対峙
メグ
「開けて!」
メグちゃんが門にしがみついていた。
女性
「ダメよ、絶対に開けちゃダメ!」
女性はメグちゃんの肩に手を当て、
脇にいるスーツ姿の男性に向かって叫んでいる。
メグちゃんはオレたちに気づき、門の隙間から手を伸ばした。
メグ
「陽、零‼ 返して!」
女性
「アンタら‼」
女性が目をぎょろりと動かし、こちらを見た。
女性
「アンタらが、恵を連れていった犯罪者どもね!
なんでここにいるの⁉ 立ち去りなさい‼」
メグちゃんのお母様――明理紗さんは、ギロリとオレたちを睨んだ。
メグ
「紙、返して‼」
白雪明理紗
「ああもう、うるさいッ!」
明理紗さんが、手を振り上げた。
夢野陽
(まさか!)
オレは手を伸ばした。
夢野陽
「やめ――‼」
バシンッ!
明理紗さんの手が、メグちゃんの頬を強くたたいた。
夢野陽
「あ……!」
メグ
「う……」
メグちゃんの目から、涙がこぼれ落ちた。
メグ
「うわあああああ!」
メグちゃんは空を仰いで叫んだ。
白雪明理紗
「うるさい、うるさい! 静かにしなさいッ! 近所迷惑でしょ⁉
これだからアンタはダメなのよ!」
明理紗さんは何度も何度も、メグちゃんの頬を叩く。
メグ
「痛い、痛いよ……!」
――頭の中に、最初にメグちゃんと出会った時がよぎった。
メグちゃんと明理紗さんが屋敷に引っ込んだ後……今と同じように、メグちゃんの叫び声が聞こえた。
あの時も、彼女は叩かれていたのだろう……。
夢野陽
(やっぱり、そうだったんだ……)
氷室零
「やめろ!」
氷室さんは門に手をかけた。
メグちゃんは何度も、何度も叫ぶ。
メグ
「痛い、やめて……!」
オレも門に手をかけ、叫んだ。
夢野陽
「やめてください! お母様!」
白雪明理紗
「この! この!」
――明理紗さんは、ものすごい形相でメグちゃんを叩いている……。
メグ
「うう……!」
横を向いたメグちゃんの目と、オレの目が合った。
夢野陽
(メグちゃん……!)
メグ
「陽……零……‼」
彼女は門に向かって走りだした。
夢野陽
「‼」
メグちゃんは門にすがりつき、オレたちを見上げた。
メグ
「助けてえ……‼」
夢野陽
(……メグちゃんが、初めて、声で助けを……‼)
オレはメグちゃんの手を握った。
夢野陽
「もちろん」
氷室さんもうなずき、メグちゃんの手を覆った。
白雪明理紗
「アンタら……なんなのよ⁉」
明理紗さんが髪を振り乱し、こちらを見た。
白雪明理紗
「恵、なんで犯罪者なんかに助けを求めるの⁉
こっちへ来なさい!」
メグ
「っ……」
メグちゃんが、ぐっと強く、門を握った。
夢野陽
「恵さんを、ちゃんとみてください――
泣いているじゃないですか。
嫌がっているじゃないですか……!」
白雪明理紗
「はあ⁉ 犯罪者の分際で何よ⁉
――さあ恵、こっちへ!」
プルルルル、プルルルル――
白雪明理紗
「!」
明理紗さんはポケットに手をやり、スマートフォンを取り出した。
白雪明理紗
「なに、こんな時に――」
彼女はスマートフォンを耳に当てる。
白雪明理紗
「――え⁉ 夫が不倫⁉」
夢野陽
「えっ⁉」
氷室零
「なんだと……?」
明理紗さんは前のめりになった。
白雪明理紗
「そんな、週刊誌なんて信じないでください!
私からも明日説明しますから! ――では……」
彼女はスマートフォンを耳から離し、うつむいた。
白雪明理紗
「……本当に、真さんが……? そんな……」
彼女はずっと脇に控えていた、スーツ姿の男性を睨んだ。
白雪明理紗
「――もみ消しなさい。アンタらならできるでしょ」
スーツ姿の男性
「……お言葉ですが、すでに記事が出ているので、極めて難しいかと。
出る前なら、可能でしたが……」
白雪明理紗
「私に逆らうつもり⁉ なにをしてでもいいから、早くやりなさい!」
明理紗さんは門を叩いた。
白雪恵
「ひっ」
スーツ姿の男性
「……承知しました」
彼はうなずき、屋敷へ向かった。
夢野陽
「!」
――屋敷の前には、雪の中、使用人と思われるエプロン姿の人や、他のスーツ姿の男性たちが立っていた。
夢野陽
(いつの間に……)
白雪明理紗
「アンタたち……聞いてたの」
彼らはうなずく。
明理紗さんは腕を組み、
白雪明理紗
「いい? 週刊誌の記事なんて信じちゃダメよ、いいわね。
……明日からも、いつも通り業務をこなすように」
そう、屋敷を指さした。
スーツ姿の男性
「奥様。もう手遅れです」
白雪明理紗
「……え?」
先ほどのスーツ姿の男性が、オレたちを手のひらで示した。
夢野陽
「?」
白雪明理紗
「あの犯罪者たちが、なんなの?」
スーツ姿の男性
「違います。その奥にいらっしゃる、この間の記者の方です」
明理紗さんが目を剥いた。
白雪明理紗
「なっ」
夢野陽
「……記者?」
オレは振り向いた。
メガネをかけた男性が、スマートフォンを構えている。
記者
「しっかり、動画と写真に撮って、上司に送りましたよ――虐待の証拠。
夫である警視総監の不倫に、お子さんへの虐待――これでもう、この家は終わりです!」
夢野陽
(いつの間に……)
白雪明理紗
「な、な……!」
明理紗さんは震え始めた。
白雪明理紗
「そんな……そんな……そうだ!」
彼女はにやりと笑い、後ろを振り向いた。
白雪明理紗
「アンタたち!
