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005. うーぷす!!!!

   〔8〕


 で、技能類のCP振りやレベル表記が、本来の「アトラン」が持っていたキャラデータと大きく違っている点について、なわけですが。


(いちおう再度の確認もしてみましたが、技能名すなわち項目自体の存在は、一緒なのですね。まあ正確には“特殊”のアレで追加された二つ以外は、ですけども)

《その通りです。そしてこちらからの補足説明ですが、現状においては0CPとして枠だけ“予約”され技能レベルが無効になっているもののほうが標準である、となります。1CP以上振られて有効化している技能こそが例外的なのです》

(特徴のほうでも少し言及があった“技能の種”ってヤツですか。その意味合いはともかく、法則性がよく分からないのですが……)

《各種技能の知識、および技術経験に関して、「アトラン」の身の脳神経組織における深層記憶領域に圧縮保存してあるのです。それらを順当に発露させるために技能教本を配しているわけですが、あなたの意識がその身に収まって一定の馴染みを見せつつある現在、その“中身”の経験量がフィードバックされる形で混ざり合い、そして技能として発露に至るものが既にいくつか生じている……といった状態ですね》


 んっんー。

 なんかよく分かったような分からんような。

 えらく間接的に遠回りしているようにも見えるし、慎重に安全面に配慮しているようにも見える。悪いことではないんだろうが……つーかそもそも、キャラというかファンタジック前提の技能群に対して自前の知識や技術が混ざるとか混ざらんとか、そこらへんの境目なんて見分けようもないわけで。

 つまるところは、なんじゃらほい?


《これは単純に想像してみていただいたほうが分かりやすいかもしれませんね……。もし、知らぬ間に、自身のものではない知識や経験情報が頭脳の中に、それも大量に“インストール”されていたら。あなたならどうなるとお考えになりますか?》

(狂います)

 きっぱりと即答する。それ以外に答えようなどあるわけがない。

 どう考えたところで、よくても人格崩壊、悪ければ神経回路が迷走しまくったあげくに生体活動を維持することすら困難になる、そんなオチしか見えてこない。


《というわけでして、技能をなるべく有効に持たせてさしあげたいとなれば、既に使える状態として直接書き込むような危険な行為はできず、意識活動に極力影響を与えぬよう圧縮した形で“情報の種”を記憶領域の底のほうに埋め込んでおく、といった処置になってくるのです》

(なるほど……。このご配慮には、感謝すべきところと存じます。ありがとうございます)


 しかし、そうなると、現状で使える形になっている技能たちは、おれ自身のリアル生活が反映されているわけか……。あれ? ひょっとしなくともプライバシー的なものがバレバレな次第にござる? キャーエッチー!

 ……改めてキャラシートを上から順に眺めてみると、まあだいたいは由来が分かる。

 〈外交〉や〈言いくるめ〉なんかは、大学でディスカッションやディベートの訓練もやったし、バイト先やらで口八丁かました対応が必要なこともあった。それなりに経験があるとは思う……あまり自慢にはならないたぐいのものも含まれているだろうが。

 政治や経済、心理学なんて学んでいて当然だったし、演劇や演技のたぐいはまあテーブルトークRPGやってたくらいだから、ちょっと亜流かもしれないがあれも経験の内ではあるんだろう。

 〈歌唱〉については普通にカラオケかな。楽器類は……一時期ギターをいじっていたことはある。いまではちょっと恥ずかしい青春の思い出かもしれない。笛は、まあ縦笛なら日本人はほぼ吹けるだろ(リコーダー的な意味で)。この場合のフルートってのは大昔の吟遊詩人が持っていたような古式の木笛や骨笛を想定しているから、どっちというなら縦笛で正解のはずだし。ドラム系は、あれだな、ゲーセンのリズムゲーム。同じくダンスもそれでやってた(レボリューション!)。実のところ、このキャラ「アトラン」があったから音楽やダンスに興味が引かれた面もあったので、ある意味で巡り合せの妙とも言えるかもしれない。


