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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『夜会にて』




 ワタシがイオのことを持ち出すと、トキはその話はやめろやめろと言う風に手を振る。

なんで?イオのことよね?

 イトランゼとチャートが「イオ?」って疑問を浮かべていて、イトランゼが「そういえばトキ、イオのこと友達って言ってたわね」って云うと、トキの表情が強張る。

 この反応、もしかしてトキはイオのこと周りに話してない?

「イオ」

「待てレリー」

「トキはイオが」

「待ってくれって」

 なにかしらちょっと楽しい。

俯いてから、下唇にグーの人差し指の側面を当てて考える。

チャートがワタシをちゃかす。

「その仕草、初めてみるな、長考か?」

「そうね、黙って」

トキはイオのこと隠してるのね、なんでかしら。

あれだけイオが好きなら、もっと喋ってもいいはず、だってトキはお喋り。

 ワタシを嘘の恋人にした時はトキはトーリス中に触れ回っていた。

でもイオのことは親友にさえ話してない?

ワタシが恋人の時は周りに言って、イオが友達なのは周りに隠す。

これは繋がりがないような気がするけど、ブレンダンに置ける、イオとワタシの衣装の評価そのままと言ってもいい。

推測だけど、こんなところね。

トキは隣を歩く女の子が回りからどう見えるか気にしてる?

つまり、トキの小さな見栄、それが正解、イオが可哀相ね、言っちゃいましょ。

どうせトキにはトーリスでの力もないし。

「言うわ」

「おいおい、やめろよ!」

トキが慌てて、チャートが苦笑する。

「長考だったな」

「ワタシ慎重なの、言うわね。トキは、イオのこと好きなの」

 「お、おお……」その時のトキの表情はどう言ったらいいかしら、黒の時間に永劫落ちてしまったようなそんな表情をしていた。

「あっはっはっは!」

 そして続くのはお腹を抱えたイトランゼ。

「イオってあのイオ?トキ、あんた、あんな茶一色がいいわけ、あっはっは」

「うっせぇーな!あいつにだっていいとこあんだよぉ、俺だってさ、もっと自慢できるやつ好きになりたかったぜ?でもよお!しょーがねーだろ好きになったんだから」

「いやいやお似合いお似合い、あんたとイオちゃん、あっはは!」

 チャートはイオを笑うのは悪いと思ったんだろう、この話題には入りたくないようで、涼しい顔で沈黙を保ってる。

 チャートはちゃんとしてるわね。

高評価。

 ワタシがそんなことを考えてると、イトランゼがトキをからかうのにも飽きて、ワタシに向き直る。

「で、レリー、イオちゃんがどうしたの?あの子、今どこだっけ、カラリス?ランピス?」

 イトランゼはあんまりトーリスの事情に詳しくないみたいね。

 イオが来たのはトーリスでも語り草になったのに。

「イオならトーリスのバラ庭園にいるわ」

「バラ庭園?トーリス最上位の場所?え?なんでイオちゃん、……イオさんはそんなところに」

 なんで言い換えたのかしら、イトランゼって地位に弱い?

