守護人〈マモリビト〉
俺はただ、彼女を護りたかったんだ。
気の弱い彼女は、恰好のイジメの的になっていた。
囲まれ、イジメられているのを見ると、すぐ輪に飛び込んで、俺はひたすら護り続ける。
されど女子のイジメ。暴力を受けたことは無かったようだが、ジリジリと心を蝕まれているようだった。
毎回「大丈夫か?」と、俺は問うのだが、決まって彼女は「大丈夫だから。 心配しないで」と、小さく微笑むので、俺はそれ以上なにも言えずにいた。
とある月曜日の放課後。
俺は、彼女からのメールを受信した。
内容は、今すぐ本校舎の屋上に来て欲しいというものだった。
いつもは顔文字や絵文字を使う彼女が、文字のみで送ってきたので、嫌な予感がして、俺は階段を駆け上がった。
「やっぱり、すぐに来てくれるんだね」
「お前が呼んだんだろ?」
「うん。 そうだね……」
「どうかした?」
「最後に話すなら、やっぱり君だと思ったんだ」
「最後」というところを強調したように聴こえた。
彼女は、セーラー服のポケットからピンク色の端末を取り出し、地面に置く。
「あのね、私、疲れちゃった」
おもむろに、校舎の淵に立つ彼女。
「心も、壊れちゃったみたい」
ひらりとスカートを翻し、こちらを向く。
「ちょっと、休んでこようと思います」
「休むって……嘘だろ……?」
俺は、地を蹴り全力で駆ける。
「いままで、護ってくれて、ありがと。
そして………………、さよなら」
彼女は力を抜き、重力に従う。
「逝くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は、彼女に向かって手を伸ばす。
彼女は、落下しながらもこちらを向いていた。
最期まで小さく手を振りながら、何時もの微笑みを称えていたが、空中に浮いているように見えた水滴は、紛れもなく涙の雫。
それから数秒後に聴こえたドシャッという鈍い音は、耳に焼き付いていて、離れることは無い。
「死ぬなよ……死んだら何も残らねぇだろ……」
ふと、ピンクの端末が視界に映る。
俺は恐る恐る端末の電源を入れる。
すると、勝手にボイスレコーダーが作動した。
『これを聴いているということは、私は天そらにいるのでしょうね』
彼女の声だった。
『難しいことは言えないけど、女の子を護ってあげて下さい。
私は、自分の弱さで心を蝕まれていたのだと思います。
君の存在で、護られて、助けられる子は、絶対にいるはず!
だからお願い。 護ってあげて。
それと、勝手な彼女でごめんなさい。
大好き……愛してたよ』
このときから俺は、人を護ることに生命を懸けるようになったのだと思う。
俺は、彼女を護れなかったから。
そして、今は亡き彼女の最期の頼みだったから。
初めての短編です。
長編の始まりみたいになってしまいましたがすいません。
感想など頂けると嬉しく思います。