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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
34/47

『イトランゼ』




 イトランゼは特に考えもなく、私を連れ出したみたいで、会場から出てちょっと歩いたらすぐにリベーに私を引っ込める。

そしてイトランゼはちょっと困ったような顔をする。

「今、イオちゃんと一緒に通り歩いて気づいたんだけど、さ」

「なに?」

「イオちゃんと歩いてると、悪口めっちゃ言われて、すっっごい過酷!あんた何?こんな中で過ごしてんの?」

「うん」

「ひゃー!げてげて!気にすんなって言おうとしてたけど、気持ちわかった。こりゃあ外出たくないわ」

 気持ちわかってくれた?

 ちょっと明るい声が出る。

「でしょ!でも劇だともっと言われるから、もっと大変」

「そーだよね!あーでもなー、イオちゃんの部屋で話したかったんだけど、通り歩きたくないよね」

「うん」

「すると戻れないことになります?」

「うん……」

「それは参った。部屋には行きたい、じゃあ、お姉さんと遊びながら戻ろう!」

「遊び?」

「こういう遊び!通りで人に会ったら負け!

私が先導役になるから、こそこそ隠れてバラ庭園を目指す、あんた隠れるのどう?上手い?」

「うん、上手い」

「自信ある?」

「ある」

「通りを歩いて人の目に触れない、これがどれほどに難しいか、わかっておられますか」

「わかってるもん」

「うっしゃ、じゃあ始めよっか、イオ、悪いけど前お願い!」

「前?私が?」

「ええ、イオちゃんが前」

 私が前?言うが早いかイトランゼが私の両肩をつかんで、入り口に歩き出す。

「わ、わ」

私が前のまま、入り口がどんどん近づいて、手も動かせないから、逃れられない。

「え、わ、なんで押すの?押すの?」

「なんででしょう?私ではなく、イオちゃんがなぜ前なんでしょーか」

「わ、私ね、まえ嫌!イトランゼ、押さないで、わ!わ!ひどい、出たくないもん」

「押されるのは嫌かい?イオちゃん」

「うん!嫌」

「ほれ」

「押さないで!」

「おーなんか楽しい。可愛いやつめ、イオちゃんってトキにいじわるされてる?」

「え、うん、なんで?」

「やっぱり、私あんた好きだわ!じゃあちょい表見てくる。しゃあっ気合い入れるわ」




 イトランゼと遊びながら帰ったら、嫌なことはほとんどなかった。

人とほとんど会うことはないまま、イトランゼと一緒に私の部屋に戻って来る。

「着いた!3・2・1」「着いた!」

「イオちゃん、ぴったり!」

 イトランゼは楽しい人で、私もすぐに打ち解けて、部屋に入った頃には色々と話してた。

話題は特にトキの話。

「そういや見た見た?さっきの劇のトキ!」

「見た!」

「あんたトキの本性見たよ」

「え?」

「あれがトキって男なの、トキって、無駄にカッコつけでさあ、劇以外でもあんな感じなのよ! センスもないくせに、チャートの真似したり、決めポーズ作ったり、あーもうすごい何か言いたくなる奴よ、アイツ」

イトランゼがどかっと胡座をかいて、テーブルに座る。

 ドレスのスカートも着崩して太ももまで出てしまっていたから、私はちょっと不思議な気分。

 私と親しい女の人はスミとレリーとミレくらいだったから、胡座をかく女の人は始めて見た。

 イトランゼは胡座のまま前のめりに、身体を乗り出す。


「イオちゃんはどう思う?カッコ良くないでしょ、トキ」

「トキ、カッコ良くない?」

「良くない良くない、見た目はまあ良いんだけどさ、なんか微妙に感性が外れてんのよ。あいつ、まあ友達としてなら楽しい奴だけど」

 そうだっけ?日頃のトキを思い出す。

私をからかってるトキと、愛してるぜえのトキ、男の人を怒鳴りつけながら追い払うトキもいて、「トキって、そんなにカッコつけ?」

ってつい聞いてしまう。

それにイトランゼは目を丸くする。

「え、もしかしてイオちゃん、まだあいつのこと好き?」

「……そーかも?」

まだ好きだったけど、イトランゼはカッコ悪いって言うし、何て言ってほしいかわからないから、ちょっと言葉を曖昧にする。

「ちゃー」

イトランゼはちょっとトーンを落とす。

「それはごめん、あれ見ても、まだ好きかー、イオちゃんはいい子いい子」

「そうかな?」

「トキにはもったいない。イオちゃんは良い女だ」

「そう?」

「あ、トキの悪口じゃないんだけど、イオちゃん本当にあいつでいいの?

