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ミチノカナタ~~物戻る街で~~  作者: 流氷陽北
第二章:お願いの仕方は数あれど……。
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『そして禁忌は結ばれて』




『私はミレと、これより話す禁忌を結びます。

劇には休みを除き必ず出ます。

どのような台詞であれ、覚えてそれを劇で必ず言います。

また台詞以外の言葉を劇中で言いません。

その3つの禁忌のどれかを破ったのなら、ミレは私を視界から外してください。

私の存在はブレンダンから消え、黒の時間の中で永遠を過ごすでしょう。

ミレが私を見ている限り、私はこの禁忌を守ります』


 言いながら思う、これで私はトーリスと劇に一生を縛り付けられるんだって。

あんな嫌な劇に一生?それを考えた瞬間に、ものすごく嫌な気持ちになって、禁忌を結び終えたあと、私は恐る恐るカトリーヌに尋ねる。

 カトリーヌにはなんで?とか、どうして?とか、色々聞きたいこともあったけど、もう一度これを聞きたくなった。

「カトリーヌは私といて嬉しい?本当に嬉しい?私ね、ずっとトーリスに」

……居なきゃいけないんだよ?


「はい、それはもう大好きでございます」

 そう言ったカトリーヌの笑顔は綺麗で、私は何も言えなくなった。




 束縛されるのはなんてヤなことなんだろう。

 ブレンダンは1日あれば横断できる、そんなに広くない世界、なのに、私はその中のトーリスにしか行けない?

 そんなの嫌だけど、自分を追い込んでしまう前に明るい方を考える。

でも、トーリスでもきっと楽しいよね。

よく考えたら、劇は12時間ごとだし、たまに休みもあるみたいだし、夜会の時みんな優しかった。

 それにそれに神マネ講座だってトーリスの物はほとんど試してないから、やることは沢山ある。

 だからきっと楽しいよね?

虹色石も劇に慣れてきたら渡してもらえるし、カトリーヌも私を大好きって言ってくれた。

そんな明るい言葉を、ずーっと自分に言い聞かせてる内に、なんだかそんな気がしてきて、ようやく心が落ち着いてくる。

 一番気に入ったバラの館の玄関で水に揺らめく光の流れを眺めてる内に、その時間が過ぎて、過ぎて、窓の外の空の色が赤とオレンジ色に変わり、私はまた劇場に向かう。



 劇場の裏の部屋に着くと私はカトリーヌから、台詞の練習をさせられた。

今日は二つの台詞だけで、トーリスの人への感謝と、自分の醜さを謝る言葉。

感謝は別に良かったけど、醜く、不快にさせる、こんな服装で街に出てごめんなさいって謝るのは、すごく心がモヤモヤした。

 私が泣きそうな顔をしていたからだろう。カトリーヌはちょっと申し訳なさそうな表情を見せる。

「言葉にするのはお辛いとは思いますが、劇の間だけですから、気を強く持って」

 私を慰めるカトリーヌは綺麗で可愛らしくて、私の気持ちなんてわからなさそうだから、ちょっと複雑。

カトリーヌはすごい綺麗で可愛らしい人だから。

こういう人からみたら、私のこげ茶色セットなんて、醜くなるよね。

「……はぁー、ね、カトリーヌ」

「なんでしょう?」

「劇に、スミとのこと増やしてくれた?」

「もちろんでございます、イオさんとの約束ですから」

「ホント?!」

「はい、だから台詞がんばってください」

今日の劇でスミとの関係がみんなに伝わる!

それがすごく嬉しくて、劇が始まるまで笑顔で台詞を練習した。



 劇が始まり、幕が開くと、居並ぶ観衆の視線に晒される。

劇の最初は昨日と同じように、観衆の前で貶され、侮辱されたけど、私にとっては何時ものことだから、あっさりと聞き流し、劇中でスミとのことが始まるのを今か今かと待った。

 地味でも馬鹿にされてても、やっぱり私を好きな人は居てくれて、私が一人じゃなかったんだよ?って、馬鹿にしてる人たちにも伝えられるのは、私にはすごい嬉しいこと。

スミの暖かさや気高さは私の支えで、誇りでもあったから、そのスミのことを伝承に遺せるのはものすごーくワクワクした。

 私を一通り貶す言葉が終わると、舞台袖からスミ役の女の人が出てきて、私に近づいて来る。

その服装はトーリスの人たちほど立派ではなかったけど、私よりははるかに派手で、まあだいたいは同じくらいな感じだった。

スミの方がもっとセンスが良い服だけど!

