『告白とキス』
「イオ、俺の友人を紹介するぜ」
「う、うん」
頷きながら自分が震えてくるのがわかる。
なんで私を紹介するの?こんなに醜いんじゃ、見るのも嫌かもしれないのに。
私が涙を拭っていると、トキが黒い帽子の人の肩を叩く。
「こいつはチャート!滅茶苦茶踊りがうめえ!俺には負けるがな」
「うるさいな、君のが先なんだから当然だろ」
「ひっひ、まあ俺は宙返りできねえよ、で、こっちの赤いのがイトランゼ、歌が下手な吟遊詩人だ」
「どーぞよろしく、歌が下手な歌人です。これからも公演を滅茶苦茶にしてやるわ。特に次ね!次に歌う時は滅茶苦茶になりそう」
「お、おう悪い今のナシな、冗談だよ冗談」
私は何を言ったらいいんだろう。
私なんかが来ても、この人たちは嬉しくないのに。
「で、チャートにイトランゼ、この子がイオだ」
チャートとイトランゼの二人が私を見つめる。
二人は声をかけあぐねてるようで、私はすぐに居たたまれなくなって、「会えて嬉しいです」ってだけ言って、扉に早足で向かう。
出て行こうとするとトキの怒った声が聞こえてくる。
「逃げんなよ!?逃げたら、君の館に行ってずっと悪口言い続けるぞ」
無視しようと思ったけど、想像したら怖くて、私は何度か足を踏み出しかけて、結局は足を止める。
そして逃げたかったから、トキに恐々と言い返す。
「なんでトキ?トキは昔、私にね、トーリスに会いにくるなって言ったよ。恥ずかしいからトーリスで俺には会うなって」
「あの時はあの時だろ、なあチャート、イトランゼ、あん時はイオに関わってる場合じゃなかったよな?」
「まあな」「今もだけど」
チャートは戸惑い気味に、イトランゼは興味なさそうに、ベッドに座っていて、雰囲気からして、私をそこまで歓迎してないことは伝わって来る。
「トキは……なんで私を連れて来たの?私ねもうだめなの、自分で自分が嫌いなの、誰にも会いたくないから、もう行くね」
そう言うとトキは、ふうっと言葉を吐いて、よおーしって気合いを入れる。
「あのさあ、今から告白するわ俺」
告白?
「告白って誰に?イトランゼさん?」
「イトランゼえ?!おい、君、イトランゼと関係あるか?!なんでイトランゼに告白するのに君連れてくるんだよ」
「じゃあチャートさん?」
チャートがぶふっと噴き出して、トキが頭を抱える。
「待て待て!頭までイカレんな、チャート男だろ、イトランゼよか離れてんじゃねえか!」
「告白の意味が違うの?私の悪口をこくはく?」
「そんな告白しねえよ!君に普通に告白すんに決まってんだろ!」
怒鳴られて私がびくっとして、トキがちょっと慌てる。
「悪い。イオ、逃げるなよ?逃げないで聞いてくれよ、告白するんだからな」
「……私に告白?」
「俺さあ!君の地味な服も含めて好きなんだよ。神マネ講座も会う前から時々見ててさ、なんつーかよ、俺勇気貰ってさあ、だから君が好きっつーか、あー、わりい!緊張して言葉でねえ」
トキが私を好き?
それは意外すぎて、私の頭が一瞬思考を拒否する。
なんで私に告白?でも男の人に告白されたのは初めてで、緊張して赤くなって、でも私の服は醜いから、すぐに嫌われるんじゃないか怖くなる。
「……こ、告白ありがとう、ございます」
「いや、なんで丁寧に答えるんだよ。まだ告白の途中だぜ?」
「う、うん。そのね、ちょっとベッドに入るね」
私は言いながら、チャートとイトランゼの座ってるベッドのシーツに潜り込む。
一分しか効果はないけど、告白してもらうときくらい、醜い服を隠したかったから。
トキは苦笑して、ベッドから顔だけだした私を覗き込む。
その瞳は真剣そのもの。
「俺は君が好きだ!あんな姿見ても好きなんだぜ?だから一生好きだ、わかるな、俺は君が好きなんだよ、地味な服も全部!」
本当に告白?すごく頬が赤くなってしまって私は緊張してこくこく頷く。
トキも緊張しているみたいで、強張った顔で立ち上がり、チャートとイトランゼを呼ぶ。
「言ったぜえ、チャート、イトランゼ頼む」
「はいはい」「ああ」
「んでよう、イオ、これから君に、お、俺がどんだけ地味なのが好きなのか、見せる。君、自分の服が地味だって気にしてるだろ?でも、俺それ好きなんだよ。それを見せてもいいか?」
私はもっと緊張して、ゆっくりと頷く。
でもどうやって地味なのが好きなのを見せるんだろう?
シーツを口元までひいて、可愛い表情を作ろうとしたけど、自分がどんな仕草をしたらいいかわからなくて、身体がカチコチになる。
トキも緊張して、何か仕草がぎこちない。
「よーし、見とけよ?んじゃ見とけよ!ヨードロゼ、始めるぜ」
ヨードロゼ?
