『トーリスからのお迎え』
誰だろう?近づいてきた3人の衣装はすごく派手。
衣装の全てが七色に発光し、それが刻一刻と移り変わっていく男の人。
背中から広がる3対の布に、光を宿す四色宝石の粉を淡く散りばめたヴィトンドレスの女の人。
プッチアと呼ばれる、光る綿を可愛い服の周りに沢山浮かばせて、その綿の上にオモチャのお城やステッキ、お人形を載せた女の子。
こんな派手な服の人たちはトーリス通りくらいにしかいないから、私はどぎまぎとしてしまって、ついベンチから立ち上がる。
「行こ、トキ、あ、どうぞ、私たちもう行くから、座っていいよ」
トキもため息を一つ吐いて立ち上がったものの、女の人たちはなぜだか私に声を掛けて来る。
最初に口を開いたのはプッチアにオモチャを載せた女の子だった。
「行く必要はないわ。イオを迎えに来たの、さっさと来て」
「私を?」
「そうよ」
女の子のピンクと白の服の周りには沢山の光り綿が浮かんでいて、私はそっちが気になってしまう。
「わあ!服キレイ」
「どうも」
「すごいねー、普通のプッチアより光ってる」
わ、近くで見てもすごい綺麗。
このオモチャどうやって綿に載ってるんだろう?
浮かんでる。光ってる!
触ってもいいのかな。
今触らなきゃ一生触れないかも?
触っちゃえ。
「いやーっ!触らないで、茶色!いやあっ」私が伸ばした手を女の子はすごい泣きそうな顔で払って、ちょっとショックを受ける。
触られるのも嫌なの?
あ、と、勝手に触ろうとしたのが悪かっただけだよね。
「あ、その、勝手に触ってごめんね。あの、茶色って言うけど、わ、私だって好きでローブじゃないもん。
プッチアだって欲しかったから、一回だけ触っていい?」
「いや!触らないで単色!近寄らないでえ、カトリーヌ、この子ほんとにイオ?!」
プッチアの女の子は3対に広がる布とヴィトンドレスの女の人の後ろに隠れてそう喚く。
よく見ると女の子の両足は地面についてなくて、プッチアとオモチャで浮いてるんだって思うと、羨ましくて泣きたくなる。
「近寄るのもダメなの?わ、私が地味だから?それとも他の理由?」
「ひ、喋らないで、じみな人の声は聞きたくない」
喋るのもダメ??
「喋るのもダメなの?い、いいもん慣れてるし。私には神マネ講座があるから、見た目だけの子には負けないから!」
「これがイオ?!イオ?じみ……、か、カトリーヌ、ロービエン、帰ろ?こんな、じみなのに近寄りたくない」
なにそれなにそれ。本当に嫌なの?顔は同じくらいなのに!
「わ、私だってね!近寄りたくないもん、あなた地味だってバカにするからぁ!わたしずっとこれなのにぃ、あ、あっぢいけええ、ばかああ、うぇっええぇんええん」
ひどいひどい、あの子ひどい。「わあああんああぁん」
わたしだって綺麗な服が良かったのに。
「ぶっほ!ガキだなあ~~、お~よちよち」
えぐえぐ泣いてたらトキに頭を撫でられて、なんだか居たたまれない気分になる。
泣きやまなきゃって思うけど、涙が止まらない。
涙を拭いた自分の手がキラキラ光ってそれでまた泣きたくなる。
そもそもこの人たち何しに来たの?
なんでバカにするの。
泣くのに一生懸命になってしまって、何も言えないでいると、トキが話をしてるのが聞こえる。
「このイカレた嬢ちゃんを迎えに来たっつてたけどよ、キミら、派手なトーリス通りの人らだろ?なんでだよ、おかしーだろ、イオはカラリス通りでさえ、地味でのけ者にされてるんだぜ?」
それには、ロービエンと呼ばれていた綺麗に揃えた口髭を生やした男の人が答える。
「ハッハッハ、そう思うかね?そう思うのは仕方がない。
彼女の服装は群集を不快にし、トーリスの品格を地に貶めるだろう。
しかしながら、だ。
見るに堪えない服装でも、明確な理由があれば異なる。
ビクーの語る神話を紐解いてみなさい、そうすれば自ずとわかるだろう」
「ん?つまりどういうこった?」
「まさか君は、語り部のビクーを知らないのかね?