 〈性的魅力〉が発露していないのは、誇っていいのか恥ずべきことなのか。ハイハイ、リアルではろくすっぽナンパした経験もありませんよー。〈社交(宴席)〉についても、成人はしていたけど飲みの席というかアルコール自体が苦手で、経験といえるほどの経験は積んでないなあ。

 〈調理〉は普通に自炊の経験からだろうし、〈釣り〉はさすがにそのまんまだろ。

 〈動物使役〉は……犬猫を実家で飼っていたからか? しつけや本能の仕組みについては一時期けっこう調べた覚えがある。〈指導〉やらは、バイト関係か。家庭教師や塾講師の助手やら、なんちゃってアルバイトだけどやってた時期もあった。


 分からないのは……


(文化文明圏が変われば通用しそうもない〈法律〉ですとか、なぜ有効化しているのでしょう? これに関しては〈政治〉も同じ疑問があって、具体的に即した現地の状況知識なしで意味があるんでしょうか? それに、盗賊系技能の〈賭博〉〈鍵開け〉〈罠〉〈探索〉だとか、誓って断言しますけどリアルでそんなことやらかした経験はないですよ)

 ちなみにキャラの「アトラン」として盗賊系技能を修得していた理由は、その分野で活躍するためではなく(そちらは本職を担当する仲間がいたので任せている)、捕まったり罠に引っかかったりして痛い目をみたキャラの経験や反省を表すためのもので、だから技としてはかじった程度の0.5CPだけを振ってある低技能レベルでしかなかったものだ。


《たしかに法律や政治に関し、いまのあなたがそのまま現地の人たちと話を通じ合わせることは難しいでしょう。しかし、法の論理構造や、発達の歴史、また政治に関してもパワーバランスの構造論や歴史上どういった問題があってそれらがどのように解決されてきたかといった事例を、豊富に見知っているでしょう。あなたにとっては当たり前に学べてきたことかもしれませんが、“TLが低い”文明圏の人々が同じだけのことを学べる機会など、いかほどありうるものだと思われますか》

(あー……。そりゃ、よほど専門的な学術院にでも参画できている知識階層か、でなければ高位の権力者の家系にでも生まれて代々の教えを受け継ぐことの出来る立場か。いずれにせよ、全体からみれば極少数となりますか)

《そういうことです》

 つまりはそうした分だけ、おれのほうにはアドバンテージがあるというわけだ。少なくとも、潜在的には。


(しかしそうなりますと、盗賊系技能の源とは、果たして?)

《そちらは……まず分かりやすそうなのが〈賭博〉でしょうか。実際の経験はとぼしくとも、いわゆるイカサマの手法などに関して多くの事例をご存じではありませんか? また、札遊びのたぐいに関しては数学的攻略法とそれを見破る手法なども》

(あー、たしかに。ざわ……ざわ……な漫画やら、雀聖さんのツバメ返しやら小技やら。それによくベガス的な話題になるトランプ系の数学的カウントテクニックとかは、まあ有名ですしね)

 これらに関しても、情報ネットワークの発達した環境で暮らせている現代人でもなければ、その筋を生業にしているわけでもない素人が当たり前に知っていられるような話では本来ないのだろう。


《それで、残りの三つについてなのですが……》

(おや、どうされました?)

 言いよどまれるなど、お珍しい。

《信じていただけるかどうか。ゲーム類による知識が役立っている形のようです》

(マジすか)

《あなたは、いわゆる“洋ゲー”やら“死にゲー”やらをけっこうやり込まれていたようですね。そうした遊びの中で覚えた凶悪なトラップの仕掛け方や解除のやり方、また鍵と錠についても内部のシリンダー構造などに一定の知識を持っていますね?》

(マジすか。そりゃまあ、知っていると攻略がはかどるゲームってけっこう多いですからね、それなりに検索したり本読んだりもしましたけれども)

