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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『スミとイオの優しい劇』



「久しぶりだね!イオさん」

二人の内の見知らぬ男の人が私にそう挨拶して、私はスミに隠れつつ首を傾げる。

男の人はどこか優しそうで理知的な雰囲気、格好はメガネと、上着はベージュ色、その下には白いシャツを着て、茶色のズボン、右手に彫刻が刻まれたオシャレな白いブレスレットをはめている。

 服装的にトーリスの人じゃないみたいだけど、会ったことあったっけ。

スミが気を利かせて紹介してくれる。

「この方はアスコットさん、イオが初めて虹色石を披露した時、同席した5人の詩人の一人よ」

スミに紹介されて、男の人が頬をかく。

「あの時は人が沢山いたから、忘れられててもしかたないんだけど」

 5人の詩人の人、うーん覚えてない。

そういえば一人だけ新人みたいな、たどたどしい人がいて。

服装はベージュかなんかで。

「あ!……そういえば、ベージュの服見たことある。あなた新人の詩人の人?」

 男の人は、嬉しそうな顔をする。

「その人だよ!覚えててくれて光栄だ。アスコットです」

「よろしくね、アスコットさん」

 私が挨拶したら、アスコットは一転して、悲しんだ表情を作る。

なんで悲しみ?なんか私言った?

うーん?

「そうだ。イオさんに謝らなきゃいけないことがあるんだ」

「なに?」

 アスコットさんの顔は赤くなり、目尻の端に涙をため、体を震わせ、泣きそうな様子になる。

うーん?

「あのあと僕はイオさんの劇を作る一人になったんだけど、初日にカトリーヌさんに怒られてね。またカラリスに逆戻りしたんだ。最初の劇、酷いもんだったよね?」

 私の出た最初の劇?昔すぎて覚えてないけど、最初の最初は……。

確かスミが寛大とか、良く描かれてて、カトリーヌが言葉を濁してた。

そう最初の劇はスミがいい人で描かれてた、はず。

その時はアスコットがいた?

