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第10章 簡単な仕事

第10章 簡単な仕事


街は彼を特に気に留めなかった。


細い通り。

灰色の建物。

少し離れた場所で響く市場の音。


それぞれが、それぞれの用事を持って動いている。


マルクは門の前に立ち、しばらく前を見ていた。


ここでは、彼はまた「何者でもない存在」だった。


冒険者でもない。

職人でもない。


ただ、居場所のない人間。


「……やり直しだな」


小さくそう呟き、歩き出す。


いくつかの場所を回った。


冒険者ギルド――断られた。

倉庫――断られた。

商店――断られた。


どこでも同じ目を向けられる。


「ここじゃない」

あるいは

「余計な人手はいらない」


夕方になる頃には、空腹より疲労のほうが重くなっていた。


マルクは建物の石段に腰を下ろす。


「これでも、想像より難しいな……」


人々は通り過ぎる。

誰も立ち止まらない。


それでも、彼は立ち上がった。


翌日、ひとつの工房を見つける。


木造の建物。

金属と油の匂い。

中から響く規則的な金槌の音。


扉を開ける。


受付に立っていたのは、腕の太い男だった。


一瞬の視線。評価するような目。


「仕事か?」


「はい」


「何ができる?」


マルクは正直に首を振る。


「特には。ですが、覚えるのは早いです」


男は鼻を鳴らす。


「みんなそう言う」


間。


男は奥を顎で示した。


「運べ。片付けろ。見て覚えろ」


「文句は言うな」


「問題ありません」マルクは静かに答えた。


こうして、彼は最初の仕事を得た。


最初は単純に肉体的にきつかった。


箱を運ぶ。

道具を渡す。

金属の削りカスを掃く。


すぐに腕が痛み始める。

背中は夜になるたび存在を主張した。


「持ち方が違う!」

「遅い!」

「よく見ろ!」


言葉が飛んでくる。


マルクは黙って頷き、直し、また間違えた。


そしてまた学んだ。


数日後には、動きが少しだけ自然になっていた。


ある日、親方が彼を見て言う。


「お前、まだ残るのか?」


「可能であれば」


男はしばらく黙る。


頭をかく。


「奥の倉庫に空きがある。古いぞ」


「邪魔するなら追い出す」


「問題ありません」


こうして、彼は最初の「居場所」を得た。


小さな空間。

木の壁。

工具と埃の匂い。


だが、それでも「場所」だった。


日々は単純なリズムになっていく。


仕事。疲労。睡眠。


マルクは朝早く起き、工房へ向かう。

夕方まで働き、戻る。


時折、他の作業員と温かいスープを飲む。

時にはパンだけの日もある。


夜。


倉庫の隅に座る。


手には小さな傷。

指は疲れている。

背中はまだ痛い。


それでも彼は手を見つめた。


「……簡単な仕事か」


小さくそう呟く。


壁の向こうでは、工房の音が静かに消えていく。


街はいつも通り、生きていた。

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