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日常【怪】話

仮想通貨

作者: 小話家

 「う~~~カネがない」


 カネと言っても現実の金じゃない・・・いや、ソッチも無いんだがそうじゃなく

 ゲーム内のカネがないのだ


 MMORPGなんかやってると常々悩まされるのがこれだ

 アイテムはレアになればなるほど高額になる

 単純にシステムにドロップを売れば済むのは最初から中盤くらいまで・・・それ以降はM(メガ)なんて単位が横行するようになる

 MはミリオンのMでもある・・・つまり100万だ

 ドロップアイテムはNPC(システム)に売っても高くて1000、100万ということはこれを1000個売らないといけない

 そして「高くても1000」ということはそれはそう簡単に手に入るものじゃない


 無論それを簡単に手に入れてくる連中もいる・・・いわゆる「廃人」という奴らだ

 連中は自身の時間と引き換えにレベルを上げ、そう言った「高いドロップ品」を手に入れてくる

 そう言った「高いドロップ品」が出てくる場所のモンスターは「高いレアドロップ品」を偶に落とす

 連中はそれをプレイヤー相手に「相場」で売って更にカネを手に入れる

 連中が欲しいアイテムは連中の基準で「相場」を決められ、俺達の手に届かない値段になる


 ちなみに俺が今欲しいアイテムの相場は・・・G(ギガ)

 Mの1000倍・・・つまり10億だ

 そんな物はそこらの廃人でも無理なわけだが、俺はもちろん廃人じゃないのでそんなカネはない

 だが、そのアイテムが元々そんな値段だったのなら俺も最初からは狙ったりはしないんだが・・・それを買うための貯金をしている最中に相場が20倍にも上がったのだ


 原因は仕様変更

 元々「神器レア」と呼ばれる運営の用意した特殊アイテムだったのだが、効果は正直微妙だった

 他の神器より全然人気がなかったのだが、その見た目が非常に良かったので、コレクター人気と作成のための材料費で割と高額だった

 とは言っても20倍でようやくGに届く程度の金額だ・・・頑張ればどうにかなった・・・先週までは


 『告知:神器レア「ブリュンヒルデの翼」は設定見直しにより効果を変更しました』


 今週のメンテナンス後に唐突に発表されたそれで、一気に相場が爆上げされたのだ

 最初の内は半信半疑だった

 「仕様変更」と言ったところで実は大した効果もないんじゃないかと


 しかし効果は絶大だった

 検証動画は瞬く間に10万ビューを超え、動画のコメントは弾幕化し、コメントオフにしないと内容がわからないほどだった


 「ブリュンヒルデの翼」の元々の効果は速度+20だった

 それ以外の効果はといえば、キャラクターの背中に美しい翼のつく所謂「見た目装備」という類だ

 しかし、仕様変更でこの数値が10倍になった


 数値が10倍になった結果何が起こったかというと・・・攻撃速度がとんでも無い事になった

 俺は元々「珍速剣士」というものを目指していて、俺の目標とした速度にあと20足りなかった

 それを補うために欲しがっていたのだが、この『+200』という数値はそんな俺を嘲るような数字だった


 「ブリュンヒルデの翼」を装備すること・・・それは「重戦車」と呼ばれ速度に一切振らず、攻撃速度が最も遅い代わりに高い攻撃力の武器を持った「砲術師」を最速のトリガーハッピーに変えるほどの効果があった


