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コズミック・ドリフター③鋼鉄の闘技場(ヘパイストス・ファウンドリ)  作者: naomikoryo


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第十話:新たな目的地

『星渡りの異邦人』。

リラが口にした予言の言葉は、重く不気味に、静まり返った動力炉区画に響き渡った。


陸は言葉を失っていた。

偶然この世界に迷い込んだのではなかったのか。

自分の存在そのものが、この世界の何かの引き金になっているというのか。

混乱する頭では、思考がまとまらない。


その重い沈黙を破ったのは、ザインの乾いた笑い声だった。


「……ハッ。予言だぁ? 神々の力だぁ? くだらねえ。俺が信じるのは、自分の腕と、このスキルチップの力だけだ」


彼は壁に手をつき、よろよろと立ち上がった。

全身は満身創痍のはずなのに、金色の瞳の光は少しも衰えてはいなかった。


「嬢ちゃん、面白い話を聞かせてもらったぜ。おかげで今回の依頼が、いかに割に合わねえクソ仕事だったか、よく分かった」


ザインは吐き捨てるように言うと、リラと陸を交互に見た。


「今回の報酬は奴らにくれてやる。だが次はこうはいかん。クロノス・オーダーだろうが、クロノス・インダストリーだろうが、俺の仕事の邪魔をする奴は容赦しねえ」


そう言い残すと、彼は背を向け、闇の中へ歩き出した。


「おい、どこへ行くんだ」


陸が思わず声をかける。


「さあな。地上に戻って、一杯ひっかけるとするか」


ザインは振り返らず、片手をひらひらと振った。


「じゃあな、異邦人の坊主。それから情報屋の嬢ちゃん。お前らのその力、覚えておくぜ。……次に会う時は敵だがな」


その言葉を最後に、彼の姿は地下迷宮の闇の奥へ完全に消えていった。

嵐のような男だった。

敵であることは間違いない。

だが、あの背中はなぜか、少しだけ頼もしく見えた。


後に残されたのは、陸とリラ、二人だけだった。

ザインが去ったことで張り詰めていた糸が切れ、陸はその場に座り込む。

どっと疲労が押し寄せてくる。


「……帰るか」


陸が呟いた。


「俺たちの街へ。アルカディア・ネクサスへ」


「……そうだな」


リラも静かに頷く。

だが、その声には以前のようなビジネスライクな響きはなかった。

二人の旅は、もはや以前と同じものではなくなってしまったのだから。


「なあ、リラ」


陸は俯いたまま尋ねた。


「さっきの予言の話。あれは本当なのか。俺がこの世界に呼ばれたのは……」


リラは静かに陸の隣に座り、重い口を開いた。


「……分からない。私にも全てが分かっているわけじゃない」

「その予言も、私が集めた膨大な情報の中の、ほんの断片の一つに過ぎない」


彼女はそこで一度言葉を切り、陸の顔をまっすぐに見つめた。


「だがな、陸。私は今回の一件で確信した。クロノス・オーダーの動き、奴らが狙う古代文明の遺産、そして、あんたがこの世界に現れたという事実。……その全ては、どこかで繋がっている」


紫紺の瞳は、これまでになく真剣だった。

そこには、もはや個人的な復讐心だけではない。

もっと大きな、この世界の謎そのものに挑もうとする、探求者の光が宿っていた。


「私は奴らを追う。奴らの目的を突き止め、その野望を阻止する」

「それが私の一族の悲願であり、今の私の目的だ」


そして、リラは続けた。


「その先に、あんたが求める答えもきっとあるはずだ。あんたが地球へ帰るための情報」

「そして、あんたがなぜこの世界に呼ばれたのか。その理由もな」


リラの言葉は静かだった。

だが、一言一言が陸の心の奥深くへ染み渡っていく。

故郷へ帰る。

その個人的な目的が今、この世界の巨大な謎と結びついたのだ。


もう、これは自分一人の問題ではない。


陸はゆっくり顔を上げ、リラの目を見返した。


「……分かった」


彼の声に、もう迷いはなかった。


「行こう、リラ。俺もあんたと一緒に戦う。あんたの目的は、俺の目的だ」


それは、新たな契約の瞬間だった。

金や取引だけの関係ではない。

同じ目的を持ち、同じ運命を共にする、真の「パートナー」が誕生した瞬間。


リラはその言葉を聞くと、初めて心からの笑みを口元に浮かべた。


「……当たり前だ。あんたは私の相棒なんだからな」


二人は立ち上がった。

身体はまだ傷つき、疲れ果てている。

だが心は、不思議なほど晴れやかだった。

新たな羅針盤は示された。

旅は、まだ始まったばかりだ。


二人は地上へと続く光を目指し、再び歩き始めた。

その足取りは力強く、そして確かだった。

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