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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『一途な人』




「ありがとう、助けてくれて」

 私がお礼を言うと、トキは手を止めて、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「いいんだぜ、俺は君が好きなんだから、助けんのは当たり前だろ」

「……うんっ」

 嬉しくなって、トキを見て、でも窓から見える空の色が黄と緑に変わったのに気づくと、劇の時間近づいたんだって、ふっと心が萎む。

「どうした?」「ううん……」

 緑青、青藍、藍紫になったら劇、劇は怖いから、劇って想うだけで心が落ち着かなくなる。

「よし、続けるぜ、って君震えてんじゃねえか」

「……え、ううん。足動かす練習するね、足だけね?トキも足だけなら触っていいよ。覚えたいから」

「おう」

身体にトキの暖かさを感じると少しだけ落ち着いて、そしてまた練習を始める。

劇はこれからもずっとあるから。

そう悲しんだ時、扉が開いて、プッチアの光が見える。

プッチア?

それが見えた瞬間、扉からレリーが顔を出す。

レリーは私とトキを見て、ちょっと顔を赤らめて、顔を背けつつ嘆息をする。

「そういうのは緑光の草原でやって」

「トキっ」

「おお、わりい、何のようだよ」

 トキが私から手を放して、私は僅かに乱れたローブを整える。

 レリーはもう完全に私たちから顔を背け、そのまま用件を話す。


「聞いて、イオ」

「うん、なに?」


「スミから伝言があるわ」

「スミから?」

 スミって聞いて心が怯える。

私は劇でずっとスミの悪口言ってるから、スミの話を聞くのも怖かった。

 レリーは私の心情がわかったみたいで、嘆息する。

「スミは今もあなたの味方よ」

「そうなの?」

 信じられなかったけど私はちょっと安心して、レリーが一瞬私を見る。


「スミからワタシへのお願いは、イオをスミの公演に参加させること、スミの劇の内容は知らないけど、ワタシは許可するつもりだから、あとはイオ次第ね」


 そういいながら、レリーはプッチア(光綿)を僅かに回す。レリーは可愛くて、仕草は優雅で、衣装もすごく可愛い。

 トキの様子が少し気になった。


「んだよレリー、その劇にでればイオの劇もどうにかできんのか?」

「内容は知らないの、ワタシも頼まれただけだから」

 レリーは言いつつ、私とトキの前に座って、私を見た瞬間眉をひそめて、ツーっと私から視線を逃がしていく。

そして座る向きをトキの方に変える。

「あの、レリー、やっぱり私の衣装醜い?」

「そうね、でもワタシも見ようと努力はしてるわ、見くびらないで」

「うん……、がんばって」


 トキの前であんまり衣装をダメって言われたくない。

 でも、レリーは意に介さずに、トキを見ながら話を続ける。

「それで、劇には出るの?出ないの?出るならリツカに話しを通すけど」

「俺に言ってんじゃないよな?」

「イオによ」

「紛らわしいなあ!おい」

「リツカ?私のお姉さんだよね?」

「そうらしいわね」

リツカには会ったことないから、あんまりよく知らない。

「リツカって綺麗?」

「トーリスの人ね、綺麗な人で珍しい鏡を持ってるわ」

「そう…なんだ」

 トーリスの人にはすごい綺麗じゃないとなれないから、私のお姉さんはすごく綺麗?