 マジかー。そんな趣味界隈のさらに端っこみたいな経験まで役立ってくることなんてあるんすか。マジかー。


《これも実態としては全体にも共通していて、TLの高さ、その格差がもたらす有利さとして評する内に含まれてくるものですね》

(なるほど……。生まれ育ちの恵まれってものは、やはり馬鹿にできないですね)


 ならばここまでの点は納得でいい。

 あと分からないのは……戦闘系と運動系の技能か。


(こちらもありていに申しまして、戦闘経験なぞないわけですが)

《しかし武道の経験ならばあるでしょう?》

(あれは、スポーツですよ)

 思わず苦笑じみて息を漏らすような心地で、そう返答する。

 これをハッキリ言うと怒り出す奴も中にはいた……。だがおれ自身、ガキの頃から剣道をやっていてよく知っている。だから言えるが、あれらは事実としてスポーツでしかない。


《そうかもしれません。けれど、そのスポーツでさえ十年単位で訓練を積み上げられるということは、暮らしに余裕のない社会で一般民に出来ることではありませんよ。とはいえ、経験の反映効率がさほどよくないことも確かなようです。各1CP分にしかなっていませんからね。それと、どちらというと〈短剣〉や〈格闘〉はおまけのような反映で、一番反映が強く収束している対象は〈杖術〉のようですよ》

(ああ、まあ、竹刀も木刀も、結局は刃のない棒振りですからね。洗練された技としてなら棒術あるいは杖術が一番近いですか。しっかし……「アトラン」の〈杖術〉は紳士的嗜みとして押さえておいただけのものですし、そもそも「うーぷす」の杖術技能っていわゆるステッキ格闘術であって東洋的な武術のそれとは違うんじゃないですかね?)

《そうしたあたりはこちらとしても細かく思量する領分ではありませんので……。技能枠は技能枠として純粋に機能させているだけです》

(左様ですか)


 ならまあ、なるようになっているというだけだろう。

 正直ここらへんはさほど重要ではない。アトランの能力としては多少高かろうが低かろうが、いわばどんぐりの背比べに近いものがあり、どの道大差が生じるわけでもないからだ。


(運動系の技能ですが、元は0.5CPのものばかりだったはずが1CP以上になっている点は、まあ推測できます。水泳もやっていましたし、一時期は登山に連れて行かれたりもしていました。ただ、〈走法〉だけ頭一つ抜けて高いようですが、これも経験量の差なのですか?)

《その点は、あなたの育った社会における教育制度の特異さが表れていますね。身体能力を鍛える課程において、走り込みが特に重視されているでしょう》

(ええまあ、体育の授業だとか、高校以下だと走りまわされますけども)

《あなたはその意味するところの答えをご存じのはずですよ。あなたの故郷の社会においても、ほんの百五十年ほど過去を遡ってみれば、どうですか》

(あー……なるほど)


 たしか……明治を迎えて文明開化に励んで以降、西洋的な体育教育が取り入れられるまでは、民衆というか一般の村暮らしの百姓たちは走り方も知らなかったとか歩き方からして違ったとか。

 だから特別に走り方を鍛えている一部の藩の武士には追いかけられると逃げられなかったとか、いわゆる飛脚の早駆けなどが伝説的逸話になっている背景にも関係がありそうだとか。

 つまり、現代の日本人は、学校教育のおかげで身体運動のレベルが高水準なのだ。なんだかんだ、筋力が貧弱だとかも言われるが、走るのにも泳ぐのにも不自由しないし、鉄棒だとか飛び箱だとか体操だとか――要するに軽業の一種だ――それに、球技のたぐいも達者だ。もしすべてを技能レベルで表したらどれほどの羅列になるのか。

 改めて考えると凄いことなのだろう。それもそうだ、なんせ人間一人育てるのに教育期間だけで十六年もかけ、生産せず消費する一方の歳月となれば二十二年も猶予するのだ。なんと途方もない投資行為か。


(だいたい分かりました。言語や地域知識の対象名が見知ったものとは違っていますが、これはいまから向かう先の地における該当の名称ということで?)

