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【完結済み】The Safe House  作者: さかな煎餅
第1章「新たな使命」
9/58

陽はママとはちがう?

私は、死んでもいいと思っていた。

だけど──


男の人

「オレと! どこか遠くへ、逃げない⁉」


気づいたら、窓から部屋に戻ってた。

ママにもらったぬいぐるみと一緒に、家から飛び出した……。

……初めて乗る、大きくて揺れる乗り物の中で、男の人にきかれた。


男の人

「おうちに、帰りたい?」

「えっ……」

(……わかんない……つい、来ちゃったけど……でも……)

私はうつむいた。


「わかんない、です……」


それから、

男の人と車に乗って、どんどん暗いところへ進んで行った。

車を降りて、絵本でしか見たことのない、黒い森を歩いた。


(どうしよう……知らないところにきちゃった……)


後ろを向いた。


(でも……どうやって帰ればいいんだろ……

きっと、ママが探してる……

………でも……)


……男の人に、ついていった。


   ◇ ◇ ◇


……絵本の中みたいな、かわいい家に入った。

絵本の中では、お菓子でたくさんだった。

この家はちがうけど、なんか、ホッとする……。

男の人のご飯は、とってもおいしかった。

茶色くてサクサクして、じゅわっとしたのが、いちばんおいしい!

でも……


ママ

「そんなガツガツ食べちゃダメよ、

みっともない。女の子でしょ?

女性らしく、落ち着いて食べなさいよ」


ごはんの時はママにいつも、怖い目をされた。


(どうしよう……女の子らしく食べるの、忘れてた……!

怒られちゃうかも──)

男の人「どうしたの?」


「‼」

(おこられる‼!)


目をぎゅっとつむった。


男の人

「……もしかして、まだ足りない、とか……

嫌いなものを、ムリして食べたとか……?」

(え⁉)


目を開けると、男の人は心配そうに私の顔を見ていた。


(……怒られない⁉)

「……な、なんでもないです……!

……ごはん、すごくおいしかったです!

ごちそうさまでした」


男の人は、ゆめのよう、という名前だった。

よう、って呼んでいいみたい。

私も、白雪恵といった。

そしたら、「メグ」って呼んでもらえた。

ママにはいつも、めぐみ、って呼ばれてるけど……

メグって呼ばれたのが、なんだかうれしくて──

私はこの日から「メグ」になった。

……次の日。私はコップを割ってしまった。

途端に、目の前にママが浮かんできた。


ママ

「何してるのッ⁉」

メグ

「‼」

ママ

「とっとと片付けなさいッ!」

メグ

(あ……ああ、早くしないと!)

ママ?

「メグちゃん、ケガしてない⁉」

メグ

「‼」

(ママは、メグちゃんなんて呼ばない――……)


陽が近くに来ていて、私の顔をじっと見ていた。

……ぐらりと景色が揺れた。


ママ

「なに、ぼさっとしてんのよ、とっとと片付けてッ⁉ アンタのせいでしょ⁉」

メグ

(わ、わたしが……わたしの、せいで……!)


割れたコップに手を伸ばした。

ぐっ! と、腕が引っ張られた。


メグ

「⁉」

ママ?

「オレが片付けるよ」


……陽が、私の腕を掴んでいた。


メグ

「!」

(でも、でも……!)

ママ

「なにしてんの……? はやくしなさいよ!」

メグ

「で……でも!

私が! 私が、割っちゃったから……‼

だ、だから、わた、わ、私が……っ!」

「……大丈夫。オレは気にしてないよ、そういうの。

メグちゃんが割ったから、メグちゃんが必ず片付けなくちゃいけない……

っていうのは、ないと思ってる」

メグ

「……で、でも……っ‼」

「だいじょうぶ。

……今回は、オレが片付けるよ。

今回はオレのを見てくれれば、じゅうぶんだから」

メグ

(……あれ……この人、ママとは……)


──目の前のママが、薄くなっていく気がした。


   ◇ ◇ ◇


……私は、陽がコップを片付けてくれるのを、ジッと見た。


メグ

(でも、いつかは……私がまた割ったら、

陽と同じ方法で完璧に片付けなきゃ、いけないんだ……。

できないと、怒られるにきまってる……)


そのあと、陽が外に出た。


メグ

(どうしたんだろ)


わたしも、あとをついていった。


   ◇ ◇ ◇


──ガッ、と音がして木が割れる。

陽はまた、木を置いて刃物でそれを割る。


ガッ――


メグ

(腕をあげて……木を割って……また、腕をあげて──)

ママ

「何してるのッ⁉」

メグ

「‼‼」

ママ

「悪い子ね!」


バシンッ‼


メグ

「ひぃっ!」

ママ

「……?」


ママが、近づいてきた……!


メグ

「こっ、こないで‼」


目のあたりが熱い……。


ママ

「……‼」


ママは何かに気づいたみたいに、手を見た。


そのままその手を降ろして、両手を上げた。


ママ?