「じゃあもしかして最初の劇、スミが寛大って言ってたのは」

「僕がカトリーヌさんに打ち合わせと違う内容を耳打ちしたからなんだ。緊張して忘れちゃって」

「謝らないでいいよ。良い劇にしてくれてありがとうございました」

 私がお礼をしたら、アスコットの泣きそうな表情がまた一瞬止まり、喜ぶかと思った瞬間、スッと表情が抜け落ちる。

「いや、僕は1日で戻された男だから」

 アスコットは怒っているのか唇を横一直線にして、メガネの奥の目をわずかに大きく見開いてる。

怒ってるような睨んでるような。

「なんで私を睨むの?戻されたのが私の劇のせいだから?」

何?何?怖い。

「ああごめん、今の言葉に、どんな表情が合うのか思いつかなくて、停止してるんだ」

「え?」

「実は表情と言葉を合わせる練習中なんだ」

「練習?」

「待って、いい表情を思いついた。こんな感じはどうだろう、いや、僕は1日で戻された男だから」

 と言いながらアスコットは眉間にシワを寄せて、困惑した表情をしたんだけど。

「台詞とあんまり合ってないね?」

 あ、また表情が抜け落ちた。ちょっと面白いかも、スミが話を継ぐ。

「アスコットさんは私が呼んだの。

神の友人の生涯を綴る劇は、宣誓した詩人や語り部しか作ってはいけない決まりになっていたから、助かったわ」

 アスコットさんの表情がキリッとしたものに変わる。

「僕の方こそ、またイオさんの劇を作れる機会ができて、感謝してます。

君の人生に沿うようなるべく忠実に作るよ、僕はそれしかできないから」

「うん!」

 あ、笑顔になった。アスコットの表情を見てると、移り変わりがはっきりしてて、独特のユーモアがある。

詩人としてこんな風にやってくつもりなのかな。

そういえば今日の劇の内容どんなのなんだろう?何にも聞いてないけど。

 心配していると、スミがもう一人の女の人を紹介してくれる。

 長く艶やかな黒髪、フリルのついたブラウスに、ダークブルーの生地を重ねたスカート。

清楚で綺麗な人で、その傍には身長より高い、大きな鏡が浮かんでいて、光のポワポワが集まって来てる。

「こちらがトーリス芸運行管理人の」

「リツカです。初めまして」


 リツカ?って私のお姉さんだよね。

「初めまして。リツカって私のお姉さん?」

「はい。よろしくねイオさん」

「よろしくね!リツカ、すごいキレイ」


 リツカは私に微笑んだあと、またスミを見て。

「あとはガンゴンさんですけど、わたしと面識のある方ですから、今日はこれで失礼します」

「ありがとうリツカ」

「いえ、わたしもイオさんや皆さんに会えてとても嬉しかったです。では楽しい時間を」

「楽しい時間を」

 去っていくリツカの後ろ姿を見ると、元々が綺麗なだけじゃなくて、歩き方もすごく綺麗で、私はちょっと真似したくなる。

「リツカって歩き方綺麗!私もああなりたい」

「ああなりたいの?」

「うん、歩き方だけでも」

スミは微笑んで、私の頭を撫でる。

「イオの歩き方も同じように綺麗よ、だって二人とも私が教えたんだから」

「そうなの?」

「衣装に差があっても、見てる人はちゃんと見てるわ。

イオは仕草も口の開き方も、もちろん歩く姿勢も美しくできてる。

服をバカにする人がいても、あなたの所作をバカにする人はいない、イオはね、上品で美しい子なの」

 それを聞くと顔が赤くなってしまって、ローブの襟元をちょっと押さえる。

 だからスミは私が肌を見せるの嫌がるのかな。

私に上品でいてもらいたいから?

「そろそろ始まるわね、あなたは観客席に座ってて」

「はい!」

 私の劇なのに観客席?



 観客席と言ってもただの路地だから、地面に座るだけ。

 私が観客席に座ると、レリーが右隣に移ってきてさっきのことを持ち出してくる。

「……さっきのことは謝らないけど、あなたは悪くないのは知っているし、ワタシは今はイオのこと嫌いじゃないわ。深くは気にしないで」

「うん、……ごめんね」

私の左隣に座るトキが「何だよそりゃ、謝れっつっただろ」ってレリーに怒って、レリーはそれに反応を示さず、私を見ずに言う。

「今リツカがいたから、スミの劇の内容を聞いてきたわ」

「どんな劇?」

「端的に言うと、あなたを救う劇ね」

 私を救う?

「内容がそうなの?」

「内容は違う、でもこの劇が広まれば、近い内、あなたは助かって、カトリーヌは追放されることになるかしらね」

「カトリーヌに、会わなくてすむの?」

「嬉しい?」

「うん」

 カトリーヌって言葉を聞くと、怖くなったけど、追放されるかもしれないって聞いて安心する。

 責めるとか責めないとかの前に、カトリーヌとはもう関わり合いたくない。

幸せでも不幸せでもどっちでもいいから、私の前に出てこないでほしい。

「あ、ごめんね、レリーの友達なのに」

「別にいいわ。どうなるかわからないし、もう少し先の話よ。今回の顛末を見届けたら、あなたを狂わせた責任をとって、ワタシもトーリスから出て行くわ。禁忌があるからカトリーヌと一緒にはいられないと思うけど」

「……1日に一言だっけ?」

「ええ、カトリーヌには謝るわ、きっとワタシにも裏切られた気持ちになっているだろうから」

「なんだよレリー、チャートは、君のこと気に入ってんだぜ?君はカトリーヌと距離置いてんだろ、追放されないんだから、居ろって」

「あら残念、ワタシ、カトリーヌとはずっと友達よ、だから責任をとるわ」

 そう言ってレリーは微笑んだけど、私のせいだから、レリーには何て声をかけたらいいかわからなくて、私は劇が始まるのを待つ。



 トキは私が泣きかけてるのに気づいたみたいで、左手を握ってくれた。

そうすると何だろう?ほんのちょっと心に暖かさが甦る。

 そういえば、私にも恋人ができたんだ。

 その暖かさに気づいてしまって、私もその感触をそっと握り返す。

トキはより強く握ってくれた。

「お、始まるぜ、イオを助ける劇なんだろ?」

レリーが頷く。

「スミには感心してるわ。

あの女性、トーリスの鑑のような係争を行うのね、優美に優雅に上辺を取り繕って、悪評を人知れず広めながら、カトリーヌが独りになるのを待ってから劇を始めた。

……イオ、もしあなたが解放されたのなら、トーリスのしきたりはスミに習いなさい。

ちゃんとした人に教えてもらわないと、馴染めなくなるわ。

トーリスでは悪評はすぐに伝わるから」

「うん」

『時間になりましたので、これよりイオ生誕の物語を始めます』

 路地にはスミだけが出てきて、スミが観客とミレに挨拶する。

周りを見ても、二人の観客の他は誰もいない。

スミしかいないけど、一人で劇をやるの?

