粥
……オレは鍋と空の器を載せたトレイを持って、寝室へ戻った。
夢野陽
「あ……」
女性
「なるほどな……あ」
メグ
「……あ……」
……何か話し込んでいた様子のふたりが、オレの方を向いた。
夢野陽
「……すみません、邪魔しちゃいましたか?」
女性
「いや、だいたい終わったところだ。
……この子にも聞いたが、お前の言っていた内容とほとんど同じだった」
夢野陽
「そうですか……」
女性
「……あと……この子の服の下に、大きなあざがいくつかあった」
夢野陽
(……あざ……やっぱり、虐待なんじゃ……)
女性
「……虐待じゃないかとは思うが……かといって、ここで証明はできん」
女性はオレをにらみつけた。
女性
「それと同じで……この子の話を聞いたからと言って、
お前が安全だと、決まったワケでもないがな」
夢野陽
「そ、それは……」
女性
「お前がこの子と口裏合わせをしたかもしれん。
お前が私たちに、危害をくわえる可能性だってある」
夢野陽
「……そ、そんな……! そんなこと、しませんよ……!」
……けれど……悪意が「ない」ことの証明など、…………できない……。
メグ
「……?」
メグちゃんがオレの手元をジッと見ていた。
夢野陽
(あ……そうだ)
ここに来た理由を思い出した。
夢野陽
「……よければ、食べてください。お粥です」
女性はじろりと鍋をにらんだ。
女性
「……いらん」
夢野陽
「……でも、まだ顔が赤いですし……目も、ぼうっとしてますよ。
……食べないと、治りませんよ」
女性
「いいって、言ってるだろ」
彼女はうつむき、
女性
「……どうせ、睡眠薬や毒の類が入ってるんだろうし……」
小さな声を出した。
夢野陽
「……じゃあ、オレが食べて何もなかったら、信じてもらえますか?」
女性
「は?」
俺はベッドの脇のテーブルに鍋を置き、蓋を開けた。
メグ
「……‼」
オレはその場にしゃがみこんだ。
スプーンで粥をすくって口に入れ、噛む。
メグ
「ごくり……」
夢野陽
「もぐもぐ…………うん」
……ただの、美味しいお粥だ。当然、毒も睡眠薬も入っていない。
粥を、飲み込んだ。
メグ
「じゅるり……」
女性
「…………」
……オレは、鍋の蓋を閉じた。
スプーンについた粥を近くのティッシュで拭い、トレイに置く。
……厳しい顔つきの女性に、微笑んでみせた。
夢野陽
「……眠くないし、気持ち悪くもないです。……変なものなんて、入ってないですよ」
女性
「…………」
女性は鍋をにらんだままだ。
ぐぅ、とまた、彼女の腹が鳴った。
女性
「!」
彼女は素早く布団をかぶり、こちらに背を向けた。
夢野陽
「…………お腹が空いてるなら、食べた方が……」
女性
「いらん! 出てけ‼」
メグ
「ひっ……」
夢野陽
(……やっぱり簡単には、信用してもらえないか……)
オレは立ち上がり、
夢野陽
「……お粥、ここに置いておきますね。よければ、どうぞ」
俺は鍋をそのままにして、寝室を出た。
メグちゃんもオレのあとにつづいて、部屋を出た。
◇ ◇ ◇
夢野陽
「メグちゃんも、お粥食べる?たくさん作って余ってるんだ」
メグ
「う、うん」
オレはキッチンから、粥の余りを持ってきた。
夢野陽
「…………はい、どうぞ♪」
メグ
「はぐはぐ……」
(おいしい‼)
◇ ◇ ◇
女性
「……」
……やっと、静かになった。私はゆっくりと身を起こし……鍋の蓋を開ける。
女性
「……!」
ほわっ……と、湯気が顔に当たった。
……白米独特の甘く、やさしい香りがしてくる……。
……また、腹が鳴った。
女性
「‼」
……私は慌てて、首を横に振った。
女性
(…………いや、気を緩めるな……!
これを作ったのは、誘拐犯だぞ?
アイツは幼い女の子を山奥に連れてきたんだ、
こんな怪しいもの、食えるワケが――)
湯気の奥で、きらきらと白米が輝いていて……
その乳白色に、具材の緑がよく映えている……。
女性
「……ごくり……」
……いつのまにか、スプーンに載せたそれを口に運んでいた。
女性
「ああっ、っつ……! ……ふー、ふー……」
粥を息で冷まし、もう一度、口に入れる……
女性
「‼」
(う、うまい……‼)
◇ ◇ ◇
……あっという間に、鍋の中は空になった。
女性
「……ふう……」
鍋の蓋を閉じ、息を吐いた。
女性
(こういうまともなものを食べたのは、久しぶりだ……。
…………なんだか……眠くなってきた……)
ゆっくりとベッドにもぐりこみ、目を閉じた……。
◇ ◇ ◇
……女性に寝室から追い出されてから、だいたい一時間が経った。
オレはそっと、寝室のドアを開けた。
夢野陽
(……寝てるかな?)
女性は布団にくるまり、こちらに背を向けている。
夢野陽
(……寝てるみたいだ。……お粥は……)
「あ……!」
鍋の蓋が空いており、空になっているのが見えた。
夢野陽(全部、食べてくれたんだ……!)
……女性を起こさないよう、寝室にそっと入る。
鍋と器の載ったトレイを持ち、ふと、窓の方を見た。
夢野陽
「……あ……」
雨と雷はやみ……空には、うっすらではあるが……
大きな虹がかかっていた。