彼の話はいい。光源を仰ぐような高音は耳に心地よく、穏やかな低音は地を染める青藍の輝きのようだ。
その美麗なる声音で謡われる248話に連なるビクーの語りの83話に、この話はある。それでわかるかね」
ビクー?
聞いたことはあるけど、5話までしか聞いたことない。
考えてる内に涙が引っ込んでしまう。
こんな風に、遠回しに喋るのはトーリス通りの人に多いってスミに聞いたことがある。
内容がちょっと遠回りして、意味のない装飾が入った方が、教養があることになってるって。
トキはバカにされるのが嫌だったみたい。
「あー、悪ぃな、キミとは話したくねえや。
俺伝承知らないんだよねん。それよかカトリーヌったっけか、キミが話してくれや」
トキはそう言って、背中に広がる3対の布、ヴィトンドレスの女性に尋ねる。
その女性は17~19才くらいで、ティアラを載せた髪をラフなアップに纏めてカールした髪が多少横とか前に落ちてきてる、綺麗と可愛さが同居してるような見た目をしていた。
今喋ったロービエンと顔を見合わせて肩を竦めてから、呆れたように口を開く。
「わたくしに何を話せと?ロービエンがした話は、トーリスでは常識とも言える話でございます。
ビクーは十字の石の森でも著名な上、カラリスランピス、トーリス分け隔てなく接する寛大なお方です。
もしあなたが人並み程度にでも教養を得、伝承を聞いていたならば」
「あーわかんね、俺さあ俺を見下す奴嫌いなんだよねん、そっちのプッチア嬢ちゃん名前は?」
「レリーよ、あなたも地味ね、鎖じゃ宝石にならないわ」
「そういうのは聞きたくねえよ、で!キミらはなんでイオを迎えに来たんだよ?おかしーだろ」
それでレリーは何かに気づく。
「もしかして、あなた単色の恋人?じみじみ同士お似合いね」
トキと私が恋人?ちょっと想像してみたら、曖昧な感じだったから何とも言えなかったけど、トキはどうかな?
そう思ってトキをチラッと見ると、トキはそれが嫌だったみたいで、頭を抱えて絶叫する。
「おいーっ、なんつった今?俺とイオが恋人?ねえよ!いい加減わかったぜ、見下すのがトーリスの風習なんだな!んだよ?ここはカラリスだぜ?俺が標準だ、ちゃんと話しろよ。トーリスになんでイオが呼ばれてんだよっ」
わからなくもないけど、そんなに嫌なら、トキとはあんまり話さなくてもいいもん。
私だって恋愛はしないけど、綺麗な服着たかったのに。
レリーはトキをまじまじと見る。
「あなたが標準?カラリスは最悪ね、イオ、説明したらすぐに来て、ワタシここにいたくないから」
レリーはそう疲れたように言って、投げやりに説明を始める。
「イオがトーリスで歓迎されるのはね、ビクーの語りの83話にある、石の雨の話をもとにしてるの。
石の雨はミレの喜びの現出、ミレが気に入った人を見つけた日に石の雨が降るのよ。
その時にミレは気に入った人の前に姿を現して、いずれ塔の中に呼ぶらしいわ」
「ミレは気に入った人のとこに出てくるの?」
「そうね、その人のところにはそのあとも時々ミレが姿を表してお話ができるの。
言わば、神様の友人ね。
だから、トーリスではその人が現れたら、神様のお友達として丁重に扱うことになってるの。
伝承では、偉大な芸術家の前にしか出てこないって言われてるのに、あなたの前に出て来て驚いたけど、物を動かすなんてすごいことしたんだから、みんな今は賞賛してるわ。
見た目は見るに堪えないものだけどね」
じゃあミレは本当に神様で、それで私はトーリスに呼ばれたんだ。
でもトーリスには嫌な思い出しかないから、あんまり行きたくない。
「でもなんでレリーは私がミレに会ったこと知ってるの?」
「だってあなた、詩人に聞かれた時に、話したんでしょ?」
そういえばさっき詩人の人に囲まれて、伝承にするからって、私が生まれてからのことを細部まで聞かれた。
その時ミレの話もしたから、その話がトーリスにも伝わって、それで呼ばれた?
