表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運び屋の手記より ~スワイライム~  作者: くろきほむら
第一章 野盗とスワイライム
5/49

第一章-4

 屋上で争いが起こっている時、その建物のベッドの下で、テムルは生きた心地も無く、必死に息を押し殺していた。

 なぜ、野盗がこの場に戻ってきたのか彼には分かるはずもなく、自分がここにいるという事を悟られたのではないかと、戦々恐々だった。


「おい、早く上にのぼらねぇか!」


 荒々しい男どもの声が、テムルのはらわたをズシっと突き刺す。


「そうあせるな。どうやら、あの女にルンクスの野郎、手も足も出ないようだぞ。いつも威張り散らしやがって頭にきてたんだ。ここらで高みの見物といこうじゃないか」


 声と同時にベッドがドサっときしむ。


「それもそうだな。何も奴の手柄に貢献してやることもあるまい」


 続いて、もう一人ベッドの縁にボスっと腰をかけた。


「うわっ……!」


 小さい叫び声だがテムルは、思わず口にしてしまった。

 ベッドの隙間から、盗賊の足が目の前に飛び込んでくる。

 それだけならまだ耐えられたが、上でベッドに座る音をしたためどうしても抑えきれなかったのだ。


「なんだ!?」


 部屋の中の数名がお互い見合わせ、そしてあたりを見回す。


「まて。確かベッドの下からだった」


 その一言で、テムルの肝はつぶれた。


「おい! 下にいるんだろう。でてきな!! さもないと剣でベッドごと串刺しだぞ!」


 心臓が口から飛び出しそうになったのをようやくこらえ、テムルはおどおどとベッドの下から這いずり出た。

 部屋の中には盗賊が五人、威圧するように睨んでいる。


「ちっ! 男か。用無しだな。殺しちまうか?」


「まぁまて。こいつは、村の連中からも役立たずと思われて置いて行かれたって奴だろ。こんなの殺しても恥だ、恥」


 どっと、その場で笑い声が起こる。

 テムルもヘラヘラと乾いた声でわらった。

 情けないと思うより、侮辱されたと怒るよりも、助かりたいと、ただそれだけしかなかった。


「しかしなぁ、それだと俺たちは面白くないだろ」


 ベッドに寝そべっていた男が、変な笑いをしながらゆっくりと起き上がる。


「そりゃそうだが……やっぱり、やるのか?」


 冷や汗すらもうでないテムルではあったが、その言葉で体温はまた下がった。


「賭けをやらねぇか?」


「賭けだって? 一体どんな賭けだ?」


「こうやるんだよ!」


 男は起き上がり様小太刀を脇から引き抜くと、テムルの脇腹に、息もつかぬ間に突き刺した。

 テムルは自分に起きたことを理解できず口をぱくつかせ、その場に倒れこむ。

 床に赤黒い血が流れ出し、テムルの服を染めた。


「おいおい、これでどう賭けをしようというんだ? シャッド」


「こいつが、このまま生きるか死ぬかの賭けだ。こう見えても急所はちゃんと外しておいた。ただ、このままほっとけば血が全部出ておさらばさ。このままほっといて、俺たちが去れば生きるか死ぬか分からんだろう?」


「なるほど、それを賭けようというのか? しかし、それじゃぁ、こいつが死んだかどうか確かめないといけないだろう?」


「なに、また今度この村にくるじゃねぇか。そん時のお楽しみだ」


「そりゃ良いや……」


 薄れていく意識の中で、テムルは自分の生死に対する掛け率を虚しく聞いていた。



 ルンクスは、刀を正眼に構え相手を見据えていた。

 肩の力を抜き呼吸を整え始めている。


「兄貴。どうします? いっそう、一緒に襲いかかりましょうか?」


 周りの連中が焦れ切って、ルンクスに話し掛ける。


「うるせぇ! 黙ってみていろ! この女ただじゃすまさねぇ。八つ裂きにしてやるからな」


「とても君の腕では無理だと思うけどな」


 野盗どもが静まるのとは逆に、少女はルンクスを挑発する。

 しかし、それに動じない。

 一方少女は、ルンクスの集中力にただならぬ気配を感じ、相手の目を、肩を、体を見据える。

 一同が固唾を飲んで二人を見守った。

 静寂はすぐに打ち破られた。

 お互いの意思とは別の形で。


「全員撤退だ! グローリが戻ってきたぞ!!」


 一人の伝令が村中を走り回る。

 その声が、野盗たちの緊張感をはしらせ、少女の集中を途切れさせた。

 ジャナリーに必ず、助けが来ると教えられていたからだ。

 キジュはに安堵の表情を浮かべた。

 その一瞬の隙をルンクスは見逃さなかった。

 風が揺らめく。

 少女の目に、刀は動いているようには、映らなかった。

 しかし、風が確かに剣の走る音を伝えていた。


(まずい!)