「めぐちゃん」

メグ

「え……?」

(ママは私のこと、恵って……)

??

「大丈夫、大丈夫だから……オレはキミに何もしない。

斧だって置いた、だから、大丈夫」

メグ

「………………」


……ママの顔が、

……陽の顔になっていく……


メグ

「あっ」


……真面目な顔の陽が、そこにいた……。


メグ

(ママじゃない……陽だった……。……今、わたし……)

「ごめんね、勝手にこんなところに連れてきちゃって……」

メグ

(え?)

「怖い、よね……怯えるのも当然だ」

メグ

(………怖い、けど……

……けど……陽じゃない……

怖いのは、ママなの……)


   ◇ ◇ ◇


私と陽と、

なぜか家のところにいた女の人は、家に戻った。

リビングで、陽はカラフルな本を読み始めた。

……なんだかまだ怖くて、私は陽をジッと見ていた。

……そうしているうちに、なぜか、陽と女の人が外に出た。

ふたりが戻ってきたときには、女の人がぐったりしてた。

女の人は具合が悪くなってしまった、

橋が落ちて、他のところに行けない、と陽に教えてもらった。


メグ

(じゃあ、わたしはずっとここに……)


……すこし、胸のあたりが軽くなったような……。

……そのあと、陽はまた奥に引っ込んだ。


メグ

(なにするんだろ)


陽はキッチンで野菜を出していた。


ママ

「アンタは勉強できないんだから、家事くらいしっかりやりなさいよ」

メグ

(て、手伝わなきゃ!)

「な、なにか手伝った方がいいですか?」


陽はチラッと台を見た。


「ううん、平気だよ。危ないからね。でも、ありがとう」

メグ

「‼」

(あれ……?

この人、ママとはちがう……???)


……夜ごはんの時も、私は特に何もされずにおわった。

昨日食べた時と同じで、怒られなかった。

……陽と女の人は、話していたけど……

なんだか、怖かった。

夕ご飯の後、陽は部屋を暗くして、暖炉の前に座った。


メグ

(さっきの、外のこと……

謝らせちゃったけど、言った方がいいのかな、

……陽じゃなくて、ママが怖かったって……)

「メグちゃん」


……陽は優しい目で、ジッと私をみている……。


メグ

「あ! ……えっと…………」

(謝らなきゃ、でも……

陽が怖いのも、ほんとう……)


ママにもらったくまのぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめた。


メグ

「あっ」

(これだ!)


私は慌てて陽の横のソファーにぬいぐるみを置いて、ソファーの後ろに隠れた。


「…………」

メグ

(ど、どうしよう……何してるんだろ、わたし……)

「ごめんね、キミの大事なお友だちを怖がらせちゃって」

メグ

「えっ⁉」

(この人……わかってるんだ!)

「斧もそうだし、……ここに連れてきたことも……

ごめん。

でも……メグちゃんがすごくつらそうで……

……あのままだと、窓から落ちちゃいそうだと思ったから…………

許されないことだけど……ほんとうにごめん」

メグ

「だ、だいじょうぶ!」

「!」

メグ

「……怖いけど……

でも、悪い人じゃないかも?って思ってるよ!」


私は息をのんだ。


メグ

(えっ、わたし、何言ってるんだろ、

……つい……でも……

ほんとうのことだけど……)

「……オレが安全だって、何も痛いことはしないって、

どうしたら分かってもらえるかな? キミのお友達に」

メグ

(え? それは……)

「……ごめん、キミに聞いてもわかんないか」


陽はつらそうに笑った。


メグ

(それは……!)

「叩いたり殴ったりしないって、

約束してくれればいいって!」


メグ

(……言っちゃった)

「わかったよ」

メグ

「‼」

「オレは何があっても絶対に、

メグちゃんのことを叩いたり殴ったりしない。

約束する」

メグ

(……この人……やっぱり……

ママとは違うのかも)

「……もし、オレがこの約束を破ったら……

どうすればいいかな?」

メグ

「破ったら、家から落ちちゃうって!」

(……あ、言っちゃった……)


陽は下を向いた。


「それは……つらいな……」

メグ

「え…………」

(この人、優しいのかも……)

「オレが誘って連れてきたからには、

絶対にそんなことはさせない。

約束する」


暖炉の火で赤い陽の顔は、すごく真面目だった。


メグ

(……しんじても、いいのかも……)


陽はぬいぐるみの腕をにぎった。


「嘘ついたら針……じゃない、

メグちゃんが家から落ちちゃうー、指切った!」

メグ

「た‼」


   ◇ ◇ ◇


メグ

(……約束……)


……ベッドで、さっきの陽の言葉を思い出した。


「その子、かわいいね」


陽は私のぬいぐるみを見た。


メグ

「ママに、もらったの……」


思わず、そう言った。

ママが、まだ優しかったときにもらったんだ。


メグ

(まだこわい、けど……

もしかしたら、陽はママとは――……)


目を閉じた。

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