「いいかイオ、俺はこいつらのリーダーで、アイステっつう足だけのダンスをやってんだ。
普通ダンスってさ、腕が主流で、足の動きだけだと地味なもんだろ、でも俺はそれが好きなんだ。君と同じように。よーし、イトランゼ頼む」
って言って、トキが手を上げるとイトランゼが朗々と歌い出し、歌に合わせて、トキがチャートと並んで踊り始める。
「よっほっ!」
トキは歌に合わせ、すり抜けないようゆっくりとステップを踏んで、時々足を勢いよくあげ、ゆっくりと下ろす。
その踊りは言われてた通り、本当に足だけで、普通知られてるダンスと比べるとほとんど派手さがなかった。
そしてそれどころか、同じダンスを踊ってるはずのチャートとトキでさえ違っていた。
トキは地味なダンスをただ一生懸命踊っていたけど、隣で踊るチャートは、身体の動きや、帽子を押さえる動作をまぜて、トキより数倍華麗なダンスになっていた。
同じ踊りのはずのチャートと比べても、トキのは本当に足だけにこだわって、足元を見ながら、地味なダンスを本当に一生懸命に踊ってる。
不器用に不格好に。
私はそのダンスに釘付けになる。
地味でも格好悪くても、トキは本当に丁寧に、懸命に、愛着を持って踊っていたから、だから、トキのダンスへの愛情はすごくよく伝わって、……そのダンスを自分の地味な服と、というより私自身と重ねてしまうと、何か気恥ずかしくなって、心がすごく暖かくなった。
ダンスはそのまましばらくして終わって、終わった頃には一分が過ぎ私はシーツの上に座っていた。
私が身にまとうのはダンスと同じくらい、地味なローブと靴、それはとても人に見せられないものだったけど、でもトキの気持ちは口で言われるより、ずっとよく伝わって、私の胸の奥にすーって届いて、涙もすーって流れ落ちてしまう。
「おい泣いてんのか?」
「え?……うん、いいダンスだね。私ね感動しちゃった」
「お!そーか、泣いたやつ初めて見たぜえ。俺のダンスも捨てたもんじゃねえな。チャート、イトランゼ、あんがとよ」
トキは二人にお礼を言って、二人が笑って、トキに軽口を言った後、イトランゼが私に言う。
「いいイオちゃん、トキは私の親友よ?あんまり泣かせないであげてね」
「うん」
「よろしい、じゃあトキ、あとはごゆっくり」
イトランゼはそれで扉に向かって、チャートもトキに小声で何か話して背中を叩いたあと、「じゃ、俺も」って私に手を挙げて扉から出ていく。
そうしたら、部屋には私とトキの二人だけになって、私は緊張して顔が上げられなくなる。
こげ茶色のローブもこげ茶色の靴も、トキに見られていたけど、本当に地味なの好きかもしれないって思っちゃって、勇気を出して隠さないでいた。
トキはそんな私の隣に座って、たどたどしく聞いてくる。
「か、肩抱いてもいいか?告白の返事待つ間だけな」
「いいよ」
「お、おう」
トキは私の肩に手を回して、力強く抱き寄せてくれる。
その腕が頼もしくて、私の髪がトキの胸元に当たって、緊張してくる。
何て答えたらいいかわからなかったけど、やっぱりドキドキして、言葉が上手くでない。
「告白……ありがと、トキ、嬉しかった」
「おう」
トキがより強く私の肩を抱き寄せてくれて、またすごく緊張してくる。
「わ、私ね、今はね、ちょっとねドキドキしてて、答えられそうもない」
「おっ、ドキドキしたんだな?」
「う、うん、した」
「よーし、いい感触だな」
良い感触が私の身体に向けられたものな気がして、ちょっと言葉にできない。
頭の中だけは熱くなって、くるくると色んなことを考えてたけど、言葉にしようとすると口から出せなくて、トキは私が言葉にするまでをじっと待ってくれていた。
開けづらかった口をなんとか開く。
「……あのねトキ」
「おう」
「私ね、告白す、すごくね嬉しくて、トキのことね、好きになると思う」
「おっしゃ!じゃあいいんだな、恋人だよな!」
でも、ちょっとだけ待って、って拒否しようとして、その言葉を飲み込む。
……なんでかは自分でもよくわからない。
ただ、なんとなくトキに抱きしめられてるとどきどきして、それを言えなくなった。
「キスするぜ」
「……うん」
私が頷くと、トキは私の顔を上げさせて、私が目を閉じてる間に唇と唇を重ね合わせる。
トキの唇は暖かくて、口の中からは唾液が出て、唇からトキを感じてると、芯まで痺れるような感じがして、頭の中まで火照ってくる。
それがどれくらい続いたんだろう、唇が離れる時、トキが「しゃっ」って声を出す。
キスしちゃった……。
その感触に浸っていたくて、自分の唇を人差し指でちょっと触り、何も言える気がしなくて、私は勇気をだしてそっとトキの手に触れる。
トキは握り返してくれて、私は赤くなりながら俯いていた。




