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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『価値観の違う人たち』




 玄関の入り口に、人影が現れたから、誰か来た?そう思って顔をあげる。

そこにはヴィトンドレスにティアラ、3対の羽に光を宿す四色宝石の粉をちりばめた女性。

カトリーヌが立っていた。

「カトリーヌ」って叫びたかったけど、1日に一言しかカトリーヌと喋れないから、ワタシはカトリーヌのとこにプッチアで飛んでいき、すり抜けないよう慎重に抱きつく。

カトリーヌはワタシを抱き止めて、後ろ髪を撫でてくれたあと、ワタシの前にかがむ。

「レリー、あのとき詳しくはきいておりませんでしたが、あなたの禁忌の願いはイオさんを狂気から戻すこと、そうですね」

 ワタシはプッチアの人形の頭を一回つついて人形を頷かせる。

するとカトリーヌは口元をほころばせる。

「イオさんが狂ったままなら簡単に禁忌は解けます。イオさんは狂ったままですね?」

 ワタシは首を横に振る。

カトリーヌは小首を傾げる。

「イオさんはもう正気になられて、いるんですか」

 ワタシが頷くと、カトリーヌはちょっと落胆し、それから強い眼差しになる。

「そういうことであれば、イオさんをまた狂わせましょう」

 さすがにそれはって、止めようとしたけれど、ワタシはちょっと迷ってしまって、……カトリーヌがイオの部屋に向かうのを止めなかった。




 それからワタシはイオに会いづらくなって、劇にも部屋にも夜会にも行かなくなった。

イオのためを想うのならカトリーヌを止めるのが正しい。

でも、ワタシはカトリーヌを止めなかった。

 イオのことは心苦しかったけれど、心苦しさを和らげるように、ワタシはトキのことを空想して、バラ庭園の休息所で幸せに浸りながら、トキと話したことを思い出し、足をパタパタとしていた。