 それが何を意味するかと言えば、戦術が一変するということだった

 攻撃力と速度を重視した結果他の数値が低く、それでも他の武器を使うプレイヤーより遅かった彼らが速度に振っていた分を他に回せるとなればそれはとんでもないことだ

 対モンスター戦では敵なしだろうし、対ボス戦でも十分キーになる

 対人防衛戦では無敵の壁になる


 当然有力ギルドが囲い込みを始める

 他が手に入れればそれは自分たちにとって脅威でしか無い

 最初5倍程度で済んでいた高騰は、瞬く間に元の20倍という数字になった

 当然のように材料も高騰した


 「ちっくしょー、UGOだったらG単位の資産があるのに」


 「UGO」とは「ユニコーン・グラウンド・オンライン」と言うMMOだ

 5年前にオープンβで始めた時に、たまたま入手したアイテムたちが今や一つ数百Mの価値を持っているのだ

 それと言うのも、元々オープンβ開始記念に配られた見た目装備だったのだが・・・これがNPCに高く売れたのだ

 当時はみんなビンボーなわけで、どんどんとNPCに売られていった

 すると今度は運営が焦ってNPC販売価格を下げた・・・どうやら桁を5つほど間違えたようだった

 そうなると今度は投げ売りが始まった

 NPCに売りそびれた連中が最初見た目より金だと思って売って後悔した連中相手に販売したのだ


 そしてそんな騒動が終焉を迎えた頃・・・本当の捨て値になったその装備たちを俺は買い占めていた

 最初はただのコレクター根性だったのだが、その内なんとなく同じコレクター根性丸出しのやつに高く売れるかもしれないと思っての行動だった


 まさかその後伝説装備の素材として高騰するとは夢にも思わなかった


 「UGOでG単位の資産あるの?」


 そんな呟きを俺の後ろで聞いていた奴が声をかけてきた

 同僚だ


 「ああ・・・やらんぞ?」


 彼は最近UGOを始めたらしく、俺と同じくカネがないらしい

 ただ彼は俺が欲しがっている「ブリュンヒルデの翼」を持っている

 そう、彼も同じゲームのプレイヤーだった

 彼は実装直後に運良く「ブリュンヒルデの翼」を入手したらしい

 だが、彼の持っているキャラクターにつけてもいまいち似合わず、また彼は「珍速」狙いじゃなかったので倉庫に眠っているのだ

 今は売りどきを見極めている所だという


 確かにそうだな・・・実装したその週にこの高騰だ急遽直す様子もないところを見るとすぐ次のメンテで仕様変更はないだろう

 だったらもうしばらく高騰する可能性もある


 「『ブリュンヒルデの翼』と交換ならどうだ?」


 お互いに安い時代に手に入れたアイテム同士、特に未練があるものでもなく、単にゲーム内で爆上げが起きてるだけだ

 だったら交換してしまえばいい

 しかし面倒なのは、それが運営的にはNGだということだ


 「ん~・・・いっか、どうせ無課金だし」


 どっちも基本無料で俺は無課金プレイヤーだ

 かけた時間が無駄になるのはゲームが終わっても一緒だし


 「じゃあとりあえず契約書書くぞ」

 「お前いつもそれだな」


 俺は知り合いとのこういった取引には契約書を書くことを続けている・・・親の教えだ

 曰く「知り合いに貴重品を貸す時は書面で残せ、借りパクはお互いの認識の齟齬からも起きるもんだ」

 確かにそうだ、こっちが1週間借りるつもりだったとしても相手が一日しか貸す気がなかったら、二日後にはもう借りパク認定だ

 そうやって人間関係は壊れるのだ

 だったら最初から義務付けてしまえばいい


 「よし『甲は乙に丙を譲り、乙は甲に丁を譲り渡すものとする』っと」


 甲・乙にはそれぞれの名前を、丙・丁にはそれぞれのアイテムの名前を記載する

 後は拇印を押せば完了だ


 「しっかし仕事中に何やってんだろうね、俺ら」

 「仕事がこねーんだからしょうがないだろ」


 そう、俺達は今待機中なのだ


---


 「それにしてもアレだな、こういうゲーム内通貨がないからってRMTも封じられると社会人はどうにもならないな」

 「しょうがねーだろ、RMTは無用な争いのもとの上に実際に金が動くわけだし」

 「だよな~、詐欺にあったら洒落にならんわ」

 「小額だから余計にな・・・G単位で買っても10万だし」

 「10万が小額ってのもアレだが、裁判考えるとな~」


 正直刑事事件にしても戻ってくるか怪しいのが詐欺って犯罪だしな


 「ゲーム内通貨を使って買える仮想通貨とか作って、それを他のゲームの通貨で売るとか出来ないかねぇ・・」

 「あるぞ、そう言うの」

 「へ?」


---


 ヴァーチャルコインと言うそれは、不思議なものだった

 1コイン当たりそれぞれのゲーム通貨での相場が決められていて、サイトで希望購入数を記入するのだという

 すると、希望した数のコインが口座に入り指定したゲームの自分のアカウントからその分の通貨が消える

 今度はそのコインをゲームを指定して売るとその指定したゲームの自分のアカウントにその分のゲーム内通貨が振り込まれる


 まあ、そうは言っても対応するゲームのみでしかなく運営公認のシステムらしい

 今回はUGOがこのシステムに対応していなかったために利用できなかったが、ここ1年ほどで新規に始まったゲームではだいたい利用できるんだとか

 1コイン当たりの相場はそのゲーム内の推定流通量から算出されるらしく、比較的簡単に通貨が手に入りインフレの激しいゲームとNPCへの販売価格が雀の涙のようなゲームとではまさしく雲泥の差だった


 「こんなものがあったのか」

 「割と知られてないんだよな~便利なんだが」


 何でも現状の不満点を解消した新システムらしく、海外のゲームも参加しているという

 ・・・あ、これこの間K国で始まったやつじゃん

 これはこの間A国で始まったやつだな・・・これはこの間ベータテスター募集してたやつか

 ベータでも使えるとか凄いな

 ん・・・あ、この間試しに始めて飽きたやつとかもあるじゃん


 「これ、他のゲームの資産を纏めておくのとかにも使えるな」

 「それどころか、コインで持ってればインフレ起こしても価値はそのままだ」

 「そりゃいいな、ちょっと今止めてる奴の資産をコインに変えてみるわ」


 RMT(リアルマネートレード)ならぬVMT(ヴァーチャルマネートレード)

 しかもこれは運営公認だ・・・大手を振って利用できる

 今やってるゲームの通貨ならともかくやってないゲームの通貨が間違って消えたところで痛くも痒くもないしな

 結局オレが引退したゲームの通貨は合わせてコイン10枚分になった

 意外とレア持ってたんだな


---


 あれから1年経った

 俺がすっかりヴァーチャルコインのことを忘れていると、テレビのニュースで「今ヴァーチャルコインが熱い!」などという特集をやっていた


 なんでも、あの後運営母体が変わりコインを実際の金銭に換えることができるようになったのだが、それによってゲーム業界からそっぽを向かれてしまい、コインは完全に金融商品に変わったのだそうだ

 その後、どういう経緯かコインの相場はどんどん上がり・・・いつの間にやらコイン1枚を持っていれば1万円相当のサービスを利用できるようになっていた

 結局俺はあの直後「珍速剣士」を満喫して引退、装備はそのままで「ブリュンヒルデの翼」購入のための貯金をコインに変換して放置していた為、コインは割りと口座に残っていたはずだ


 口座を確認すると150コインもあったので、引き落としできるか確認する

 え?銀行に振込とか出来ないの?


 仕方ないのでヴァーチャルコインの使える貴金属ショップで純金製アクセサリーを買って送ってもらうことにした












 ヴァーチャルコインのサーバーがハッキングされたのはそれから一ヶ月後だった

ビットコインのニュースが下火になったので書いてみました

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