表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】The Safe House  作者: さかな煎餅
第1章「新たな使命」
4/58

尋問

ゴロゴロゴロゴロ……。


メグ

「…………」


カッ、と窓から雷の光が差し込み、メグちゃんの横顔を照らした。


夢野陽

(……音からして、てっきり、窓ガラスが割れたかと思ったけど……)


オレはリビングの電気をつけた。

……メグちゃんはテーブルの前に立ち、うつむいている。

彼女の視線の先には、ガラスが散らばっていた。

……その中には、円柱型の破片がある。


夢野陽

(コップを、落としたのか……? いや、それよりも……)


オレは彼女のそばに行き、しゃがみこんだ。


夢野陽

「メグちゃん、ケガしてない⁉」

メグ

「……!」


……彼女の大きな目には今にもこぼれ落ちそうなほど、

涙があふれていた。


夢野陽

「!」

(……なんで、泣いてるんだろう……)

メグ

「だ、だ……だいじょうぶ、です……」

夢野陽

「……そっか。よかった……」


彼女の全身をザッと見る。……確かに、新しくできた傷はないようだ。


夢野陽

(ケガをして、痛くて泣いてる……というワケじゃ、ないのかな)


メグちゃんは焦ったような顔をした。


メグ

「わ、わたしが……わたしの、せいで……!」


彼女は叫びながら、床の破片にすばやく手を伸ばした。


夢野陽

(危ない……!)


オレはとっさに、その手首をつかんだ。


メグ

「‼」

夢野陽

「オレが片付けるよ。……メグちゃんは、座って休んでていいからね」

メグ

「で……でも!

私が! 私が、割っちゃったから……‼!

だ、だから、わた、わ、私が……っ!」


彼女の身体は震え、顔は青ざめている。


夢野陽

(……だから、泣いてたのか……?)


……オレはそっとほほえんだ。


夢野陽

「……大丈夫。

オレは気にしてないよ、そういうの。

メグちゃんが割ったから、メグちゃんが必ず片付けなくちゃいけない……

っていうのは、ないと思ってる」

メグ

「……で、でも……っ‼」

夢野陽

「だいじょうぶ。……今回は、オレが片付けるよ。

片付けたい、って思ってくれたのはすごく嬉しいよ。

でも……焦って片付けると、メグちゃんがケガしちゃうかなって。

今回はオレのを見てくれれば、それでじゅうぶんだから。ね?」

メグ

「……は……はい……」


   ◇ ◇ ◇


……二階から持ってきた箒とちりとりで、大きな破片を片付ける。


夢野陽

「こういうふうに片付けてみたこと、ある?」

メグ

「い、いいえ……」

夢野陽

「そっか。こんな感じで片付けるんだー、って、見てくれてるだけでいいからね」

メグ

「……はい」


メグちゃんは自分の服の裾をぎゅっとつかみ、

オレの動きをジッと見つめていた。

――ギッ……。

……音のした方を見ると、女性がスマートフォンを手に、寝室へ入るところだった。


夢野陽

「!」


彼女の厳しい声が、頭をよぎった。


女性

「……通報するぞ」

夢野陽

(通報されたら、メグちゃんをここに連れてきた意味が……!)

「まって‼ 通報は……!」

女性

「……」


女性は振り向いた。


女性

「……さっきの。

家出の提案をしたのはお前で、

その子が乗ったというのは、どういうことだ?」

夢野陽

(話を、聞いてくれそう……)


オレは息を吐いた。

女性はスマートフォンを操作し……画面をこちらに向けた。


夢野陽

「‼」


そこには、一一〇とある……。


女性

「ことと次第によっては即、通報する。」


カッ、ゴロゴロ……。

……雷の光に照らされたスマートフォンの向こうに、女性の鋭い目があった……。


夢野陽

「わ……分かりました、今度は、ちゃんと説明するので……

少し、待っててください。ここを片づけてから、戻るので……」


女性は無言で、寝室へ戻った。

オレはちりとりでだいたいの破片を集めたあと、掃除機をかけた。

床を触り、破片がないことを確認し……

紙コップに水を入れてメグちゃんの前に置いた後、寝室へ戻った。

ベッドに腰掛けた女性は、オレをにらんだ。


女性

「まず、お前は何者なんだ。

今度は名前じゃなく、一般人かどうかを答えろ。あと、年齢も」


雷の光で、部屋が光った。

……女性はドラマの中で見る刑事のような、鋭い目と硬い声だった。

……思わず、オレはその場に正座する……。

……唇を舌で濡らし、恐る恐る、口を開く。


夢野陽

「し……信じてもらえないかもしれませんが……

オレはただの、一般人です。年齢は二十五です」

女性

「仕事は?」

夢野陽

「今は……してないです。しばらく前に、やめて……」

女性

「……」


女性はますます目を鋭くした。

……頬を、冷たい汗が流れる……。

……沈黙に耐えきれず、思わず口が動いた。


夢野陽

「め、メグちゃんをここに連れてきたのは……

彼女の命を、助けたいと思ったからです……」


女性は腕を組み、オレの全身をじろじろと見た。


女性

「……男。二十五歳。無職で、一人暮らし……

そんなヤツが人里離れた山奥の小屋に

幼い女の子を"助けたくて"連れてきた、か……」


彼女の冷たく、低く、平坦な声に、オレはうなずいた。


夢野陽

「…………はい」

女性

「……まあ、いい。……説明しろ、さっきの。

提案をしたのはお前って、どういうことだ?」

夢野陽

「はい……。

まず、言っておきたいんですが……

オレはあの子に危害を加える気は一切ないです。

むしろ、真逆で……あの子を助けたくて、ここに連れてきたんです」

(……やってることは、犯罪だけど……)

