003. うーぷす!!
〔5〕
システム名「うーぷす」とは。
正式名称「UURPS!!」――Universal(汎用的で) Usual(常用の) Role(役割) Playing(演技) System(システム)――すなわちウープス、である。
「いつでも、どこでも、何にでも♪」が謳い文句のTRPGシステムとして売り出され、かつて一世を風靡した……うん、風靡したよ(苦笑)
この冗談のような名称のTRPGシステムは、しかし名のおふざけぶりに反して中身はガチ派と言われ、「サイコロを振らない」「偶然性に頼らない」キャラクターメイクが最大の特性だった。
各キャラクターは、遊ぶ対象となるシナリオもしくはキャンペーン(複数回かけて遊ぶ、連作された長期のシナリオ)の定めるレギュレーション(取り決め事)によって、指定された「CP総計」の数値内でキャラクタービルド(能力構築)することになる。
CPとは、キャパシティーポイントの略字表記であり、たとえば100点のCPを指定されたなら、その範囲内で10点ずつの「体力」増強を購入して肉弾戦向けのキャラクターにする、逆に「体力」をマイナスすることでCPを「浮かせて」その分を「知力」に注ぎ込んだ貧弱だけど頭脳派キャラ、なんていうこともできる。ただし、一定より高い能力値を賄おうとした場合、段々とポイント効率は悪くなってゆく。(能力値10~13までは10CPずつでも、14~15だと15CPずつ、16~17にもなると20CPずつ、など)
また、同じくCPを消費して「特徴」を買うこともできる。これもたとえば、「鋭敏な聴覚」を強化レベルに応じて2CPずつ購入し(上限5レベル)、不審な物音を察知できたかといった知覚判定にボーナスを得る。通常の世界では魔法など奇跡の術を常人が扱うことはできないが、それを可能とする「魔法の素質」を購入することで魔法使いになる(上限3レベル、必要CPは15/25/35)、といった具合だ。より有利な特徴ほど必要CPが“高価”になる。またこれとは逆に不利な効果の特徴を取ることでCP値を相殺し、その分を別の特徴や技能に振り分けるといったことができる。長所だけなく短所や弱点も同時に設定できるわけだ。不利な特徴はなるべくたくさん取った上でその分のCPを長所に一極集中させたほうがいわゆる「強いキャラ」にはなるのだが、ただし不利な特徴は取りすぎるとまともに行動することができなくなってしまう。そのため推奨上限として「キャラCP総計の半分以下」もしくは「マイナス50点分まで」のどちらか少ないほう、と標準ルールでは定められている。
そしてもう一つ、このゲームシステムの大きな特色が、システムおよびデータに対してワールド(舞台世界)が独立しているという構造だった。Universal(汎用的)うんぬんという名称はここからきており、どんな舞台世界もプレイヤーそれぞれが思うように作り出し、そこに「うーぷす」の判定システムやデータ群を当てはめることで実際のゲームプレイを可能にする――つまり、自分たちの好きな世界、時代や背景を思うままにして遊べるのだ。
いまではこうした汎用系システムもいくつか見かけるようにもなったが、「うーぷす」が発売された当時には特定の作品世界とシステムが深くリンクしているものばかりで、自分たち用に改造するのも一苦労ということが多かった。そのため、この新基軸を打ち出したゲームシステムは目新しく話題をさらい、一世を風靡した!
