激昂
覚えている限りのことを、時系列順に書いていくことにした。
その小説――と言っていいのか分からないが、
自分の人生を文章にしていて、気づいたことがあった。
――オレの生き方が、人に尽くすそれになったのは……
そもそも、父さんのせいだと。
……一度、そう思うと、胸のあたりがむかむかしてきた。
夕陽が差し込む屋根裏部屋、その机で、オレは紙の端をぐしゃりと握った。
夢野陽
「父さんのせいだ……」
(父さんのせいで……
今のオレは人に尽くして、疲れて、辛いんだ、
死にたくなってるんだ――)
……頭の中に、こちらを睨みつける彼の姿が浮かんだ。
「オイ陽、早く酒を持ってこい!」
「酒だ酒! 早くしろ!」
彼はオレに怒鳴り、酒の空き缶を投げつけて来る。
何度も、何度も、何度も――。
夢野陽
(父さんが、好き勝手にしたせいで――母さんは家を出てった、
オレが全ての家事をやることになって、
オレは子どもらしい子ども時代を過ごせなかった、
優月ちゃんやメグちゃんや氷室さんに‼
他人に尽くす生き方しか知らなかった‼
そのせいで、こんなにも辛くて、死にたくて‼)
目の前が赤く染まった。
夢野陽
(許せない、許せない――!)
……秋の風が窓に吹き付け、ガタガタと音を立てて揺れている。
紅葉が、風に吹かれて激しく舞う。
夢野陽
「―――ッ!」
――オレは立ち上がり、棚の上の巾着を、乱暴に手に取った。
そこには、父さんの遺骨が入っている。
家の仏壇に置くものとは別に、オレがもらったものだ。
夢野陽
「許せない……ッ!」
――それを、壁に投げつけた。
床に落ち、あたりに散らばった白い粉に、オレは叫んだ。
夢野陽
「許せない、許せない‼
ずっと、好き勝手にしやがって‼ オレがこうなったのは、
ぜんぶ、父さんのせいだ……‼」
◇ ◇ ◇
夢野陽
「……ここは……」
――いつの間にか、眠っていたらしい。
オレはまた、あの白い空間にいた。
――目の前には、灰色のスウェット姿の父さんがいる。
彼はポケットに手を突っ込み、猫背で、オレを睨んでいる……。
夢野陽
(父さん……許せない……)
オレは拳を握り、うつむいた。顔を合わせる気にもなれない……。
夢野照
「なんだ、また来たのか。
……ちっこいのだけじゃなくて、お前も殴られたいのか?」
オレはうつむいたまま、首を横に振った。
夢野照
「じゃあ、なんだ? わざわざ何しに来た? ん?」
父さんが、オレの顔を覗き込んだ。
夢野陽
(酒で太っていて……性格の悪さがにじみ出ている――醜い顔だ)
オレは父さんのその間抜けな横っ面を、拳で殴りつけた。
夢野照
「なッ!」
夢野陽
「気持ち悪い……顔を近づけるな」
父さんは頬を押さえ、ふらふらしながら、オレを睨んだ。
夢野照
「なんだよ、親に向かって失礼だぞ!」
夢野陽
「今まで好き勝手にやってきて――今更父親ぶるのかよ⁉」
オレは父さんを睨み返した。
夢野陽
「ほんと、許せないよ――
小さい頃から、酒酒酒酒、飯飯飯飯って……そればっかり!
オレは父さんの奴隷じゃない、
機嫌取りの道具なんかじゃない!
オレは人間だ‼‼」
夢野照
「はは、お前こそなんだ、今更? 俺はもう死んでるのに?」
父さんは目を見開き、にやりと笑った。
夢野陽
「死んでも許せないよ⁉
父さんのせいで、人に尽くす生き方が染みついた、
オレの人生そのものが変わったんだよ⁉」
夢野照
「はは‼ なんだよそれ、意味わっかんねえ!
今更、反抗期か?」
夢野陽
(反抗期⁉
――そんな軽い言葉で、
オレのこれまでの苦しみが分かってたまるか‼)
また、目の前が赤く染まる……。
夢野陽
「なんだよ、その言い方……‼」
オレは父さんに掴みかかった。
夢野照
「あはは、あはは‼」
オレに殴られながら、血だらけになりながら、父さんは笑った。
夢野照
「おもしれえ、おもしれえ‼ はは、はは‼」
……その身体が屑肉になり、呼吸が止まるまで――
オレは父さんを殴り続けた……。
夢野陽
(やっぱり、コイツはクズだ――
……オレの妄想だとしても、
どこまでも、父さんはクズなんだ……)