それともイオの悪口を言って、トーリスで噂が広まるのを恐れたのかしら。

賢明なことね。

「イオのことはあとでトキに聞いて」

「そうするわ」

「レリー、俺も聞いていいか?」

「どうぞ」

 次に尋ねて来たのはチャート、チャートはトーリスの人間だけあって、ある程度の情報を元に話してくる。

「イオは劇場で、1日に二回劇に出てるよな。俺も一度見に行ったが、気分が悪くなった」

とそこでイトランゼがちゃかす。

「あの衣装だからねえ」

 それが癇に触ったらしくトキが怒鳴る。

「黙っとけよイトランゼ」

「あんだあ?何怒ってんのよ」

「うっせえ、あいつ劇の間ずっと悪口言われてんだよ、観衆全員からだぜ?お前で耐えられんのかよ、イトランゼ、馬鹿」

 まあそうね、言葉は悪いけどそんな感じ。

なのにイトランゼは更に怒る。

「ん?何トキ、お前って言った?馬鹿って言った?あんた、君って言葉もう忘れたの?!私怒らせる術よく知ってんね?トキくん、ちょっと口論しようか」

「お?なんだよ、今は俺のが正しいだろ、お前ただのヤな女だぞ」

「あーいいからいいから、理屈じゃないの感情ね、表に行こう」

「お、いや、イトランゼ、俺さあ、今話し聞きたいんだよ、わかるよな、好きな女がそんな劇出てて、ほら、わかるよなあ!?」

「ごっめんわかんない。私ヤな女だから、レリー、チャートと話してて、この馬鹿泣かせてくる」


そう言ってイトランゼはトキの足を払って、リベーの二階の地面をすり抜けさせ、一階に落とし「うおおっ!」自分も跳んで、床をすり抜けて一階に消えていく。

なんなのかしら?馬鹿らしい。

チャートが愉快そうに笑う。

「俺さ、あの二人好きなんだよ、わけわかんなくて、トーリスじゃ、ありえない会話だろ」

「まあそうね」

チャートはああいう会話が好きなのかしら。

覚えておこ。

一階から二人の口論が聞こえて来て、楽しそうに聞いていたチャートがワタシに向き直る。

「で、レリー話を戻すけど、イオが辛い劇に出てるのは知ってる。トキも知ってるだろうな。

君はなんでイオの話を?」

 どこから話せばいいかしら。


「前、一回イオが狂ったから、トキが心配してるの。

それで、今イオはもっと酷い状態になったからそれだけ伝えようと思って」

「ん?狂うほどの状態なら、イオって子が逃げない理由がわからないな。

人間は好きな場所に行ける。逃げたら誰も何もできない」

「イオは禁忌を結んだから、もう逃げられないの」

 チャートはそれでようやく理解して、脱いだ帽子を回してから、またかぶり直す。

「大体わかった。トキが来るのを待とう」

 これで会話終わり?短いわね。

ワタシに興味ないのかしら、見ていた限り、チャートはトキやイトランゼとは話してるから喋らない人ではないんだけど、チャートとはどうやったら親しくなれる?

「チャート」

「ん?」

「……なんでもない」

「うん?」

 ワタシの衣装の解説でもしようかしら。

でも前、人形動かしても反応して貰えなかったし。

伝承の話もそんなに好きじゃなさそう。

ワタシは俯いて、下唇に軽くグーの人差し指側面を触れさせていたら、チャートが笑う。

「また長考?わかりやすいな君」

「そうね黙ってて」

「え?黙ってほしいの?」

「ええ」

「そっか、話したかったけど黙るよ」

 どういう意味?