客観的に見て今日のあいつ最低よ。

自分の見栄のために、イオちゃんに嘘つかせて、自分をよく見せて、それでも好きなの?」

「うん、今日のはイヤだったけど、……あのね、私もトキに最低なことして、トキも許してくれたから、私も許さなきゃってね、ちょっと思うの」

 イトランゼが目を丸くする。

「えー、意外、イオちゃんあいつに何かしたの?恋人になってから?」

「うん……、トキが何日もいない時に辛かったからね、そのね、その」

 あのことはちょっと言えなくて、その一瞬の間にイトランゼは話を変えてくれる。

「言わないでいいよ、美しいお嬢さん。でも聞いてイオちゃん」

「うん?」

 トキの悪口だったらやだな、って思ったけど、イトランゼは胡座を立て膝に変えて、楽しそうに笑う。

「あんたが好きなら、トキは何があっても、イオちゃんのことが好きだから、安心しなよ。

あいつはカッコ悪いけど、一途で馬鹿だから、好きになったら、とことん好きなまま、それだけが取り柄だから、あんた良い奴好きになったよ」

「レリーと恋人だったのに?」

「あーあれごめん、な・か・ば・う・そ。

レリーとトキは恋人になったこと一回もないよ、恋人のフリはあるけどね」

「なんでフリしたの?」

「さあねー、なんでだろ。

恋人だって嘘つく理由ないしね。

レリーがなんで承諾したのか、よくわかんない」

「レリーは嘘で恋人のフリなんかしないと思うけど」

「どうなんだろーね、前、トキに理由問い詰めたら、あいつはねえ。

ダンスに客増えなきゃやべーだろ、俺客呼べねーから、レリーみたいな彼女がいりゃあ増えると思ったんだよ、って最低のやり方白状してたよ。

アイツはそーいう奴だけど、レリーはなんで頷いたんだろね」

「レリーもトキ好きなのかな」

 イトランゼは断言する。

「それは、ない、ぜったい、ない。レリーがトキを好きになるわけない」

「……うん」

 競い合う相手がいないのは嬉しいけど、断言されるとなにか複雑。

トキって周りからはそんな風に見られてるんだ。

外から見たらあんまりカッコ良くないのかな。

 がっかりしたハズなのに、私だけがトキを好きって心の中で呟いてみると、不思議なことにちょっと嬉しくなる。

「え?イオちゃんなんで笑ったの、私今、あ~やっちまった、って反省してたのに」

「そーでもね、トキの良さはね、私にしかわかんないもん」

「それいい!トキとイオちゃん、どっちも好きだよ私、他人の目なんか気にせず、一緒にいられたらいいね」


「うん!」

「いい?イオちゃん、お姉さんと約束しよう」


「何を」

それからイトランゼは私に幾つか約束させた。

一つは今日のことをトキが謝るまで、トキと仲直りしないこと。

イトランゼはそれを使って、トキを更生させるらしい。

もう一つは、トキの言いなりにはならないこと。

 トキは調子に乗りやすいから、あんまり優しくすると、増長するらしいから。

「その2つ?」

「あと、まあほどほどに優しくしてやって、アイツ流麗に動けないし、アイステっつう、足だけのダンスやってるから、限界見えて来てんのよ。

チャートを入れてなんとかトーリスまで来たのはいいけど、そっから発展もなくてさ、何回かカラリスにも出戻って、かなり参ってるから、優しくしてやってよ」


「そんなにトキ大変なの?」

「大変大変、私やチャートには他からお誘いも来てんのよ。

トキはそれを知ってるから、焦ってる、私もいつまでいるかはちょい迷ってるし」

「トキと仲良くないの?」

「仲良いよ、アイツは良い奴だ。でも私も芸術家だからね。

一回くらいはミレの塔前で、ミレに向かって演目したいんだよ。