なんとなく自分のローブが惨めになる。

レリーがもう一度尋ねる。

「イオはスミの劇には出る?出ない?」

「その劇はスミの作った、劇?」

「ええ」

「それならね、出る!スミに謝りたいから」

 私がそういうと、レリーは微笑んで私の髪を撫でる。

「前向きね、それならあなたはきっと幸せになれる。あなたには味方がたくさんいるんだから」

 その微笑みにすごく嬉しくなる。

「ありがと」

「決まったらまた来るわね。

トキ、イオ、楽しい時間を」


「楽しい時間を」


 レリーが行ってしまうと、私はスミの劇のことが気になって、ちょっと考えていたけど、そのあとまたすぐに、今日の劇を思って怖くなって、トキに抱きしめてもらった。




 それから何日もトキと一緒にいた。

 トキと一緒にいて不安を和らげても、劇が来るたびに心は追い詰められて、次の劇への恐怖感が抜けない。

私がずっと恐がっていたから、不安を和らげようとトキはずっと一緒に居てくれて、それは嬉しかったんだけど、トキへの申し訳なさも芽生えてしまう。

「トキ」

「あん?」

「トキはね、見たい公演とかないの?」

「あるぜ、でもまあ今は君だろ、君外でれないしな、外でるの怖いか?」

「怖い」

「劇も辛いだろ?」

「つらい」

「そっか、なら怖くなくなるまでずっと居てやる。君、まだ15才だろ、怖くて当然だ」

 トキは笑顔で言ってくれて、それを見てすごく申し訳なくなる。

「でもね、本当にね、ずっとになるかもよ?私ね、劇はずっと怖いし、外でるのもずっと怖いから、ずっとここで震えてるかも」

「ん?どうしてほしいんだよ?はっきり言え」

「トキはね私をほっといて外に出ても、いいよ。私ね、一人でも平気にならなきゃいけないから、トキに迷惑かけたくないし」

 嫌になったら私を捨ててもいいから、自信のない私はそう付け加えようとして、でもそれは嫌だったから、言葉にはならなかった。

トキが笑いながら私を背後から抱きしめる。

「君はやっぱ良い奴だよなぁ、えらいぜ、俺もヨードロゼ始めてーなって思ってたんだよ。うっし行ってくっか」

「うん」

 ……自分で言ったんだけどやっぱりちょっと後悔する。

トキはその雰囲気を感じたみたいで、私を元気づけるように頭を撫でた。

「でも、もうちょい、ここにいるぜ?」




 それからはトキは何日間も部屋を空けるようになった。

トキのいない日の私は真っ黒で、ぐしゃぐしゃになった心から、どんどん涙が零れてきて、空の色が変わるたびに、身体を縮こまらせて、頭に劇のことが渦巻いた。

 醜いの、とか、誰からも嫌われるとか、そういう言葉が自分の口から洩れだして、それに気づくと膝を抱えて髪をくしゃくしゃして、その度にトキのことを頑張って思い出して、心を平静に戻そうとした。

