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【完結済み】The Safe House  作者: さかな煎餅
第3章「変化」
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嘆きと選択

白雪明理紗

「またシワが寄ってるじゃない! やり直しなさい!」


ママは、私の膝の上の服を叩いた。


白雪恵

「!」

白雪明理紗

「まったく……はあ」


私は、服をもう一度つかんだ。


白雪恵

(キレイにやらなきゃダメ、シワになったらダメ……!)


……だけど、手が勝手に震える。……また、服はシワだらけになった……。


白雪明理紗

「チッ」


ママは私から服を取り上げた。


白雪恵

「あっ」

白雪明理紗

「また汚い! もういいわ、メイドにやらせる! アンタの代わりに!

アンタは部屋で勉強しなさい!」


ママは私を睨んで、リビンのドアを指さした。


白雪恵

「はい……」


私はうつむき、うなずいた。


   ◇ ◇ ◇


ガチャリ、と音がして、ママが私の部屋に入ってきた。


白雪明理紗

「ノート」

白雪恵

「は、はい……」


私は恐る恐る、ノートを差し出した。

ママは私の手からノートを奪い取り、ページをめくり始める……。


白雪明理紗

「…………」

白雪恵

「…………」

白雪明理紗

「……はあ……」


ママはため息をついて、机の上の赤ペンを手に取った。

ノートに書きながら、


白雪明理紗

「また、ここをミスしたのね。何回間違えれば解けるのよ、まったく……」


また、ため息をついた。


白雪恵

「ごめんなさい……」

白雪明理紗

「ごめんなさいで許されるのなら、私たち警察はいらないわよ」


ママは早口で言って、ノート越しに私を睨んだ。

――その鋭い目つきに、身体が震える……。


白雪恵

「は、はい……」


ママは手を動かしたあと、ノートを机に勢いよく置いた。


白雪明理紗

「今日の分、全部やり直し。できるまで、ご飯は抜きよ」


私はうなずいた。……ママはため息をつきながら、部屋を出て行った。


白雪恵

「解かなきゃ……」


私はノートと教科書を見つめた。でも……


白雪恵

(また、手が震えて……)


左手で、右手の手首を押さえた。


白雪恵

「やめて、やめて……」


けど、震えは止まるどころか、むしろ激しくなる……。

左手で押さえたまま、ノートに書いてみる……。


白雪恵

「うう……」


たすけ、と書きかけて、ハッとした。


白雪恵

(何書いてるんだろう、私……。

どうしよう、こんなのバレたらまた、またママに怒られる……!)


私はノートをぐしゃりと握りつぶした。


白雪恵

「……うーっ……」


たす、と書きかけたページを破って、机の隅に置いた。

……それから、誰もいないすきを狙って、近くの公園へと向かった。

小さな湖があるその公園で、ブランコに座る。


白雪恵

「はあ……」


辺りには、街灯の光しか差していない。家とは違って静かで、薄暗い。


白雪恵

(もう、やだな……家で、勉強や家事ばっかり……でも……

それが、私の使命、なんだよね……

私はいつか、立派な“けいさつかんりょう“に……)


……ゆらゆら揺れている私の影に、大きな影が覆いかぶさった。


明理紗の部下1

「お嬢様」

白雪恵

(この声……!)


顔を上げると、黒い服の男の人が目の前にいた。


白雪恵

「ひッ」

明理紗の部下1

「帰りましょう。お母様がお待ちです」


――ママの鋭い目が、頭をよぎった。


白雪恵

(や、やだ……!)


私はブランコから立ち上がった。男の人に背を向けて、走る。


明理紗の部下1

「お嬢様!」


ブランコの柵を出たところですぐに、手首をつかまれた。


白雪恵

「!」


私は腕をぶんぶん振った。……けど、男の人の手は、びくともしない……。


白雪恵

「うう……‼」

明理紗の部下1

「帰りましょう」


……家に帰って部屋に入ると、ママがいた。

ママは私の顔を見るなり、私のほおを勢いよく叩いた。


白雪恵

「‼」


私はその場にしりもちをついた。


白雪明理紗

「何、勝手に外に出てるのよ⁉ このクズ!」

白雪恵

「ごめんなさい……」

白雪明理紗

「ごめんなさいで済んだら、私たち警察はいらないって、何回言わせるのよ⁉」


ママは私の頭を叩いた。


白雪恵

「うっ……」


また、ママが頭を叩いてくる。


白雪明理紗

「なんでアンタはいつも! 私の言うことを聞かないのよ!

ほんとに、悪い子ねえ!」

白雪恵

「うう……」


ママはため息をついて、机をドガン! と叩いた。


白雪恵

「ひっ!」


ママは私を睨みつけた。


白雪明理紗

「――罰として、今日の夜ご飯は抜きよ。アンタが悪いんだからね……。

その代わり、私から逃げ出したことを反省しなさい。

それと、さっき言ったところの勉強の続き。良いわね?」

白雪恵

「はい……」


私はほおを押さえてうなずいた。


白雪明理紗

「何これ……アンタこれ、まだ持ってたの」


ママは私のベッドの上に置いてある、くまのぬいぐるみを見た。


白雪恵

(ママがくれた……!)

