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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『ヨードロゼ』




「レリー、あなたトキと言うカラリスの人間と付き合ってるそうですね」

 ちょっと咎められてる気がして、視線を伏せる。

「いいんです。レリー、口性のない輩からはわたくしが守りますし、レリーはわたくしと話せないのでございますから、退屈を紛らわせても」

 ワタシはホッと安心して、カトリーヌになんだか申し訳なささえ覚えてしまう。

 カトリーヌは返事のできないワタシと話してるのが辛かったようで、すぐに話を終わらせますって言って、用件だけ切り出してくる。

「これからイオさんをさらに追い詰めることにします」

 え?まだ?「どうやって」

「やっとレリーの声が聞けました。嬉しいです」

 ワタシは照れて、視線でまた先を促す。

カトリーヌは綺麗で可愛らしい顔に、にこやかな笑みを浮かべる。

「本日の夜会から、劇に加え、イオさんには部屋でお客さんの応対をして頂きます。失礼のないように」

 それがどうしたのかしら?

お客さんを呼んだところで、イオの部屋にお客なんて来ないのに。

「レリーにも直にわかりますよ。失礼があってはいけないので、イオさんには綺麗な恰好をするように伝えてありますから」

 イオの綺麗な恰好?それはなんとなく思うところがあって、裸って思い至るとワタシは寒気がして、……カトリーヌから目を背けた。




 イオの綺麗は裸になることだから、つまりイオは裸でお客さんの応対をする?

夜会を過ぎて数日すると、イオの部屋に行くお客さんが増えた。

あれほど会いに来る人のいなかったイオの部屋に男のお客さんが増えた。

 裸って言うイオの一番綺麗な恰好を何度も見たことのあるワタシは、男の人たちがイオの部屋に押し寄せた事実に気持ち悪くなって、館の近くにさえいる気がせず、プッチアで凄い速度で飛んで、前にトキと笑いあったトーリスのリベーに向かった。

 速度を速くすると身体をすり抜ける関係上、男も無理矢理はまずできないから、イオもそこまでは許さないだろうけど、男の人がイオの裸を見るためだけに来てるのかと想うと気持ち悪かった。



 トキたちの居るリベーからはバラ庭園とは違う明るい笑い声が広がっていて、ワタシはホッと安心する。

 リベーの白塗りの扉を勢いよくすり抜けて部屋に入り、現れたトキにワタシは抱きつく。

「トキ!」「うお」トキは足を大きく前後ろに開いていたから、バランスを崩し、ワタシと一緒に転んで地面をすり抜けてしまう。

それを見ていたイトランゼとチャートが笑う。

トキはそれに笑って答えてから、ワタシに小声で尋ねる。

「どしたよ?イオになんかあったのか?」

「別に大したことじゃないわ」

 イオの仕打ちを想像すると気持ち悪くて、トキのぬくもりを感じても動揺が抜けない。

トキがワタシを抱きしめながら言う。

「俺用事あんだよねん。今日は相手してらんねーよ」

 用事?芸術関係でもしてるのかしら。

「じゃあついてくわ」

「たく、じゃあ今夜は君お客さんな?」

 トキはちょっと困ったように笑って、ワタシもようやく安心する。

とりあえずイオのことは忘れましょ、考えたくない。

トキはワタシを下ろすと勢いよく立ち上がる。

「そろそろ時間だ!行くぜええ!チャート、イトランゼ」

「おお!」「そーねっ」

 そのままトキは3人で腕を合わせる!

『ヨードロゼ!始めようぜええ』



 トキたち3人は、トーリス通りの中央から外れた白磁の路地に、向かっていった。

一番格の下の会場?まあ妥当ね。

トーリス通りの公演の格は三段階あって、一番上がイオの劇等のバラ庭園周辺での公演。

次がトーリスの中央通りでの公演。

一番格が落ちるのが、今トキたちの向かっている裏路地での公演になっていた。

 トーリスでの公演はトーリスの人間のみならず、カラリスで人気が出た人たちも行ってる。

 芸術の本流のトーリスが、カラリスだけで流行る芸なんかあっても無様だから、カラリスでも腕のある芸術家はトーリスに来ることになっていた。

最初はまずこの路地で力を試し、もし人気がでれば、中央通りに向かい、ダメならカラリスに戻されていく。

でもどうしようかしら、トキの公演の内容が良ければ、ワタシの衣装を使ってトーリス中に伝えるか、芸運行管理人に評価を伝えるのもいいわね。

 トーリスの芸運行管理人の3人はワタシも話したことはあって、路地での公演を管轄しているのが、リツカと言う女性、もしトキの公演が上手ければ、いい公演だったって、リツカの耳にいれよう。



 トキたちは定められた位置に歩いていく間、客寄せとして、道行く人に声を掛けていたけれど、ほとんど無視され、チャートの呼びかけについてきた女の人が二人、イトランゼに呼び止められた男の人が二人に女の子が一人、合わせて5人がチャートやイトランゼを囲んで会場に歩き始める。

