは大変でしたね。つまらないことを聞いてごめんなさい、ついでですから台詞の練習をしましょう」

「また練習?」

「はい、醜い醜い私はみんなを不快にして、誰からも嫌われる」

「醜い醜い私は、みんなを不快にして誰からも嫌われる」

「もう一度」

「醜いみにくい私は、みんなを不快にして誰からも嫌われる」

「もっと心を入れて」

「醜い醜い私はっ、みんなを不快にして誰からも嫌われる」

「はい、いい演技です。あの、イオさん」

「なに?」

「わたくしもあなたが嫌いなわけじゃないんです」

「嫌いじゃないの?」

「はい」

「じゃあね、なんでこんなことするの?」

「さあ、イオさんは友達がいて羨ましいです。

早くこの劇が終わるといいですね」

「じゃあなんで終わらせてくれないの?」

 カトリーヌは口を何度か開きかけて、寂しそうに口元を引き結ぶ。

カトリーヌは綺麗だけど可愛らしい顔をしているから、こういう弱々しい表情をすると女性というより女の子みたいな雰囲気になる。

「本日も定刻に劇を開演いたします。あと二時間ございません。では楽しい時間を」

 カトリーヌはそのまま私の顔も見ずに去っていったけど、私はちょこっと気になってしまう。

なんでカトリーヌが悲しがってるの?

劇続けてるのはカトリーヌなのに。

「また今日も劇あるの?もう劇イヤ、トキの公演、トキの公演が、あるから平気だもん」





「トキー!」

「おうイオ、一昨日は悪かった!許してくれよ?」

 トキが私の部屋に迎えに来て私が抱きつく。

「うん!公演行こ!公演」

「あ、ついでにさあ、これも許してくれ」

「なに?」

「悪いがよ、前のあれまだ言いたくねえんだ、だからこれからもイオから告白したことにしてくれや。俺は仕方なくキミの恋人になったことにするぜ」

「反省してないの?」

「ひっひ、まあな!反省してねえ!」

「え~~」

「それよか、行こうぜ、俺のダンス見に来るんだろ?お詫びだぜお詫び、お詫びで連れてくんだからな!」

「お詫びなの?」

「お詫びっつーか、まあ辛かったなって、一昨日のあれがなきゃ、断ってるとこだぜ」

「わ、ひどい!何もなかったら連れてく気なかったんだ」

「おおよ!キミ連れてったら客逃げるだろ!でも愛してるぜ!」

 わ、変な感じ。トキが開き直っちゃった?

トキってよくわからない。

そのままトキは私を連れて、街に出て、行き交う人々に手を挙げていく。

「おい見てるか通りを行き交う諸君!ハッハー、俺とコイツは恋人なんだ。イオが告白して来たから、仕方なーく恋人にしたんだよ!

仕方なくだぜ、おいそこの君、今笑ったろ、イオから告白してきたんだからな!勘違いすんなよ、俺の趣味じゃねえ!俺とコイツは恋人だ」って紹介しながら歩いてくれる。

トキは全く反省してなかったけど、すごく明るく言いふらしていたから、私も楽しくなってくる。

こういうのならいいかな?トーリスの人たちも、悪口を言う気もなくなったみたいで、興味深げに眺めたり、失笑しながら通りを過ぎ去っていく。

 トキは着くまでずっと仕方ない恋人を連呼してくれて、ぎゅうっと肩を抱いてくれて、私は恥ずかしさでポーッとしてきて、これでもいいかな、ってほだされてしまう。

 トキたちが公演をする路地に着くと、トキは私の額にお別れのキスをして、チャートとイトランゼの方に歩いていく。

私はドキドキしながら、その後ろ姿を見送って、トキが振り返ったらちょこちょこ手を振って、そうしてる間に、レリーが私に話しかけてくる。

「イオ、今いい?」

 振り返ってちょっと驚いたのは、レリーが私から目を逸らさなかったこと。

私の着てるこげ茶色のローブは苦手だったはずだから、自分が裸じゃないか、つい確かめてしまう。

ちゃんと醜いローブも靴も履いていて、私はちょっと嬉しくなる。

「わ、すごい、レリー、私の服見れる時間ね、また延びたね!」

「もう平気になったわ、お城の中にイオみたいな地味な人も多いから、慣れたみたいね。

ワタシついさっきまで人形のお城に居たの」

 2日間ずっと?

「いいなー、お人形の世界はどんなとこ?」

「長くなるけど聞きたい?」

「聞きたい!」

「そう?」

 レリーは素っ気ない風を装っていたけど、微かに頬を紅潮させる。

もしかしてレリーは自分の衣装の話が好きなのかも?