 直感が危険を報せたが、一瞬判断が遅れたため避けきれない。

 何から避けるのかも、彼女の頭の中で定まらない。

 結果、反射的にいつものように小盾をつける腕を振り上げていた。

 カキーン! と高音の金属音が響く。

 と同時にピキピキと亀裂が入る音がし、彼女の手械が屋根に落ちた。


「俺の残影剣を受け止めただと……」


 呆けたままルンクスが唸る。

 一方、少女も何が起きたか分からないまま、落ちた手械を見つめていた。

 いや、偶然にも、鉄製の手械がルンクスの斬撃を受け止めた事だけは分かっていた。

 ただ、その一撃がどう打ち込まれたかを理解できないでいたのだ。


「くそっ!」


 先に我に返ったのは、ルンクスのほうだった。


「兄貴急いで下さい! 逃げ切れなくなる!」


 顛末を見届けた野盗は、居ても立ってもいられなくなり、屋根から飛び降り、逃亡した。


「このままで、終わると思うなよ! いずれこの村で決着をつけてやるからな小娘!」


 体を反転させると一気に屋根を飛び降りる。


「小娘じゃないやい! 僕にはれっきとキジュって名前があるんだ!」


 逃げ去って行く男へ、大声で怒鳴る。


(もっとも、こんな村に長居なんかしないから、決着なんかつけないけどね)


 キジュは、重い肩の荷を下ろすかのように、その場に座り込んだ。



 真っ赤な柱のように、荷台は炎上していた。

 荷台が動かないと知るや、野盗が腹いせに火をつけて逃げ出したからである。

 その燃えている荷台の傍で、女たちが恨めしそうにそれを見上げている。

 泣き崩れている女も居る。

 彼女らは、一様にすすだらけの顔をしていた。

 火をつけられた馬車から、命からがら逃げ出したためだ。

 グローリは入り口付近にいた野盗を掃討すると、一目散に火柱がたつこの中央広場に来た。

 駆けて来た男がグローリと分かるや否や、女たちは一斉に彼の周りに集まった。

 グローリは、そんな彼女らの中心で一旦止まり、周りの様子を視認する。

 彼の目に荒らされた村の中の様子が、改めて飛び込んでくる。


「……盗賊どもは他に居ないか?」


 グローリは、盗族が南の囲いを壊し、街道沿いに逃げ出したことが分かると、喧々囂々とした輪をかきわけ駆け出した。


 三騎が街道をそれだしていた。

 追いつかれると思い、林を逃走経路として選んだのだろう。

 前には、女たちがうつ伏せに寝かされた状態で乗せられていた。

 気絶させられていて、身動き一つしない。

 せめてと、村から連れ出してきた娘たちだ。


「頭! 後ろから奴が追ってきます!!」


 一人が後ろを振り返り、驚きの声を上げた。


「安心しろ。あの村には馬は居なかったはずだ! かけてきたって追いつけやしない!」


 頭は笑いながら相手にしない。

 もう一騎も笑い後ろを振り返るが、顔色を変えた。


「やばい! 追いつかれますぜ!!」


 そういうと、二人とも必死に馬に鞭を入れ始める。


「何を馬鹿なことを……」


 頭も半信半疑で後ろを振り返った。


「……!」


 自分の目を疑いたくもなるような光景が、そこにあった。

 グローリが魔物につかまれ飛びながら追って来る。


「ち! あのコードリアスか!!」


 忘れもしない。

 彼らの仕事のたびに邪魔しに来ていた魔物だ。


「くそ!」


 頭も続いて鞭を入れた。

 しかし、圧倒的に追っ手の方が早かった。

 そして、とうとう、シュジュの大森林に入っていく分岐路の前で、彼らはグローリに追いつかれたのだった。


 デーリッガは、主人を足でつかんだまま、咆哮を上げる。

 どんなに傷ついても、馬に遅れをとるようなことは無い。

 並走していた馬たちは、恐れおののき走る速度をゆるめる。

 盗賊どもがどんなに鞭打とうとも、減速を続け、ついにはそこから一歩も動かなくなった。

 グローリはデーリッガに合図を送り、彼らの目の前に舞い降りる。

 デーリッガは肩当てから足を離すと、また大空へと飛び立っていった。

 そのとき起きた突風でたなびく黒色のマントを背に、いつのまにか抜刀した剣をグローリは構える。


「……さて、大人しくして貰おうか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