そしてトキの呼びかけに答えたのは0人。

0?トキはちょっと不満そうに後ろ頭を掻いていて、壁を蹴ったから、ワタシはちょっと恥ずかしくなって、手近な顔見知りや男の人に声を掛けながら歩く。

「ワタシ彼らの公演を見に行くんだけど、あなたも来る?」

「おやレリーさん、噂ではそこの男と恋人だとか」

「そうね」

「それはいい!あなたほどの女性が愛するお方だ。

公演はさぞお上手でしょうな」

「ええ、まあそうね、期待してて、あらあなたは?」

「初めましてカブラドールです。素晴らしく綺麗で可愛らしい方ですね!これほど美しいプッチアを纏ってる方は初めて見ました、載ってるオモチャも華々しい、お名前は?」

「ありがとう、ワタシはレリー、あなたの金のたてがみの帽子も美しいわ」

18人集まったから、その人たちを連れて、トキの後ろに付いていく。

これで少しは格好ついたかしら。

「……人集めたわ」

 トキはさっきから気にして振り返っていたけれど、まるで今気づいたかのように見回してから表情を綻ばせる。

「おっほー!すっげえなレリー!今までで最高のお客さんの量だぜ」

トキは嬉しそうに笑っていたけど、ワタシはちょっと複雑で、内容見てからの方が良かった?って怖くなる。




『ハッハー!ヒッヒー!ひゅ~っ!お集まりの諸君!ヨードロゼ始めるぜええ!ヒッヒー

俺たちはよう!アイステっつう、足しか使わねえダンスっつうのをやってんのよ!どんなもんかって?!こうやってこうつってこう!!地味に見えるよな?見えるがよ!普通にやったら地味!でも実際は、まあみた方がはええなっ!よーし歌ってくれイトランゼえええ!』

 白磁の路地で行われた公演は暗惨たるものだった。

元々ダンスって言うものはトーリスではそんなに人気のない分野。

足は速く動かすと簡単に地面をすり抜けるから、普通は走ることさえできない。

 だから必然的に足では激しい動きができず、腕のダンスが主流となるのだけれど、ダンス自体地味なことは否めず、物凄く腕のある数人くらいしか中央通りに出てきていない。

それよりもトーリスのダンスで人気があるのは、観客も一緒になって踊るもの。

トーリスの人たちは衣装が物凄く派手だから、歌に合わせて全員で同じダンスをすると、圧倒的に華やかで美しいのだ。

ワタシも参加したり、外から見たりしたけど、感動することひとしおだった。

 そんなダンスを見て来たワタシにとっては、速度の出ない足だけのダンスは、地味で退屈で、そんなに良いものには思えなかった。

イトランゼの歌は音痴とまでは言わないけれど、それほど上手ではなく。

熱が入るにつれて、さらに下手になって音がかなたに飛んでいく。

トキのダンスは足だけのダンスを愚直に繰り返すだけのもので、地味すぎて芸術とは言えない。

そして、チャートのは……変ねぇ、地味は地味なんだけれど、妙に目を惹く。

トキと同じ黒主体の服装なのに、マントや身体の動かし方がいいのかしら?同じ動き方でも、チャートの方が恰好よく見えるのだ。

最初はトキだけを見ていたんだけれど、だんだんとチャートに目が行って、チャートが帽子を押さえつつトキもできなかった宙返りをして、地面をすり抜けずに着地し、左手を振って深い青の光を出してからは、もうワタシはチャートしか見てなかった。

チャートって恰好いいのよね。

なんでかしら。



 トキには悪かったけれど、ちょっとトキには呆れてしまって、リベーに戻ってからワタシはトキに恋人のフリを止めるように言って、それをイトランゼとチャートに話した。

イトランゼが口をはしたなく開ける。

「恋人が、嘘?」

 イトランゼがトキを睨む。

「トキィ!」

「んだよ?」

「またあんた小手先の手を遣ったわね!ちょっと来て!」

「おうやめろ、摘まむな、恋人の嘘ついたのは謝るがよお!俺だってもちっと客増やしたかったんだよ!」

「いいから来なさい!」

 トキはイトランゼに連れて行かれて、ワタシの前にはチャートが残される。

チャートと二人きりね、リベーは狭いからちょっと緊張する。

「レリー」

「何?」

「君、もしかして街でもトキに恋人のフリさせられた?」

 声もいいけど、とりあえず様子見に人形の頭を二度つついて、そうだよって頷かせる。

人形はそのまま光り輝いて、綺麗な音色を奏でてから、宙を回って戻る。

それに反応して欲しかったけど、「トキのやつ」ってチャートは苦笑して、あとはひたすら窓の外を眺めてた。

喋らない人なのかしら?

ワタシはそう思ったけれど、チャートの表情は涼やかで、喋らなくても苦痛じゃなかった。

なんとなく格好いいのよね、この人。



ワタシはそれからもバラ庭園には戻らず、チャートたちのいるリベーで過ごすことにした。

 バラ庭園は今はワタシの気分を不快にさせるし、どうせカトリーヌとも喋れない。

 だから、ここでチャートたちと居た方が楽しい時間を過ごせるから。

 トキよりチャートの方が気にいってしまったので、ワタシはトキに好かれる必要もなくなって、イオの現状を話すことにした。

「みんな、聞いて」

「ん?んだよレリー」

 リベーの狭い室内にはチャートもトキもイトランゼもいて、老と子らの光球がたくさん浮かんでいる。

ブレンダンに浮かんでる小さな光の球は、寿命を迎えて消えた人の魂で、それが男女のむつみを通して命を吹き込まれるとまた子供として、生を受ける。

永遠に久遠に廻り続ける魂は、ミレの親愛の象徴。

禁忌を破った魂は、その廻りから外れて、永劫を黒の時間の中で過ごすと言われている。

だからワタシたちは禁忌を破ることができない。

 イオはこの一生を終えれば、また老と子らの光球になり、芸術や人のお喋りを眺めながら、次の生を待つことになる。

でも、いくら永劫に廻る生命だからって、今のイオを苦痛と惨めさの中に置いておくのはワタシも心が痛む。

「トキ、イオのことなんだけど」




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