明日になったらトキとの約束、約束。


「レリー、劇に行ってくるね」

 唐突に聞こえたイオの声にワタシはびくっとして身体をゆっくりと持ち上げる。

前にはいないから、振り返るとイオがほとんど泣きながらカトリーヌと歩いていて、ワタシは恐々とプッチアのお城を光らせて返事を返す。

 イオは今日も明日もあの劇で惨めな思いをして過ごす、その辛さを想像すると、ワタシの心は苦しくなって、イオを見ていたくなくなる。

早く狂ってしまった方が、イオにはいいことかもしれない。

 ワタシが視線を逸らすと、イオが慌ててワタシに感謝を述べる。

「レリー、カトリーヌから聞いたの、私を助けるためにね、禁忌を結んでくれたって、ありがとレリー、ごめんね、カトリーヌと話せなくして」

 いい子なのよね。

イオはいい子だから狂うまでの過程なんて余計に見ていたくない。

「気にしてないわ。劇頑張って」

「うん!私ね、醜くてね、友達いないから、……レリーがね、許してくれて良かった。あ、醜い服着ててごめんね、もう見なくていいよ」

 当然だけどイオも変わったわね。

最初は自分から醜いなんて言わなかったけど、今は自分で自分を卑下するのが自然になっていて、それが悲しく思えた。

そういえばワタシ、イオにトキやスミのこと伝えてない。

 だからイオは自分が独りぼっちだと思っているのかも。

……あなたにも大事に思ってくれてる人はいる。

 そう伝えてあげたくなって、でも、言い出せないままイオはカトリーヌに促され劇に行ってしまう。

禁忌で束縛されたイオが、狂うまで続く狂乱の歌劇。

 ワタシはその罪悪感に耐えきれず、逃げるようにトキとの会話に想いを馳せた。




 カトリーヌとも一言しか話せないワタシは、話す場所がなくなって、トキと会うことが唯一の楽しみになった。

 トキと会う約束をしたのはトーリスの中央通り。

 ワタシは別の場所を提案したのだけど、トキはワタシとはトーリスで会いたいようで、トーリスの通りの中心で会うことになった。

 トキはどこ?あの服装だから、罵られてないといいけど。

白を基調とした街並み、黒主体のトキは鮮やかなトーリスの人たちの中では浮いていて、散々嫌味を言われていた。

トキの反論が聞こえる。

「おい、俺の服の何が悪いんだよ!ぎゃーぎゃー言ってんじゃねえぞ」

「トキ」ワタシがプッチアに乗って空から降り立つと、トキは笑顔を見せて、助かったぜって早足で駆け寄ってくる。

 そして困ったように囁いてくる。

「なあレリー、悪いがここで会う時、君とは恋人ってことにしてくれないか?」

 恋人?一瞬嬉しかったけど、唐突すぎて、つい聞いてしまう。

「なんで?ワタシ、あなたとまだ何回かしか話してないし、あなたイオが好きなんじゃ……」

「いやいや、トーリスのやつらうるせえんだよ。

ほら俺さあこんなナリだろ?こんな通りで待ってると、罵られまくって疲れてくるんだよ」

 罵られてって。

「呆れた。だからあれほどトーリスはやめた方がいいって言ったのに」

「わりぃな俺の考えが足りなかったわ、で、君が俺を嫌なのはわかってっけどよ。

待ってるときのために、恋人ってことにしてくんねーか?な?な?イオを助ける仲間だろ」

 ワタシとトキが恋人?

「……いいわ」

「おっしゃあ!恩に着るぜ」

そう言ってトキはワタシの肩を抱くと集まってる人たちに向かって、宣言する。

「おうおう!トーリスの君ら、よぉーく聞けよ!この子が俺の女だ!可愛いだろ?トーリスで一番綺麗な女だぜ」

 集まってる人たちがどよめいて、自分の頬が真っ赤になるのがわかる。

恥ずかしいけど、信じられないけど、トキが肩を抱いてくれたのと、綺麗って言われたのが嬉しくて、胸の中がパクパク言って顔があげていられない。


それからワタシはリベーの幾つかに連れて行かれ、トキの友人たちに会っていった。

トキの友人に会うたびに、トキがワタシを恋人って紹介して、トキの友達が驚いて、感嘆して、ワタシはもう上手く話せなくて、でも一応ちゃんと挨拶はして、次のリベーに。

それを何回も繰り返して、最後のリベーにはトキの他に一人の男の人と、女の人が一人いた。

「こいつが俺の恋人のレリー、すっげえ可愛いだろ」

「初めまして」

緊張しながらワタシが挨拶すると、女の人と男の人が目を見張る。

「トーリスでも最上位らへんの子じゃない。綺麗すぎて恋人には見えないわ」

「明日には別れてそうだ」

「うっせえな、んでレリー、この赤いのがイトランゼ」

「初めまして、レリーちゃん、私はイトランゼって言うの」

 イトランゼの出で立ちはランピスとトーリスの中間くらい。

長く美しい亜麻色の髪、それを赤い花の髪飾りが彩りを与え、鮮やかな赤橙の二枚重ねのドレス、アクセントのラピスラズリのペンダントにダイヤの指輪。

色彩は豊かで派手だから、それなりには見れるけれど、輝く装飾も珍しい装飾もない、ありきたりな服装。

ランピス上位ではあってもトーリスには入れなさそうね。

トキの友人だからおざなりに褒めておく。

「ランピスの人ね、見れなくはないわ」

 イトランゼは眉を跳ね上げる。

「あ、そう!それ嫌味?私怒らせようって?」

 口の開き方はまあまあね。

イオよりは下手だから、ランピス中流くらい?

