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コズミック・ドリフター③鋼鉄の闘技場(ヘパイストス・ファウンドリ)  作者: naomikoryo


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第九話:クロノスの影

どれほど時間が経っただろうか。

ザインの圧倒的な戦闘力。

陸の惑星渡りによる奇襲と回避。

そしてリラの的確な戦術指示。

三つの力が奇跡的な化学反応を起こし、彼らはついにクロノス・オーダーの執拗な追撃を完全に振り切ることに成功した。


三人が身を隠したのは、地下迷宮の最下層。

今はもう使われていない古い動力炉の炉心区画だった。

分厚い遮蔽壁に囲まれ、外部からの干渉はほとんどない。

かつてはこの星のすべてを動かしていたであろう巨大な炉心は活動を停止し、今はただ、巨大な鉄の墓標のように静まり返っている。


三者三様、疲労困憊していた。

ザインは壁に背を預け、荒い呼吸を繰り返している。

エネルギーアームはもはや形を維持できず、消えかかっていた。

防護服のあちこちが焼け焦げ、あるいは切り裂かれ、そこから血が滲んでいる。

陸もまた、その場にへたり込んでいた。

肉体的な疲労よりも、精神的な消耗が激しい。

短時間でこれほど精密な跳躍を繰り返したのは初めてだった。

サイを搾りかすまで使い果たし、今は指一本動かすのも億劫だ。

リラは壁際に座り込み、目を閉じていた。

この極限状況で頭をフル回転させ続けた疲労は、計り知れない。


しばらく、重い沈黙が三人を支配した。

その沈黙を破ったのは、ザインだった。


「……さて、と」


彼はゆっくり顔を上げ、鋭い金色の瞳でリラを射抜いた。


「休戦協定はここまでだ。だが、その前に一つ聞かせてもらおうか。情報屋の嬢ちゃん」


声には先ほどまでの昂りはない。

代わりに、氷のように冷たい圧力がこもっていた。


「お前、あの黒い蝿共のことを知ってたな? 『クロノス・オーダー』と、言ったか」


陸は息を呑んだ。

それは彼もずっと気になっていたことだった。


リラはゆっくり目を開ける。

紫紺の瞳は揺らぎなく、ザインの視線をまっすぐ受け止めている。


「……ああ、知っている」


観念したように、静かに頷いた。


「奴らは亡霊だ」


リラは重い口を開いた。


「古代文明の遺産に取り憑かれた狂信者の集団。

自らを『歴史の守護者』と称し、星々の各地に眠るオーパーツを収集している。

目的は一切不明。

だが、その過程で邪魔になる者は、星ごと消し去ることも厭わない危険な連中だ」


その言葉に、陸は背筋が凍った。

「星ごと消し去る」。

荒唐無稽なハッタリには聞こえない。

あの無慈悲なドローン部隊の動きが、それを現実として裏打ちしている。


「奴らのやり方は常に徹底している。

情報を掴み、部隊を送り込み、目標を確保、あるいは破壊する。

その動きは、まるで精巧な機械のようだ」


リラの声に、かすかな憎悪が滲んだ。


「今回の、あんたの獲物――クロノス・インダストリーのカプセル。

その中身も、おそらく古代文明のオーパーツだろう。

だから奴らは現れた。横取りするために」


ザインは黙って話を聞いていたが、やがて忌々しげに吐き捨てた。


「……チッ。そういうことか」


彼は自分の依頼の裏に隠された事情を、ようやく理解したのだ。


「俺の依頼主、クロノス・インダストリーは、おそらくオーダーの襲撃を予測していた。

だから正規の航路ではなく、惑星渡りという奇策を使った。

そして万が一、情報が漏れていた時のための『保険』として俺を雇い、カプセルの強奪を依頼した。

奴らに渡すくらいなら、いっそ破壊しろ……とでも言われたんだろうな」


二つの組織。

クロノス・インダストリーと、クロノス・オーダー。

その関係性はまだ見えない。

だが両者が古代文明の遺産を巡って、水面下で激しく対立していることだけは確かだった。


陸はただ二人の会話を聞いていることしかできなかった。

話のスケールが大きすぎる。

自分たちが足を踏み入れてしまった世界の裏側。

それは、ただの運び屋の少年が関わっていい領域ではない。


自分は一体、何に巻き込まれてしまったのか。


リラは、そんな陸の心情を見透かしたかのように静かに続けた。


「奴らは、ただの遺産泥棒じゃない。

彼らの思想は一種の宗教だ。

そしてその教義の中心には、ある一つの予言が存在するらしい」


「予言?」

ザインが眉をひそめる。


リラは息を整えるように、一拍置いた。

そして、言葉を選ぶでもなく告げる。


「『星渡りの異邦人が現れる時、失われた神々の力が再び目覚める』……」


その言葉を聞いた瞬間、陸は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。


星渡りの異邦人。

それは、まさしく自分のことではないか。


物語の黒幕の存在が、初めて具体的な輪郭を現した。

そして、その陰謀の中心に自分がいるという、信じがたい事実。

陸は運命という巨大な渦に、否応なく巻き込まれていくのを感じていた。

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