 カトリーヌの説明がそこで加わる。

『さて、イオの母のスミはイオと比べるほどではございませんが、大層醜い女性でございました』

 醜い?その言葉を頭が理解した時、舞台袖にいるカトリーヌをついまた見てしまう。

え、醜い?スミが?

『スミは見た目も醜ければ、心も醜く……いえ、それは酷ですね。こんな子供を産めば当然の反応でありましょうが、光の球よりイオがこの世に生を受けた時、母のスミは醜い出で立ちのイオを嫌悪し、睨みつけたのでありました』

 なにそれ!スミは睨んだりなんてしてない!そう叫びかけて、自分がミレと結んだ禁忌を思い出して、口が開けなくなる。

 劇中は台詞以外の言葉を話しちゃいけない。

呆然としてる私の目には、凄まじい形相で私をギリギリと睨んでるスミ役の女の人が映ってる。

こんな表情スミはしない!

『それだけならまだ、イオを産んだ当然の反応と擁護できなくもありませんが、スミはやはり心が醜かったのでありましょう』

 スミの心が醜い?なんでそんなこと言うの?

何人かの観衆がそうなのか、と声を出して、私は首を横にぶんぶん振る。

違う違う!

『もともと誰にも相手にされていなかったスミは、ひとりぼっちの鬱屈からイオと過ごすことに決めました。

 しかし、それは醜い者同士、同族嫌悪の情が働き、スミはイオの醜い見た目をなじり、罵倒を幾度となく繰り返し。そのあまりの執拗さに、イオの子供時代は哀れ哀れの一言でございました』

 哀れ?私の子供時代が?狼狽える私に、スミ役の人が口を開く、『こげ茶色の泥め、醜い、醜い、醜い!』

違うもん!違うもん、スミはこんなんじゃないもの!

違うもん違うもん、こんなのスミじゃない!

『ああ、哀れなイオ、街でも母親にも罵倒されるものですから、イオは自信を無くし、彼女の子供時代の口癖はこれでした』

……違うもん、違うもん!

首を振り続ける私に、カトリーヌの声が続ける。

『彼女の子供時代の口癖はこれでした。

彼女の子供時代の口癖はこれでした』

 あ、私の台詞?ここで言わなきゃダメなの?でも言ったらスミが、スーッと心が冷える。

禁忌って言葉が回って、私の心は嫌がってたのに、口が台詞を紡いでいく。

み、「醜く、無様で、不快にさせる、こんな服装で街に出てごめんなさい。みなさんの視界に入ってごめんなさい」

『ほら聞きました?スミはなんて酷い女でしょう。普段誰にも相手にされてない捌け口を醜いイオにぶつけ、15年もの歳月をイオを罵倒することに費やしました。スミと言う女は他の人間には良い顔をし、醜いイオには罵声を浴びせる。最低の人物でありました。さて、引き続き、街でのイオの生活に入ります』


 なんでなんでなんで?劇が終わると、心の中が冷たくなっていって動揺して、めちゃくちゃになった気がした。

 スミが悪いことになっちゃうの?あんな優しいスミが、私を虐めてた人として伝承になるの?

私が虹色石動かしたから?

 そう思ったら罪悪感がいっぱいになって、喉が詰まって、胸が苦しくて、舞台が終わって袖に引っ込むなり、力が抜けて膝を落としてしまった。

カトリーヌのドレスが視界に映っていて、話したくはなかったけど、私は、縋るような気持ちで言葉を紡ぐ。

「ね、……ね、カトリーヌ」

「なんでしょう?」

「スミね?あんな人じゃないよ、私にね、すごく優しくしてくれて……嫌なことなんて一回も言わなかったの」

「そうなんですか?」

「う、うん!だから、だからね?話しを変えてほしいの、私のことはね、どんな内容でもいいよ?でもスミのことはちゃんと伝えて」

「イオさん」

「なぁに?」

カトリーヌがしゃがんで私と目を合わせる。

「……まだ劇に馴染めていないようでございますね。明るいとこがあったらイオさんではございませんよ」

「え?」

「そんなイオさんが劇ぴったりの人間になれるように、次までに、台詞をふたーつ覚えて来てください?イオさんに似合う台詞を増やしますから」

「どんな?あのね、」

「『スミ、私あなたのこと恨んでるの、だから悪口広めたの』と『なんて私は醜いんだろう?あぁ綺麗な人たちが羨ましい、私はいつもあの方たちのようになりたかった』このふたつ、ちゃんと言ってくださいね?あなたが早く劇に馴染めるように」