でも劇になるとまた沢山の人に罵られて、私は泣いて震えながら部屋で縮こまる。


 そうゆう時間と劇を何回往復した時だろう。

 トキが一週間来なくて、トキに嫌われたんじゃないかって、怖くなって。

ずっと泣き続けた私の部屋には、またあの男の人たちが来た。

「あの男はいない?」抵抗する気力もなかった私は弱々しく頷く、そして男の人たちが柔和に笑う。

「そうか寂しいね、君に出会った頃を想い出すよ。なら僕たちが彼の代わりをしてあげよう」

 そう言われて伸ばされた手を一応は拒否したけど、そのまま強引に来られると、結局は無気力に身体を預け、それに身を浸した。

 可愛がってくれるから、悲しいことを考えなくてすむから、私はそんな人たちでも来てくれたのに安心して、頭がポーッとするようなくだらない快楽に身を浸した。

その人たちが来て何日たっただろう。

 トキが部屋に来て、その男の人たちを追い散らし、私の髪を掴み上げる。

「おい、イオ、ふざけんじゃねーぞ!!なんで身体許してんだよ!」

 怒りに染まるトキの顔は怖くて、私の心はぐしゃぐしゃに追い詰められる。

「ご、ごめごめなさい」

「俺がいねえからって何やってんだよ!!足払い教えただろが!」

「うぅ…だってぇぅぁああんああん」

もうトキの顔も見れなくて、私はただ泣いて泣いて、トキは乱暴に私を床に置いて、服を脱ぎ始める。「泣いてりゃ許すと思ってんじゃねえ!ちくしょう!ちくしょう!」



 トキの怒りが静まっても、私はトキの太い腕と脱いだ衣服の中でまだ泣いていた。

「ひっうぁああん、ご、ごめなさい、トキ、キライにならないで」

「……はあ、ちくしょう。長くいなかった俺も悪いんだよな、もうちっといい方法考えようぜ」


 トキがそう言ってくれて、私はまだ泣いてたけど、泣くのをやめようとする内にちょっとずつ落ち着いてきて、やっと話せるようになる。

トキが私の額にかかった髪を指でつまみ、形を整える。

「君、俺いない時さあ、一人で大丈夫かよ?」

「……うん」

「嘘つくな、レリーから、俺がいない日は1日中ずっと泣いてるって聞いたぜ、君、自分で思ってるより強くねえよ」

「……泣いたりも、そのね。してる……」

「あの劇はキツいからなあ。俺一回カトリーヌを、掴み上げたんだぜ?劇やめろってよ」

「カトリーヌはなんて?」


「ミレのご友人の義務ですから、ってそんだけで押し通してくるんだよ。俺も怒鳴り散らしたんだけどさ、ほら、人は人に何もできねえだろ。無視されるとお手上げなんだよ」

「やっぱり劇は一生なのかなー」

「わかんね、そんでも、あんな男たちが来るんじゃ、俺は君を一人にしたくねえしなあ、ダンスはしてえし、どうすっかなあ」


「私が早く、心を強くするしかないね」

 話がまた同じとこを回り始めた頃、扉から、プッチアに載ったオモチャの人形が現れる。

「プッチアと人形?」

扉から姿を現した人形が光り輝き始め、奇妙なダンスを踊り始める。

足をあげて手をあげて、カクカク首を回して一回転。

「レリーの衣装だよな?レリーはどうしたよ」

「なんで人形だけ踊ってるの?」

 それは不思議だったけど、私は、あっ、て思って、トキに服を着るように促す。

「トキ!服」

「おう、そういう意味か」

一分経ったら、お人形が扉の向こうに戻り、扉が開いてレリーが顔を出す。

 そしてホッとした表情をする。

「この前話したスミの劇の日程が決まったわ、時間が空いたから白磁から別の場所になったけれど」

「いつ?」

「明日の緑青、黒磁の路地」


 レリーの用事は簡単で、明日の緑青の時間にスミの劇が始まることを伝えてくれて、すぐに帰っていった。

レリーは館にいないし、いつもどこに行くか不思議だったけど。

 トキの話だと、レリーは今はチャートやイトランゼ、トキと一緒に過ごしているらしい。

「4人でずっといるの?いいなあ、楽しそう」

「君も禁忌さえなけりゃ、来れるんだけどな」

「でも私、服がね、これだからトキ以外の人はちょっと」

「来れねえか?」

「うん、友達作るのもね昔諦めちゃって、恋人もできなくていいやって思ってたの。

だからね、神マネこーざをずっとやってて、なのに、トキが恋人になってくれてね、驚いてるの」

「そうか?」

「私でも、恋人できるんだって不思議でね?トキがいてくれるから、だからそれだけは今幸せ」

「おう、俺も君が好きだぜ、そのローブも含めてな。てか覚えとけよイオ」

「なに?」

「俺さあ、自分で思ってたよか、一途だったんだよ。

前のアレもあって、今日のこれでも君を好きなままだったろ、不思議だよなあ。

一生、何があっても君が好きっぽいから、安心しろ」

「うんっ」

「よっしゃ、んじゃ明日がんばろーぜ」

「明日の劇?」

「ああ、劇の内容よくわかんねーけど、スミっつう人の劇なんだろ、その人はイオの味方なんだろ?」

「そう!スミはね、私をずっと見てきてくれた人だから、今も大好き」

「ってか君、外にでれんのかよ?」

「出れないけど、でも出なきゃ、私の伝承がね、スミの悪口だらけになっちゃったから、謝りたいもん」

「そういや君、伝承に残ったんだよな」

「うん、でもね、あんまりそんな気がしないの、スミもすごく優しいのに、私と憎み合ってたってことになっちゃうし、どうしてこんな嘘が伝承になるの。まだ私もスミもいるのに」

「そんな伝承よかさ、昔みてえに、君が君自身を好きんなって、外を好きに歩けりゃいいな」

「歩きたいね」

「ひっひ、君、昔さ、その辺のやつからなんか言われても、神マネこーざを始めますっつって追っ払ってたろ」

「追っ払ったんじゃなくて、あれは人を呼ぼうとしてたの、はぁー、神マネこーざ。いつから、やってないんだろう。虹色石もいつ渡してくれるのかな」

「まあとにかく明日だ。幸せには一歩一歩向かうしかねえんだから、がんばろーぜ」

「うんっ」

私は頷いて、明日の劇に想いを馳せる。

スミの劇ってどんなのかな。





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