スミが胸元に手を当てて、朗々と語り始める。

『この劇はイオの身近にいた者たちが、どのような気持ちで、イオに接して来たのかを、独白形式で綴る叙事演劇です。

トーリスの識者の方々には、脚色を交えない、イオの等身大の姿を感じて頂ければ幸いです。では開幕します』

 脚色のない、本当の私の劇?わ、何か恥ずかしい。

私はちょっと緊張してくる。


 スミはたった一人きりにも関わらず、自然体で話を始める。

『私の名前はスミ、イオが祝福の日を迎えるまでの15年、友人として過ごしました。

イオが祝福の日を迎えたのはほんの数ヶ月前ですから、イオの幼少期は私が一番よく知っております。

イオは光の球から出てきた時から、小さなこげ茶色のローブに包まれて産まれて来たんですよ?

その姿は地味ではあったものの、イオの父親である、私の愛するオーミカに似ていて、この子とこれから長い時間を過ごせる。そう思ったら嬉しくて、抱き上げずにおれませんでした』

 ……さっきはこれは恥ずかしい劇かもって、思ったけど、それは違った。

これはすっごく恥ずかしい劇。

当人にはすごく恥ずかしい。

 トキなんて、ニヤニヤと劇を見てるし。

「イオの子供の頃が聞けんのか、なんかいいなあ」

「スミいぃ、この劇はやめて、この劇ね、何か恥ずかしいもん」

 スミが目を丸くし、絶叫する。

『イオ、禁忌!』

「あ」

そういえば出演中は違う台詞話しちゃダメって。

 じゃあなに?私このまま黒の時間?

『ミレ!今のイオの台詞も劇に加えるわ、今のは劇の台詞だから、イオは禁忌を破ってない』

「あ、ありがとスミ」

『それも加えるわ!とにかく黙ってて!』

 ちょっと怖がりながら頷くと、トキが「焦ったぜ」って胸をなで下ろし、レリーは頭が痛くなったみたいで、「すごい人ね」って呆れ顔。

『……と、イオはこのように素直な子で、私は話すのに退屈することはなかったんですが、その衣装から、他人からは馬鹿にされることが増えました。イオ』


 スミは、私のところに歩いて来て、私に立つように促す、私が立ち上がると、『ね、肌を除いてはこげ茶色一色』スミは微笑んで、私の知らない、外から見た私を話す。

『イオはこんな格好をしていても、誇り高く、負けん気の強い子で、本当に小さな頃は、馬鹿にされれば、馬鹿にした子を泣かせてました。

大人に対しても、あれやこれや言い捨てて、泣きながら戻って来ました。

見た目はどうにもできないので、私はイオに礼節を教え、所作を清廉させ、服装以外の部分は美しい子に育てました。

ただ、やはり見た目で侮辱される日々が続き、イオも思うところがあったのでしょう。

言い返す激しさは緩くなって、その代わりのように、物を造る目標を掲げ、日々の時間をそれに充てるようになりました』


「それが神マネ講座か」

 トキが私を見上げながらそう聞いてきたから、私はスミの隣に立ったままこくこく頷く。

『イオはそれを神マネ講座と呼んでいたのですが、私はここ黒磁の路地、物を造ることを禁ずるミレの伝承を知っていたので、まだ5歳のイオを叱り、止めさせようとしました。

その日は初めて大喧嘩をして、それからはイオは私に隠れて、神マネ講座を行うようになりました。

人は人に何もできません、仕方なく私は黙認し、イオは神マネ講座に没頭していきます、残念ながら私は見に行っていないため、神マネ講座をするイオの話はできません。

神マネ講座は、イオの幼少期の大半を占めるものですので、私は一度下がり、神マネ講座を身近で見てきた、ガンゴンさんに代わります』





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