◆ 「集団創作小説」投稿用スレ 5話/groef
10【groef】0206
僅かに時間が残っている。
頻繁に人が訪れるせいで以前よりも隠れて過ごす時間が多くなったせいもある。
少年は繰り返し見る映画がいくつかあった。「久しぶり」というその声に大人びた口調で彼は返す。「また呼び出してごめんね」と。
「いいよ、気にしないで。あたしらは観てもらえればそれでいい。な、あんたもそうだろう?」
俳優の一人がもう一人の肩を叩く。
「私は別に……」
「またそんな照れちゃってどうするの? 現場じゃあんなにおしゃべりなのに」
「あなただってどうなの。そんな……狂言回しみたいな喋り方をここでも続けるなんて、普段は……」
「もちろんサービスだけどね」
一人目がわざとらしく笑ってみせる。少年は、無理することはないのにと思った。
「あたしらさ、この前どこまで外に出れるか試してみたのよ。そしたらもうビックリ! けっこう木の形とか違うもんなんだね。色もドス黒いわ。建物もこんなに低いとは思わなかった」
「いつのまに」少年が口にする。
「それって、さ。怖くない? 消える瞬間ってどんな感じだろう」
無口な方が答える。
「私たちはきっともう死んじゃっているかお年寄りになっていると思うけど、それとはちょっと違う。痛み。そんなに、辛く重苦しくはなかったかしら。覚えていないけど」
「ちょっとお、そこは詩的に『川のせせらぐ傍でうたたねしている』ぐらいにしときなさいって」
「嘘をいっても、しょうがないもの……」
「そうなんだ。そうか、やっぱり痛いんだね」
「ところでさ、さっきからガリガリ煩いんだけど何? これ」
「何だろうね」少年は薄く笑って答える。「そういえば聞いてよ。もう一度みたいな、と思っていたフィルムがけっこう見つかったんだ。これが一番目。……久しぶりに観たけど、これが好きだな、うん」
「ありがとう。全部見終わる前に、早く会えるといいね」
「きっと会えるわよ。で、待ち惚けのお詫びにキスでもせがんじゃいなさい」
「そんなこと、しないよ」
少年は顔を赤らめることなく台詞を思い浮かべる。今来たところ、なんてありきたりすぎるだろうか。
「物語の主人公にはなれないんだ。どうやったって」
「背景だってそんなに悪いものじゃないわよ? 脇役ほど巧い人が使われるのだし」
「あーその役回りも無理そうだ」
背もたれに深く倒れ込む。耳に届くのは映画の雑音。そして現実の奏でるオーケストラ。何もかもが壊れていく。深い海の中で。太古の時代まで遡って、その冷たさを想像して。
「ねえ、頼まれごとをしてくれないか? 新しいフィルムをセットできるかどうか。今はここから動きたくないんだ」
「物理的に無理よ……」
「わかってる。言ってみただけ」
そして少年は立ち上がってみせる。目を閉じたまま耳を塞いだまま、慣れた様子で暗闇と眩しい映像に挟まれながら。
その投射機のある部屋からは登場人物のいないシーンがたらたら流れている。映画の終わりを見る前にそれを中断させようとすると、少年は一つのフィルムを差し出された。
「ついてこなくていいのに。……えらく子どもっぽいのを勧めるね」
「そういう気分なのよ。ね?」
「まあ、多少……」
「それに実際子どもじゃない。年相応のものを見てなさい、年相応の子と一緒に」
「じゃあね」
そう言って、止める前に二人は消えていった。
少年は呟く。
「わかってるよ。言ってみただけなんだ」
少年はもう一度だけ呟く。