『ささやかな抵抗』
ずっとそうしていたかったけど、空の色が赤橙に変わって、ちょっと経っていたから、劇行かなきゃって、トキの手を放して立ち上がる。
「劇行くのか?」
「うん、私には禁忌があるから……」
「あの劇最低だよな、あいつら寄ってたかって俺のイオを馬鹿にしやがって、可哀想だよ、なんとかしてやりてえよ」
「……うんありがとトキ、ちょっと辛いけど、トキが好きって言ってくれたから頑張れるかも」
「劇終わったらまた薔薇庭園の館に行くのか?禁忌じゃねえならさ、こっち来いよ」
「ううん、神の友人はね、あそこに居なきゃいけないの。そうしないとカトリーヌ怒るし」
「無視しろって、俺あいつ嫌いだぜ、怒ったって関係ねえよ」
「でも、カトリーヌが怒ったら劇の内容もっと酷くなるかもしれないから、禁忌を破るような劇にされたら困るし、私の人生は二百年だけど、禁忌を破ったら永劫だから」
「あー、そうだよな」
「でも館にいるあの男の人たちはね、断るから、安心して」
「ああ、君は俺の恋人なんだからな、断ってくれよ」
「うん、じゃあトキ、楽しい時間を」
「おう、楽しい時間を。情けねえよ俺」
数千人から浴びせかけられる罵声、私の性格も見た目も全部が否定されて粉々になって。
トキが好きって言ってくれたことを思い出しながら、耐えていたけど、劇にはどうしても慣れることができなくて、終わると心の中が散り散りにかき乱れて、ぐすぐす泣きながら私は館に戻る。
館の私の部屋に戻ると、華美な服装をしたトーリスの男の人が3人いた。
「やあ、待っていたよイオちゃん、劇は大変だったね。さあ醜い服を脱いで」
これはいつものことだったけど、今日からはトキのために断らないと。
「あ、その、私、今日から裸はやめるね」
「ん、なぜだい?綺麗な方がいいだろう、まあまあ中に中に」
ねっとりと粘りつくような言葉、いいながら3人の男の人は私の手をひいて、部屋の中に引っ張っていく。
「あの、私のね、ローブは醜いけど、あのでも、こういうのもうねやめます」
「いいからいいから」
精悍な人が私の手を掴み、優しい人がローブの紐を抜き、太った人が私の靴を脱がせようとする。
もうずっと言うこと聞いてた相手で、怒らせると怖いし、いつものことだったから、流されそうになって、でも私は勇気をだして手を早く動かして、男の人や自分の身体にぶつける!
すると掴もうとしてた相手が私の身体をすり抜けて、脱がされかけてた状態が終わる。
私が抵抗してる限り、男の人は絶対に何もできない。
私を裸にできないとわかると、男の人たちの眼がぎらつく。
その瞳を見ると劇を思い出して、瞳を伏せてしまう。
「イオちゃんは醜いのが好きなのか?!」
「ううん」
「君の衣装は、醜いよ、靴も醜い、服も醜い、髪と目の色も濃い茶色、服もブーツも濃い茶色で、すべて醜く見える。そんな醜い姿を認めるなら、君は心まで醜いのか」
醜い醜いって言われてると劇を思い出して、ちょっとずつ動悸がはげしくなる。
劇で浴びせかけられる罵声や嘲笑が、脳裏に甦って、醜いって言葉が口から出そうになる。
「あのでも、醜いのは醜いけど、私ね、恋人ができたの、だからもう、こういうの終わりにしたいです」
私がそう言うと、男たちが笑い出す。
「恋人?昼間の男かよ?遊ばれてるだけじゃないか、なあイオちゃん」
精悍な人はそう言いながら、今度は私の両手を掴もうとする。
太った男の人がローブのスカートをめくったから、また手をぶつけてすり抜けさせる。
「トキは違うもん」
優しい人が後ろから私に囁く。
「イオちゃんは裸なら可愛いけど、外では醜い醜いローブだよね、一緒に歩くのはどうかな?僕なら、君の隣は歩けない」
「……でもトキは好きって言ってくれたから」
「彼は優しいんだね」
「うん」
「それならなおさら別れてあげなきゃ。君みたいな子と付き合ったら、彼が可哀想だよ」
「え?」
「トキと言う名前で思い出したけど、確かトーリスでダンスをしている男?君みたいなのを連れてたら、美意識を疑われて、人気がでなくなる。芸術家は美意識を見られるものだから」
私と恋人だと、トキの公演の人気がなくなる?
