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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第一章:安穏としていては……
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『トキ』



「今日のー!神マネ講座は!街路樹の葉っぱから木を作りたいと思います!……誰も聞いてないとは思いますが」

 それから何十日も一人きりで神マネ講座を続けていると、なんだか寂しさがどんどん募ってくる。

 発展はあるのかな、協力してくれる人はでるのかな、とかグルグルと考えてしまって、一生このままなのかも、と考えて、思考するのをやめる。

 祝福の日を迎えるまでは、スミが居てくれたから、気分も変わっていたけど、発展もないまま一人で続けるのがこんなに辛いことだとは思わなかった。

 でも、何か物を作りたいのは本当だから、できると信じてがんばることにする。

そうしないと私の人生はずっとこのまま。

周りの人からはもう私の全部を、馬鹿にされ続けてるけど、私はいつか物を作って、その人たちをあっと言わせたい。

 いままで物は誰も作れなかったから、何か、できれば服とかブローチとかアクセサリーとかそういう綺麗になれるものを作りたい。

そしたらオシャレになった私を見て、馬鹿にしてきた人たちはこう言うの、「イオはどうしようもないくらい地味な服で、ダメだと思ってたけど、物を作れるなんてすごい」って、そして私は、それに「ね?できるって言ったでしょ」ってそうやってちょこっと胸を張る、ほんのちょっとした意趣返し。

そのために十年間、ほとんど毎日頑張ってるけど、いまはまだ何の成果もない。

でも諦めない。

私はみんなが言うような無駄な人間じゃないから。

葉っぱの芯をよく眺めると木に似てることに気づく。

 芯と木が似てるなら、葉の部分をもいで芯だけにすれば木になるかも?

「では葉の緑の部分をとりますね。

芯が出て来ました。

木に似ていますね。すごい似てます。どうなるでしょう?一分まであと十秒です。9…7…、5、3、あっ……」

 一分経った瞬間、芯にまた緑の部分が蘇って、私の指をすり抜け舞い上がり、街路樹の元々生えていた枝にくっつく。

本当にあっという間に、木に帰って元通り。

はぁーまただめ。

「なんでかなー、持ち方が悪かったのかも?」

 そうやってぼやきながら街路樹の下の椅子に座って、葉っぱと遊び、遠い花畑に広がる大時計をぼんやりと眺める。


 右端に塔があって、それの埋めてない空いっぱいに黄色と緑色が広がり、緩い斜面一面を埋める大きな花壇と大時計も見える。

花は、ベルフラワーバーベナベゴニアブローディアユーフォルビアロベリアペチュニア、丈の低い七色の花が咲き乱れ、その中央の台座に虹色に光る針と数字盤がぽうっと浮かんでいた。

 ミレの塔下の大時計。

 花壇内に存在する大時計は、湾曲した秒針長針短針とⅠからXXⅣまでの数字、一分を数える60個の刻みに、それに月日や年を示す円盤が重なっている。

 周囲の花の七色は時刻ごとの空の色の変化を表し、24時から3時の黒の時間にあたる部分には花はなくて、花壇に入るための小さな道が敷いてあった。

 ブレンダンの時計はこれだけで、光を除いてこの世界で唯一の動きを見せる物体でもある。

 木も花も湖も建物も水も動かないブレンダンだけど、この大時計だけは昔からずっと動き続けて、太古からの時を刻んでいる。

 だから他とは何か違っていて、神さまの息吹を感じられるから、時計を見るのは好き。


神さまはどうやって物を作ったんだろう?

 もっと近くに見に行きたくなって、街路樹脇の椅子から立ち上がった瞬間、視界が真っ暗になって、男の人の声がする。

「うお!」

 もしかして誰かの身体をすり抜けたみたい?