白雪明理紗

「来年は受験なのに……

こんなのにうつつを抜かしてるんじゃないわよ!」


ママはぬいぐるみの頭を勢いよくつかんで、床に投げつけた。


白雪恵

「あっ」

白雪明理紗

「こんなの、こんなの!」


ママはぬいぐるみを何度も踏みつけた。


白雪恵

「やめて!」


私はママの足にしがみついた。


白雪恵

(ママとの思い出が……!)


ママは私の頬を打った。


白雪恵

「うっ」


また、私は床に倒れ込んだ。


白雪明理紗

「アンタは勉強と家事だけすればいいの! いいわね⁉」

白雪恵

(そんな……ママ……)

白雪明理紗

「……まったく!」


ママは背を向けて、部屋を出て行った。

私はぬいぐるみの汚れを払って、ぎゅっと抱きしめた。


白雪恵

「ママ……!」

白雪明理紗

「――やっぱり、恵はダメね」

??

「……そうですか」


……ドアの向こうから、声がした。


白雪恵

(……私の、こと?)


こっそりドアに近づき、耳を当てる……。


白雪明理紗

「……養子を迎えようかしら。良い子、探しておいて。

恵の代わりに……いえ、それ以上の素晴らしい子をね」

白雪恵

(私の代わり⁉)

低い声

「かしこまりました。性別はいかがしましょう」


……低い声は、いつもママの近くにいる、黒い服の男の人のそれのようだった。


白雪明理紗

「男よ、もちろん。総監になってほしいもの。

……恵が男で優秀だったら、代わりを見つける手間もなかったのに……」

白雪恵

(……わたしは、いらない子なの?)

白雪明理紗

「頼んだわよ」


カツカツ、と足音が、遠ざかっていった……。


白雪恵

「……そんな……私は、わたしは……」


ビュオッ……

机の奥の開けっ放しの窓から、風が吹いてきた。


白雪恵

「……」


私はぬいぐるみをベッドに置いた。

そして――ふらふらと、机に上った……。


   ◇ ◇ ◇


……目が、覚めた。

私はベッドから身体を起こした。

木で囲われた窓の外からは、月明かりが差し込んでいる。


メグ

(さっきのは、夢……? 陽と出会う前の……)


バンッ!


メグ

「‼」


ドアが勢いよく開いた。

そこには夢で見た、黒い服の男の人が立っていた。


メグ

「ひッ!」

黒い服の男の人1

「――お嬢様、帰りましょう」


その人は私の手首をつかんで、引っ張った。


メグ

「や、やだっ……!」

氷室零

「オイ、やめろ!」


零が驚いた顔で、黒い服の男の人の肩をつかんだ。

黒い服の男の人は零の腕を後ろにし、床に押し付ける。


メグ

「――零!」

氷室零

「メグ、逃げろ!」

メグ

「でも……!」

夢野陽

「……離せ!」

メグ

「‼」


リビングの方からも声がした。

慌てて向かうと、もうひとりの男の人に、陽が壁に押し付けられている。


メグ

「陽‼」

黒い服の男の人3

「お嬢様」

メグ

「‼」


ドアの陰から出てきた黒い服の男の人に、両肩を掴まれた。


黒い服の男の人3

「帰りましょう」

メグ

(いやだ……!)


私は陽に手を伸ばした。


メグ

(でも――……)


頭に、浮かんできたのは――

診療所のベッドで怪我をして、ぐったりしている陽の姿。

「これからも一生、メグの面倒を見るのか」

零の言ったこと……。


メグ

(この前の陽みたいに……また、二人がケガするかもしれない。

それに、二人が自由じゃなくなる……。

それは、……もっとイヤだ――)

「帰る……」


……気付いたら、声が出ていた。


夢野陽

「えっ?」

氷室零

「……メグ?」


私はゆるゆると首を横に振り、うつむいた。


メグ

「家に、帰して……」

黒い服の男の人3

「もちろん。では、帰りましょう」

夢野陽

「メグちゃん⁉」


……私は男の人に連れられて、家を出た。黒くて長い車の中の、後ろの席に座る。


夢野陽

「メグちゃん‼」

氷室零

「お前、本当にいいのか⁉」


……車の近くに、陽と零がやってきた。私は二人から目を逸らし、うつむく……。


黒い服の男の人1

「では、行きましょう」


車が、林に向かって走り出す。


夢野陽

「メグちゃん‼」

氷室零

「ま、待て‼」


車は暗い林を通って、大きな道に出た。

――見上げた空は、曇っている。

……二人の声が、しばらく、耳に残り続けた……。


メグ

(これで、いいの……二人には、たくさんたくさん、迷惑をかけた。

また、ケガもしてほしくない……。

もう、私のことは、忘れてほしい……)

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