そんなことないと思いたいけど、そういえばトキはトーリスでは私に会いたくないって言ってた。
今日確かイトランゼも、トキはまだ私とトーリスで会える状態じゃないって言ってたから。
私が恋人になると、トキに迷惑をかける?
「それとも君は、自分が綺麗で、一緒にいて恥ずかしくない女性だと思っているの?」
「思ってないけど」
「なら、いつもみたいに言ってごらん。
私は醜い衣装でトーリス中からバカにされてる。この狭い部屋で一生を終えるべき人間だ。さあ言って。ほら私は醜い」
「私は、み、醜い衣装でトーリス中からバカにされてて、この狭い部屋で一生終えるのが、いい人です。外にでるとみんな不快になるから」
「そうそう。それにこれも付けてね、一緒にいる恋人が可哀想です」
「私の恋人が可哀想……です」
「自分が醜いから彼の公演がダメになります」
「私がね、醜いから、醜いから、あの、会うとトキの公演がダメになります」
「うんわかったね、だけど君は僕たちに愛されている。裸になれば君は綺麗だよ、ほら醜いローブの上から身体を触ってあげよう」
「ゃ」
「おー柔らかい。お礼は?ほら、いつもみたいに」
「ぁ、あ、ありがとう」
私が恋人だとトキに迷惑かける?
「そうそう、君は身を引くべきだ、彼のためだよ。彼を愛してるならね」
優しい男の人は私の身体を弄るのをやめない。
その手はローブの布地の下に潜りこみ、胸に直接触れてきて、私は力なく抵抗する
「えと」
「彼が大事じゃないの?」
「ぁ、の」
私が困ってる間に、また脱がされ始めて今度は抵抗できなくなる。太った男の人が私の前にしゃがむ。
「ようやく。素直になってきたか、彼には我が輩が言っておく、さあ綺麗な君に戻ろうじゃないか。
君は全ての人に嫌われてる、居場所はここだけだ。ほら我が輩にもお礼は?」
「ありがとう、ございます」
「そうそう、それでこそ可愛いイオちゃんだ」
困惑してる内にローブが脱がされて、3人の男の人に組み伏せられる。
私は自分の情けなさに涙を流してしまったけど、迷惑って思うと、抵抗する気力もなくなって、でも、心の中でトキに助けを求める。
助けてトキ、助けて、やっぱりね、私ダメなの。
幸せになれないの。
そう泣いていたら、トキの声が聞こえる。
「まあ、こんなもんか、結局、流されちまうわけねん」
トキ?「わ」裸にされたばかりだったから、恥ずかしくてトキに申し訳なくて、私はせめて身体を縮こまらせる。
3人の男の人は扉から現れたトキを見てせせら笑う。
「なんだ昼の君か、混ざりに来たのかね。イオちゃんの姿を見たまえ、君と別れるそうだ、そうだろうイオちゃん」
「あの、その、うん」
私は頷いてしまって、言ってから後悔する。
こんなんじゃ見限られるよねって泣きそうになったけど、でもトキは鼻で笑い飛ばす。
「わりいな、イオ、俺、扉のとこで最初から聞いてたんだわ」
「最初から?」
「君が断ってくれっか知りたくてよ、ちょい試してた」
「後つけてたの?」
「悪い悪い、つーか試すだろ、告白したばっかじゃ本当に俺好きかわかんねーしな。
でも君、心弱ってんのに、何回も抵抗してくれたろ?あれで俺にゃ充分だ。ひっひ、がんばったな!」
「うんっ」
私はトキが許してくれたことが嬉しくて、安心して、身体の力が抜ける。
「でもよお!許せねえのはキミらだ、俺のイオに何言わせてやがった?!」
トキが、ずかずかと近づいて来て太った男の人を掴み上げる。
男は唇の端を上げる。
「衣装が醜いから醜いって言っただけだろう」
「ああ?馬鹿にしてんじゃねーぞ、俺のイオは最っ高に綺麗な女なんだよ!」
「裸ならまあ綺麗とは言えるが、ローブを着ると別だ。こんな女性恋人だと触れ回って、トーリスでの公演を続けられるとでも?」
「うるせ、君らが俺の心配すんじゃねえ!俺のイオに近寄んなよ!」
