◆ 「集団創作小説」投稿用スレ 1話/groef
2【1話/groef】1230
古い一つの映画館があった。それを収納する箱もまた、古い一つの町だった。
夜が明けるまで、ある少年はその映画館に忍び込み、むさぼるようにフィルムを回し続ける。少年の目は黒くうつろである。それゆえに光源をより多く吸収する。一日の風景は終始こんな風であった。
多くの建物がそうであるように夜になると民家をのぞく電栓は止められる。
それ以前にこの映画館はもはや動いていることすら知られていない。街なかを巡る老いた警備の目を潜り抜け、別の電源が供給されていたことなど、おそらくここが取り壊されるまで気づかれることはないだろう。
少年はホコリを肺に積もらせ、すべての音をひそめるようにして生活していた。
彼が羊であれば、この建物に無造作に咲いた花のみで生き永らえただろう。
しかしそれでは、少年は会話をすることができない。
「君はそこで何をやっているの?」という質問に答えることはできない。
一字一句同じ。懐かしいことばだと、少年はおぼろげに笑っていた。
「好きな人を待っているんだ。待ち合わせ場所から一歩も動けないから、こうして冒険の映画を見て時間を潰しているのさ」
質問をした人物は無邪気な顔で、少年を見ている。
「それって素敵なことだね」
「片思い中だけどね。・・・・・・さ、とっととスクリーンの中に戻ってくれよ。続きが気になってるんだから」
「うそつけー」
そういって映画の登場人物はくるりと回転し、少年の傍から消えていった。
そして映画はなにごともなかったかのように再開された。
あるいは、少年が寝惚けていただけかもしれないが。