女性

「……」


女性は俺をジッと見つめている。


夢野陽

「その理由、なんですけど。

……あの子、家で……虐待されているみたいで……

それが原因かは、分かりませんが……

深夜にあの子の家の前を通った時、

……あの子が屋根の上に立ってて、落ちそうになってて」

女性

「え……?」


女性は目を見開いた。


夢野陽

「……オレにはメグちゃんが、

飛び降り自殺しようとしているように……見えたんです。

……オレは、慌てて止めて……」


……女性は、真剣な顔つきになった。


   ◇ ◇ ◇


……ここにくるまでのことを、ザッと話した。

メグちゃんがお母様に、虐待らしきものを受けているのを見たこと……。

通報して、警察官に来てもらったが……

メグちゃんのお母様が彼らに金を渡し、追い返していたこと……。

警察官はまるでメグちゃんを助ける気がなさそうなこと……。

児童相談所にも相談に行ったが、

その後も……メグちゃんは飛び降りらしき行為をやめなかったこと……。

……その間にも、オレの頭の中では、さまざまな考えがよぎる。


夢野陽

(やっぱり……もう一度、警察や児相に相談に行けば……

……いや、でも……

メグちゃんのお母様は、警察の上の立場の人で……

彼女が警察官を金で追い返すのが「いつも」らしいんだから……

オレが何かしてもムダ……なのか……?)

女性

「警察や児童相談所に頼っても、あの子は家から飛び降りそうになっていて……。

……だから、ここに連れてきた、と」


オレはうなずいた。


夢野陽

「はい……。

……せめてここでは、あの子に、自由にすごしてほしくて。

……メグちゃんが元気でいてくれたら、それでいいんです。

ただ、……生きていてほしくて……」

女性

「……ずいぶんと高尚な理由だな。

……だが、今お前のしていることは、犯罪だぞ」


……その冷たい声に、俺は頭を押さえた。


夢野陽

「分かってます。……分かってますが……。

……どこか遠くに逃げないか、ってメグちゃんに声をかけた時……

すぐに、何やってんだ……って思いました、もちろん……」


……メグちゃんと出会った日のことが、頭をよぎる。

彼女はこの世に絶望しているかのような、暗い目をしていた。


夢野陽

「……オレがみかけたのはたまたま、

メグちゃんのお母様の”しつけ”が

行き過ぎた時だったのかもしれません。

あの日だけ見たオレが、虐待だ……

って決めつけるのも、危険だと思ってます……」

女性

「……そうだろうな」

夢野陽

「……でも、声をかけた後……

メグちゃんは、オレに抱きついてきて。泣いてて。

……それが、メグちゃんの答えだと……思ってます」


オレは膝の上で拳を握りしめた。


夢野陽

(すこし会話をしただけの

オレのところに来たってことは、やっぱり……

メグちゃん本人はお母様に怒られるのが、イヤだと……

「あの屋敷から逃げたかった」そう、思ってるんじゃ……)

女性

「…………」


彼女はスマートフォンを枕元に置いた。

……その横顔は、先ほどより柔らかくなっているように見える。


女性

「……今の話がどこまで本当か、分からないが……

あの子にも、話を聞く必要がある」

夢野陽

「じゃあ……!」

女性

「通報をやめる、と決めたワケじゃない。あの子の話次第だ」


彼女は鋭い目をスマートフォンに向けた。


女性

「……チッ、圏外か……。……この天気じゃ、外にも出られん……」


彼女は窓に目をやった。


夢野陽

(……そういえば……

この家、天気が悪い日は電波が届かないんだった……)


……ほとんどここにはいないから、忘れてしまっていた。

通報、と言われても、焦る必要はなかったのだ。


夢野陽

(いや……通報なんて、当たり前だ。

オレが今していることは人として、許されることじゃない……。

……この女性は、なんにもまちがってない……)


ドォォォン‼


夢野陽

「!」


近くに、雷が落ちた。


女性

「……まあ……私が人に”犯罪”なんて言う資格は、ないんだが……」

夢野陽

「……え?」

(……資格……? ……どういうことだ?)


女性はそっぽを向いた。


女性

「あの子を呼んでく、」


ぐぅぅぅ~……。


夢野陽

「あ」

女性

「……」


……音は、女性の方から聞こえていた。


夢野陽

「……お腹、空いてるんですか?」

女性

「いやそんなことはな」


ぐぅぅ……。


女性

「ぃ………………」

夢野陽

「……ちょっと、待っててください」


オレは寝室を出て、キッチンに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