レリーの話が終わると、カトリーヌとロービエンが私のとこに歩いて来て、行きましょうか。って両側を囲む。
トーリスの人は上品だけど、なんか恐い。
「本当に私トーリスに行くの?服地味なのに」
「そうです。一生涯あなたはトーリスで過ごします」
「トーリスの名に恥じぬ歓待を致しますね、ええ生涯に渡って」
生涯?その言葉に耳を疑う。
「え、待って、一生?1日じゃなくて?」
一生?一生?トーリスに?虹色服のロービエンが自分の胸を叩く。
「そうですとも、あなたはミレの友人だ。生涯、丁重にお出迎えします。どのような装束であれ、ね」
最後の、ね、になんかバカにするような響きがあって、私はもっと怖くなる。
だってトーリスに行く度に罵声を浴びせられてた私が、いくら神様の友達だからって、トーリス通りで暮らすのは……。
そしてカトリーヌが言う。
「明日から、あなたには舞台にも出て頂きます。
芸術家とのよしみも作り、我々観衆とも、お付き合い頂きます、神様のご友人ですから、演目もさぞや立派なものになるでしょう」
カトリーヌの微笑みは暗いものがあって、私はイヤイヤをする。
「なんで?なんでわたしなの?私、トーリス通りには合ってないもん」
ロービエンがわざとらしく驚く。
「おや、トーリス如きでは物足りないとおっしゃられますか、さすが神のご友人、ご尊大だ」
「ち、ちがいます。そうじゃなくて、私そこでずっとバカにされてたのに、なんで呼ばれるの?」
カトリーヌが涼やかに答える。
「バカにしたことはございませんよ。そもそもあなたはトーリスにお越しになったことがないではありませんか」
「行ったもん三回!でも全部バカにされて」
「それはあなたの態度によるものでございましょう?」
「態度?私がね、悪いことしたっていいたいの?」
「ええ、トーリスには落ち度のない人間を貶すような醜悪な品性の方はおりませんから」
「いたもん」
「あらまあ、口の悪い」
「ハッハ、なるほど、これは手厳しい。イオさんは、我々の品性が醜悪だとおっしゃいますかな?」
「そう!だって馬鹿にするから!」
「それならば、トーリス全てにイオさんのお言葉を伝えましょう。
トーリスの人間の品性は醜悪で変わらねばならぬと。
もてなすためには醜悪な我々が変わらねばなりますまい、それでよろしいか」
トーリスの人全員に?
「そういう意味じゃ……じゃない……です」
「ならば撤回頂けますかな?トーリスが醜悪なのではなく、醜悪なのはご自身の今の態度であると」
う、嫌だけど、トーリスの人全員に醜悪って言っちゃうのは……。
本当に悪口言われたのに。
なんで私が謝らなきゃいけないの?
「そのね、ごめんなさい」
「ハッハ、そうでしょうとも、ミレの友人であれ、間違いがあれば謝らねばなりません。どちらにせよ、あなたに悪態を吐く相手はもういない。あなたは神に愛されているのですから、堂々としていればよろしい」
トーリスの人はなんとなく合わない。
この二人と話してても嫌みでチクチクするし、プッチアの女の子はもう私を見ようともしない。
私ってこれから本当にトーリスで暮らすの?
これから一生、こんな人たちの中で?
ローブはずっと地味なままなのに。
それはすごく不安になって、行きたくなくて私はトキに助けを求める。
「トキっ」
「あん?」
「どうしよう、私、トーリスに……」
トキはちょっとバツの悪そうな顔をしていた。
「まあ良かったんじゃねえか?カラリスでもランピスでも、バカにされてただろ、俺が来るまで友達一人もいなくてよ。
そもそも俺も友達かっつーと怪しいもんだったし。
それが君、石、動いて、トーリスで歓待されるらしいじゃねえか、幸せの絶頂だろ?良かったな」
これがシアワセの絶頂?反論しようとしたけど、トキの投げやりな態度に落胆してしまって、私はかえって言葉も反対の気力もなくす。
トキは最初から味方じゃないしね。
……私これからどうなるんだろう。
歓待してくれるなら大丈夫だよね?
トーリス、どんなところかなぁ。




