#09 遺言
二人の男が戦う最中、突然の乱入者
「ハヤブサ様、ご無事で!?」
そこに現れたのはツバメ
既に物言わぬ人形となってしまったハヤブサの親友である
ハヤテの娘であった
「ツバメか!?どうしてここに!?」
突然の再会に驚きを隠せない
ハヤブサを守るように、ハヤテと対峙する
「この男は・・・この男は私の手で殺す!!」
決意とも取れる言葉で武器を構える
「無理しちゃ、駄目だにゃぁー!」
遠くで、獣人たちが叫んでいた
彼らは、非常に好奇心旺盛な種族で猫のような姿に似合わず賢い
その好奇心ゆえに、人との関わりを深く持つ者もいる
ギルドの下で働く彼らも、その一部であった
先ほど深手を負ったツバメの手当をしたのも彼らである
「お前たち、来ていたのか!?」
「あの方も一緒だにゃ!」
手早く、手当てをしてくれる
「・・・覚悟!」
すでに片方の剣を失い残された1本で、斬りかかる
その意識は失われているとはいえ相手の実力は達人級だ
甲高い音を立てて、ぶつかり合う剣と剣
「もう一度問う!」
「なぜ一族を・・・いえ!母上を置いて、里を抜けたのだ!!」
その瞳に涙が浮かぶ
「父上!!」
その一撃が、ハヤテの頬を裂く
「ツバメ!ハヤテ殿はもう・・・」
ハヤブサが制止に入ろうとするが
ツバメの気迫に押され動くことが出来ない
「うあぁぁぁぁぁ!!」
続けざまに剣激を繰り出していくが、ことごとくかわされていく
その最中
突然天井が、崩れ落ちてきた
「!!?」
避けようとするも、先ほど受けた傷により動きが取れない
「ツバメ!ハヤテ殿!!」
「危ないにゃ!!」
この距離では、間に合わない
崩れ落ちた天井により、辺りが埃で巻き上げられる
「!!?」
眼を開けたときに、飛び込んできたのは予想しない光景だった
「私は・・・救いたかったのだ・・・」
瓦礫をその身で背負い、ツバメを庇っているのは紛れも無くハヤテ
そして、あるはずのない意識から、言葉がこぼれ出す
「ち、ちちうえ・・・!?」
「全ての、万病に効くという【黄金竜の血】」
途切れ途切れに、言葉を続ける
「それを手にするには全てを捨てる他、なかったのだ・・・」
「私は、一族の長だ・・・故に己の都合で皆を危険にはさらせぬ」
「・・・・・・」
ただ、黙って聞いていることしか出来なかった
「その結果がこれだ・・・」
「己の腕を過信し、それ故に敗れた・・・」
「ハヤテ殿!今助ける!!」
駆け寄るハヤブサ
しかし、ハヤテは首を横に振る
「ハヤブサ・・・」
静かに友を見上げ言葉を紡ぐ
「娘と供に生きて欲しい・・・」
「私は、父として何もしてはやれなかった」
「・・・・・・・」
「娘には本当の闘いが、待っているのだ・・・」
「本当の闘い・・・?」
ツバメが呟く
「愛すべきものと生き、子を産み、育てよ・・・」
「そして、生きた証を未来に、受け継ぐのだ・・・」
辺りは更に崩れていく
「それもまた、闘いなのだから・・・」
「ツバメ!!」
言いながら、ツバメを引き寄せる
瓦礫がハヤテを飲み込む
「ここはもう、駄目だにゃ!」
「行こう、ツバメ」
「ちちうえ・・・」
残されたハヤテの双剣を、胸に抱き泣き崩れるツバメ
ハヤブサはただ、その背中を抱きしめてやることしか出来なかった