……けっきょくオチには、どんな舞台世界にも対応できるとしたデータ類が膨大すぎ、追加ルールがどんどん出るけど覚えるだけでもたいへん、そもそもサプリメント(補助・追加のルールブック)が普通の書店では扱っておらずまだネット通販なども現在ほど普及していなかった当時、手に入れるだけでも一苦労……などなど不遇が重なった結果、一度は燃え上がったはずの熱量がいつの間にやら薄まってしまい、尻すぼみに商業展開が終わってしまったのだが。
さて、おれはこの「うーぷす」の全盛後期を高校時代に迎えて熱中し、同じく目覚めた友人たちと狂ったように一時期遊びこんでいたわけだ。
ただセッション(遊びの会)に集まる人数が当初は少なかったため、初期CP量を少し多めの130点としてキャラメイクに臨んでいた(標準だと100CP~125CP)……が、直前になってもう一人参加したいという友人が増えたためにちょっとやっかいなことになった。
人数が増える分に対し、各キャラのCP量を単に下げればいいというものでもなかったからだ。もうGM(ゲームマスター、その回の主催かつ司会進行役)は130CP前提のシナリオを組んでしまっていたし、他のプレイヤーもキャラが出来上がり済みだった。それらを丸ごとやり直しというのはいかにも手間だ。
だから、まだ持ちキャラが完成する前だったおれが、ポジションを譲った。直前に参加表明したソイツは初心者同然だったので、役割として分かりやすい“戦士”型を譲り、おれは他の奴らの役割を侵食しないよう、それでいてシナリオ上の戦闘バランスも崩さなくていいよう、直接的な戦闘能力は持たずさりとて盗賊系でもない、まだその時の面子には足りていなかったシティアドベンチャー的な攻略能力を補強する対人交渉役とバッファー(戦闘を後ろから支援・強化する役回り)を兼ねた吟遊詩人ポジションのキャラクターとして、この「アトラン」を作ったのだった。
ちなみに、あえて不利な特徴に「好色」だの「好奇心」だの「お祭り好き」だのを取って、ちょっとした騒ぎやトラブルに巻き込まれやすくすることでGMがシナリオの導入や展開を図りやすくするという、この気配りぶりである! 当時もいまも自画自賛を止むを得まい?
はっは、もはや何もかも皆懐かしい……
《その語り、まだ続きます?》
(え、そこ割り込むんですか?)
これからあいつらとの思い出をつらつらと語り出す、イイところなわけですが。
《もし時間が足りなくなったら、お困りになるのはあなたですよ。そしてこれも改めて忠告しておきますが、あなたは別にゲームシステムの世界に転生するわけではありません。あくまで、いまこの場であなたの新しい肉体の能力を決定付けるに際して、その表し方を便宜的に当てはめているだけです》
(あー、えー、つまり、この場が済んだあとはもう関係してこないんだから、詳しく突っ込んでる余裕があったら話を先に進めたほうがいいってことです?)
《あなたの賢明を期待します》
(あっはい)
間接的に馬鹿やってるなと怒られてしまいましたん。
これもゲーム愛の為すところゆえ、致し方なし。……ですよね?
〔6〕
《本題を告げます。あなたの“存在の容量”をこちらとしてもなるべく増強して差し上げたいと考えています。むろん無理のない範囲でとなりますが、その上限と見なしている域までCP値に換算しておおよそ40点ほどの余地があるのです。この40点分の使い道について、あなた自身からの希望があれば示してください》
(そんなにいいんですか? 現状でも合計すると240CPも使ってるわけじゃないですか。加えて40も足したらもーちょっとで300届いちゃいそうですけど、総計300CPっつったら超人クラスですよ)
《はい、大丈夫です。逆に言い表すとそれ以上の強化はあなたという存在の様式が“薄まり”すぎて内から崩れてしまいかねないので、推奨できないということでもあります。生前のあなたの存在容量は、CP値に無理やり換算するとおおむね60点台の後半あたりでした。学業などに真面目に取り組んでいた成果といえるでしょう》
(おお、マジすか! ありがとうございます、70CP近いなんて一般人としちゃけっこう優秀なほうですもんね)
《ええ。そして、我々から施して差し上げられる強化の目安が、この元々の容量から四倍と少々といったあたりなのです。それ以上となると先述したように“薄まって”しまうのでよほどの強靭な意志存在でもなければ無理が生じてきます。また、四倍強というのは相性がとてもよい場合の例になります。あなたの「アトラン」ですが、最終的に鍛えあがった状態を覚えていますか?》
(ええとたしか、何度もキャンペーンを繰り返す内に200CPラインはとっくに超えていて、前回に三本連続でこなした小シナリオの分の保留されてる成長も含めれば270点を超えていそうかなと……ああ、なるほど。まさにピッタリですか)
《そういうことです。また、戦闘能力を特には求めていないという点も大きいですね。他に影響を与えうることの“可能性の反発力”とでも表するべきものが小さく済んでいますので》
(はあ……なるほど。まあ運がいいんだか悪いんだかなんて、分かりゃしませんけどもね)
もし。もし何もなければ、次からのセッションでは経験点を〈歌唱〉と《ララバイ》に注ぎ込んでいって、いつか技能レベル24オーバーを体現したならば《ナイチンゲール》との併用によってたった4秒の演奏時間で2ターン目の手番時には発動する広範囲強制睡眠効果がしかも高達成値という、ほぼ抵抗する余地のないオレ以外みんな眠れアタック・ザ・ワールド! ~時が止まるが如し~ ……などという遊び方もぶちまけて皆でバカ笑いに興じてみたかったのだが。
もう叶いはしない。“いま”に“もし”はない。それを語ることができるのは常に未来だけだが、死人に未来を夢見ることはできないのだから。
(ともかく、それで、えーと、能力構成を考えるなら、いまのキャラシート上の表記がいろいろおかしくなっている点からまず確認できないことには、どうにもできそうにないんですけども)
《その点ですが、「特徴」類に関しては該当項目を注視してみてください。詳細説明が展開されるはずです。「技能」類のレベルやCP振りなどの状態に関しては後ほど補足説明します》
(分かりました)
じゃーまずこの、見知らず増えている、「特殊な特徴」のところからだな。
ええと、なになに……?