「話してもいいわ」

「いや、黙ってる、君のお願いだから」

え?え?チャートはワタシの方に笑って、ワタシはちょっと戸惑ってる内にトキが泣きながら戻ってきて、ワタシは考えるのをやめて、イオの現況を説明する。



「イオは今、彼女の一番綺麗な格好でお客さんの相手をしてるわ」

 チャートとイトランゼはわからなかったみたいだけど、トキが顎をさする。

「虹色石でももったのかよ?アイツの一番綺麗な格好なんてそれしかないだろ」

 あんまり言いたくないけど。

「裸のこと、イオは服はあれだけど、裸になるとすごく綺麗な子だわ。お客さんも喜んでる」

「裸?」

「そうね」

「裸ああ?!」

トキが驚愕に目を見開いて、チャートが眉をひそめてから、口を開く。

「それは禁忌でやらされてるんだよな」

「違うわ」

「違うのか……、おいトキ、君平気か?」

 チャートがトキの方を見て、トキが顔をしかめる。

「平気じゃねえよ!じゃあなんだよ?俺の可愛いイオちゃんは自分の意思で裸見せてんのか?そこら中の男どもに?」

 なんとなくだけど、イオを責めるような口調ね、イトランゼもイオを責める。

「同じ女としてあり得ないわね、好きで見せてるならいいんじゃない?ほっとけば」

 言われてみれば、トキたちの言いたいことが理解できる。

 自分から裸を見せるなんて、蔑視されても仕方ないこと。

男の人にとっては愛情も冷めるものみたいね。

 ただイオが狂うまでの過程を見てきたワタシとしては、申し訳なくて、肩を持ってあげたくなる。

「ワタシも言葉間違えたかしら。あの子毎日醜いって言われて心が参ってるの、カトリーヌからお客さんの機嫌損ねないよう頼まれてるし、そうしても仕方がないわ」

 ワタシならしないけど。

「でもよ、イオは、自分で裸見せてんだよな?来た男全員に」

「そうね」

「ちょっと待ってくれって、心が受け付けねえ、理解したくねえ」

 トキが嘆いて、イトランゼが投げやりに言う。

「捨てちゃいなさい捨てちゃいなさい、そんな淫乱女」

 そしてチャートがワタシに聞く。

「レリー、そういえば君とイオはどういう関係なんだ?」

 チャートたちになら本当のこと言っても平気かしら。

「ワタシ?ワタシは……、イオと係争してる人の友達、その子、ちょっとやりすぎだから、今はこっちに来てるけど、ワタシも最初はイオを無視してたわ。

そうね、イオの敵ね。もしワタシが嫌ならここから出てくけど」

「いや、レリーは居ていい。俺は君を気に入っているよ。本当に敵なら情報は出さないだろ」

 チャートは言ってまた帽子を被り、ベッドに横たわる。

「まあ、イオを助けるかどうかは、トキ次第だな」

「俺次第?!他人事みてえにいいやがって、チャートならどうすんだよ」

「俺なら助けて、それからその女と別れる。助けんのも義理だ」

 チャートの静かな言葉にトキはいきり立つ。

「君なあ、人好きになったことねえだろ?!そんな割り切れねえよ、俺さあイオ好きなんだよ、なんでイオが裸他のやつに見られてんだよ」

 トキが怒鳴ると、チャートはちょっと怒ったみたいで、ベッドに転がったまま帽子を目深に被り直す。

「君の問題だろ、俺に当たるな」

「っ?!」

 トキはいきり立ってチャートの方に飛びかかろうとして、でも勢いが出過ぎて、一階に落ちていく。

「のわああ!」

イトランゼが肩をすくめる。

「イオなんてよく知らないし、狂おうが裸になろうがどっちでもいいわ。トキが決めるまでこの話題は出さないようにしましょ」

「そう……ね」

 イオも可哀想ね。

カトリーヌに狂わせようとされてるのに、スミ以外に味方がいない。

 ワタシはイオの味方?

違うわね、ワタシはただ逃げる場所がほしいだけ。

イオに味方が居てくれるとワタシも安心するのだけど。




 トキは今はダンスもしたくないだとかで、急遽ヨードロゼは休止することになった。

 公演を休止にすると現在使っている会場は、他の芸術家に譲られる。

 そうすると休止の意味はなさそうだけど、休止の場合、会場が使えなくなる代わりに、また活動を始めた際、順番待ちの最初に入れて貰えることになっている。

もし休止を伝えずに三回公演を飛ばした場合は、トーリスからカラリスに戻ることになるため、長く休む場合、休止を告げた方が得する仕組みになっていた。

 休止を受理するトーリスの芸運行管理人のリツカは夜会以外だと捕まえづらいから、ワタシが代わりに休止を伝える約束をして、数日後、バラ庭園に戻ってきた。

今夜はカトリーヌに会うつもりはない。

リツカに休止を伝えて、チャートたちのところに戻るだけだ。


 トーリスの夜会、藍と紫の空、燐光を纏ったバラに、幻想的なランプの浮かぶ流麗な小道。

バラ庭園で毎夜開かれる夜会には沢山の人がいて、ワタシのよくいた休息所には、ぽつねんとカトリーヌが一人で出ていて、ちょっと寂しそうな様子だった。

 ワタシはそれを見て居たたまれなくなって、会わないと決めてた心が揺らぐ。


 わざわざカトリーヌに会わなくても良かったんだけど、それでも切なくなって、カトリーヌの前にまかりでる。

 カトリーヌはワタシに気づいて、待っててと言うように羽を動かし、僅かに先着した男の人たちに応対し、館の方を指し示して丁重に追い払ってから、ワタシに声をかけてくる。

「……お久しぶりですね、レリー」

「久しぶりね、カトリーヌ、イオはやっぱり綺麗な恰好で部屋に?」





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