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突然の再会

昨日は康広と遊んだ。今日はバイトである。いつもと同じ道を歩き、いつもと同じ電車に乗り、いつもと同じバイト先のコンビニに入った。



PM1時



タイムカードを押して勤務開始だ。昼頃は特に混んでいる。集中しよう。



PM2時



店内が落ち着き始める時間だ。品出しをしているが、俺の鼓動は落ち着かない。



PM4時



心拍数が上がっているのがわかる。今から何かが起こるみたいに…



PM5時



5時になっても治まらない。朝までは普通だった。バイトに入ってからか…


ドクン


一瞬だけ心臓が高鳴った。

一瞬高鳴ったあと落ち着いた。いままでが嘘だったかのように…


しかし、心拍数は少しずつ上がっている。


誰かが歩くスピードと同じ間隔で上がっている。


地面を通して繋がっているみたいに…


カツカツカツ


ドクンドクンドクン



近づくにつれて上がっている。



俺に会いにくるようにだんだんと上がっている。




このままだと店に入って来るのではないかと思った。



カツカツカツン




一旦店の前で止まった。



だが、入って来るのを確信していた。



(まだ店の外にいるから見る必要はない。)



そう自分に言い聞かせている。


すぐに足が動き出し店の自動ドアが開いた。



(何も言わないのはマズイ。怖くて前を見えない。)


勇気を振り絞って優斗は言った。



「いらっしゃいませ〜」



いつもより大きい声が出てしまった。お客さんもビックリしたように見ている。

俺は動揺している。


手元を見ていた。


足音が俺のほうまで来たので顔を上げると、よく見る顔だった。



「いらっしゃいませ〜って酷いじゃないですか?」



それは生瀬さんだった。



優斗がバイトしているとき、生瀬由香は学校にいた。由香も心拍数が上がっていたが、原因を知っていて、楽しみにしている。



PM3時


(授業終わった〜、早くバイト行こう。)



「由香ちゃん嬉しそうだね。何かあったの?」


由香にそう聞いたのは、担任の柊姫花(ヒイラギヒメカ)だ。


黒いスーツでセクシーな女性だ。ボン、キュッ、ボンである。


スタイル抜群で男子生徒からは人気が高い。生徒のことをよく見ていて、優しいので、女子生徒からも人気だ。教師に相応しい存在だ。


そんな彼女だから、由香の顔を見逃さなかっただろう。


「わかります?」


「よくわかるよ。」


「この前助けてくれた。先輩とバイトが一緒で楽しみにしてて〜」


「よかったわね。」


二人の会話を見ているだけでクラクラしそうなぐらい美しい。


「姫花先生さよなら。」


「気をつけなさいよ。」


由香は学校を後にした。



PM4時


由香は考えた。


(お礼を言うだけじゃ物足りないから、お菓子でも買おう。)