レリーは自分の衣装のことあんまり話さないけど、本当はもっといっぱい話したいのかもしれない。

レリーが人形の世界の話をしてくれる。

「人形の世界はブレンダンとは考え方が違うの、物を壊すと怒られて、壁にぶつかると服に泥みたいなのが付くわ」

「壁も?でも泥が服に付いても一分で戻るよね、泥も物だから」

「普通は一分で戻るけれど、お城の中は1日に一度しか物が戻らないみたいなの、だから一日は煤が取れないの」

「すす?」

「人形はそう言ってたわ。走ってもすり抜けないし、物が動くと音もして、枝だって勝手に動くの。痛いことが多いけど面白いとこね」

「わ、楽しそう!私も入ってみていい?」

「入れてあげたいけど、イオには禁忌があるからダメね、出てくるまで時間かかるの」

「どのくらい?」

「その時々よ、門の彫刻が出す三つの問題を解かないと出れないから」

「三つの問題?」

「一つは、人形たちの関係を答える問題。

カブラスさんはミーアさんが好きです、なぜ好きになったでしょう?理由を聞き出してください。こんな感じね。

2つ目は、ワタシが何かする問題、例えば汚れた絨毯を綺麗に掃除してください」

「よごれ?そうじ?」

「泥みたいなものを除くことね」

「泥とかのついたのって一分で綺麗になるよね?お城の中が1日なら、1日待つってこと?」

「違うわ。わからないことは、人形から教えて貰うの。

怒られたりもするけど、ちゃんと会話をしていけば教えてくれる」

「ふーん、最後の問題は?」

「ワタシと人形の関係を作る問題、例えばビヨーゼと言う女性と友人になってください」

「それができないとどうなるの?」

「ブレンダンに戻れないわ、人形たちも普通の人と同じように、思考するし、見た目もほとんど変わらないから、そこで過ごしてもいいみたい。

そんなところね、あとは、人形の世界だけど、鏡が点滅するまえにお城の色を選べるの」

「色?」

私が首を傾げると、レリーはお城を目の前に持ってきて、鏡を撫で、点滅を始めた所で、城の旗を叩いて城の燐光を替えていく、白、黒、と空の七色の9色に、桃色や金、銀、茶と言った色もある。

「この中の、青と白の2つに入ってみたけど、色によって、雰囲気も変わるわ。

白は特に何ともない問題を出すけど、青は悲しい雰囲気ね。お人形もよく泣いてるの、問題も悲しい問題だった。ワタシを好きな人形が告白するので振ってください、なんて問題も出て、ワタシも悲しくなった」

「へーお人形も大変ね、これからも人形の世界に?」

「そうね、色々、色を替えて楽しんでみるつもり。

鏡が説明してくれたんだけど、問題の難しさも変えられるみたいだから、長く楽しめそうね」

「問題が解けなかったらどうするの?」

「さあね、ずっと人形の世界にいるんじゃないかしら」

「え?」

「安心して、ワタシならきっとなんとかするわ」

「そう?」

「人形の世界を学ぶとね、今までと違った自分になれそうなの」

 レリーは本当に楽しそうに笑って、「イオ、公演が始まるわ」って私の目を会場に向けさせる。

 人形の世界はちょっと羨ましくて、でも私は禁忌もあって入ることができないから、仕方なく諦める。

ちょうどその時、トキのダンスが始まる。

『行くぜええ!ヨードロゼ!!』

 わ、始まった!路上でトキとチャートが踊りだして、私は声援を送る。

「トキーっ!」

 レリーは隣で座って、踊りを見てて、私はちょっとレリーの様子が気になった。

そういえば、レリーとトキは恋人のフリしてたんだっけ。

好きなのかな。

聞きづらかったけど、やっぱり聞きたくて、勇気を出して聞く。

「あのね、レリー」

「何?」

「トキの、……あの、トキのダンスね、どう思う?」

 怖くて聞けなかったから、意味もなくダンスのことを聞いてしまう。

レリーはあんまり言いたくないみたいで、「聞かないことね」って言って、私は今度は、トキの踊りのことが心配になる。

 そういえば、トキはダンスの人気でなくて悩んでるんだった。

そう思って、トキとチャートのダンスを見比べると、やっぱりトキの方がちょっと見劣りしていて、ますます心配になる。

トキ、ダンスもっと上手くなるといいけど。

……何か助言してあげられないかな。

でもダンスのことなんてわからないから、隣のレリーにこそこそと話かける。

「チャートとトキのダンスって何が違うの?」

「なんで?」

「トキをね、手助けしてあげたいから」

「……ワタシが言ったことは秘密にして」

「うん」

「一番大きなところは重心ね、チャートは所々わざと重心をズラしたりして、動きに躍動感を与えてるけど、トキはずっと同じ場所で、足だけに集中してる。アイステは腕と芯を動かさないのが正しい形だから、チャートのは邪道なんだけれど、これは公演だから、見栄えはチャートの方がいいわね」

「他には?」

「トキは大体下向いてるでしょう?背骨を曲げてる時もあるし、芯がずれて真っ直ぐになってないの、チャートは姿勢は真っ直ぐ、見栄えがいいわ」

「へー、トキーっ、がんばってー!他には?」

「公演見たいからあとで」

「うん」

 そう言って、私はトキのダンスとチャートのダンスを見比べていた。



 それからはトキとチャートのダンスの違いを考えるのが日課みたいになった。

 劇で追い詰められた気持ちも、考えることがあると少しはマシになって、トキはどうしたらよくなるのかな、とか。

チャートと何が違うんだろう……とか、色々考える。

トキのダンスと、チャートのダンスの違い。

スミの劇はやってるみたいだけど誘われなかったから、時々トキの公演を見に行きながら、チャートとトキのダンスを見比べる。

戻ってからも劇の苦しさから逃れるために縋るように考え続け、5回目のトキの公演が終わった時に、私はトキに助言をしたくて足早に近寄る。





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