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【完結済み】The Safe House  作者: さかな煎餅
第1章「新たな使命」
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生きていてほしい

私はリビングの壁にもたれ、暗い顔で戻ってきた夢野とメグを見た。


女性

(夢野はメグに何もしなかった、

むしろ、薪割りの斧を見て動揺したメグを、落ち着かせていた……。

……悪いヤツじゃ、ないのか?

ほんとうに、メグを助けたくてここに連れてきたのか……?)


夢野とメグはそれぞれ、一人掛けのソファーに座っている。

夢野は料理の本を開いている。

メグは不安そうに、私と夢野をちらちらと見ている……。

……私は、夢野の背をにらんだ。


女性

(……いや、この男はメグを油断させたところに、何かするのかもしれない……!)


ジャージのポケットに手を突っ込む。


女性

(やっぱり、なんとしても通報するべきだ。

何かあってからじゃ遅すぎる……!)


ポケットからスマートフォンを取り出し、見る。まだ圏外のままだった。


女性

「チッ」


玄関のドアへ向かった。


夢野陽

「どうしたんですか? 散歩でも行かれるんですか?」

女性

「……」


私はドアを開けた。


   ◇ ◇ ◇


オレは家を出て行こうとする女性の手を見た。


夢野陽

(……スマホ……まさか、通報するんじゃ……!)

「ちょ、待ってください!」


オレはあわてて、女性の後を追って外に出た。


夢野陽

「通報するんですか?」

女性

「……」


女性はスマートフォンを見つめたまま、ずんずんと林の方へ歩いていく。


夢野陽

「ちょ……答えてください!」


オレと女性はまっすぐ、林の中へ入っていった。


女性

「チッ……ここもダメか。……オイ」

夢野陽

「!」


いきなり、女性が立ち止まった。彼女は鋭い目をこちらに向けてきて、


女性

「電波が入る場所を教えろ」


低い声を出した。……その声の冷たさに、オレは息をのんだ。


夢野陽

「……通報、するんですか?」

女性

「ああ」

夢野陽

「……今だけ、見逃していただけませんか?」


女性は首を横に振った。


女性

「ムリだな。あの女の子に何かあってからじゃ遅い」

夢野陽

「そんな……オレはメグちゃんには何もしません」

女性

「その保証がどこにある? 今すぐ証明してみろよ」

夢野陽

「そ、それは……!」

(今すぐ⁉ ……そんなの、できっこない‼)

女性

「……できないだろう?」

夢野陽

「そ、そうですけど……!

オレはただ、あの子には生きていてほしいんです!

死にたがっているあの子が生きる気力を取り戻す、

それだけの時間を、オレにくれませんか⁉」

女性

「……キレイゴトを……」


女性はオレに背を向け、林の奥へと歩いていく。


夢野陽

「待ってください‼ ──────ッ⁉」


少し走ったところで、女性の背にぶつかった。


夢野陽

「あ、すみませ……」

女性

「……橋が……」

夢野陽

「え?」


女性の背から首だけを出し、前を見た。


夢野陽

「‼ 橋が‼」


……街とここをつなぐ唯一の橋が、落ちてしまっていた……。

……多分、午前中の雷のせいだろう。


女性

「……他に道は?」


オレは首を横に振った。


夢野陽

「……ありません」


女性はまた、オレをギロリとにらんだ。


女性

「ウソをついてるんじゃないんだろうな?」

夢野陽

「ついてません! 

……ついたところで、オレに得はありません!」


女性は唇の端をゆがめる。


女性

「ハッ、どうだか……

どこかに私の知らない道があって、あの子に手を出した後、逃げようと、

でも――」


女性の身体が、前に大きく傾いた。


夢野陽

「あ!」

女性

「う……」


咄嗟に、その肩をつかむ。


女性

「離せッ! さわるなっ……うう……」


女性はオレの手を振り払い、その場に膝をついた。


女性

「はっ、……はあ、はあ……」

夢野陽

「……失礼します……」


女性の額に手を当てる。


夢野陽

(熱い……)

