表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イ尓喜好  作者: 貴妃
7/7

第七話

「あ、そろそろかしら。」


マーマの合図で蒸籠の蓋を開ける。ふわっと立ち上る湯気の中にはつややかに蒸し上がった餃子が行儀良く並んでいた。


「さあ、熱いうちに食べるわよ。」


「「はーい」」


マーマはあらかじめ作っておいた餃子のタレを用意した。ラー油入りの酢醤油ではなく、酢に少量の醤油を混ぜ、花椒を散らしたオリジナルである。


「いただきます。那就開始吃了。

(ナ- ジウ カイ シ- チ- ラ。)」


「「いただきます。那就開始吃了。

(ナ- ジウ カイ シ- チ- ラ。)」」


「んー、美味しいっ」


「美味しいって言うだけじゃなくて作れなきゃダメなのよ」


「はーい。」


「ねえ、美花、『美味しい』って中国語で何て言うの?」


「『好吃』

(『ハオ チ-』)って言うんだよ、俊也。」


「好吃!マーマ!」


マーマは微笑んでいた。







片付けのあとはマーマが淹れてくれた烏龍茶を飲んだ。烏龍茶のすっきりした味わいが餃子のこってりした脂を流してくれた。


「今日は特別な日だから、これを見せてあげる。」


そう言って、マーマは重厚な漆塗りの木箱から小さな手鞠状のものを取り出した。全体的に薄い焦げ茶で、ところどころにうっすらとした色彩が感じられる程度のものだった。


マーマはそれを大きなガラスの器に入れ、お湯を注いだ。


すると、手鞠状の塊がほぐれてきて大輪の花をえがいた。松の葉で作られた台座に深紅の花が一輪鎮座している。それを囲むように菊の花びらが游いでいた。小魚の群れを模しているのだろうか。


マーマの説明によると、これは工芸茶と呼ばれるもので、花を楽しむ花茶の一つである。もちろん、この茶館《茉莉花》のカウンターにも飾られている。バリエーションはあるが、大抵は茉莉花を金魚に見立てたものが多い。


香りが華やかで強いのが工芸茶をはじめとする花茶の特徴で、味の好みは個人差が激しいところである。


私やマーマは好きなのだが、俊也の口には合わなかったらしい。鼻に抜ける強い芳香と口に広がる微かな酸味と苦味。本当はそれらが相まって甘く感じられるのだが、気持ち悪くなってむせてしまったらしい。


そりゃ、そうよね。日本では花茶を飲む習慣がないものね。菊茶とか桜茶みたいな特別な席で出される特別な飲み物っていうイメージしかないもんね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