中流だろうけど、一応お世辞で上流って言った方がよさそうね。

「正当な評価じゃない、あなたランピス上流の人間ね、地味なら地味って言ってるわ」

「嫌味じゃないのかあ、真っ直ぐなのは許す」

 上流が嬉しかったのか、イトランゼが怒りを解いて、トキが苦笑しつつ、もう一人の男の人を紹介する。

「んでこっちがチャート」

「よろしく、俺はどこの通りに見える?」

 どこの通り?チャートと言われた男性は、トキと同じ黒主体の格好だった。

短髪よりちょっと長いブロンドの髪で切れ長の瞳、黒いつば広の帽子に、黒いジャケット、黒に深い青の紋様のついたマント。

真っ黒の見栄えがするように要所要所に銀飾りがついているけど、じみな格好。

でも不思議なことに妙に見れる格好だった。

「地味なのに変ねえ、気持ち悪くならないわ。口の開き方も綺麗だけど、でも見た目だけならカラリスの人ね」

「カラリスか、よく言われる。でもね。こう見えてもオレは君と同じトーリスの人間なんだ」

「え」……今度こそワタシは固まってしまう。

こんな地味な人がトーリスの人間?ありえない。

黒は人気ないし。

ワタシが固まると、チャートと言う男の人が笑い出し、イトランゼとトキもお腹を抱える。

「ひっひ、な?チャート、やっぱそう言われただろ?君は、カラリスの人間だ」

「笑うなよトキ、俺も気にしてんだから」

「あー?自分でも笑ってたじゃねえかよ、ひっひ」

「笑うなら、トーリスの人って言うのは冗談?」

 冗談よね?って思いながらそう尋ねると、イトランゼがチャートを肘でつつく。

「ほら見せなさい見せなさい、トーリスの証拠」

「嫌だね。見せるのはダンスの時だけにさせてくれ」

ダンス?なに。

「いいからやれって、俺の恋人だぜ?」

「たく。君、一瞬しかしないから、ちゃんと見といて」

「え、ええ」

 チャートが左手を強く振ると、左手が深い青色に輝きだし、黒い服や肌の要所要所に深い青の光の紋様や線が浮かび上がる。

それは、適度に黒と混ざり合って、衣装を煌びやかにし、物凄くカッコ良くなっていた。

「カッコ良いわね」

 チャートは照れてまた青色の光を消し、また地味な姿に戻る。

イトランゼがニヤニヤと笑う。

「レリー、トキよりチャートの方がいいんじゃない?」

「え?」「あ?」

「トキねこいつねえ!チャートと知り合ってから、憧れちゃって、君とか言いだしたのよ。それまではお前だったくせに」

「おい、やめろよイトランゼ!昔のことだろ」

 チャートがトキの憧れの人?

 チャートがふざけ始める。

「なんだ、そうなのか?君は俺に憧れてたのか、いいこと聞いた。握手しようか?トキくん」

「馬っ鹿、んなわけあるかチャート!イトランゼ!お、おい、レリー、笑ってんなよ」

「あははっ、変な人たち」

何がおかしかったのかはわからない。

上辺を重視するトーリスの会話ではこんな開けっぴろげなやり取りはほとんどなくて、ワタシは新鮮な驚きを覚える。

カラリスのトキと、ランピスのイトランゼと、トーリスのチャート、そんな通りの違う組み合わせは、ワタシの心を楽しくさせた。



 結局イオのことは何も話さないまま、その日は別れて、ワタシはほんのちょっとの充足感と、幸せな気持ちを満喫していた。

 チャートやイトランゼのことも気に入ってはいたけど、それよりもトキに恋人って言われて、肩を抱かれた感触を思い出す。

トキの手のひらは幅広で、こんな感じだったかしら?

自分の手のひらをトキの手に見立てては、自分の肩に触れさせて、トキの声を思い返し、じんわりとする。

 それを楽しみながら、なんとなくチャートのカッコ良くなった瞬間も思い出してしまって、それはあえて頭から締め出したりした。

でもなんで恋人のフリしたのかしら。

トキはワタシにどうしてほしいの?

それはわからないけど、とりあえず、4日後を楽しみにしてると、ワタシのいるバラ庭園の休息所にカトリーヌが優雅に歩いてくる。

カトリーヌが来るとイオを狂わせる過程を聞かされるかもしれないって、怖くなる。

「レリー、お話ししてもよろしいかしら?」

ワタシは沈鬱な気分になりながら、頷く代わりに、プッチアのお人形の頭を二回つついて、そうだよって頷かせる。

人形はそのまま光り輝いて、綺麗な音色を奏でてから、宙を回って戻る。

 カトリーヌはその様子に目を細めてからワタシの前の椅子に腰掛ける。




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