この記者のカメラの前で、本当のことを言いなさい!
不倫や虐待なんて嘘だって! アンタたちなら分かるでしょ⁉」
明理紗さんは記者の人を見た。
白雪明理紗
「さあ、しっかり撮っておくのよ――うちは清廉潔白だって、
はっきり分かるんだから……」
彼女は勢いよく、屋敷の方を向いた。
白雪明理紗
「さあ、証明して!」
使用人たち
「…………」
……雪の中、使用人の人たち、スーツ姿の男性たちはみな、明理紗さんから目を逸らしている。
白雪明理紗
「何してるのよ――雇い主のピンチなのよ⁉ ホラ、早く!」
……誰も、口を開かない……。
白雪明理紗
「なによ、なんなのよ⁉」
彼女は地団太を踏んだ。
白雪明理紗
「アンタたち……誰のおかげで生活できてると思ってるの⁉
私のおかげでしょ⁉
こんな立派な屋敷で働けてる、そのことを考えなさいよ⁉
――そこのアンタ!」
明理紗さんは、端の方にいたメイドらしき格好の人を指さした。
メイド
「いつも、お嬢様や旦那様はお可哀想と思っていました!
こんな家で、奥様に責め立てられて――ハッ!」
彼女は青ざめ、手で口を押えた。
白雪明理紗
「な、なによ、なんなのよ……!
……そんなの嘘よ、……ねえ、みんな、そうでしょ⁉」
……使用人たちやスーツ姿の男性たちは、何も言わなかった。
白雪明理紗
「わ、私の部下は! そうよ、アンタ!」
彼女は先ほどのスーツ姿の男性を指さした。
白雪明理紗
「アンタは……私に最も長く仕えているでしょ?
私を、この家を、認めるでしょ?
不倫や虐待なんて、ないでしょ?」
スーツ姿の男性はついと、サングラスのつるを上げた。
スーツ姿の男性
「……正直に申し上げますと、ないと断言することはできません」
白雪明理紗
「な……!」
彼女はうつむき、肩を震わせた。
白雪明理紗
「なによ……アンタたち……!」
彼女は腕を振り上げ、門を指さす。
白雪明理紗
「この屋敷は清廉潔白よ⁉ どうして誰も認めないの⁉
……それを認めないヤツはこの屋敷にはいらない、出て行きなさい!」
……使用人の人やスーツ姿の男性たちは、ひとりふたりと、明理紗さんの元へ向かってきた。
白雪明理紗
「!」
明理紗さんはゆがめていた顔を緩めた。
先ほどのスーツ姿の男性が、門を開ける。
白雪明理紗
「な……!」
――門を通って、みな、外へと出て行った……。
白雪明理紗
「…………」
明理紗さんは口を開けて、屋敷の前と、門の前の道を交互に見た。
白雪明理紗
「う、嘘……でしょ……」
開け放たれた門を通り、メグちゃんが、こちらへ駆け出してきた。
彼女はオレに、勢いよく抱きつく。
メグ
「陽……!」
夢野陽
「メグちゃん……」
メグちゃんは氷室さんの手を握った。
メグ
「零も、会いたかった……」
氷室零
「そうか……」
氷室さんは、メグちゃんの手を握り返した。
白雪明理紗
「…………」
明理紗さんはぼうっとした目で、オレたちを見た。
白雪明理紗
「なんなの……みんな……
私の人生は何だったの……ここまでの努力は……
私は、間違ってない……間違っているはずが……」
彼女はその場に膝をつき、手で頭を押さえた。
白雪明理紗
「私は……わたしは……」
◇ ◇ ◇
私をかばおうとしない屋敷の使用人たち、私の部下たち……。
犯罪者たちにすがりつく、私の娘……。
……頭が、痛い。
白雪明理紗
(私の人生は……努力は……なんだったの……?)
……割れるように痛む頭の奥から、なにかがあふれてくる。
白雪明理紗
(これは……記憶? 幼い頃の――……)