《その通りです。各詳細については、現地に降り立ってから教本で学んでください》

(承知しました。ならば残りは、増えた“特殊な”技能二つの内容解説くらいですね)

《そちらに関しては、特徴で見たのと同じように項目を注視してみてください》


 へいほー。じー。

 アトランは対象技能をじっと見つめた!


-----

・〈学業/TL8〉

 →修得難易度は「INT/精神」基準の「難」に該当。技能なし値は「INT -6」

  現代文明圏で学習できる様々な学術知識および科学知識についての修得を表した技能。

  現代知識に限定した〈博物学〉に相当する技能とも言える。ただし、〈雑学〉と違い、学術的でないサブカルチャーの分野などには適用することができない。

  専門的に特化した技能ではなく総合的に表されている技能レベルであるため、この技能を用いた判定対象には難易度に応じた目標値のペナルティを受けやすい。

  たとえば、

  中学卒業レベルまでの内容であれば、特に修正負荷がなく、

  高校卒業レベルまでの内容であれば、目標値-3程度の修正がかかり、

  大学卒業レベルの内、教本を読めば学べる内容であれば、-5程度の、

  大学卒業レベルの内、研究やフィールドワークに従事した経験が必要もしくは研究論文を読み込む必要がある内容であれば、-8から-12程度の、

  目標値ペナルティがそれぞれ生じうるだろう。

  また、現代知識と現地における技術をどうやったら融合させられるかといったことも判断が可能だが、そのためには関連先の技能においても判定を要する場合が多い。(一者で完結する必要はない)

  この技能には最大で就学および研究に従事した年数の合計分までしかCPを費やすことができない。

  なお、自発的専門化は施せず、専門的研究経験を表したければ対象分野本来の専門技能を修得しなくてはならない。


・〈雑学/TL8〉

 →修得難易度は「INT/精神」基準の「易」に該当。技能なし値は「INT -4」

  現代文明圏で見聞きの及ぶ事柄に関して、広く浅く様々なことを知っているかどうかを表した技能。

  現代知識に限定した〈博物学〉に相当する技能とも言える。ただし、〈学業〉と違い、専門的学術考察には適用できない。また、学術的に体系立てられていないサブカルチャー方面の知識や情報に関しては、この技能に含まれている。個人的に深く追究している分野(サブカルチャー)については自発的専門化が可能である。

  この技能は、様々な行為の「技能なし」判定を補助することができる。

  たとえば、

  〈登攀〉技能がない場合にロープワークやハーネスの使い方、三点支持といった初歩を述懐することで素人なりに安全を図った崖面の上り下りを手持ちの道具から工夫することができたり、

  〈生存〉技能がない荒野や砂漠地帯において少量でも水分を得るための結露や蒸留を利用した簡易サバイバル術や、強烈な日照を避けてどんな時間帯に行動すればよかったかを“思い出せ”たり、

  など。

  ただし、専門に技能を修得している場合と比べれば明らかに劣った出来ばえにしかならず、慣れない手つきでの行動には時間を三倍ほどは要するだろう。他者へ提案する際にも説得力の備わった根拠にはならない。(「なんとなく、昔こんな話を聞いた覚えがある」などといったあやふやなレベルでしか言及できないため)

  この技能には最大で年齢の三分の一までしかCPを費やすことができない。

-----


 アトランは対象技能をじっと見つめた!

 アトランは対象技能をじっと見つめた!


《……三回連続で見つめられたということは、お高い毛皮のマントでも自慢してみればいいですか》

(おさすがですな、このようなドマイナーネタをも逃さぬご慧眼ぶり)


 すごいなー、あこがれちゃうなー。



   ◆



 さて。さてさて。

 おふざけはもういい。情報は出揃った。

 ならば本番だ。

 能力の獲得を、構築を――「40CPの使い道」を。


 最大の有利を。

 ここから考え抜くのだ。

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