「……帰りましょう」


女性はうなだれたまま、うなずく。オレは彼女の肩に手をまわした。


   ◇ ◇ ◇


家に戻ると、メグちゃんが心配そうな顔をしていた。

彼女に事情を説明したあと、

寝室に入り、女性をふたたびベッドに横たえた。

……静かに眠っている彼女の顔は、どこかあどけない……。


夢野陽

(オレは犯罪者になってもいい。もう、今更だ……。

だけど、オレが逮捕されたら、メグちゃんは……

あの家に、戻ることになる……。

……警察も児相もダメで、彼女は死にたがっているのに、

あの家には到底、戻せない……)


寝室を出て、スマートフォンを見る。女性の言っていた通り、圏外だ。


夢野陽

(……とりあえず、街と行き来できないのはまずい……市役所に電話しよう)


オレはもう一度橋の近くまで行き、市役所に電話した。

数日後には仮の橋を作ってくれるという。

街の一部でも雷で停電が起きていて、その対応にも追われているらしい……。

家に戻ったオレはキッチンに立ち、シャツの袖をまくった。


夢野陽

「ふう……」

??

「あ、あの……」

夢野陽

「!」


振り返ると、キッチンのドアのところにメグちゃんがいた。


メグ

「な……なにか手伝った方がいい、ですか?」

夢野陽

(……薪割りの時と同じ……また手伝おうとしてくれてる。

けど、さっき怖がらせてしまったし……)


ちらりと台の上を見る。


夢野陽

(包丁や火を使うから、危ないな)


彼女に微笑みかけた。


夢野陽

「ううん、平気だよ。火とか包丁とか使って、危ないからね。

でも、ありがとう」

メグ

「……は、はい……」


メグちゃんは驚いたように、目をぱちぱちさせた。


   ◇ ◇ ◇


夕食の時間になると、女性は起き出して来て、ソファーに座った。

……三人で初めて、リビングのテーブルを囲んだ。

オレとメグちゃんは手を合わせる。


夢野陽

「いただきます」

メグ

「い、いただきます……」

女性

「…………」


おのおの箸を手に取り、食べ物に伸ばす。


夢野陽

「……」

メグ

「……」

女性

「……」

夢野陽

(き、きまずい……)


メグちゃんは暗い顔で、

女性はむすっとした顔でぱくぱく食べている。


夢野陽

(そういえば……女性の名前、知らないな)

「あ、あの……」


女性はまた、ギロリとオレをにらんだ。


夢野陽

「お名前、教えてもらっていいですか……? まだ、聞いてないなって……」

女性

「…………」


彼女はオレから目をそらし、白米を食べ続ける……。


夢野陽

「…………」

(そりゃ、そうか……怪しいもんな、オレ……)


夕食の片づけを終えたオレは、部屋の電気を落とし、暖炉に火を点けた。

ココアを入れたマグカップを持って、ソファーに腰掛ける。


夢野陽

「ふう……」


──今日は、色々あった。

女性との出会いに、彼女からの尋問。

メグちゃんがグラスを割ったこと、薪割りに怯えたこと。

……橋が、落ちてしまったこと……。


夢野陽

「…………」


……改めて考えると、いよいよとんでもないことになってきている。

まるで、小説か何かの話のようだ。

まさか、自分が人をさらい……この土地に閉じ込められるなんて。

……もちろん、誘拐なんて許されないこととは、分かっている。

でも──昨日はあれ以外に、思いつかなかった。

……メグちゃんの自殺を、止めるためには──。


夢野陽

「!」


暗闇に誰かの気配がして、振り向いた。


メグ

「あっ」

夢野陽

「……メグちゃん」


くまのぬいぐるみを抱きしめたメグちゃんが、オレの背後にいた。


メグ

「えと……」

夢野陽

「…………」


オレは微笑んで、彼女を見つめた。


メグ

「……っ!」


彼女はオレの隣のソファーに、自分のクマのぬいぐるみを置いた。


夢野陽

「?」


そして、彼女はそのソファーの裏側に隠れた。


夢野陽

(……急に、どうしたんだ?)

「……」


オレはじっと、ぬいぐるみを見つめた。


夢野陽

(もしかして……)

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