-----
・異界転生者セット(合算30CP)
→特殊な背景/異界の知識/20CP
→あなたは異なる世界より訪れた客人である。
異界の知識を使える。TLが高く、生前の知識・技能を保持している。
ただしあくまで知識情報面のみであり、物品の入手や持ち込みはできない。
→あなたのTechnology Level(文明技術レベル)は8/デジタルネットワーク時代に相当する。
この特性を表す特殊技能として〈学業/TL8〉および〈雑学/TL8〉がある。
→特殊な背景/不自然な存在の欺瞞/10CP
→あなたはその地において出自を持たず、どこからともなく現れた不自然な存在だが、出会った相手がそれを気にすることは不思議とないだろう。
認識・興味の方向をそらす欺瞞状態に受動的ボーナスを得ている。
→環境生存力強化の加護/20CP
→高次の神霊存在の加護により、環境適応能力、病毒耐性(頑健力)、長命性などが強化されている。
→あなたは環境の差異に適応しやすい肉体であり、大気成分の少々の違いなどは無視していられるだろう。気圧や寒暖の変動などにも比較的短期に適応できるだろう。放射線など環境的汚染要素に対する抵抗力に受動的ボーナスを得ている。
→あなたは普通に暮らしている上で病気や食物毒などに煩わされることはないだろう。ただし、故意に危険な病原体や毒素を体内に注入された場合などはこの限りではない。病気・毒物に対する抵抗力に受動的ボーナスを得ている。
→あなたは加齢にともなう各種能力の低下が表れにくく、健康を保ちやすい。結果として長生きしやすいだろう。
→秘密/異端の存在/-10CP
→地域・文化・宗派によっては異端扱い、もしくは隷従化の標的になりうる。深刻度Lv2の秘密に相当する。
露見した場合、それまでの立場と立ち回り方によっては、主権や財産を剥奪される危険がある。もし特別に親しい間柄であれば、ひどく驚かれはしても許容してもらえるだろう。
→常識不足/-10CP
→現地の常識を知らず、元の世界の常識に縛られている。
珍奇な言動を示してしまったり、元の世界の常識が足枷となって理性では有利と分かっている行動でも実行をためらったりする。前者においては疑いの目を向けられ秘密の露見に繋がるかもしれない。後者においては時に危急的な状況下にあって身の安全を左右するかもしれない。
この特徴は知識情報系の技能によって補うことが可能であり、また十分に知識を蓄えたあともCPを費やして“買い戻す”必要はない。(価値観の相違は学習のみで埋まるものではないため。ただし、個人としての価値観が根本から“慣れきって”しまったのであれば、あるいは買い戻す必要も生じるだろう)
・奇遇奇縁/あなたは“運命”から外れた存在だ/0CP
→あなたは世界にとってイレギュラーであり、因果の織り成す“運命”から外れた存在だ。脈絡なく何とも出会い、脈絡なく立ち会うだろう。
因果を操作するような魔法儀式の効果や高次干渉などをすり抜けられるが、同様に幸運の舞い込みも期待できない。
・特殊な所有品(財産)/魔法の技能教本/20CP
→あらゆる技能を効率的に学び取れる。ただし、1CP相当の基礎レベルまで。
目次から対象技能を選択することで、本の記述内容が都度変化する、とても希少な魔法の教導書。
強力に《所有》《限定》化されており、他人には使えない(持てない、開けない、読めない)。紛失することも盗まれることもない(いつでも手元に呼び戻せる)。
通常に読み込む限りでは教師付き(独学ではない)状態として技能の学習を進められる。
加えて、0CP予約された「技能の種」を備えている対象については、教本の暗示学習効果との併用によって高速学習が可能となる。およそ8倍~10倍に相当するだろう。(学び取るというより思い出してゆく過程に近いため、心身への負担は少ない)
-----
(……ええと)
どこから突っ込んでいいものやら。
とにかく言えることは、なんというか、強力ですね?