「怒鳴るな怒鳴るな、なぜ君に命じられなければならん、人は人に大した干渉はできない、放したまえ」
男の人がトキの腕を払うと、トキの腕はすり抜ける状態になって、男の人はくびきを解いて地面に降り立つ。
人の身体は速度のあるものに触れるとすり抜けるようになるから、人は人に何もできない。
「んだよ、君らこれからもイオに手を出す気かよ?」
「ああ、我が輩たちはここに通う、悪いがイオちゃんは言いなりだ。君がここにいたところで、大したことはできないと思うがね」
他の男の人二人も笑いながら、私に触ってきて、私は身体をより縮こまらせる。
トキが人差し指を一本立てる。
「なあ知ってるか」
「うん?」
「ここは二階だろ」
「それが?」
「俺の友人にイトランゼって女がいるんだが、俺に口論を仕掛ける前に、必ず、一階に叩き落としやがるんだ、どういうことかわかるか?」
「わからん、何がいいたい?」
「イトランゼの得意技!ちょっと口論しようかああ!」
トキが男の人の足を地面スレスレで薙払うと、「お?」男の人は転びつつ、足を地面に沈められて、二階の床をすり抜け、一階に落ちていく。
おおぉお……。
私の傍にいた精悍な男の人が立ち上がり、トキに早足でつっこんでく。
「やり方はそんな感じか、トキ、一階にはお前が落ちろ!」
そう言って、男の人はトキに同じように足払いをかけ、でもその足はトキの脚をすり抜けただけで、トキが肩を竦める。
「難しいだろ?結構な、これコツがいるんだっぜっ!」
「うおっ」
それで二人目が床をすり抜け落ちていき、3人目は私を一階に落とそうとしてる間に、トキに落とされる。
3人とも落ちてしまって、それで一瞬、静かになったけど、男の人たちは計四回二階に上がってきて、四回ともトキに落とされていった。
トキは男の人たちが上がって来なくなったのを確かめてから、ようやく肩の力を抜く。
「ようやく諦めたな、おうイオ、服着てこっち来い。今のやり方教えてやる」
「え?」
私がローブに手を通しながら疑問を浮かべると、トキが笑う。
「またアイツら、イオ一人の時狙ってくるだろ?その時は何か言う前に一階に落としてやれ、それならできるだろ?」
「うん」
本当にトキ許してくれたの?
私、流されたのに?
トキが怒ってないか、目を見たけど、トキは明るい表情を崩さない。
確かめたかったけど、聞くのは怖くて、関係ない方を聞く。
「じゃあね、落とし方、教えて」
「じゃ、教えてやる」
トキの声は穏やかで、本当に怒ってないんだって思えてきて、それでかえって謝りたくなる。
「どうやるの?」
「ちょい身体触るな?」
「うん」
そしてトキは私を座らせて後ろから密着したまま、さっきの足払いの方法を教えてくれる。
「こう、最初に足引っかけんのが大事なんだよ。すり抜けるギリギリの速さでぶつけるんだ」
「う、うん、こう?」
「ちげえ、それじゃ速ええ。この速さだ。アイステっつう足だけのダンスしてると、こういうのも上手くなんだよ」
トキは私に速さを教えようと、座ってる私の太ももを掴んで何度か動かす。
トキに太ももを触られると、ローブを着ていたのに、さっきの男の人に触られてた時より、ドキドキしてくる。
「こうだぜ、おっうめえな、イオ、そうだ良い感じだ」
トキの手大きいよね、トキは私の脚を何度も動かしてくれて、私もドキドキしながら、それを続ける。
「や」
「なんだ?」
「う、ううん、なんでも」
気づくとトキは私の太もも以外も触っていて、私はどんどん赤くなる。
「ときぃ……そこね?場所違う」
「わりい、さっきの見て、ちょい興奮してる。イオが覚えるまでな?」
「……うん」
トキが私の耳を舐めて、私は緊張して、脚を動かせない。
真っ赤になりながら、その時間を楽しんで。
ちょっとお礼を言う。
「ね、トキ」
「あん?んだよ、覚えるまでやめねえぞ?」
「あの、そのね」
「なんだよ?」




