優斗の日常
ジリリリリ
「うーん」
ジリリリリ
「うるさいなー」
ガシャン
「起きよう、朝だ。」
まだ目が覚めていないが、自分に言い聞かせるよう呟き、時計を確認した。
「10時だよな…」
優斗は高校を卒業してから毎日10時起きだ。バイトはいつも昼の1時とシフトが決まっている。
10時に起きるのは理由がないが、優斗は睡眠を重要視していることは間違いない。友人に「1日が26時間あればたくさん寝れるのにな〜」と言っているほどだ。
例え、26時間になっても、増える睡眠時間は、2時間だが…
一応、計算しよう。優斗は日にちが変わる前に寝付くので、10時間以上寝ていることになる。
成人男性の平均睡眠時間を軽く超えている。
優斗は睡眠に対して貪欲なことがわかる。
寝ぼけている優斗だが、あることに気付いた。
「時計が壊れてる。」
壊れてると言ったが、実際のところ、強く叩いて凹んでいるぐらいだ。電波時計だが、問題なく使えるが壊れてもいいぐらいだった。
この電波時計は、高校卒業記念で貰って、勿体ないから使っているだけだ。スマートフォンなら、スヌーズ機能がある。優斗は普段からスヌーズ機能に甘えているから、電波時計はいい贈り物だったかもしれない。
優斗が気付いたのはコレだけではない。
「体が軽い。」
痩せた訳ではない。昨日の状態より動きやすくなったから「体が軽い。」と言ったのだろう。
優斗の体には昨日の傷がないからだ。
(昨日は骨が折れた感じがあったけど痛くない、どこも痛くない。)
優斗は殴られたのは初めてだが、次の日に痛みが残るのは当然と思っていた。
痛みがないのだから、病院に行く必要もない。出掛けることもできる。
「今日、黒澤と遊ぶ予定だったな〜」
黒澤とは優斗の友人で、フルネームで黒澤康広今は大学生だ。
中学時代からの仲で、親友と呼んでも過言ではない。普段から2人で遊ぶことが多いし、川で子供を助けたときも一緒にいた。高校時代には進路で迷っている優斗に「一緒の大学行こうぜ。」と言ったこともある。
優斗は出掛ける準備をするが
「朝飯食べてね〜」
家から出るのは1時間半後のことだった。
12時…5分前
待ち合わせ場所の最寄り駅に先に着いたのは優斗だった。何をする訳でもなくいつもと変わらない風景をボーッと見ている。
「ごめん、遅れた。」
12時を少し過ぎたところ、駆け足で来る康広の姿が見えた。
今回も2、3分遅れた。遅刻常習犯なのである。
彼女が
「可愛い服を選ぶのに時間がかかっちゃった。」
と言うならキュンとくる。康広の場合は、
「今日は、知らないお婆ちゃんに道を教えて、案内もしたら遅れたよ。」
と言ってくる。毎回こんな感じで嘘とわかるぐらいだから憎めない奴だ。
その性格からか彼は友達が多い。中学高校とクラスの中心にはいつも康広がいる。クラスの催し事にもいつも絡んでいる。俺とは逆の性格だ。なぜ俺とここまで仲良くするのかがわからない。
「今日はカラオケ行こうぜ。この前、大学から帰るとき面白い奴がいてさ〜」
康広の口から出る言葉は、「カラオケ」「ボウリング」「飯」の3つだ。いつもそれに流されている。話しも康広ペースだ。それが面白いので、康広の人気の秘密なのかもしれない。
駅前にはカラオケはたくさんあるが、康広は広いところがいいらしく、いつも同じところである。
康広は入るとすぐ寝っ転がり「寝ちゃいそう」と言ってる。前に本当に寝たことがあるからビックリだ。
歌うとなると康広は人が変わった様になる。最近の流行りのPOPやバラードを歌い、いつも高得点。俺はロリータ系のデスメタルで平凡な点数。
「乗ってるか〜?」
「イェーイ」
康広は1人でノリノリになっている。ノリノリだなと一言突っ込みたい所だ。
「今なんかした?」
キョトンとした顔で康広が見てきたが、俺は何もしていない。康広とは少し離れた席にいる。
「いや、なんでもない。叩かれた感じがしたけど気のせいだよな。」
気のせいだと感じたのか歌い出した。朝から腑に落ちないことばかりだ。
「やった。95点だ。」
高得点で写真を撮っているのは、会話直後のことだった。
時の流れは早いもので、窓から覗いた景色は街を照らしているのは街灯だけだった。康広が「帰るか?」に二つ返事だった。
帰り道に康広が急にこんなこと俺に聞き出した。
「バイト先に可愛い子いる。」
「いるけど…」
「どんな子?」
「素直で優しい子、高校2年だとか。」
「そうかそうか〜。頑張れよ。」
ニタニタしながらポンと優斗の肩を叩いた。優斗も康広が考えていることがわかったのか
「別にそんなんじゃないから。」
「俺にはわかるぞ。その気持ち。俺は先帰るからな、頑張れよ。」
康広は帰ってしまった。生瀬さんに特別な感情を抱いてる訳ではないが、聞かれたことを答える優斗の素直な性格が出ていた。
夜空の星が照らす優斗は複雑な顔をしていた。生瀬さんこともそうだが、一十神のこともある。
昨日の出来事は普通は信じない。この世界はある程度の理によって動いていると思っていたし、みんなもそう思っているだろう。
魔法が見たと言っても康広は信じないだろうし、冗談で流されるのが目に見えていた。
本当に話したいことを話せずにいる優斗だった。
(明日はバイトだからさっさと帰って寝よう。)