《そのくらいは強化しておかないと、あなたあっさり死んでしまいかねませんよ》
(えっ、マジすか?)
《生存環境の差異なども長じては重大ではありますが、この場合は特に「奇遇奇縁」の特性が問題です。単なる転生ならともかく、あなたの場合は二重三重に“摂理の外側”たる干渉を受けた結果、元の世界から弾き出されてしまったようなものです。加えて行き先たる地においても一切の地縁血縁がありません。歴史の積み重ねに連なっておらず、その身に背負うものがなさすぎるのです。もっと端的な事柄としては、たとえば現地の風土病に対する免疫、何の問題もなく獲得できると思われますか?》
(そりゃ……普通じゃ無理でしょう。自然環境下で乳幼児の死亡率が三分の一を超えるなんていうのも大半は外因性の脅威に個体として対処しきれなかったからで……ああ、つまりはこれも、アレですか)
たとえば人一人、二十歳まで生き抜けてきたならば、それは実はとんでもない幸運の連続判定に成功し続けているようなものだ。そこには“勝者”としての土台がある。だから“今後”に関しても同様に幸運であり続けることを当たり前として想定してゆける。
だがもし、そうした土台がまったくない身の上だとしたら。
ちょっと風邪をひいたかな、なんていう場合にも、熱が出たところで寝ていれば治るだろうなんて大ざっぱではいられないということだ。その先がどう転ぶか予断が許されない。なぜなら、判断の基になるはずの実績、すなわち過去からの積み重ねがないからだ。それでどうして今から先について語れるだろう?
幸運。幸運に祈ることしかできないなんていうのが、ちっぽけな人間一匹が頼ることのできる唯一の、あるいは母なる抱擁のようなものだ。それなしで生きなければらない、つまりそれは、荒野に裸で立っても生きて見せろと。
そういう意味に等しい。だから……そう、普通では無理だ。
(ここまでのあからさまな強化が……必要なのですね。それでさえ最低限に過ぎないものとして……)
《その理解は賢明です。我らのごとき存在が人の子の強化などということを必要もなく行うことはありません。これでさえ足りるかどうかの一線上に過ぎないのだと、どうかそのことの意味をお忘れなく》
(はい……。ありがとうございます)
この理解こそ、一番重要だったのだろう。
踏まえて各項目を読み返せば、説明文通りでだいたいの意味が飲み込んでゆける。
それでもなお一点、気になるところがあるとすれば……
(技能教本なんですけど、対象技能が限定されずに20CPっていうのは、これって呪文のたぐいまで含むんでしょうか? だとしたらちょっと強力すぎません? いいんでしょうか。普通に内容通りに考えたなら30CPどころ50CPくらいかかってもおかしくない気がするんですけど……)
《それは、「財産」の一環としての取得であることによる影響ですね。あなたは財産レベルが高いので、副次的に財物のCP効率がよくなっています。処理の形としては「現金のCP変換取得」もしくは「装備品の常備化」に似ています。もしあなたが標準の財産レベルであったなら、要求CPはご指摘のように30を超えるか、あるいは教本の効果強度を下げざるを得なかったでしょう。なお、「特殊な背景」に相当する土台分については「異界転生者セット」のほうで支払われ済みと見なしています》
(あ、なるほど。……ということは、もし残りのCPで財産レベルを上げた場合)
《財物のCP効率はもっとよくなるでしょう。ただし、特殊品に関してはゼロにはなりません。最低1CPは費やして“所有”に対する存在の関連付けが必要です》
(わっかりました。じゃーこの“特殊な特徴”項目はもういいので……。次いってみましょう!)
ぶっちゃけ、そこが一番気になってる不明点なんですけどね?