身体が身体をすり抜けるのはよくある話、今は多分、私が勢いよく椅子を立ったから、身体がすり抜ける状態になって、私を見下ろしていたらしい誰かの身体をすり抜けてしまったんだろう。

 恐る恐る自分の胸元に視線をおろすと私の胸元から相手の頭が突き出て……。

「ひゃ!」

「止まるな、おい」

「わ、や!」

 身体が重なるとぐにゃぐにゃして、気持ち悪いし、恥ずかしいから、手を勢いよく振って相手にぶつけ、すり抜ける状態にして急いで脱出する。

はぁ~とため息をして、恐々と後ろを振り返る。

 振り返った先にいたのは数ヶ月前に声を掛けてきた、ドレッドヘアの黒いジャラジャラの男性だった。

顔は細めで、野性味があってかっこいいんだけど、なんとなくだらしない雰囲気。

 その人が椅子に屈んだ態勢から、身体を起こし、鋭い眼で私を睨む。

悪いのは私だから、もう一度謝罪をすることにする。

「あ、ごめんなさい。ちょっと時計見てて」

 私が謝ると、男性は瞳を細くして口角をわずかに吊り上げる。

「おう、気をつけろよ」

声はぶっきらぼうだけど爽やかな笑顔。

 許してくれたみたいだし、これでいいかな?

そう思って離れようとした時、男から声を掛けられる。

「なあキミ、なんでいつも一人なんだ?」


「なんでって?」

「変だろーがよ、いくらなんでも一人は」

 この男性の質問はよくわからない。

 普通、人間は好きな人だけと一緒にいるものだから、1人になることもザラにある話。

 一般的に無理して相手に合わせるとかそういうのはないから、気の合う人が一人も居なければ1人ぼっちになるのも当然と言えた。

つまり私には気の合う相手がひとりもいないから、一人だから、それをわざわざ聞かれるのは、ちょっとイヤーな気持ちになる。

「そんなに変?私」

「ひとりなのは変だろーが」

「ひとりの人もいるから、変じゃないと思いますが」

「数ヶ月間1人なんているか?」

「いないけど、私、地味なローブでバカにされてるし、周りにね、同じ考えの人がいないから、1人なの。もういい?行きますね!」

 丁寧に言って、私が去ろうとすると男はなぜか怒り出す。

「おい待て、俺の名前を聞け!」

名前?

「なんで?」

「聞けよ!俺の名前!」

「名前は?」

「トキ!」

「はい、さよなら」


 そのまま黄と緑の空を見ながら塔の下の時計に向かって歩いていると、さっきの男性が追ってくる。

歩幅が広いから、相手の方が速いみたいだ。

走れたら走りたいけど、走ったら地面に足が埋まるから走れない。

「キミ名前、イオだろ、な?噂で聞いた、神さまなんちゃらのイオ!馬鹿やろうだったか、馬鹿だったか」

 ムカムカしたけど、こういう人は慣れてるし、無視するといなくなるから、時計のある花壇にどんどん歩いていく。

その歩みを男の大きな図体が追ってくる。

「待てって無視すんな」

 そう言われたけど無視して、ミレの塔の下、大時計の花畑に足を踏み入れる。

 入り口の流麗な白いアーチを潜り抜けると、小道の左右には紫の小さい花がいっぱい咲いていて、その左向こうに、赤や橙、右向こうに藍色や青色の花畑が広がっている。

 時計を挟んで向こうには黄や緑の花もあって、空の七色がこの花畑には全て揃っていた。

「おい、無視すんなよ」

それも無視して進んだら、男の野太い雄叫びが聞こえる。

「ヴオォっ!オっオっ!ヒーッヒ!」

え?なに?

