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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『見守ってくれてた人』




 そう言って離れる前にスミは、なぜかトキを立たせて、手を引いて、建物に戻って行き。

代わりに建物からガンゴンさんが出てきた。

 太っちょで鍔の広い帽子、右の肩まで伸びた勇壮な手甲が特徴的な人。

ガンゴンさんはがらがらの観客席を見回し、不満を漏らす。

「おいおい……、客4人ぽっちしかいねえのか、トーリスは盛り上がりがねえなあ、カラリスはもっと客来るぜ。新しい演目が始まるとあっちゃ、どいつも眼をおっぴろげて参加しやがる。

トーリスは盛り上がりがねえなあ、トーリスは盛り上がりがねえ、俺はやる気がでねえ」

 ガンゴンさんはそんなぼやきを繰り返して、私たちの他に二人だけの観客が席を立つ。

レリーはそれを横目に見ながら、ガンゴンさんに呆れたように文句を言う。

「あなたカラリスの人間よね?」

「ああ」

「トーリスの人間が、不恰好な通りで流行った程度の芸に、なんで時間を割かなきゃいけないの?

出来がいいなら、ぼやかなくてもお客は増えるわ。

ダメなら、お客は来なくなる。黙って公演を続けなさい」


「おい、御託はいいから客呼べよ。やる気でねえ。中断すっから、その間にせめて百人は連れて来い」

「なぜ?ワタシはいいものしか広めないわ。見たこともない芸を広めたことなんて一度しかないんだから」

「お前のことなんか知るか、いいから呼べ」

「なぜ?」

「俺がカラリス芸運行管理人だからだ」

 ほんの少しレリーが目を大きく見開く。

「あなた、芸運行管理人?」

「おう、カラリス通りの代表だ。オレが一番芸が上手いわけじゃねえが、通りで見る目が一番あんのがオレだ。通りの面子がある。だから呼べ」

「わかったわ」

 私はよくわからなかったけど、レリーは納得したみたいで、呼ぶ準備を始める。

 レリーのそれは不思議な動作、プッチアの上のおもちゃのお城を口元に当てて、外壁の側面を上に上に撫でていく。

そして、それを長く続けて、お城の門に何かを囁いて、口を離す。

するとお城がチカチカと点滅し始める。

 レリーは何やってるんだろう?なんでお城が光るの?

そう首を傾げてると、やがてお城からレリーの声が出てくる。

『レリーです。カラリス芸運行管理人のガンゴンが黒磁の路地で劇に出てるわ。初演だけれど、トーリスの客が少なくて不満だそうよ。

見に来て正当に評価して差し上げて』

「わ、お城がレリーの声?」

 私が言った瞬間、またお城は点滅を始める。

レリーは待っててと言うように片手で制して、お城の旗を叩いて点滅を消し、お城に唇をあてながら外壁を下に撫でていき、やがてプッチアごとお城を離す。

うーん?

「これでいいわ」

ガンゴンさんがわからねえと言うように顎をさすったあと、レリーに聞く。

「今ので客来んのか?」

「あのくらいあげれば、トーリス中に聞こえるの。伝えたから人はたくさん来るわ。あとは待ってて」

 トーリス中に聞こえる?あのお城を撫でてくと?……レリーの衣装って便利。

「レリーの衣装って何ができるの?浮かんだりもしてたけど」

「色々できるけど、ワタシもまだ何ができるか、試してるところ。鏡を出したいんだけど、まだ見つからないの、これ見て」

 レリーは僅かに声を弾ませて、お城に沢山ついた小窓の中を見せる。

お城の中には小さなテーブルとか鏡とかもあって、小さな人形も何体も立ってる。

「お城の中に鏡があるの見える?」

「うん」

「きっとこれも出せるから、色々試してるんだけれど、なかなか難しいわ」

「鏡を触ってもだめ?」

言いながら、私は勢いをつけて壁に手をすり抜けさせて、お城の中の小さな鏡を直接撫でる。

「そういえば壁はすり抜けられるのよね」

 レリーは恥ずかしそうにそう言って、下唇にグーの人差し指を当てながら、お城を覗き込む。

そうしたら鏡が点滅を始めて、お城がパッパッと白く輝く。

何が起こるんだろう?