 それから私は、カトリーヌに見つめられながら、スミを嫌う台詞と、自分を貶す言葉を繰り返し繰り返し練習させられた。

そうすると、胸のむかつきがひどくなって、言いたくないのに、でも禁忌を思い出して仕方なく練習した。

「ほら、イオさん口が止まってございます。ほら劇のスミに向かって」

「スミ、わ、私あなたのこと恨んでるの、だからわる、わる」

カトリーヌが綺麗な可愛らしい顔を笑顔にして私を見つめる。

「悪口を?ほら言って劇の台詞ですから」

「わる、悪口を広めたの」

「悪口を伝承に残したんだから、酷い広めかたですね」

「ううん、そんなつもりじゃ」

「彼女からみれば同じこと。さあもう一度」

なんでこんなことになったんだろう。

私カトリーヌに何かした?

なんで私はスミの悪口言ってるの?

こんな劇見たらスミはどんな顔するんだろう?

私にずっと優しくしてくれたのに、伝承では、私を貶す役になって。

「ごめんねスミ、ごめんね」


「謝る台詞なんてございませんよ、さあ、もう一度、スミ」

「スミ、わ、私はあなたのこと恨んでるの、だから悪口広めたの」

禁忌なんて結ぶんじゃなかった。

虹色石も渡せば良かった。

劇の台詞そのまましか言えないんじゃ、まるで私まであんな内容を認めてしまってるみたい。

ごめんねスミ、こんな劇、見ないでスミ。

そうやって悩んでたら、すぐに空は暗くなっていって……また劇が始まる。



 今度の劇は、スミと私が喧嘩したり嫌い合う場面が増えて、わたしは心の中をぐるぐると引っ掻き回されるような気持ち悪さをこらえながら、劇を続けた。

一番辛かったのは、今回から増えたスミ役の人の台詞だった。

「イオ、なんで私の悪口を街の人に広めたの。ずっと一緒にいたのに、あんなに優しくしたのに」

確かにそう、私が伝承になんか残ったせいで、スミが醜く酷い人間として、伝承に残されてしまう。

それを謝りたいのに、禁忌が怖くて別の言葉は出なくて、私の台詞はこう続いてしまう。

つっかえつっかえ言葉を出す。

「スミ、……私あなたのこと恨んでるの、だから悪口広めたの」

「まあ!なんて酷い子なの?見た目も醜ければ心も醜い、もうあなたには愛想も尽きました。さよなら、イオ」

『こうしてイオが祝福の日を迎えた日イオとスミは別れたのです』

 ごめんなさい、ごめんねスミ、なんで私はこんな酷い劇しなきゃいけないの?



 そんな劇が続くと、私はだんだんとぼーっとして何か大事な物を置き忘れてしまったような気持ちになった。

 胸の中に圧迫感があって、身体の動きがじょうずにできない、練習しなきゃいけない?

スミの悪口言って、自分の悪口言って……

スミが劇みないといいな、見てるよね?もうみて傷ついてるかな。劇までの時間が近づいて来る。

来る来る…カトリーヌが練習させに来る来る。

そんな、言葉ばかりが胸を圧迫して、薔薇の館の部屋から動く気力を無くしていた。

 そうしてる内に部屋の扉が開く。

カトリーヌかなって思うと、身体がビクっとしてしまったけど、扉を開けたのは、カトリーヌじゃなくて、プッチアとオモチャが印象的なレリーだった。

いつもの気怠げな表情のまま、すっと入り口に立っている。

ずっと私を無視してたその子が部屋に入ってきて、私の前に立ちベッドにぼんやりと座る私を見下ろす。

「イオ?」

バカにされるのかなって思ったら怖くなって、私は膝をひく。

「……」

「顔上げて」

「……」

「ほら顔上げて、あげるの、顔」





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