だからトキにゃ可哀想だけど、あんまダメなら、別の芸術家のとこに行く。

そーいやイオ、あんたミレと会ったんだよね、どんな人だったの?」

「綺麗な女の子、黒い動物のお面をね、髪の後ろに付けてて、すっごい白い布を纏ってて」

「へー!意外、光り物無いんだ。トーリスの人の方が綺麗な人いんね」

 話ながら、トキのことを考える。

トキがそんなに大変なら、今度私も公演見に行こうかな。

 私が見に行ったら一人お客さんが増えて何か変わるかもしれないし、応援してあげたいから。

 そんなことをもやもやと考えていたら、イトランゼとの話に集中できなくなって、唐突な感じで切り出す。

「あの、ね、トキの公演見に行っていい?」

「演目見に来たいの?」

「うん」

「見に来たいのかー、見に来させてあげたいけど、どうしよーかな」

「え?だめ?」

「うーん、イオちゃんを呼んでもトキが得するだけだしね~、私も嬉しいけど、神の友人が来たとなると、迷惑もかかるし」

「あの、でも」

「こんなこと言いたくないけど、イオちゃんが来て私には何か得あるの?」

「えっとね、その、考えつかないけど、何かあるかも?」

「かも?」

「あ、あるよ。得すること!」

「それなら呼んでもいいけど、じゃあイオちゃんは少しは私のゆうこと聞く気はあるんだ?」

「うん」

「でもイオちゃんにできることあんまりないよね~、何かある?」

「うーん」

「じゃあ一緒に考えたいから、隣座って」

「なんで?」

「え?座る気もないの?トキの演目来たくない?」

「あ、ごめんね、ここ座るの?」

 私がベッドから立ち上がるとイトランゼが笑い出す。

「ぷっ、うそうそう~そ、座んないでいい座んないでいい、あんた男には気をつけな!今の流れで座ったら絶対何かされるって。

男なんて適当に言葉繋いで寄ってくるんだからさあ、好きじゃなきゃいいなりにはなったらダメ。

って前に騙されたあとか、悪いね」

「うん」

 実体験がありすぎて、顔が赤くなってしまう。

イトランゼはひとしきり笑ってから了承してくれる。

「いいよ、明後日までにトキは反省させとくから、演目のときはアイツに迎えに行かせる。

今日私とした遊びをしながら来れば、イオちゃんも安心でしょ」

「トキ公演前で忙しくない?」

「平気平気、いつもは客引きしてんだけど、ほっとんどついて来ないから、イオちゃん毎回連れて来てくれた方が、遥かにいいよ」

「うん!」

って私は笑って、その日はイトランゼと別れた。

 スミの劇が始まって、トキの公演も見に行ける。

それはトーリスに来てからはなかったこと。

トキの公演とスミの劇と……私の真っ黒な人生はまだ紫赤の輝きを持っている。

 カトリーヌの劇は怖いけど、スミの劇が、カトリーヌの劇を終わらせるってレリーは言ってた。

レリーは今も多分お城の中でお人形と遊んでるけど、その言葉を信じて、その短い期間だけでも、あの劇に耐えなきゃ。

イトランゼがいなくなったあと……そんなことを思っていたら、珍しく、カトリーヌが私の部屋に顔を出す。

「イオさん、よろしいですか?」

 カトリーヌの顔を見るのも怖くて、私はベッドの上で顔を伏せたまま、どうぞって返事をする。

カトリーヌが背中から伸びる美しい布と一緒に私の前に近寄ってくる。

カトリーヌは私の前にしゃがんで、目を見ながらにっこり笑う。

「あなたが、本日、スミさんの劇を見てらしたのは知っています。その劇はどのような内容でしたか?」





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