二人でじっと見てると鏡の点滅が止まり、ぱーっと変な光を出して、ちょうどレリーの顔に当たる。

「え…?あの、え?」「レリー?」

レリーがどんどん小さくなってオモチャのお城の中に吸われていく。

あれ?

小さくなったレリーはお城の中で、キョロキョロして、覗き込む私の目にびくっとしたあと、お城の部屋の中を歩き始める。

レリーがお城に入っちゃった。

中を覗くと、お城の人形たちも人間みたいに動き始めて、レリーに話かけたり、廊下の間を行ったり来たりしてなんか賑やかになった。

わ、すごい、動き始めた。

お城の中の沢山の人形が人間みたいに動くから、私も楽しくなって、その様子を観察する。

声は聞こえないけど、レリーは言い寄ってきた男の人の提案を、顔を赤くして断っていて、人形って喋れたりもするんだって思って私は順々に部屋を見ていく。

他にも、棒につけた布で、地面をこすっていたり、テーブルに布を敷いたり、……私たちではしない行動もしていて、これが人形の世界なんだってなんだか感動する。

 ずっと見てたら、レリーは城から出ようと壁に体当たりを始めたから、私も手をすり抜けさせてレリーの身体を掴む。

そうして城から出そうとしたんだけど、レリーを壁からすり抜けさせようとしても、レリーは壁をすり抜けられないみたいで、レリーを掴んで壁に押しつけると、私の指がレリーをすり抜けてしまって、掴めなくなる。

何回か試したけど、レリーの身体を撫でるだけしかできないみたい。

「閉じこめられちゃった?」

 レリーは顔を真っ赤にして頷いて何かを喋っていたけど、声は私には聞こえなくて、どうしよう?って思って、お城を叩いたり色々してみる。

そうしてるとレリーが首を振ってやめるように仕草をしていたから、私は仕方なく、お城に何かするのをやめる。

「私は何もしなくていいの?」

レリーは私の頭をなでるような仕草をして、部屋を出て、別のお人形たちの中に行ってしまう。

お人形は人間そっくりで、動作も楽しげ表情もくるくる変わる。

いいな、ちょっと楽しそう。


お城を眺めてる内に、観客席の、観客は増えてきて、百人を遥かに超えると、仕切り直しとばかりに、ガンゴンさんは引っ込み、またスミが同じ内容を始める。

そこは見たから、私はお城の中に集中して、じっくりと人形の世界を眺める。

レリーは窓から見えない場所に行ってるみたいで、どこにもいない。

お人形同士でも会話して、泣いたり笑ったりしてる。

お人形の世界ってどんな感じだろう?楽しそう。


 そうしてる間に、ガンゴンさんの台詞が始まっていたみたいで、観客の笑い声と私の悪口が聞こえる。


『なあ?神マネ講座の時もこんなんなんだよ。俺の言うことききゃあしねえ、おーい、イオちゃん、ここは演目する場所じゃねえぞ』

「演目じゃないもん、お城見てるだけだから!あとでにして」

 その途端、観客が大笑いして、ガンゴンさんがニヤニヤする。

『何かお忘れじゃあございやせんか?』

「なにを?」

『おう観客共、教えてやれ、この劇中、俺がイオちゃんの前で、三回、三回も教えたことだ』

 何?何?聞いてない。

トーリスの観客の人たちが、『禁忌をお忘れですよ、イオさん、劇中は決まった台詞以外は言えないんでしょう』って口々に言う。

「わ、禁忌!」

『おう、破ったな!黒の時間に行っちまえ!』

 そして観客も大笑い、何なになに?なんでみんな楽しそう?

禁忌?