「ヒーッヒ!ハッハー!」

その声があんまりにもうるさくて、後ろに立っている黒いジャラジャラ男に振り返る。

「うるさい!なに急に」


「ヒーッフッフー」

「だから、うるさい!」

「ハッハハハー!お!」

 黒髪を幾つもに束ねた男は叫ぶのをやめ、眼を細めてヘラヘラと笑ってくる。

「なんだよ、おー、なんだよなんだよ、俺は叫んでるだけだぜ!ヒーッヒ、ハッハー!ハハハハーー」

「だからーうるさい、向こう行け!」

 トキという男はそこで笑いを引っ込める。

「おー、そーだな。無視されんのはヤなんだよ。

聞きたいこと聞かせてくれたら出てくぜ」

「なに?」

「物作るってなんだよ?」

「えっとね、塔とか、ブローチとか、木とかを作るの」

「なんだ芸じゃないんだな、そこら辺にあるものってことか?その花や服もか?」

「うん」

「うわははっ!やっぱ馬鹿だな!キミ伝承知らねえな?これ全部なぁ、神が造ったんだぜ?人間は賑やかしのためにいるんだ。

キミが何やったって、作れるわけねえだろが」

「作れるかはわからないけど、私はね、作りたいの、だから、やるの」

「んじゃあ、イオは今何か作れんのか?

石も建物も塔もなんもかんも神が作ったんだろ?なんか成果あんのかよ」

「あるよ」

ホントはないけど。

「なら見せろ」

「やっぱりない…?」

「だよなあ?キミなあ、街中で馬鹿にされてるぜ、服地味なくせに、やってることもわかんねえ!

人にゃあaon mionaid(一分)しか物は動かせねえし、なあに神のつもりになって狂っているのってな。なあ!茶色いローブの狂ったイオちゃん、悪いこたあ言わねえ!成果ないならもうやめろや。地味な服で一生終えろ、キミらしく」

 はぁー。なんでこんなのの相手しなきゃいけないの?

「な?な?やめろや、街の罵倒が正しいよな?君に意味はないんだよ。

ありえねえほど地味なローブで気狂いで、そのくせ、成果の一つも見せれやしねえ。

だったらやめろって、キミでも何もしなけりゃさあ、馬鹿にされながらも誰か見つけてくれんだろ、物好きが一人ぐらいな、い、1日だけ、ヒーッヒ」

なによそれ。

「そんなのね、私の人生じゃないもん!成果はあります!」

「どこにだよ」

「成果は私の心の中に!!

だから説明できません!わかりましたか?わかったら、向こうに行ってよ」

 私がそう突き放すと、男はちょっと芝居がかった仕草で、唇の端を上げる

「成果が自分の中あ?おい、なめてんのか?」

 男は笑っていたけど、眼は私を射竦めようとするみたいに鋭くて、それに負けないように言い返す。

「そうなの!だからあなたには説明できないの!あなたたちはね、私が物を作った時に、ようやくね!私が言ってることに気がつくの!人は物を作れるし!イオちゃんはそれで頑張ってたんだって!」

「キミ、街のはみ出しものだろ、狂ったイオって馬鹿にされてんだぜ。

ここまで底に落ちたやつ、伝承でも聞いたことないぜ、服の地味さも合間ってお似合いだけどなあ」

「だからなに?私を理解してくれない人のことは知りません!何言われたってね!私はねずっとこれで生きていくんだから!」

 男はちょっと考えたあと、納得したのかまた快活に笑い出す。

「ひゅー、馬鹿だなあ、やっぱ恐えほどの馬鹿だ!なんだぁ、気に入った!狂ったイオ、イカレちまったイオ!馬鹿な夢を見、一生バカで、消えゆく馬鹿。ぶはっ、なんだそりゃ面白え、ただのバカじゃねえか、な、なんならさ、その夢に俺も混ぜてくれよ」

「え?」

「わかんねえか?今日から俺が友達だぜ!」

「友達?」

「おう、お・と・も・だ・ち、物作ろうぜ」

 そう言って男が手を差し出してきて、私は混乱したままその手を取る。

「う……ん、お願いします?」

「よろしくな、イオ、で、まずはどこに行く?」




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