少女との出会い
裏路地の人気の無いところに連れて行かれるのは、すぐだった。人気の無い路地を歩いて、右に曲がった所だ。ゴミが捨ててある。
俺が居るのも気にせず、ホスト風の男は歩きながら仲間と会話していた。会話を聞くと、生瀬さんにナンパをした奴の名前が美鏡信悟。
店が近くで客引きをしていたところ、生瀬さんが通りかかったらしい。
仲間の2人は定時で交代する信悟の部下だ。
信悟の話し方からして、我が強い。自己中と呼んでも良いぐらいに…
裏路地のゴミ捨て場に来ると、信悟の口が開いて、
「てめぇ、何やったかわかってんのかよ。」
「女の子を助けたんだけだ。」
冷静に口を開いた瞬間、重い衝撃が腹の辺りを襲った。殴られたのだ。
人生で喧嘩に巻き込まれるのは初めてだ。殴られるのも初めてだ。痛みで倒れていると、
「可愛い子が通って話し掛けたら、彼氏はいない。今まで居たこともないし、ラッキーと思ったら、てめぇが来たんだよ。今マジで怒ってるぜ。」
強引にだろうけど、彼氏の有無を聞き出し、教えてもらえるとは思わなかった。感謝はしておこう。
だが、話しは別だ。状況は何も変わっていない。倒れている俺の腹の辺りを蹴られた。骨が折れるほどの衝撃だった。肋が折れたのだろう。
(俺が招いた結果だが、生瀬さんを助けることができたのだから、後悔はしていない。
)
心で思い、覚悟を決めると、その表情が信悟の目にも映ったみたいで。
「殴られたりないんですか〜?」
罵られたように言われた。許せない。力で解決させようとしているのが許せない。だが、俺は何もできない。早く終わってくれ…
近づいて来て、蹴られるのを覚悟した瞬間。
「止めなさい。」
誰の声かわからないが、確かに聞こえた。
「誰だ?てめぇ。」
どうやら信悟にも聞こえていたようだ。恐怖が生んだ幻聴ではないようだ。
信悟の向いている方を見ると、そこに立っていたのは、少女だった。
身長は160㎝ぐらいで、ここにいる全員より背が低い。細い体で、手ぶらで、制服姿。黒くて長い髪が風でなびいている。そんな少女が、ここに来るなんて危ない。大の男が3人も居たら、逃げることさえできない。
だが、俺は黙って見ていることしかできない。
「コイツの代わりに遊んでくれるのか〜?」
「ふざけないで。」
「いきなり来て、ふざけてるのは、てめぇだろ。てめぇら、コイツを捕まえろ。」
信悟は、部下に少女を捕まえるように命令した。今までは、先輩の自己満足の為についていたが、今回は少女が相手で多少は乗り気になったのだろう。
勝てる訳がない。仲間の2人はガタイがいい。握力だけでリンゴを潰せそうな手をしている。
少女を挟むように立っている。
少女の右手の男から、覆い被さるように捕まえようとした。少女を相手にしていて油断してるのか、下手に傷つけないようにしているかわからないが、動きが遅かった。
次の瞬間、目を疑う光景になった。
少女が素早く懐に入り右手で腹の辺りを殴った。殴られた瞬間、男はすぐ倒れ込んだ。急所に入った訳でもないだろう。少女の腕は細い、一発で倒せるほど力もないのがわかる。
倒れた男を見ると、なにかの間違えではなく、少女がやったとわかる光景があった。
倒れた男は痙攣して、目が虚ろになっていた。信悟は話し掛けても意味がないことぐらいわかった。そして、偶然の出来事ではないことがわかった。
「強すぎたかな〜」
少女は呟いた。少女の力か、道具を使ったのかわからない。だが、何かしらの力を制御して使っていることに違いない。
そうなると、仲間がやられたんだから、引き下がれないだろう。後ろから、もう1人の仲間が右手で少女の後頭部めがけて殴りかかった。
今度は油断していないであろう。見えていても避けられない速さで、手で防御しても吹っ飛ばされる力はある腕だ。
少女はまるで見ていたかのように振り向き、左手で相手の右手を軽々と弾いた。相手は弾かれた反動で懐ががら空きになっていた。
少女が右手で殴る準備をした。相手も殴られるのを覚悟しただろう。少女の拳が腹を直撃した。ドスッ、と重い音がしたが倒れなかった。
「弱すぎたかな?」
少女がまた呟いた。
「舐めやがって、舐めやがって。」
信悟も黙って見ていなかった。
「舐めやがって、舐めやがって、舐めやがって。」
信悟は、少女が仲間に意識を張っているのをいいことに、首を絞める気で飛びついた。
10㎝ぐらいまで近づいて少女も振り向いた。俺も緊張しながら見ていた。信悟は本気だったからだ。
少女は驚いた顔をした。少女も本気で首を絞める気だとわかったからだろう。
少女が目付きを変えた。
すると、信悟が15mほど飛ばされていた。俺も信悟の直線上にいたから倒れている体で1回転した。
何が起こったのかわかった。俺も体感したからわかった。
突風に襲われた。いや、突風なんて優しいものではない。ハリケーンほどのエネルギーの風に襲われただろう。
俺は特に問題無かった。信悟もゴミ袋がクッションになり、気絶だけで済んだみたいだ。
助けて欲しかったが、少しやり過ぎに思える。信悟の態度からして日頃から周りに迷惑を掛けているだろうから天罰が下ったと考えておこう。
この場に立っているのは少女と信悟の仲間だ。流石に戦意をそうしたようだ。蛇に睨まれた蛙のようにまったく動かない。
「私の力わかったでしょう?さっさと連れて帰りなさい。」
信悟の仲間は、その言葉を聞くとゴミの後ろから人を運ぶ用と言わんばかりの台車で、信悟と仲間を乗せて去って行った。
(手際よかったが、毎度毎度喧嘩でもしているのか?)