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運び屋の手記より ~スワイライム~  作者: くろきほむら
第三章 伝承とスワイライム
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第三章-2

 朝日が燦然と雪山を照らす。

 木の杜は温かな光を受け、背伸びをしたかのように屋根の上の雪を落とす。

 静かな山奥にあってその音だけが響き、近くの小動物は音も立てず逃げ出した。

 そんな朝焼けの赤く透き通った美しい光景を無表情に歩きながらグローリは、レクディアリウへとたどり着き、足を踏み入れた。

 中は、日の明かりが届かず薄暗く、酒の臭いが木の清爽とした香りを打ち消していた。

 その醜悪な臭いとまどろみが、半日前までは人がいたことを物語っていたが、今は、物音もなく、人の影もない。

 ただ、この結果を予想していたグローリに、落胆の影はなかった。


(……罠の撤去にこだわり過ぎたか……)


 そう思いつつ、木戸を一つ一つ丁寧に調べ、罠をはずしてから開ける。

 部屋の中は、太陽のまばゆい光で満たされ、透き通る風が駆け抜けていく。

 よどんだものが浄化され、この杜のあるべき木の香りが戻ってきた。

 ただ、まだ、十分ではない。

 あちらこちらに皮袋や木箱が散乱し、精霊を祭る場所としては似つかわしくなかった。

 それらの荷物は、コードリースの角を売って手に入れた高価な装飾品や、村や旅人から、巻き上げた金品だ。

 キジュの前に来た運び屋の話では、セレルーネ王国の警備兵を恐れココヤス方面から来るものには手をだすことはほとんどなく、スワイライム周辺の街道で彼らは活動しているということだったが、 つまり、それは、ここにつまれている財のほとんどが、スワイライムに関係し形成するはずだったものといっても過言ではない。

 スワイライムが年々、さびれていく理由の一端は、これだったのだろうと思わずにはいられない。

 一方で、これだけ金品が無造作に捨てておかれているのに関わらず、食糧は何一つ残っていなかった。


「……持久戦のつもりか。……金目のものは捨てておいても後でいくらでも回収できるとふんでるようだな……」


 この男には珍しく、考えを声に出す。

 苛立ちを静めるために。


(……だが、物事には誤算が付きまとう。特に悪党にはな……)


 グローリはカードを取り出し、杜の中にあったものをチリ一つ残さず吸収してしまった。



 昼前、キジュは、語り部の少女らが仕事を追え、家に戻ろうとしだしたのを見計らって、勢いよく声をあげ、大きく手を振る。

 寝ずの番をしていたデーリッガと交代しようと、屋根の上にでてから、それだけが待ち遠しくて、ここで見張りをしていたのだ。

 いつも以上に声が大きくなったのも無理はない。

 その大声を嫌ってか、交代どころか、まだなお見張りを続けていたデーリッガは、屋根の一番高いところへと飛んでいった。

 昨日の昼から、グローリに命令されたまま、見張りを続けているデーリッガには疲れがないのかと、キジュは疑問に思ったのだが、それも下から声をかけてきた、語り部たちの声でかき消された。


「私たちに御用ですか?」


 語り部の代表が仰々しくお辞儀をし、手を振る。

 彼女らに限らず、語り部たちの仕事始めの常套句だ。

 昨晩からこびりついて仕方なかった一言を、キジュは伝える。


「カデラスの事を知りたいの、教えてお願い」


 ここで気の利いた聞き手なら『カデラスの詩を一節』とするところだが、あいにくキジュにはそのような教養はない。

 内心興ざめしながらも、彼女らは詩を声高らかに朗読しだした。


 詩伝えること 数えて五百二十四


 赤い太陽     レイクルの上

 夜空を照らし   星ぼし隠す

 その丈まさに   大樹を凌駕し

 その幅はるか   大河を超える


 荒海沸かし    荒野をもやす

 林は嘆き     黒煙をあげ

 火の羽舞い    炎は群れる

 畑を捨てて    民は戸惑い

 その惨劇は    焦土を包む


 此処に至りて   霊術師立ち

 山精厳霊     炎上に召還す

 二大精霊     果てなく戦い

 昼夜を通し    怒号休まず

 凄惨きわめ    地見る影無し


 戦い終わり    霊術師語る

 炎球大精     この地に眠る

 ただ眠るのみ   必ず目覚めん

 春夏秋冬     五百巡るうち

 忘れず伝えよ   悲しみの詩


 詩伝えること   数えて五百二十四


「この炎球大精といわれる精霊がカデラスであり、山精厳霊がレイクルです。レイクル山といわれる様になったのは、もともとこの精霊の名がレイクルであり、山に彼が戻った時、このことを忘れないようにと、レイクルを祭りだしたことに起因するそうです。あと、数えて五百二十四という箇所は、年を越すごとにこの数が一つ増えていくのです。つまり、この詩を伝えて、もう五百二十四年たっているということです」

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