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コズミック・ドリフター③鋼鉄の闘技場(ヘパイストス・ファウンドリ)  作者: naomikoryo


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第二話:鋼鉄の街

工場の屋上から地上へと続く錆びついた非常階段を、二人は黙々と下りていった。

地上に近づくにつれて、絶えず響いていた重低音はさらに音量を増していく。

それはもはやただの騒音ではない。

この星、ヘパイストス・ファウンドリの巨大な心臓の鼓動そのものだった。


地上に降り立った二人は、研究所へ向かうべく、巨大なパイプラインに沿って整備された幅広い道路を歩き始めた。

道路は金属製のプレートで隙間なく覆われている。

おそらく、酸性雨による地面の腐食を防ぐためだろう。


「……人がいないな」

陸が呟いた。


アルカディア・ネクサスの、あの狂ったような喧騒が嘘のようだ。

このだだっ広い道路を歩いているのは、自分たち二人だけ。

時折、頭上を巨大なコンテナを吊り下げたクレーンが、ゆっくりと横切っていくだけだった。


「いや、いるさ。

ただし、あんたが『人』と認識できるような暇人は、な」


リラが顎で前方を指し示した。

見ると、巨大な工場のゲートが重々しい音を立てて開き始めている。

そしてその中から、ぞろぞろと人影が溢れ出してきた。


労働者たちの交代の時間だった。


だが、その光景は陸が知っているどんな工場のそれとも、まったく異なっていた。

ゲートから出てきたのは、アルカディア・ネクサスで見たような多様な人種ではない。

彼らはみな同じような灰色の作業服を身にまとい、そして身体の大部分を無骨な機械のパーツへと置換していた。


四本の腕を持つ者。

下半身がキャタピラになっている者。

あるいは、もはや頭部以外ほとんど人間としての原型を留めていない者までいる。


彼らは互いに言葉を交わすこともなく、ただ虚ろな目で前を見据え、黙々とそれぞれの居住区画へ歩いていく。

その姿は、まるでプログラムされた通りに動くアンドロイドの軍隊のようだった。


「……すごいな」


陸は呆然と、その行列を見つめていた。


「この星の住人は、ほとんどが他の星からの出稼ぎ労働者だ。

彼らは過酷な労働環境に自らの身体を最適化させる。

より効率的に、より長く働くために、手足を機械に換え、感情を殺す」


リラの淡々とした解説が、陸の耳に届く。


「彼らにとって身体は資本であり、道具だ。

より性能の良いパーツに換えれば、それだけ高い給金が得られる。

そうやって金を稼ぎ、故郷の星に送金する。……まあ、その稼いだ金の大半は、高価な身体の維持費とパーツのローンに消えていくんだがな」


その言葉に、陸は何も言い返せなかった。

アルカディア・ネクサスのダウンサイドで見た貧しさとは、また違う。

別の形の、救いのない現実がそこにあった。

彼らは自らの意思で、人間であることを少しずつ捨てていく。

生きるために。


やがて労働者たちの行列が途切れる。

街には再び静寂が戻った。

ただ、巨大な工場の心臓の鼓動だけが変わらず響き渡っている。


陸は言いようのない不気味さを感じていた。

この街はまるで、一つの巨大な生命体のようだ。

工場が内臓で、パイプラインが血管。

そして、感情のない労働者たちは、その生命体を維持するために働く血小板か何か。

そこには個人の意思や感情が入り込む隙間は、まったく感じられなかった。

ただ巨大なシステムが、効率のためだけに動き続けている。


「クロノス・インダストリーは、この星のインフラのほとんどを掌握している」


リラが前を見据えたまま言った。


「エネルギー、食料、そして労働者たちの身体を維持するためのサイバーニクス技術。

その全てだ。

つまり、この星の住人はクロノスに生かされていると言っても過言ではない。誰も彼らには逆らえない」


圧倒的な支配の構造。

陸は、自分たちが今、その支配者の懐のど真ん中に足を踏み入れているのだという事実を、改めて認識した。


なぜ、彼らは我々のようなアウトローを使ったのか。

正規のルートを使えない、よほどの理由。

誰にも知られたくない何か。

それは一体、何なのだろうか。


陸の脳裏に、依頼品である鈍い銀色に輝くカプセルの不気味な姿が浮かび上がった。

あの小さなカプセルの中に、この巨大な星の支配者ですら持て余すような秘密が眠っている。


ごくり、と陸は喉を鳴らした。

これから自分たちがしようとしていることは、ただの運び屋の仕事では済まないのかもしれない。

そんな予感が、確信に近い形で胸を支配し始めていた。


前方に、ひときわ巨大で近代的な白亜の建物が見えてきた。

第十七研究所。

二人の最初の目的地だった。

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