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コズミック・ドリフター③鋼鉄の闘技場(ヘパイストス・ファウンドリ)  作者: naomikoryo


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第六話:地下迷宮への逃走

爆風と熱波が、嵐のように吹き荒れた。

陸はリラの小さな身体の上に覆いかぶさり、歯を食いしばって衝撃に耐える。

降り注ぐ瓦礫の雨が、背中の防護服を叩いた。


「……リラ、大丈夫か!」


爆風が過ぎ去ると、陸は身体を起こし、腕の中のリラを確かめた。

彼女はこくりと小さく頷く。

だが顔色は依然として青ざめたままで、紫紺の瞳は空虚に宙を彷徨っていた。


クロノス・オーダー。

その名前が、彼女から思考力を奪い去ってしまったかのようだった。


「しっかりしろ、リラ!」


陸は彼女の肩を強く揺さぶる。


「ぼさっとしてたら死ぬぞ! あんたがいつも俺に言ってることだろうが!」


その言葉に、リラの瞳がわずかに光を取り戻した。

彼女ははっとして周囲の状況を確認する。


ザインは爆心地の近くで体勢を立て直していた。

エネルギーアームの一本が損傷したのか、ノイズを発しながら明滅している。

ドローン部隊も爆発の影響で陣形を乱していた。


今しかない。

二人の思考が、奇跡的に一致した。


「……陸、あそこだ!」


リラが指し示したのは、爆発で半ば破壊された壁の下方に、ぽっかりと口を開けたマンホールだった。

この巨大な工場地帯の地下に張り巡らされた、メンテナンス用トンネルへの入り口。


「あそこまで走れ! 私が援護する!」


リラは懐から、掌に収まるほどの小さな球体を取り出す。


「行くぞ!」


陸はリラの言葉を信じるしかなかった。

彼は彼女の手を強く握り、マンホールへ向かって全力で走り出す。

すぐにドローン部隊の数機が二人の動きに気づき、追撃のレーザーを放ってきた。


「――今だ!」


リラの叫びと同時に、彼女は球体をドローンの群れへ投げつけた。

球体は空中で閃光を放ち、炸裂する。


EMP――強力な電磁パルスを発生させるグレネード。

レーザーを放っていたドローンたちが火花を散らし、操縦不能に陥って墜落していく。


もちろん、効果は一時的だ。

後続のドローンがすぐ体勢を立て直すだろう。

そのわずかな時間を稼ぐためだけに、リラは貴重な切り札を切ったのだ。


陸はリラの手を引き、マンホールへ飛び込んだ。

中は真っ暗だった。

鉄の梯子を夢中で下りていく。

地上での爆発音や戦闘音が、急速に遠ざかっていくのが分かった。


梯子の一番下まで降りると、二人はその場にへたり込んだ。

九死に一生。

その言葉が、これほど実感を伴って胸に落ちたことはない。


トンネルの中は完全な闇だった。

鼻を突く湿ったカビの匂い。

どこかから漏れ出した高温の蒸気が、パイプの隙間から噴き出し、視界を白く染める。

無数のパイプが複雑に入り組み、まるで巨大な機械の内臓に迷い込んだかのようだった。


「……はあ、はあ……」


陸は荒い呼吸を整えながら、リラの様子を窺う。

彼女は壁に背を預け、俯いていた。

身体はまだ、かすかに震えている。

普段の冷静で傲慢な彼女の姿は、どこにもない。

そこにいるのは、何かに怯える一人のか弱い少女だけだった。


陸は彼女の隣に座る。

今、自分が何をすべきか考えた。

クロノス・オーダーとは何なのか。

なぜ彼女は、あんなにも動揺したのか。

聞きたいことは山ほどある。


だが今の彼女に、それを問い詰めるのは酷だと思った。

それよりも、まずは。


「……大丈夫か?」


陸は努めて優しい声で言った。


「怪我はないか?」


リラはゆっくりと顔を上げる。

紫紺の瞳は潤み、頼りなく揺れていた。

彼女は何も答えず、ただこくりと小さく頷くだけだった。


陸はそれ以上、何も聞かなかった。

静かに立ち上がると、防護服のフードを被り直し、周囲の警戒を始める。

いつもとは立場が逆だった。

これまではリラが考え、陸が動くだけだった。

だが今は違う。

彼女が動けないのなら、自分が動かなければならない。

自分が、彼女を守らなければならない。


その当たり前の事実が、陸の中で確固たる決意へ変わっていく。

彼女が抱える秘密。

いつか、必ず聞き出す。

そして、その荷物を半分、自分が背負ってやる。

パートナーなのだから。


陸は闇の奥をじっと見据えた。

この地下迷宮の出口はどこにあるのか。

追っ手はいつ来るのか。

まだ何も分からない。


だが不思議と、恐怖はなかった。

守るべき存在が、すぐ隣にいる。

その事実が、彼に前を向く力を与えてくれていた。

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