第八話:二つの力
「――来るぞ!」
ザインの鋭い声がトンネルに響いた。
通路の曲がり角の向こうから、数機のクロノス・オーダーのドローンが、単眼のカメラアイを赤く点滅させながら姿を現す。
「チッ、しつけえ蝿共が!」
悪態をつきながら、ザインは損傷していない五本のエネルギーアームを展開した。
青白い光の腕が狭い通路を明るく照らし出す。
「俺が前に出る。お前ら、後ろに下がってろ!」
そう言い放つと、ザインは壁を蹴り、弾丸のようにドローン部隊へ突っ込んでいった。
まさに鬼神の強さだった。
狭い通路ではドローンは物量と機動力を生かせない。
ザインは地形の有利を最大限に利用し、六本の腕から繰り出されるエネルギーブレードで、次々にドローンを切り刻んでいく。
火花が散り、金属の破片が飛び散った。
陸は、その圧倒的な戦闘力を呆然と見ていることしかできない。
これが一流の傭兵。
これがスキルチップを極めた人間の戦い方。
だが、ドローンの数は減らない。
一体倒せば、二体が後方から現れる。
そして彼らはザインの強さを学習し、徐々にフォーメーションを変え始めた。
一部がザインを足止めし、その隙に残りが壁や天井を伝って、陸とリラへ迫ってくる。
「まずい! 陸、こっちにも来るぞ!」
リラが叫ぶ。
「くそっ……!」
陸はリラを背後にかばい、惑星渡りの準備をする。
だが、どこへ跳ぶ?
迷路のような通路で闇雲に跳躍すれば、壁の中に埋まるか、あるいはさらに敵のど真ん中に出てしまう可能性もある。
その時だった。
「おい、そこのガキ!」
ドローンを一体蹴り飛ばしながら、ザインが叫んだ。
「お前のその跳躍スキル、こっちに使えねえのか!」
「はあ!? あんたに使えるかって……!」
「いいから、やれ! あのドローンの背後に俺を送り込め!」
ザインが指し示したのは、陸たちに迫ってくるドローンのさらに奥――編隊の中心に位置する一機だった。
無茶苦茶だ。
だが、もうやるしかない。
「リラ、指示を!」
陸が叫ぶ。
リラは一瞬ためらったが、すぐに意図を察した。
「……分かった! ザイン、三秒後、右に跳べ!」
「陸、あんたはザインの動きに合わせて、彼が着地するであろう空間ごと、あのドローンの背後五メートルに転移させろ!」
神業のような連携を要求される賭けだった。
だが三人は、アイコンタクトだけで意図を共有した。
「三、二、一……今だ!」
リラの合図とほぼ同時に、ザインが右側の壁へ跳躍する。
陸はその動きに全神経を集中させた。
跳躍の軌道、速度、そして着地する一点。
その空間の座標を正確に読み取り、さらにその空間ごと敵の背後へ送り込むイメージを、脳内で組み上げる。
「――跳べ!」
右腕のチップが眩い光を放った。
壁を蹴ったザインの姿が、一瞬青白い光の粒子に包まれ、その場から掻き消える。
そして次の瞬間。
ザインはドローン編隊のど真ん中――指揮官機と思われる一機の真後ろに出現していた。
「なっ……!?」
予期せぬ方向からの敵の出現に、ドローンたちの動きが一瞬止まる。
そのコンマ数秒の硬直が命取りだった。
「もらったあああっ!」
ザインの雄叫びが響き渡る。
五本のエネルギーブレードが閃光となって走り、周囲のドローンをまとめて切り刻んだ。
死神の舞踏のような連撃。
爆発、また爆発。
狭い通路が炎と煙に包まれる。
「……すげえ……」
陸はその光景に圧倒されていた。
だが、それ以上に彼を興奮させたのは、自分自身の力の可能性だった。
逃げるためだけの力じゃない。
使い方次第で戦況を覆すことすらできる、強力な戦術ツールになりうる。
他者の力と組み合わせることで、一人では決して見ることのできない景色が見られる。
「おい、ぼさっとするな。次が来るぞ!」
ザインの声に、陸ははっと我に返る。
「今度は俺を、あの天井のパイプの上に送れ!」
「了解!」
もはやそこに敵意や不信感はなかった。
ただ、この窮地を切り抜けるという共通の目的のためだけに、二つのまったく異なる力が、リラの戦術指示というタクトの下で、一つの協奏曲を奏で始めたのだ。
ザインが暴れ、陸が跳ばす。
いびつで危険で、そして恐ろしく効率的な戦闘スタイル。
ザインもまた、惑星渡りの戦術的な価値に舌を巻いていた。
ただ逃げ回るだけの鬱陶しいスキルだと思っていた。
だが、これほど戦場のルールを書き換える力だったとは。
彼はちらりと後方の陸を見る。
金色の瞳に、侮りの色はもうない。
代わりにそこには、「使える奴」を認めた戦士の光が宿っていた。
戦いは、まだ終わらない。
だが三人の間には確実に、敵意とは別の奇妙な絆が芽生え始めていた。




