死ぬ理由と生きる理由
……翌日も、ベッドから上手く立ち上がれなかった。また、床に膝をつく。
夢野照
「早く、早く責任を」
夢野陽
(なにをしているんだ、オレは、早く、料理を、しないと――)
……ふらふらと立ち上がり、部屋を出て階段の手すりにもたれる。
メグ
「陽⁉」
メグちゃんが、オレを見上げて叫んだ。
氷室零
「陽、大丈夫か⁉」
二人が、オレに駆け寄ってきた。
夢野陽
「ごめん――うまく、動けないんだ……」
メグ
「そうなの……?」
氷室零
「動けるまで、しばらく休んどけ。熱は……?」
オレは額に手を当てた。……熱くはない。
オレが首を振ると、ふたりはホッと息を吐いた。
氷室零
「とにかく、休め。な?」
メグちゃんは激しく首を縦に振った。
……氷室さんに支えられ、ベッドに戻った。
◇ ◇ ◇
――翌日も、その翌日も。
なぜか、オレはベッドから立ち上がれなかった。
やっていることといえば、
ベッドに横たわり、木の天井を見つめているだけだ……。
夢野陽
「やっと、自由になれると思ったのに!」
幼いオレが、頭の中で叫んだ。その幼顔に、大きな影がかかる。
夢野照
「お前は無能だ」
父さんが、幼いオレを殴りつける。
幼い夢野陽
「うっ!」
夢野照
「お前が始めたことなのに、その責任ひとつ果たせないのか」
彼は拳を振り上げた。
幼い夢野陽
「や、やめ――」
ドガッ
幼い夢野陽
「うう……!」
夢野照
「責任を果たせないのなら、無能なままなら――死ね」
彼は幼いオレの首を両手でつかみあげ、締め上げる。
幼い夢野陽
「う、う……‼」
その細い足が、むなしく宙を蹴る……。
……胸のあたりが、重くなった。
夢野陽
(何もしないオレに、価値などない……
オレは、無能だ……死んだ方が、マシ……)
◇ ◇ ◇
……いくつか、死ぬ方法を考えてみた。
一番楽で簡単なのは、
湯船に水をため、睡眠薬か酒を飲んでから、顔をつけるというものだ。
――翌日の夜、暗い浴室に入った。
夢野陽
「…………」
……湯船の水面を、見つめる。
夢野陽
(オレなんて、死んだ方が……)
持ってきた睡眠薬の箱を取りだし、封を開けた。
夢野陽
「あっ」
……手が震え、風呂の中に、睡眠薬が全て落ちた。
――これでは、使い物にならない。
夢野陽
(なら、酒を――)
ガクッ、と膝が落ちた。
夢野陽
(どうして――オレは、死ぬべきなのに!)
……立ち上がろうと湯船の縁をつかんだが、足に力が入らない……。
夢野陽
「くそお……」
(いっそ、死ねたら楽になれるのに……‼
もう、苦しまなくて済むのに‼)
――オレには、死ぬ覚悟すらなかった。
◇ ◇ ◇
……浴室から出ると、着替えとタオルを持ったメグちゃんと出くわした。
メグ
「あっ……ごめん、陽……」
オレは首を横に振った。
彼女は俺の全身を見て、
メグ
「お風呂、入ってなかったの? 服着てる」
首を傾げた。
夢野陽
「うん……」
オレは力なく頷いた。
メグ
「……陽、元気出して?」
メグちゃんは大きな目を細めた。
夢野陽
(ああ……心配させてしまっている……。
……こんな優しい子を置いて……
オレは、何をしようとしていたんだ……?
オレにはこの子がいる……。氷室さんも……。
だから、今、死ぬわけには……)
オレは軽く、何度かうなずいた。
夢野陽
「うん、ありがとう……」
オレは脱衣所を出た。