優斗とはまだ1ヶ月だが、由香には優斗の性格が分かっていた。そして、優斗に対して好意を持っていた。


素直で優しい所があり、頼りになる。この前の時に助けてくれたのが決定打だ。


いままでは距離があって会話が十分にできていなかったが、今日はチャンスである。話題があるので、お話ししたい。


話題だけでは弱いと思いお菓子も買った。由香がプレゼントされて嬉しい物を選んだ。それを優斗にプレゼントする。


全ての物事において、相手の立場に立って考えたり、自分だったらどうか?などと考えるのはいいことだが、由香は自分の好みを重視しすぎた。



プレゼントはケーキだ。


それならいいが、ケーキ屋のとても甘いケーキだ。


由香は甘党だ。


由香は誰でも甘い物が好きと思っているらしい。



そんな甘党の由香が注文したサイズは…




Lサイズのホールだった。




PM5時


由香は緊張していた。ケーキが崩れないようしながら歩いているが、最初の一言目をなんて声を掛ければいいか考えていた。


いつもと同じにするか、お礼を言うか…


考えている内に店に着いていた。あと一歩踏み出せば自動ドアが開く位置までいた。

深呼吸をした。


その時考えていたことを全部忘れてしまった。


由香は話し掛ける言葉を決めないまま店に入った。



すると優斗が言った。



「いらっしゃいませ〜」



由香は驚いた。いままで自分が入ったときは言われなかったし、普通は言わないだろうし、いつもより声が通っていた。


優斗の恐怖の雄叫びで由香は自分から話し掛けると言う呪縛から解き放たれたように、自然に言葉が出た。




「いらっしゃいませ〜って酷いじゃないですか?」


狙ってなのかわからないが上目遣いで、少し寂しい胸を強調しているように優斗は見えた。



優斗も安心して心拍数も落ち着いたようだった。






PM10時


仕事が終わった。この時間から深夜の時間帯の人に変わるので引き継ぎをするが、店長がいつも優斗に任せている。


由香は先に戻ってケーキの準備をしていた。


由香が休憩室に戻ってから遅れること5分、優斗が戻ってきた。


優斗が休憩室に入ると驚いていた。ドデカイケーキがあれば誰でも驚くだろう。


「一昨日はありがとうございます。」


「たまたま通りかかっただけだし、生瀬さんが無事ならそれでいいよ。」


冷静に返す優斗だが由香は何か言いたいことがあるのかソワソワしている。


「えぇっと、その… 生瀬さんじゃなくて…」


「?」

「由香って呼んでもらえませんか? 友達からも由香って呼んでもらってるんで…」


「ああ、わかった。そうするよ。」


「じゃあ私も優斗さんって呼びますね。」


「わかった。」


完全に由香のペースだった。この状況を把握しきれていない優斗はわかったと言うのが精一杯だった。


「あと、あと、ケーキ買ったんで食べてください。」


「このケーキ?」


「はい。全部食べていいですよ。」


「あ、ありがとう。」


「あと、あと、あと、ケーキの隣にメールアドレスを書いた紙を置いてるんで暇なとき連絡ください。」


「わ、わかった。」


「あと、明日学校なのでお先に失礼します。お疲れさまです。」


「お疲れさま。」




まるで嵐が通ったようだった。優斗には聞こえない声で由香は「やった。成功した。」と呟いていた。


優斗はまだ呆然としている。メールのことは後でいいが、今直面している問題がある。


「このケーキどうするの?」


地元では有名なケーキ屋の砂糖やクリームなどで構成されていて、イチゴも満遍なくデコレーションされている。女子高生を中心に、女子大生、OLなどに人気のケーキ屋だ。女性には人気だ。甘くてサイズが細かく選べるのが売りだ。優斗も知っているほど甘さで有名だ。


ケーキ屋の名前だけ見えるように箱が置いてあり、ゴミなどは全部捨ててある。持って帰れないそこが問題だ。




1/4でフォークが止まった。甘い。無理だ。


由香の気持ちと親切心が今の優斗を苦しめている。


残すのも失礼だと思っていると、店長が帰宅の準備をしている姿が目に映った。

「このケーキ食べきれないんで、店長食べませんか?」


「なんで俺が?」


「由香からもらったんですが、量が多くて…」


「それならいいよ。」


「ありがとうございます。」


優斗は嬉しさのあまり大きい声が出た。やっと帰れると、ケーキを食べなくてすんだと。


店長からしてみればケーキを食べるのが大事なのではなく、由香が買ったケーキを食べることが大事だと優斗は知るよしもなかった。


優斗はやっと帰路に着くことができた。


帰り道はいつもと同じだ。

いつもと同じ道を通っていることは…


「この前は世話になったな。」


そこにいたのは信悟だった。今日は信悟1人で逃げられそうだったが自然に体がついて行き、この前と同じ裏路地にいた。





その頃、店長はケーキとの死闘の最中だった。


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