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【完結済み】The Safe House  作者: さかな煎餅
第1章「新たな使命」
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大切な友達

オレはぬいぐるみに微笑みかけた。


夢野陽

「ごめんね、キミの大事なお友だちを怖がらせちゃって」


ソファーの後ろで、メグちゃんが息をのむのが聞こえた。


夢野陽

「斧もそうだし、……ここに連れてきたことも……ごめん。

でも……メグちゃんがすごくつらそうで……

……あのままだと、窓から落ちちゃいそうだと思ったから……」


オレはうつむいた。


夢野陽

(……何言ってんだ、オレ……)


オレが今やっていることは、まぎれもない犯罪だ。

苦しむ人を助けるためなら犯罪が許されてしまえば……

後付けで理由をつければ、犯罪し放題になってしまう……。

そうなってしまえば、

現状の法治国家の意味がなくなってしまう……。


夢野陽

「許されないことだけど……ほんとうにごめん」

??

「だ、だいじょうぶ!」

夢野陽

「!」

くま

「……怖いけど……

でも、悪い人じゃないかも? って思ってるよ!」


……ほおが、自然とゆるんだ。


夢野陽

「…………そっか」


オレは息を吐き、ココアを一口飲んだ。


夢野陽

「……オレが安全だって、何も痛いことはしないって、

どうしたら分かってもらえるかな? キミのお友達に」


……言ってから、頭をかいた。


夢野陽

「ごめん、キミに聞いてもわかんないか、」

くま

「叩いたり殴ったりしないって、約束してくれればいいって!」

夢野陽

「……‼」


息がつまった。


夢野陽

(……つまり、やっぱり……

……家で親御さんにそうされてる、ってことか……?)


オレはメグちゃんの友達の目を見つめた。

そのつぶらな瞳は、暖炉の火を浴びて仄暗く光っている。


夢野陽

「わかったよ。オレは何があっても絶対に、

メグちゃんのことを叩いたり殴ったりしない。約束する。

……もし、オレがこの約束を破ったら……どうすればいいかな?」

くま

「破ったら、家から落ちちゃうって!」

夢野陽

「……………………」


オレは目を閉じた。


夢野陽

(……こんな、あっさり言うなんて……)


……メグちゃんがあの白く大きな屋敷で味わわされた地獄は、

きっと、壮絶なものだったにちがいない……。


夢野陽

(……落ちるなんてそんなこと、絶対にさせない)

「わかった。

……オレが一回でもメグちゃんを叩いたり殴ったりしたら、

家から落ちちゃう、と……」

くま

「そう!」


オレは目を伏せた。


夢野陽

「それは……つらいな……」


また、メグちゃんが息をのむのが聞こえた。


夢野陽

「オレが誘って連れてきたからには、絶対にそんなことはさせない。

約束する」


オレはくまの手をにぎった。……ふわふわで、温かい……。


夢野陽

「嘘ついたら針……じゃない、

メグちゃんが家から落ちちゃうー、指切った!」

くま

「た‼」


……くまの目は暖炉の光を浴びて、きらきらと輝いている。


夢野陽

「……キミは、友達思いだね」


メグちゃんの友達から手を離し、またココアを飲んだ。

伸びをしながら、


夢野陽

「いやー、まさかメグちゃんの身近に

こんな素敵な友達がいたとはねえ。

気づかなかったよ、オレもまだまだだねえ」


わざと大きく声をあげてみせた。

……暖炉の火が少し弱まったころ、メグちゃんがソファーの陰から出てきた。

その顔はむすっとしている。


夢野陽

「……メグちゃん」


メグちゃんはくまのぬいぐるみを抱きしめて、

その空いたソファーにどすんと座った。


夢野陽

「ごめんごめん……」

メグ

「むぅ……」


夢野陽

「……でも……

メグちゃんの気持ちを教えてくれて、ありがとう。

すごくうれしかったよ」

メグ

「!」


メグちゃんは目を見開いてオレを見た。


夢野陽

「まだオレのこと、信じられないだろうけど……

信じてもらえるように、がんばるよ。

今すぐ信じろなんて、言わないからさ」

メグ

「…………うん」


オレはぬいぐるみを見た。


夢野陽

「その子、かわいいね」


メグちゃんはぬいぐるみを優しくなでる。


メグ

「ママに、もらったの……」

夢野陽

「……そうなんだ」


穏やかな表情で、メグちゃんはうなずいた。……その顔が、暗くなる。

暖炉を見ると、もう火が消えかかっていた。


夢野陽

「……そうだ、オレ、風呂にまだ入ってなかったよ。

メグちゃん、まだここにいる?」


彼女は首を横に振った。


メグ

「ねむい……」

夢野陽

「そっか。じゃあ火、消すね。危ないから、電気つけるよ」


電気をつけようと壁に近づいた。

……その時、なぜか、パッと電気がついた。


夢野陽

「⁉」


……スイッチのところに、女性がいた。


夢野陽

「あっ……」

女性

「………………」

夢野陽

「……あ、ありがとうございます……」


女性は寝室へと入っていった。


   ◇ ◇ ◇


私はベッドに入り、目を閉じた。


女性

(……夢野陽……アイツ、悪いヤツじゃないのか……?)


……メグに寄り添って、傷つけないと約束していた……。


女性

「…………」

(いや……まだ一日しか経ってないんだ、

カンタンに信用してたまるか……)


……信用を積み上げるのは、こともすれば簡単だ。

口だけなら、いくらでもできる……。

──壁にかけた、作業用のジャージを見つめた。

会社員時代に渡され、

この家の前で倒れた時も着ていた、大事なものだ。

その緑色は、

月明かりで誇らしげに光っている……。


女性

(……そう、信頼させるのは誰でもできる。

その中身が、どんなに極悪非道なヤツでも──)


だが……


女性

(……裏切るのは一瞬だ。たやすい……)


だから、カンタンに他人を信じるわけにはいかない。


女性

(これ以上、傷つきたくないから──……)


……壁のジャージにかかった月明かりが、雲で陰った。


   ◇ ◇ ◇


オレは湯船につかりながら、ぼうっと湯気を見つめる。


夢野陽

(メグちゃんと話ができて、よかった……。

でも、あの女性は……電気、つけてくれたけど……

目は、怖かったな……。まあ、それもそうか……

オレ、どう見ても怪しいもんな……)

「ふぁあ……」


オレはあくびをして、湯船から上がった……。

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