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コズミック・ドリフター③鋼鉄の闘技場(ヘパイストス・ファウンドリ)  作者: naomikoryo


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第七話:束の間の共闘

地下迷宮は、まるで巨大な機械の血管のようだった。

陸とリラは無数に枝分かれするパイプラインの合間を、息を殺しながら進んでいた。

時折、頭上の格子状の床の隙間から、地上の戦闘音らしきものが微かに聞こえてくる。

だがそれも、徐々に遠ざかっているようだった。


リラは、もういつもの冷静さを取り戻していた。

先ほどのか弱い少女の面影はどこにもない。

紫紺の瞳は再び鋭い知性の光を宿し、携帯端末に表示された地下施設の不完全なマップと周囲の状況を照らし合わせながら、進むべきルートを探している。

その切り替えの速さに、陸は改めて舌を巻いた。

彼女の強さは、決してスキルの有無では測れない。

精神の強靭さにあるのだと、彼は理解した。


「……こっちだ」


リラが低い声で呟き、狭い通路を指し示した。

そこは他と比べて特に暗く、蒸気の噴出も激しい。

だがマップ上では、地上へと繋がる数少ない出口の一つへ続いているらしかった。


二人がその通路へ足を踏み入れた、その時だった。

奥の闇の中から、人影がぬっと現れた。

片腕で脇腹を押さえている。

燃えるような赤毛。

暗闇の中でも爛々と輝く、金色の瞳。


間違いない。


「……ザイン!」


陸は咄嗟に、リラをかばうように前へ出た。

ザインもまた二人を捉え、その獰猛な顔を驚きと警戒で歪める。

彼の代名詞ともいえる六本のエネルギーアームは、損傷のためか今は展開されていない。

だが全身から放たれる殺気は、少しも衰えてはいなかった。


狭い通路。

距離は十メートルもない。

三者の間に、一触即発の緊迫した空気が流れる。

陸はいつでも惑星渡りが使えるよう、右腕のチップへ意識を集中させた。

ザインはゆっくり腰を落とし、臨戦態勢を取る。


敵だ。

ついさっきまで自分たちを殺そうとしていた男。

今度こそ決着をつけるべきか。

いや、勝てない。

たとえ相手が手負いだとしても、今の自分では。


陸の思考が激しく交錯する。


その張り詰めた糸を断ち切ったのは、またしてもリラの声だった。

そしてそれは、二人の男のどちらもがまったく予想していない言葉だった。


「――取引しないか、傭兵」


リラは陸の背後からひょっこりと顔を出すと、まるで市場で値切り交渉でもするかのような落ち着き払った口調で言った。


ザインが眉をひそめる。

「……取引だと? 俺と、お前らが?」

「ああ、そうだ」


リラは続けた。


「あの黒いドローン部隊。クロノス・オーダー。奴らは、あんたの獲物も我々の命も、両方を狙っている。そうだろ?」

「……それがどうした」

「このまま、ここで我々がやり合っても、奴らを喜ばせるだけだ。あんた、手負いのその身体で、あの物量を一人で相手にするつもりか? それとも、我々と戦いながら奴らの相手もするのか?」


リラの言葉は、冷徹な論理で組み上げられていた。

確かに、彼女の言う通りだ。

この最悪の状況で、内輪揉めをしている場合ではない。


「……で、何が言いたい」

ザインの声に、警戒の色が混じる。


「休戦協定だ」


リラはきっぱりと言った。


「目的は一つ。あの黒い連中を切り抜け、この忌々しい地下迷宮から脱出すること。それが達成されるまで、我々は互いに攻撃しない。そして可能な限り協力する。どうだ? 悪い話じゃないだろ」


陸は、リラの大胆な提案に耳を疑った。

こいつと協力する?

冗談じゃない。

俺たちを殺そうとした相手だぞ。


「リラ、何を――」


陸が抗議の声を上げかけた、その時。

通路の後方から、甲高いドローンの駆動音が微かに聞こえてきた。

追っ手が、もうそこまで迫っている。


ザインもその音に気づき、忌々しげに舌打ちをした。

彼はリラの顔と陸の顔を交互に見比べ、通路の奥の闇を一瞥する。

一人であの物量を相手にするのが無謀なことくらい、彼自身が一番よく分かっていた。


やがてザインは、ふう、と一度大きくため息をついた。


「……気に入らねえな」


吐き捨てるように言う。


「だが、お前の言う通りだ。ここで犬死にはごめんだ」


彼はゆっくりと臨戦態勢を解いた。


「いいだろう。その取引、乗ってやる。ただし、この状況を切り抜けたら、すぐに協定は破棄だ。次に会った時が、お前らの最期だと思え」


「それで結構」

リラも頷いた。


こうして、ありえないはずの一時的な協力関係が成立した。

敵と敵。

ただ「生き残る」という共通の利害のためだけに結ばれた、脆く危険な同盟。


陸は、そのあまりにも現実離れした展開に、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

目の前の殺意に満ちた傭兵と、背後から迫り来る無慈悲な殺戮機械。

どちらも信用できない。

だが今は、この最悪の選択肢しか残されてはいなかった。

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