「え?!ひどい!どうしよう」


 笑ってる観客たちを今回はガンゴンさんが静め始める。

『笑ってやるな笑ってやるなよ、コイツもこれで大真面目なんだから、笑うな笑うな、ぶはっ、おいそこ、まだ笑ってんな。俺みたいにひでー奴だな。

まあいいや、おうイオ、この劇の台詞は適当だから禁忌はねえんだよ』

「そーなの?」

『さっき詩人に言ってナシにして貰った。好きになんでもいえ!』

「うん!」

『な、話してみると素直な奴なんだよ。

でもこんな素直な奴が、何でだろうな、俺の優しい忠告を散々無視しやがったのよ、俺は今でもそのことを根に持ってる、今回はその話をさせてくれ』

 そんなに無視したっけ?あんまり覚えがない。

『俺がコイツを初めて見たのは、コイツの演目の内容が、24時間ひたすら一個のレンガを動かすっつー時だった。

面白えわけでも、肌見せるわけでもねえ、レンガ遊びだけ延々見せられて24時間!ある日、そんなすげえ芸がカラリスで始まったんだ』

「わ、そう聞くとバカみたい?」

『そんなことねーぞ、あの当時は、レンガ一個はすげえことだった。

カラリスでは新しい芸でさえありゃそれなりに人気がでんだよ。

どんなド下手でも、観客共がやーやー言いながら育てていくんだが、コイツのレンガはすげえもんで、見た奴はレンガみてえな顔して去ってくのよ』

レンガみたいな顔って、わ、適当。

全然褒めてないよね?

『それまで俺はカラリスはどんな芸でも育てられるって自負を持ってたからな。

客無しはある意味快挙だった。

何でも育てるカラリスはついに育てられる下限を見つけちまったわけだ。

そんときイオちゃんは5歳くらいの子どもで、怒んのもアレだしよ。

誰も育てねえなら、まあ俺が育てるしかねーよなって、演目が終わった頃、イオに注意したのよ。

なんつったかな、レンガで遊んでんじゃ客来ねえぞって、優しく言って、そいつは、知ってるもん!って口答えしやがったが、別の演目にしろって泣くまでどやしつけたからな。

俺、教育うめえって、自讃してその日は離れたんだよ』

 うーん覚えてない。

『んで、次の日、俺が様子見に行ったら驚くぜ。

奴が会場に座って、狂ったように、何かをぶっ壊してんだ。

俺は感心したね、派手になった!これだよ、これが芸だよ。

これならちっとは客も……、そう思っていたんだが、周り見ても客が誰もいねえんだ。

っかしいな、そんなはずねえよな、思って嬢ちゃんの手元を見たら、お?

またレンガかよおおっ!

俺が思わず叫んで、こいつは喋った。上手くいかないなぁ、なんで誰も来ないの?……おい人呼べると思ってたのか?

俺言ったよなああ?レンガじゃ客来ねえーって』

ガンゴンさんの言い方が楽しくて観客から笑いが起きる。

『俺も自信喪失してよ、奴はそっからさらに二日粘りやがった、まあそんだけレンガ一個で粘ってんだから、このままずっと粘んのか?って思うよな?』

 観客の何人かが愛想よく『思います』って答える。

『俺も思った。そして頭を抱えた。

イオが演目やってんのが、よりにもよってカラリスで二番目に良い会場だったからな。

そん時、次の予定まであと1日しかなかったんだよ。

俺、カラリスの芸運行管理人だから、あーってなるだろ。

会場空けねえと怒られるし、イオ退かねえし、退かさねえと困るよなあって。

人は人になんもできねえしよ。

あと1日か、そう思って恐々としてたら、イオがいなくなってんだよ。

安心したかったんだが、なんか勘が働いたんだよな。

そういう時あるよな、まさかあそこにはいってねえよな?って思うとき、そんな勘が働いて、つい見に行っちまったんだよ。

見に行ったそこはカラリスの会場で格が一番高いんだ。

カラリスの芸術家でも来れねえで泣くやついっぱいいんのよ。

あとはわかんだろ?そこに案の定、レンガ嬢ちゃんが居てよ、またレンガ遊びをやってやがった。

やっぱここかあ!俺はカラリス舐めんなよって追い出そうと思ったんだが、ふと俺はそれを止めた。

さあてここで観客共に問題だ』

 え、問題?

百人を越す観客の人たちがざわめいて、ガンゴンさんが話を続ける。

『俺が最高の会場からイオを追い出さなかった理由を答えてくれ。

助言を与えるぜ、よくよく見ると、イオはちゃんと芸を進歩させてんのよ。

レンガ遊びは遊びなんだが、俺は進歩を認めちまった。最高の会場を占拠させるくらいには、なんだと思う?』





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